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ライム先輩と
土日
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「ところでさ、アーロンちゃんは土日はどうするの?」
と、キースがアーロンの隣に座る。
夕食はコース料理だ、頼まなくても席につけばどんどん持って来てくれる。ただ木曜日のキースは野菜と果物しか食べない。金曜日の夜から外出して主様に会う予定だからだ。キースの食事内容は、週初めは肉と魚を人並みに食べ、少しずつ減らして、週後半は野菜中心と決まっている。因みに主様というのは、愛し子の相手を指す。
キースの前に運ばれて来た前菜のサラダの大きさに驚きながらアーロンは答えた。
「今週こそ、外に買い物に行きたいんですけど……」
ライム先輩は週末は王都のタウンハウスに帰ってしまう。来年の卒業に備えて、領地経営の実務を手伝い始めているからだ。一緒に行っては貰えそうも無い上に、危ないから土日は一人では過ごしては駄目だと言われ、先週は火の国の寮で過ごした。
何故ならアーロンが普段仲良くしている面々が皆外泊してしまったからだ。
イアンと寮長は領地が無い貴族で王都に家があるので、家族から週末は家に帰って来るように言われたそうだ。ルークもイアンについて帰ってしまった。
寮監のリバーは土日も寮には居るので寮の中は安全だが、問題は食事だ。食堂へ行く時に一人は危ない、かと言って教師に三度の食事に付き合って貰う訳にもいかない。その点、火の国の寮なら食事の心配も無い、イチロウが作ってくれるからだ。移動しないでずっと中に居れば安全という事で、ライム先輩だけでなく友人達も安心出来ると満場一致で火の国の寮で過ごす事になったのだが、意外と楽しかった。
火の国の二人が使っている寮は、伯爵家の寮の裏にあるどこからか移築して来たらしい田舎の屋敷だが、書斎もあった。以前に使っていたという何代か前の王太子の趣味か、幅広い分野の本があり、魔道具の本も充実していたのでアーロンは有意義な週末を過ごす事が出来た。だが、まさか毎週末火の国の寮で過ごすというのも味気無い。
「三人で出掛けるのも駄目って言われて……」
火の国の二人も、髪色を変える魔道具を見に行きたいと言っている。アーロンに指摘された、眉毛の色が気になっているらしい。
「確かに絡まれる確率は増えそうだしね」
キースの言葉に頷く。やはり学院内でも、二人に対する偏見はあり、タイスケは運動の同好会に入るのは諦めた。男爵家の生徒は好意的なのだが、それより上の爵位の生徒が冷たい。それでも身体は動かしたいという事で、土日は寮の裏庭でタイスケはイチロウ相手にスモウという武術の稽古をしていた。アーロンも興味を持ったが、裸にフンドシという名の下着姿という格好に抵抗感があったのと、二人に止められたので見ているだけにした。
サラダを食べ終わったキース以外の前に、きのこスープが運ばれる。クリームシチューの入った小さめの器にパン生地で蓋をしてオーブンで焼き上げた物だ。焼き上がったパンが膨らんできのこのように見える。アーロンは早速きのこの傘の部分にスプーンを入れた。パンが割れて湯気が立ち、クリームシチューの良い匂いがする。それに「あ」とキースが反応するのに、給仕が「如何されますか?」と尋ねる。
「中ってお肉入ってる?」
「抜く事も可能です」
「じゃあそれで」
下がっていく給仕を見ながらタイスケが、
「ここに入ってる肉なんてほんのちょっぴりっすよ。気にする程でもないっす」
と言うが、キースは譲らない。
「駄目なの」
ともぐもぐと葉っぱを食べている。
タイスケは諦めた様に話題を変えた。
「早く師匠が戻って来てくれればいいんすけど」
「ああ、どうなんだろうね」
タイスケが師匠と呼んでいるのは、アーロンの三番目の兄であるケビンだ。入学初日に学院の門で別れたきり連絡が無い。アーロンは無事学院に着いた旨実家に手紙を送ったが、その返事にもまだ兄二人は王都から戻って来ていないとあった。一体何をしているのだろう。
ただ、兄が戻って来た所で何か意味があるのだろうか。所詮は生徒の父兄だ。それなのに戻って来ると言い張っているのは、今年から始まる火の国語の講義が初回から休みだったのは、やっぱり兄と関係があるのだろうかとアーロンは訝しんでいる。何やら隠している様子のタイスケは認めないが、兄の帰りを待っている所が怪しい。
「あ、そうだ! 僕達と一緒に行く?」
急にキースが大声を上げた。
食べ物に集中していたイチロウがびくっとする。
「僕達?」
とアーロンが首を傾げると、
「僕と先輩!」
とキースが答えた。
「それって、もしかしてキース先輩の主様とって事っすか?」
「そう」
「えー、でもお邪魔なんじゃ?」
アーロンは心配だ。休み時間毎に魔道具で通話して、食事もわざわざ制限して、土日にしか会えない相手なのに。
「なんかねー、僕が後輩の話いっぱいしたから会いたいみたい」
「成る程」
イチロウは頷いた後、タイスケと顔を見合わせた。
「自分達が一緒でも問題無いのでしょうか?」
「え?」
「その、他国の者と一緒で気に障られるのではと」
「あー、それは全然平気。先輩、他所の国の人ともお仕事してるから慣れてるよ」
キースはその気だが、アーロン達三人が返事に迷っていると、寮長が口を開いた。
「お願いした方が良いのでは? キース先輩の主人様は伯爵家の御子息だった筈」
「そうだね」
とイアンが同意する。イアンは夕食に来ても、スープとデザートしか食べない。そのせいか、イアンの前にあるきのこスープは少し大きめだ。
「でもキース先輩前科ある。絶対アーロン様から離れないで」
「大丈夫! 任せて!」
「信用出来ない」
「うっ」
と、キースがアーロンの隣に座る。
夕食はコース料理だ、頼まなくても席につけばどんどん持って来てくれる。ただ木曜日のキースは野菜と果物しか食べない。金曜日の夜から外出して主様に会う予定だからだ。キースの食事内容は、週初めは肉と魚を人並みに食べ、少しずつ減らして、週後半は野菜中心と決まっている。因みに主様というのは、愛し子の相手を指す。
キースの前に運ばれて来た前菜のサラダの大きさに驚きながらアーロンは答えた。
「今週こそ、外に買い物に行きたいんですけど……」
ライム先輩は週末は王都のタウンハウスに帰ってしまう。来年の卒業に備えて、領地経営の実務を手伝い始めているからだ。一緒に行っては貰えそうも無い上に、危ないから土日は一人では過ごしては駄目だと言われ、先週は火の国の寮で過ごした。
何故ならアーロンが普段仲良くしている面々が皆外泊してしまったからだ。
イアンと寮長は領地が無い貴族で王都に家があるので、家族から週末は家に帰って来るように言われたそうだ。ルークもイアンについて帰ってしまった。
寮監のリバーは土日も寮には居るので寮の中は安全だが、問題は食事だ。食堂へ行く時に一人は危ない、かと言って教師に三度の食事に付き合って貰う訳にもいかない。その点、火の国の寮なら食事の心配も無い、イチロウが作ってくれるからだ。移動しないでずっと中に居れば安全という事で、ライム先輩だけでなく友人達も安心出来ると満場一致で火の国の寮で過ごす事になったのだが、意外と楽しかった。
火の国の二人が使っている寮は、伯爵家の寮の裏にあるどこからか移築して来たらしい田舎の屋敷だが、書斎もあった。以前に使っていたという何代か前の王太子の趣味か、幅広い分野の本があり、魔道具の本も充実していたのでアーロンは有意義な週末を過ごす事が出来た。だが、まさか毎週末火の国の寮で過ごすというのも味気無い。
「三人で出掛けるのも駄目って言われて……」
火の国の二人も、髪色を変える魔道具を見に行きたいと言っている。アーロンに指摘された、眉毛の色が気になっているらしい。
「確かに絡まれる確率は増えそうだしね」
キースの言葉に頷く。やはり学院内でも、二人に対する偏見はあり、タイスケは運動の同好会に入るのは諦めた。男爵家の生徒は好意的なのだが、それより上の爵位の生徒が冷たい。それでも身体は動かしたいという事で、土日は寮の裏庭でタイスケはイチロウ相手にスモウという武術の稽古をしていた。アーロンも興味を持ったが、裸にフンドシという名の下着姿という格好に抵抗感があったのと、二人に止められたので見ているだけにした。
サラダを食べ終わったキース以外の前に、きのこスープが運ばれる。クリームシチューの入った小さめの器にパン生地で蓋をしてオーブンで焼き上げた物だ。焼き上がったパンが膨らんできのこのように見える。アーロンは早速きのこの傘の部分にスプーンを入れた。パンが割れて湯気が立ち、クリームシチューの良い匂いがする。それに「あ」とキースが反応するのに、給仕が「如何されますか?」と尋ねる。
「中ってお肉入ってる?」
「抜く事も可能です」
「じゃあそれで」
下がっていく給仕を見ながらタイスケが、
「ここに入ってる肉なんてほんのちょっぴりっすよ。気にする程でもないっす」
と言うが、キースは譲らない。
「駄目なの」
ともぐもぐと葉っぱを食べている。
タイスケは諦めた様に話題を変えた。
「早く師匠が戻って来てくれればいいんすけど」
「ああ、どうなんだろうね」
タイスケが師匠と呼んでいるのは、アーロンの三番目の兄であるケビンだ。入学初日に学院の門で別れたきり連絡が無い。アーロンは無事学院に着いた旨実家に手紙を送ったが、その返事にもまだ兄二人は王都から戻って来ていないとあった。一体何をしているのだろう。
ただ、兄が戻って来た所で何か意味があるのだろうか。所詮は生徒の父兄だ。それなのに戻って来ると言い張っているのは、今年から始まる火の国語の講義が初回から休みだったのは、やっぱり兄と関係があるのだろうかとアーロンは訝しんでいる。何やら隠している様子のタイスケは認めないが、兄の帰りを待っている所が怪しい。
「あ、そうだ! 僕達と一緒に行く?」
急にキースが大声を上げた。
食べ物に集中していたイチロウがびくっとする。
「僕達?」
とアーロンが首を傾げると、
「僕と先輩!」
とキースが答えた。
「それって、もしかしてキース先輩の主様とって事っすか?」
「そう」
「えー、でもお邪魔なんじゃ?」
アーロンは心配だ。休み時間毎に魔道具で通話して、食事もわざわざ制限して、土日にしか会えない相手なのに。
「なんかねー、僕が後輩の話いっぱいしたから会いたいみたい」
「成る程」
イチロウは頷いた後、タイスケと顔を見合わせた。
「自分達が一緒でも問題無いのでしょうか?」
「え?」
「その、他国の者と一緒で気に障られるのではと」
「あー、それは全然平気。先輩、他所の国の人ともお仕事してるから慣れてるよ」
キースはその気だが、アーロン達三人が返事に迷っていると、寮長が口を開いた。
「お願いした方が良いのでは? キース先輩の主人様は伯爵家の御子息だった筈」
「そうだね」
とイアンが同意する。イアンは夕食に来ても、スープとデザートしか食べない。そのせいか、イアンの前にあるきのこスープは少し大きめだ。
「でもキース先輩前科ある。絶対アーロン様から離れないで」
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「信用出来ない」
「うっ」
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