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第6 始まりの失敗 ※修正してます。再読をお願いします😭
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まだ明け方と言える時間だが、イヴァシグスの朝は早かった。
特に今は常にあった執務に加えて、長く続いた紛争の後始末もあるのだ。初夜を迎えたばかりだとは言っても、積もる書類は待ってはくれない。
嫁いで始めて寝台を共にしたばかりの妃ではある。そんな妃との初めての朝を、1人で過ごさせる事に何も思わない訳でもないが、別に本当に初夜を迎えた訳でもないのだ。
(まぁ、身体がツラくなるような事をした訳でもないからな)
イヴァシグスが特段に気遣う必要はないはずなのだ。それに、気遣うならば昨日の怯え方を思い出せば、むしろ傍に居ない方が良いだろう。
イヴァシグスはまだあどけない顔で眠るリュシェラに布団をかけ直して、そっと寝室を後にした。
後から思い返せば。
間違いなく、これが第1の失敗だった。
だが、言い訳をするならば、初夜の後朝で1人置いて行かれる妃に対して、周りがどのような評価を下すのか。当然、このような初夜自体を迎えた事がなかったイヴァシグスには、思い至らなかったのだ。
(事態が落ち着くまでは、放っておいてやろう)
その結果、イヴァシグスは独り言ち、眠るリュシェラを置いて部屋を出た。その行為はイヴァシグスにとっては、まだ幼く感じるリュシェラを慮った結果だった。だが、昨夜の寝室でのやり取りを知らない者達が、そんなイヴァシグスの心の内など分かる訳はないのだから。
「お妃様はいかがしますか?」
イヴァシグスが自室へ戻った途端、朝の伺いと、今日のスケジュールの確認の為に顔を出した側近へ「あれの事は放っておけ」と告げた言葉を、そのままの意味で受け止められてしまったのも当然ではあったのだ。
いくらイヴァシグスの本音だけが。
『特に身体も交えておらず、今朝は介助が必要な身体の負担もない。だから、今はそのまま休ませておけ』
といったものだったとしても、元々人間に対して好意を持っていない魔族なのだ。初夜の後、興味を失ったような主の様子に加えてその言葉だ。
『あれの事は放っておけ』と告げた言葉を〈あれの事は捨て置け〉と捉えて。
和平協定の兼ね合いで、積極的に殺す事は憚られるが、温情を掛けるつもりは全くない。むしろそのまま勝手に死んでくれ。そういう意味だと取ってしまったのだった。
しかも幼い者へはそれなりに庇護も見せるイヴァシグスだが。魔王として力を持って、広大な領土を納める王ではある。そんな王の非情さを側近達は、もちろん間近で常に見ている。しかも最近までは紛争で、そんな非情さを戦地で振るう姿を見続けていたのだ。
そんな事が影響して、王の非情な決断を、疑う側近が居なかった事もリュシェラにとっては災難だった。
イヴァシグスがリュシェラを思いやった言葉は、こうして第2の失敗へとなったのだ。
そして、それから続いた多忙な日々。それらの日常に追われながら、時折リュシェラの事は思い出してはいた。だが、そんな多忙な中で長らく思考を割くほどの報告が上がってくる事も無かったのだ。
(何も報告がないのは、それなりに上手くやれているのだろう)
捨て置かれた妃に対して、報告が入るはずがない。だが、初夜の翌朝の言葉が、まさかそんな受け止め方をされているとは、微塵も思っていなかったイヴァシグスなのだ。その事実に気が付く事はなかった。
せめて多忙な日々の中で、少しでもリュシェラを確認する事があれば、また状況は変わったはずだった。だが、実際は終戦後の後始末に追われる多忙さに、王としての執務以外の全てを後回しにしてしまったのだった。それが第3の失敗だった。
そんなイヴァシグスの失敗の積み重ねで、リュシェラは忘れ去られた隷妃となっていったのだった。
特に今は常にあった執務に加えて、長く続いた紛争の後始末もあるのだ。初夜を迎えたばかりだとは言っても、積もる書類は待ってはくれない。
嫁いで始めて寝台を共にしたばかりの妃ではある。そんな妃との初めての朝を、1人で過ごさせる事に何も思わない訳でもないが、別に本当に初夜を迎えた訳でもないのだ。
(まぁ、身体がツラくなるような事をした訳でもないからな)
イヴァシグスが特段に気遣う必要はないはずなのだ。それに、気遣うならば昨日の怯え方を思い出せば、むしろ傍に居ない方が良いだろう。
イヴァシグスはまだあどけない顔で眠るリュシェラに布団をかけ直して、そっと寝室を後にした。
後から思い返せば。
間違いなく、これが第1の失敗だった。
だが、言い訳をするならば、初夜の後朝で1人置いて行かれる妃に対して、周りがどのような評価を下すのか。当然、このような初夜自体を迎えた事がなかったイヴァシグスには、思い至らなかったのだ。
(事態が落ち着くまでは、放っておいてやろう)
その結果、イヴァシグスは独り言ち、眠るリュシェラを置いて部屋を出た。その行為はイヴァシグスにとっては、まだ幼く感じるリュシェラを慮った結果だった。だが、昨夜の寝室でのやり取りを知らない者達が、そんなイヴァシグスの心の内など分かる訳はないのだから。
「お妃様はいかがしますか?」
イヴァシグスが自室へ戻った途端、朝の伺いと、今日のスケジュールの確認の為に顔を出した側近へ「あれの事は放っておけ」と告げた言葉を、そのままの意味で受け止められてしまったのも当然ではあったのだ。
いくらイヴァシグスの本音だけが。
『特に身体も交えておらず、今朝は介助が必要な身体の負担もない。だから、今はそのまま休ませておけ』
といったものだったとしても、元々人間に対して好意を持っていない魔族なのだ。初夜の後、興味を失ったような主の様子に加えてその言葉だ。
『あれの事は放っておけ』と告げた言葉を〈あれの事は捨て置け〉と捉えて。
和平協定の兼ね合いで、積極的に殺す事は憚られるが、温情を掛けるつもりは全くない。むしろそのまま勝手に死んでくれ。そういう意味だと取ってしまったのだった。
しかも幼い者へはそれなりに庇護も見せるイヴァシグスだが。魔王として力を持って、広大な領土を納める王ではある。そんな王の非情さを側近達は、もちろん間近で常に見ている。しかも最近までは紛争で、そんな非情さを戦地で振るう姿を見続けていたのだ。
そんな事が影響して、王の非情な決断を、疑う側近が居なかった事もリュシェラにとっては災難だった。
イヴァシグスがリュシェラを思いやった言葉は、こうして第2の失敗へとなったのだ。
そして、それから続いた多忙な日々。それらの日常に追われながら、時折リュシェラの事は思い出してはいた。だが、そんな多忙な中で長らく思考を割くほどの報告が上がってくる事も無かったのだ。
(何も報告がないのは、それなりに上手くやれているのだろう)
捨て置かれた妃に対して、報告が入るはずがない。だが、初夜の翌朝の言葉が、まさかそんな受け止め方をされているとは、微塵も思っていなかったイヴァシグスなのだ。その事実に気が付く事はなかった。
せめて多忙な日々の中で、少しでもリュシェラを確認する事があれば、また状況は変わったはずだった。だが、実際は終戦後の後始末に追われる多忙さに、王としての執務以外の全てを後回しにしてしまったのだった。それが第3の失敗だった。
そんなイヴァシグスの失敗の積み重ねで、リュシェラは忘れ去られた隷妃となっていったのだった。
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