2 / 58
第2 全ての始まり 1
しおりを挟む
エレンと私エレナは双子だった。
何代か前の王の政策によって、双子を忌み子として扱うことは禁止されていた。
先に生まれた子どもを遺棄したり、殺したり、そんなことが禁止されている時代に生まれたことは私にとって数少ない幸運だった。
だけどいつの時代でも因習にこだわる人達はいる。
私の場合、それが両親だったということが全ての不運の始まりだった。
国の防御の要の都市。東の都と言われるカナトス。
その大都市の中でも私の実家はそれなりに大きな商会を持つ男爵家だ。
そんな両親の元で後から生まれたエレンは長女として大切に育てられていた。そして私のことには見向きもしなかった。
家族というよりは、ほとんど使用人とした扱いの毎日。そんな日々が変わったのはカナトス辺境伯家の令息リオネル様がエレンを庇って事故に巻き込まれてからだった。
エレンが直接傷付けたわけじゃない。でもエレンの不注意が招いた事故に、このままではマズイ状態なのだろう。
あの日以来、ピリピリとした様子が屋敷の中には漂っていた。
「エレンはどこですか?」
当の本人が見当たらない状況に、私もどんどん心配になる。思いきって尋ねた両親は知っているのだろう。だけど私には教えてくれる気はなさそうだった。
そんな張り詰めた状況の中だった。
差し出されたエレンのドレスに私は目を瞬いた。
汚れるからと触ることが許されていなかったはずなのに。突然着替えを命じられ、髪の毛も綺麗に結い上げられた。
エレンよりは健康的に日に焼けた肌におしろいをはたかれたのも初めてだった。そのまま馬車へ押し込まれた私は何が何だか分からない。
「どこに向かうんですか?」
「良いからお前は黙っていろ。エレナ、いや違う。お前はこの瞬間から、私が良いと言うまでエレンとして生きていろ」
冷たい眼で私を見ているお父様が何を言っているのか分からなかった。
それでも見向きもされてこなかった私という存在が、ついに消されてしまった。そのことだけは理解できて、何も言葉が出なくなる。
「先日の事故の代償としてエレンを治癒するまでの間差し出せと言ってきた」
「カナトス卿がですか?」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。
カナトス卿といえば、位の高さに反して傲った所がなく、公明正大な人柄だったはずだ。その令息であるリオネル様も人目を引くお姿と聡明さで引く手数多の状態なのだ。
抱えられた使用人だって我が家の比じゃない。それなのになぜ、我が家にそんなことを言い出したのだろう。
「辺境伯であるカナトス卿に逆らうわけにはいかんが、おいおいと差し出してしまってエレンに傷がついても困る。お前なら嫁ぐ心配もないだろう。エレンの代わりに仕えてこい」
愛されていないことは知っていた。でもこうもハッキリと捨て駒なのだと言われれば、やっぱり心は痛かった。
「もしリオネル様を上手くたらし込めれば、正式に嫁がせるエレンの代わりに戻してやる」
分かったな、というお父様の顔は不快そうに歪んでいた。
何代か前の王の政策によって、双子を忌み子として扱うことは禁止されていた。
先に生まれた子どもを遺棄したり、殺したり、そんなことが禁止されている時代に生まれたことは私にとって数少ない幸運だった。
だけどいつの時代でも因習にこだわる人達はいる。
私の場合、それが両親だったということが全ての不運の始まりだった。
国の防御の要の都市。東の都と言われるカナトス。
その大都市の中でも私の実家はそれなりに大きな商会を持つ男爵家だ。
そんな両親の元で後から生まれたエレンは長女として大切に育てられていた。そして私のことには見向きもしなかった。
家族というよりは、ほとんど使用人とした扱いの毎日。そんな日々が変わったのはカナトス辺境伯家の令息リオネル様がエレンを庇って事故に巻き込まれてからだった。
エレンが直接傷付けたわけじゃない。でもエレンの不注意が招いた事故に、このままではマズイ状態なのだろう。
あの日以来、ピリピリとした様子が屋敷の中には漂っていた。
「エレンはどこですか?」
当の本人が見当たらない状況に、私もどんどん心配になる。思いきって尋ねた両親は知っているのだろう。だけど私には教えてくれる気はなさそうだった。
そんな張り詰めた状況の中だった。
差し出されたエレンのドレスに私は目を瞬いた。
汚れるからと触ることが許されていなかったはずなのに。突然着替えを命じられ、髪の毛も綺麗に結い上げられた。
エレンよりは健康的に日に焼けた肌におしろいをはたかれたのも初めてだった。そのまま馬車へ押し込まれた私は何が何だか分からない。
「どこに向かうんですか?」
「良いからお前は黙っていろ。エレナ、いや違う。お前はこの瞬間から、私が良いと言うまでエレンとして生きていろ」
冷たい眼で私を見ているお父様が何を言っているのか分からなかった。
それでも見向きもされてこなかった私という存在が、ついに消されてしまった。そのことだけは理解できて、何も言葉が出なくなる。
「先日の事故の代償としてエレンを治癒するまでの間差し出せと言ってきた」
「カナトス卿がですか?」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。
カナトス卿といえば、位の高さに反して傲った所がなく、公明正大な人柄だったはずだ。その令息であるリオネル様も人目を引くお姿と聡明さで引く手数多の状態なのだ。
抱えられた使用人だって我が家の比じゃない。それなのになぜ、我が家にそんなことを言い出したのだろう。
「辺境伯であるカナトス卿に逆らうわけにはいかんが、おいおいと差し出してしまってエレンに傷がついても困る。お前なら嫁ぐ心配もないだろう。エレンの代わりに仕えてこい」
愛されていないことは知っていた。でもこうもハッキリと捨て駒なのだと言われれば、やっぱり心は痛かった。
「もしリオネル様を上手くたらし込めれば、正式に嫁がせるエレンの代わりに戻してやる」
分かったな、というお父様の顔は不快そうに歪んでいた。
16
お気に入りに追加
6,121
あなたにおすすめの小説
【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~
Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。
婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。
そんな日々でも唯一の希望があった。
「必ず迎えに行く!」
大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。
私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。
そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて…
※設定はゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
【完結】さようならと言うしかなかった。
ユユ
恋愛
卒業の1ヶ月後、デビュー後に親友が豹変した。
既成事実を経て婚約した。
ずっと愛していたと言った彼は
別の令嬢とも寝てしまった。
その令嬢は彼の子を孕ってしまった。
友人兼 婚約者兼 恋人を失った私は
隣国の伯母を訪ねることに…
*作り話です
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!
灰銀猫
恋愛
6歳で幼馴染の侯爵家の次男と婚約したヴィオラ。
互いにいい関係を築いていると思っていたが、1年前に婚約者が王女の護衛に抜擢されてから雲行きが怪しくなった。儚げで可憐な王女殿下と、穏やかで見目麗しい近衛騎士が恋仲で、婚約者のヴィオラは二人の仲を邪魔するとの噂が流れていたのだ。
その噂を肯定するように、この一年、婚約者からの手紙は途絶え、この半年ほどは完全に絶縁状態だった。
それでも婚約者の両親とその兄はヴィオラの味方をしてくれ、いい関係を続けていた。
しかし17歳の誕生パーティーの日、婚約者は必ず出席するようにと言われていたパーティーを欠席し、王女の隣国訪問に護衛としてついて行ってしまった。
さすがに両親も婚約者の両親も激怒し、ヴィオラももう無理だと婚約解消を望み、程なくして婚約者有責での破棄となった。
そんな彼女に親友が、紹介したい男性がいると持ち掛けてきて…
3/23 HOTランキング女性向けで1位になれました。皆様のお陰です。ありがとうございます。
24.3.28 書籍化に伴い番外編をアップしました。
優しき農業令嬢は誰も恨まない!約束の王子様の胃袋を掴んだら隣国の聖女になってしまいました!
ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。
相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では…
「百姓貴族はお呼びじゃない!」
…とのことだった。
優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。
周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。
王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。
森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。
一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。
アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。
しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。
【連載版】「すまない」で済まされた令嬢の数奇な運命
玉響なつめ
恋愛
アナ・ベイア子爵令嬢はごくごく普通の貴族令嬢だ。
彼女は短期間で二度の婚約解消を経験した結果、世間から「傷物令嬢」と呼ばれる悲劇の女性であった。
「すまない」
そう言って彼らはアナを前に悲痛な顔をして別れを切り出す。
アナの方が辛いのに。
婚約解消を告げられて自己肯定感が落ちていた令嬢が、周りから大事にされて気がついたら愛されていたよくあるお話。
※こちらは2024/01/21に出した短編を長編化したものです
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる