13 / 58
第13 奉公人ですよね…? 1
しおりを挟む
どうしてこうなっているのだろう。
ここに来てから何度目か分からない溜息を、私はこっそりと吐き出した。
「レナ、こちらの果物も食べて」
こうやってマエリス様に旬の果物を差し出されるのも、ここに来て2ヶ月経ったいまと成ってはすっかり慣れた状況だった。
だけど私は本当は奉公のために来たはずなのだ。こんな風にカナトス家の食卓に一緒に並んで朝食をゆっくりと食べていて良いような立場じゃない。
もちろんそんな事はできないと初めの朝に断ってはいる。リオネル様とマエリス様のお二人へ使用人の方と一緒にして欲しいとしっかりお願いしたはずだった。
だけどその直後にカナトス卿から直接招かれるような形で食卓へ誘われてしまえば、もうそれ以上はお断りなんてしようもなかった。
それから数ヶ月に渡ってこの状況は続いている。
こんなはずではなかったのに、と私はもう1度こっそりと溜息を吐き出した。
「あら、レナ。何だかお疲れかしら?」
「どうした? 体調が悪いのか?」
だけどその姿をマエリス様に気付かれてしまう。
慌てたように近寄ってくるリオネル様が私の手をギュッと握りしめた。
「何回言えば分かるのかしら!女性に簡単に触るものではない、と最近のあなたへ私は何度も何度も言ってるはずですよ!」
すかさず飛んでくるマエリス様の扇をサッと受け止めて見せる姿は、防塞都市の次期領主として日頃兵士の方と訓練をしているだけはあると感心してしまう。
「しかし母上、万が一にでもレナに何かあれば!」
他家より預かっている私を病気にしてはいけないと思って、きっと本気でリオネル様は仰っているのだろう。
だけどあの父や母が私が病で倒れようと気にするとは思えなかった。下手をすれば死んだとしても、いざという時の代替品がなくなった、という程度にしか惜しんでくれない気がしてくる。
とうの昔に家族からの愛情は諦めていたけど、こうやってフッと思い出すように再認識をしてしまえばやっぱり少し悲しかった。
まぁ実際は、実家にいた頃よりもずいぶん睡眠も栄養も頂けている。
日中のリオネル様の手伝いさえも、私が任されているのは書類の整理と必要な文献をまとめること。そして最終的な数字のチェックをしているだけなのだ。
朝から晩まで働きづめだった日々を乗り越えてきた私がこんな状況の中で体調など崩しようもなかった。
だからこそ逆に心配になってしまうことがあった。
それはこの1年さんざん甘やかされてしまった身体であの過酷な状況を堪えることができるのか、ということだった。
私が本来生きていかなければいけないのは、あちら側の世界なのだ。
人は易きに流れる生き物だから、あまり甘やかされてしまうと困るのだ。
こちらの使用人の方と同じか、下手をしたらそれ以上の働きをしていなければ、戻った時に辛くなるのは私自身だった。
何と言えばちゃんと仕事を与えてもらえるだろう。
そんな風に考え込んでしまっていたから、私はあの後に続いていたリオネル様とマエリス様のお話をちゃんと聞いていなかった。
ここに来てから何度目か分からない溜息を、私はこっそりと吐き出した。
「レナ、こちらの果物も食べて」
こうやってマエリス様に旬の果物を差し出されるのも、ここに来て2ヶ月経ったいまと成ってはすっかり慣れた状況だった。
だけど私は本当は奉公のために来たはずなのだ。こんな風にカナトス家の食卓に一緒に並んで朝食をゆっくりと食べていて良いような立場じゃない。
もちろんそんな事はできないと初めの朝に断ってはいる。リオネル様とマエリス様のお二人へ使用人の方と一緒にして欲しいとしっかりお願いしたはずだった。
だけどその直後にカナトス卿から直接招かれるような形で食卓へ誘われてしまえば、もうそれ以上はお断りなんてしようもなかった。
それから数ヶ月に渡ってこの状況は続いている。
こんなはずではなかったのに、と私はもう1度こっそりと溜息を吐き出した。
「あら、レナ。何だかお疲れかしら?」
「どうした? 体調が悪いのか?」
だけどその姿をマエリス様に気付かれてしまう。
慌てたように近寄ってくるリオネル様が私の手をギュッと握りしめた。
「何回言えば分かるのかしら!女性に簡単に触るものではない、と最近のあなたへ私は何度も何度も言ってるはずですよ!」
すかさず飛んでくるマエリス様の扇をサッと受け止めて見せる姿は、防塞都市の次期領主として日頃兵士の方と訓練をしているだけはあると感心してしまう。
「しかし母上、万が一にでもレナに何かあれば!」
他家より預かっている私を病気にしてはいけないと思って、きっと本気でリオネル様は仰っているのだろう。
だけどあの父や母が私が病で倒れようと気にするとは思えなかった。下手をすれば死んだとしても、いざという時の代替品がなくなった、という程度にしか惜しんでくれない気がしてくる。
とうの昔に家族からの愛情は諦めていたけど、こうやってフッと思い出すように再認識をしてしまえばやっぱり少し悲しかった。
まぁ実際は、実家にいた頃よりもずいぶん睡眠も栄養も頂けている。
日中のリオネル様の手伝いさえも、私が任されているのは書類の整理と必要な文献をまとめること。そして最終的な数字のチェックをしているだけなのだ。
朝から晩まで働きづめだった日々を乗り越えてきた私がこんな状況の中で体調など崩しようもなかった。
だからこそ逆に心配になってしまうことがあった。
それはこの1年さんざん甘やかされてしまった身体であの過酷な状況を堪えることができるのか、ということだった。
私が本来生きていかなければいけないのは、あちら側の世界なのだ。
人は易きに流れる生き物だから、あまり甘やかされてしまうと困るのだ。
こちらの使用人の方と同じか、下手をしたらそれ以上の働きをしていなければ、戻った時に辛くなるのは私自身だった。
何と言えばちゃんと仕事を与えてもらえるだろう。
そんな風に考え込んでしまっていたから、私はあの後に続いていたリオネル様とマエリス様のお話をちゃんと聞いていなかった。
19
お気に入りに追加
6,121
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
利用されるだけの人生に、さよならを。
ふまさ
恋愛
公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。
アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。
アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。
──しかし。
運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる