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ライム先輩との冬
魔道具師として
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リバーに言われた通りに友人達には報告した。
アーロンはライム先輩に愛子の契約書について返事をする為の準備を続けていた。
ジェフの言う魔道具師として雇う場合のアーロンの報酬六割、ライム伯爵家の報酬四割についてはどうなのかという事が気になっていた。自分の取り分の方が、伯爵家よりも多いなんて変じゃ無いかと思ったのだ。
図書館で調べた結果、高位貴族に雇われる程の魔道具師であれば当然の待遇だという事は分かった。それ程、魔道具師というのは重宝される存在なのだ。
でも、まだ何者でも無い自分がそんな条件を提示してライム先輩に呆れられないか不安だった。幾ら信頼している兄からの言としても如何なのか。その問題を解決してくれたのはいつもの仲間だった。
「この国の常識は分かりかねますが、商売の基本として価格は高めに提示して相手の様子を見て下げて行きます。自分は技術は安売りしてはいけないと思います」
「まあ、高くふっかけた方が、最初から安い値段つけるより値切られたとしても高く売れるっすね」
「これから勉強すれば良いだけ」
図書館勉強の日、悩みに悩んだ末、友人達に聞いてみる事にしたのだ。愛し子に引け目を感じるアーロンにとって、この件を口に出すのはかなり勇気がいった。
同じクラスの三人の意見を聞いた後、アーロンは寮長を見た。三人はアーロンに好意的なので耳触りの良い事しか言わないが、寮長はもっと冷めた目でアーロンを見ている。だから現実的な意見を言ってくれるのでは無いかと期待したのだ。
「うん、ならば条件を加えれば君の不安は解決するんじゃ無いかな? 例えば、魔道具毎に取り分を変えるとか? 一律で全部を最高の魔道具師の報酬にしてるから不安なんだろう? あまり良い物が出来なかった時は、君の取り分を減らすとか?」
「でもそれでは、良い物を作った時に、アーロン様が伯爵家に買い叩かれる可能性を兄上は考慮されたのでは無いでしょうか? アーロン様では随時交渉するのは無理では無いかと」
イチロウが口を挟むと寮長は不安げなアーロンを見て眼鏡をくいっと上げた。そして、
「確かに」
と頷いてから、
「それなら、相手が納得出来る見本があればいいと思う。例えば、リバー先生のマクマの様な。あれは流石リバー先生だと思ったな。侯爵家でないと手に入れられない代物だ。意思を持った魔動人形。ああいうのがもし作れるならまだ実績が無くてもライム伯爵家はこの条件を呑むだろうね」
「……」
アーロンは冷や汗をかいた。薄々気が付いていたからリバーに託したのだが、寮長の言葉を聞いてあれは自分が作りました、とは絶対に言わない方がいいだろうと確信した。恐らく、ジェフは知っているからこの条件を挙げたのだろうが。
「リバー先生のお家って、侯爵家なんすね」
タイスケの言葉に、寮長がしまった、という顔をする。
「ああ、知っている生徒は知っていると思うが、これは内緒でお願いしたい。先生はあんまり大っぴらにはしたくない様だから」
「分かったっす」
火の国の二人と、アーロンは頷いた。タイスケのつっこみで、マクマの事から話が逸れそうでほっとする。
「そういえば、アーロン様、前に部屋で広げてた、防犯の道具は?」
イアンの言葉に、アーロンは首を傾げた。
「え、昆虫のグミ?」
「違う」
とイアンは思い出してぞっとした様に身震いしてから、言葉を続けた。
「ぴりっとする上着」
「ああ、今も着てるけど?」
アーロンの返事に友人達が距離を取る。
「えっと、作動させなければ平気ですよ」
「いや、そう言われてもな」
と寮長が嫌そうな顔をするのに、
「ちょっとタイスケで試してみて頂けませんか? どの様な物かこの目で見てみたいです」
と興味を持った様にイチロウが言う。タイスケが苦味を潰した顔で、
「えー、若が命じられるんなら、おいら逆らえないっすけど」
とアーロンに近付いて来た。
「待ってね」
とアーロンは装置を作動させ、タイスケに頷いた。タイスケは恐る恐る手を伸ばして来て、アーロンの肩に触れた途端に「ぴゃっ」と飛び退いた。
「どうだ?」
「びりびりって来ました。手が痛いっす!」
「え、でもこれって魔道具じゃ無いけど……」
アーロンが首を傾げていると、今度はイチロウが寄って来た。
「アーロン様、弱めにお願いします」
「えっと、その調整は出来ないです」
「うっ」
恐々と手を伸ばしたイチロウは、アーロンに触れ、びくっとして手を引くと痛みを逃す様に手を振っている。
「どういう原理なんだい?」
寮長の質問にアーロンが答える。
「びりっとしたのは静電気です。ケビン兄上が冬場はいつも、何か触る度にさっきのタイスケ様みたいになるんで、身体から静電気を逃す道具を作ってあげたんですけど、それを肩から逃してるだけですね」
「せいでんき?」
「はい」
「聞いた事ないな」
寮長が静電気という言葉に首を傾げていると、
「エレキテルの事ですかね? 西の国から伝わって、我が国で研究している者がおりましたが」
とイチロウが言うと、タイスケが反応する。
「あ、あの怪しい親父が研究してたやつっすか?」
イチロウが言っているのは恐らく電気の事だろうとアーロンは説明した。
「静電気は、人間の身体の中に流れてる電気と他の物の電気が衝突する事なんですけど」
「人間の身体を流れてる電気?」
アーロンの言葉に、寮長は医学を専攻しているイアンを見るが、イアンは分からないと首を振る。
「作動させたというのは?」
「ケビン兄上が言うには、心臓によく無いそうなので、静電気が外側、つまり僕の方にでは無くて僕に触れた人に流れる様に調整してます」
「はあ」
アーロンの説明に不思議そうな顔をした四人は、お互いに目を合わせて頷いた。
「それを見せればいいと思う」
「え、こんなのでいいんですか? こういうので良いなら、他にもありますけど」
きょとんとするアーロンに四人は大きく頷くので、後日リバー先生にも相談した所、それが良いと言うので、アーロンは先生がそう言うならとこの提案を受け入れる事にした。
☆
※アーロンの装置については創作です。現実には当て嵌まらないと思いますが異世界という事でご容赦下さい。
アーロンはライム先輩に愛子の契約書について返事をする為の準備を続けていた。
ジェフの言う魔道具師として雇う場合のアーロンの報酬六割、ライム伯爵家の報酬四割についてはどうなのかという事が気になっていた。自分の取り分の方が、伯爵家よりも多いなんて変じゃ無いかと思ったのだ。
図書館で調べた結果、高位貴族に雇われる程の魔道具師であれば当然の待遇だという事は分かった。それ程、魔道具師というのは重宝される存在なのだ。
でも、まだ何者でも無い自分がそんな条件を提示してライム先輩に呆れられないか不安だった。幾ら信頼している兄からの言としても如何なのか。その問題を解決してくれたのはいつもの仲間だった。
「この国の常識は分かりかねますが、商売の基本として価格は高めに提示して相手の様子を見て下げて行きます。自分は技術は安売りしてはいけないと思います」
「まあ、高くふっかけた方が、最初から安い値段つけるより値切られたとしても高く売れるっすね」
「これから勉強すれば良いだけ」
図書館勉強の日、悩みに悩んだ末、友人達に聞いてみる事にしたのだ。愛し子に引け目を感じるアーロンにとって、この件を口に出すのはかなり勇気がいった。
同じクラスの三人の意見を聞いた後、アーロンは寮長を見た。三人はアーロンに好意的なので耳触りの良い事しか言わないが、寮長はもっと冷めた目でアーロンを見ている。だから現実的な意見を言ってくれるのでは無いかと期待したのだ。
「うん、ならば条件を加えれば君の不安は解決するんじゃ無いかな? 例えば、魔道具毎に取り分を変えるとか? 一律で全部を最高の魔道具師の報酬にしてるから不安なんだろう? あまり良い物が出来なかった時は、君の取り分を減らすとか?」
「でもそれでは、良い物を作った時に、アーロン様が伯爵家に買い叩かれる可能性を兄上は考慮されたのでは無いでしょうか? アーロン様では随時交渉するのは無理では無いかと」
イチロウが口を挟むと寮長は不安げなアーロンを見て眼鏡をくいっと上げた。そして、
「確かに」
と頷いてから、
「それなら、相手が納得出来る見本があればいいと思う。例えば、リバー先生のマクマの様な。あれは流石リバー先生だと思ったな。侯爵家でないと手に入れられない代物だ。意思を持った魔動人形。ああいうのがもし作れるならまだ実績が無くてもライム伯爵家はこの条件を呑むだろうね」
「……」
アーロンは冷や汗をかいた。薄々気が付いていたからリバーに託したのだが、寮長の言葉を聞いてあれは自分が作りました、とは絶対に言わない方がいいだろうと確信した。恐らく、ジェフは知っているからこの条件を挙げたのだろうが。
「リバー先生のお家って、侯爵家なんすね」
タイスケの言葉に、寮長がしまった、という顔をする。
「ああ、知っている生徒は知っていると思うが、これは内緒でお願いしたい。先生はあんまり大っぴらにはしたくない様だから」
「分かったっす」
火の国の二人と、アーロンは頷いた。タイスケのつっこみで、マクマの事から話が逸れそうでほっとする。
「そういえば、アーロン様、前に部屋で広げてた、防犯の道具は?」
イアンの言葉に、アーロンは首を傾げた。
「え、昆虫のグミ?」
「違う」
とイアンは思い出してぞっとした様に身震いしてから、言葉を続けた。
「ぴりっとする上着」
「ああ、今も着てるけど?」
アーロンの返事に友人達が距離を取る。
「えっと、作動させなければ平気ですよ」
「いや、そう言われてもな」
と寮長が嫌そうな顔をするのに、
「ちょっとタイスケで試してみて頂けませんか? どの様な物かこの目で見てみたいです」
と興味を持った様にイチロウが言う。タイスケが苦味を潰した顔で、
「えー、若が命じられるんなら、おいら逆らえないっすけど」
とアーロンに近付いて来た。
「待ってね」
とアーロンは装置を作動させ、タイスケに頷いた。タイスケは恐る恐る手を伸ばして来て、アーロンの肩に触れた途端に「ぴゃっ」と飛び退いた。
「どうだ?」
「びりびりって来ました。手が痛いっす!」
「え、でもこれって魔道具じゃ無いけど……」
アーロンが首を傾げていると、今度はイチロウが寄って来た。
「アーロン様、弱めにお願いします」
「えっと、その調整は出来ないです」
「うっ」
恐々と手を伸ばしたイチロウは、アーロンに触れ、びくっとして手を引くと痛みを逃す様に手を振っている。
「どういう原理なんだい?」
寮長の質問にアーロンが答える。
「びりっとしたのは静電気です。ケビン兄上が冬場はいつも、何か触る度にさっきのタイスケ様みたいになるんで、身体から静電気を逃す道具を作ってあげたんですけど、それを肩から逃してるだけですね」
「せいでんき?」
「はい」
「聞いた事ないな」
寮長が静電気という言葉に首を傾げていると、
「エレキテルの事ですかね? 西の国から伝わって、我が国で研究している者がおりましたが」
とイチロウが言うと、タイスケが反応する。
「あ、あの怪しい親父が研究してたやつっすか?」
イチロウが言っているのは恐らく電気の事だろうとアーロンは説明した。
「静電気は、人間の身体の中に流れてる電気と他の物の電気が衝突する事なんですけど」
「人間の身体を流れてる電気?」
アーロンの言葉に、寮長は医学を専攻しているイアンを見るが、イアンは分からないと首を振る。
「作動させたというのは?」
「ケビン兄上が言うには、心臓によく無いそうなので、静電気が外側、つまり僕の方にでは無くて僕に触れた人に流れる様に調整してます」
「はあ」
アーロンの説明に不思議そうな顔をした四人は、お互いに目を合わせて頷いた。
「それを見せればいいと思う」
「え、こんなのでいいんですか? こういうので良いなら、他にもありますけど」
きょとんとするアーロンに四人は大きく頷くので、後日リバー先生にも相談した所、それが良いと言うので、アーロンは先生がそう言うならとこの提案を受け入れる事にした。
☆
※アーロンの装置については創作です。現実には当て嵌まらないと思いますが異世界という事でご容赦下さい。
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