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第二章
15話「供養とコンドーム」
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「ど、どういう事だよ……これは……」
横一列に並べられた動物達の生首を見ながら優司が呟くと、これらは一体いつの間に置いていかれた物なのかと疑問が浮かんだ。何故なら未だに首の根元から鮮血が流れている事を考慮すると、それほど時間が経過しているように彼には見えなかったからだ。
「くそっ、趣味な事しやがる。……だがなんだ? この鼻の奥が痺れるような匂いは?」
そして微かにだが悪霊特有の瘴気のようなものを彼は嗅覚で感じ取ると、この生首達は決してそのままにしておくべき事ではないと判断して幽香を呼ぶことにした。
「お、おーい幽香! ちょっと来てくれ!」
護符を木に貼ったり茂みの中に隠すようにして設置している彼に声を掛ける。
「分かった。直ぐに行くよ!」
幽香はしゃがんでいた腰を上げて返事をすると一目散に走り寄って来た。
「と、取り敢えずこれを見てくれよ……」
幽香が彼の隣に到着すると優司は重々しく口を開いて生首が並べられてる場所へと顔を向けた。
すると彼は優司の視線に連れられるようにして目で追っていくと、
「なっ!? こ……これは……うん、間違いないね。十中八九、悪霊の仕業だと見て良い」
驚愕の表情を見せながら自身の口元を手のひらで覆うような仕草を見せていた。
だが幽香はそれでも刹那の間に物事を冷静に捉える事が出来たのか、動物達の首を切った者の正体が悪霊だと分析していた。
「それは本当か? 第一発見者の俺が言うのも何だが、他の野生動物がこれを行った可能性もあるんじゃないのか?」
動物達が生首にされた件が他の捕食者による仕業だと言うことを優司は考慮しながら話す。
「うーん……確かにその可能性が全くない訳でもない。しかし、この神社にこんな器用な真似をする野生動物はいないだろうからね」
幽香は彼の言葉を聞いて両腕を組みながら表情を悩ませるが、そんな獰猛で癖のある動物はこの神社周辺には居ないと断言した。
「ま、まあ……。そんなグロい狩りをする動物は聞いたことも況してや見たこともなしいな」
優司は自分の記憶の中でこんな真似が出来る野生動物を探すが何処にも該当するものはない。
「そういうこと。……だけど何にせよ、これをこのままにしておくのは良くない。無残に殺された動物は時が経つごとに怨念が増して、やがて悪霊動物へと変化しやすいからね」
幽香は視線を尖らせて生首へと見据えると動物達が悪霊化することを危惧している様子であった。
「悪霊動物ってあれか? 動物の見た目をした悪霊で一見、人畜無害に見えつつも隙を突いて人を襲ってくると言う」
座学の授業で教わった事を優司は思い起こしながら言うと、それは人の手によって無残にも殺された動物達が最も危険な動物型の悪霊へと変化するというものであった。
けれど自然死や寿命であれば悪霊化する確率は低いらしいのだ。
「そうだよ。だからこの動物達が悪霊化する前に僕達で供養してあげないとね。……と言っても線香や蝋燭も何もない状況だから土葬しか手がないんだけど」
彼の言葉を耳にして幽香は短く言葉を返すと自分達は悪霊を除霊しに来ただけであって、供養が目的ではなく専用の道具は持ち合わせていない。
ならば即席で行えるのは土葬以外にないと彼は思ったのだろう。
「土葬か……ならば俺に任せておけ。幽香は夜の除霊の時まで体力を温存していくれ」
優司は土葬と聞いて穴を掘ることを自らが買って出ると、近くに落ちていた木の棒を手にして地面を掘り始める。
「ん、分かった。力仕事は優司に任せるよ。じゃぁ僕は後ろでお経を唱えておくから」
小さく頷いてから両手を静かに合わせると幽香はお経を唱える体制を整えた。
――それから優司がある程度の深さの穴を掘り終えると、慎重に動物達の首を抱えてゆっくりと穴へと入れる。
すると彼の背後では先程から幽香がお経を唱えていて一応の供養を済ます事が出来た。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「まさか周辺調査するだけで、あんな悲惨な光景を見ることになろうとはな……」
動物達を土葬して供養を済ませると二人は悪霊の気配や痕跡がないか探しに再び歩き出したが、優司は手に獣の血と匂いが付着して何とも言えない気持ちを抱いていた。
しかしあの生首の件が悪霊の仕業なら何の罪もない無害な動物を殺した事は純然たる悪だと思い、今ここで仮に悪霊に遭遇したとしても必ず払うという意思は持てた。
「悪霊が関わっていると大抵は碌な事にならない。あれぐらいならまだマシに思えないと駄目だよ。父さん曰く、ぐちゃぐちゃになった人の亡骸を見つける事もざらにあるらしいから」
彼の隣を歩く幽香が淡々とした口調でそう言ってくると、彼は幼い頃から悪霊に殺された人達の話をよく鳳二から聞いていたのか若干達観した考え方を持っているようであった。
「それに……っと、あれはなんだ?」
話しながら周囲を見渡したあと幽香は何かを見つけたのか急に小走りで優司の隣から離れて行く。
「んー、どうした幽香? なにか見つけたのか?」
突然走り出した彼を見て声を掛けながら優司も遅れて走り出す。
そして優司は彼の隣へ並んで立つと一体何を見つけて急に走りだしたのかと不思議に思いながらも顔を幽香の元へと向ける。すると彼は”ある一点”を見つめたまま顔を真っ赤に染め上げて全身を石像のように固まらせていた。
「お、おい……本当に大丈夫か?」
優司は心配して声を掛けるが依然として反応が帰ってくる事はなく、幽香の視線はある一点に固定されてままであった。
そこで彼は幽香がここまで取り乱す事とは一体何なのかと好奇心が湧くと、
「い、一体なにを見て……お、おお!? こ、これは!」
優司は彼の視線の先を目で追っていくと地面の上には衝撃的な物が落ちていたのだ。
だがそれは決して先程の動物達のように生首が並べられてるとはではない。
「これはアレだな。カップル御用達のこ、コンドームというやつだ!」
ついに耐え切れずに人差し指で眉間を押さえながら地面に落ちている物の名を優司が告げる。
「ッ!? み、皆まで言うな優司!」
だが首の骨が折れる勢いで幽香が顔を向けてくると怒声混じりの声を上げていた。
……そう、今彼らの前には使用済みのゴムが落ちていて、良く見るとそれの表面には乾いた血のようなものが付着している事に優司は気が付く。
「まさかカップルがこんな危険な神社周辺で事を成すとはな。しかもこのゴムの状況から見るに相手は処……」
ゴムを見ながら優司はカップルが野外で事を成したのだろうと言う事実に何て難易度の高い事をしているのかと別の意味で畏怖を抱きながらも隣で呆然と立ち尽くしている幽香に細かく状況を伝えた。
「こらッ優司! それ以上言ったら僕は本気で怒るよ!」
すると優司の話を体を震わせながら聞いていた幽香は何か想像したのか湯気が頭から出そうな勢いで顔が更に赤くなっていた。
「……すまない。てか何で幽香はこれを見つけて一目散に走り出したんだ?」
このまま揶揄い続けると幽香はその言葉通りに本気で怒りそうだと彼は判断すると声色を真面目なのもとへと戻して話題を変えた。
「そ、それはその……アレが動物の乾いた肉片に見えたからだよ……」
自身の指を絡ませながら弄り始めて幽香は言いにそうな雰囲気を見せると、その理由は何とも見間違いから始まった事であったらしい。
確かにゴムの色からして乾いた肉片にも見えなくもなく、最初に生首を見ていた事から脳が変に錯覚を起こしたのだろうと優司は思った。
「なるほどな。……まあこれは流石に悪霊の痕跡ではなさそうだし、あと五分ぐらい周りを見てから一旦先輩のもとへ戻るか」
両腕を組みながら頷くと優司はゴムから視線を外してもう少し周囲を探索してから神社へ戻ることを提案する。
「う、うんそうだね。生首の件も早いうちに報告しとかないとだからね」
幽香は漸く落ち着きを取り戻してきたのか頬の赤みが少し薄くなっていた。
――――そして二人は再び歩き出して護符の罠を準備しながら悪霊の痕跡を探したが、これといったものが見つかる事はなく京一が待つ神社へと戻るのであった。
横一列に並べられた動物達の生首を見ながら優司が呟くと、これらは一体いつの間に置いていかれた物なのかと疑問が浮かんだ。何故なら未だに首の根元から鮮血が流れている事を考慮すると、それほど時間が経過しているように彼には見えなかったからだ。
「くそっ、趣味な事しやがる。……だがなんだ? この鼻の奥が痺れるような匂いは?」
そして微かにだが悪霊特有の瘴気のようなものを彼は嗅覚で感じ取ると、この生首達は決してそのままにしておくべき事ではないと判断して幽香を呼ぶことにした。
「お、おーい幽香! ちょっと来てくれ!」
護符を木に貼ったり茂みの中に隠すようにして設置している彼に声を掛ける。
「分かった。直ぐに行くよ!」
幽香はしゃがんでいた腰を上げて返事をすると一目散に走り寄って来た。
「と、取り敢えずこれを見てくれよ……」
幽香が彼の隣に到着すると優司は重々しく口を開いて生首が並べられてる場所へと顔を向けた。
すると彼は優司の視線に連れられるようにして目で追っていくと、
「なっ!? こ……これは……うん、間違いないね。十中八九、悪霊の仕業だと見て良い」
驚愕の表情を見せながら自身の口元を手のひらで覆うような仕草を見せていた。
だが幽香はそれでも刹那の間に物事を冷静に捉える事が出来たのか、動物達の首を切った者の正体が悪霊だと分析していた。
「それは本当か? 第一発見者の俺が言うのも何だが、他の野生動物がこれを行った可能性もあるんじゃないのか?」
動物達が生首にされた件が他の捕食者による仕業だと言うことを優司は考慮しながら話す。
「うーん……確かにその可能性が全くない訳でもない。しかし、この神社にこんな器用な真似をする野生動物はいないだろうからね」
幽香は彼の言葉を聞いて両腕を組みながら表情を悩ませるが、そんな獰猛で癖のある動物はこの神社周辺には居ないと断言した。
「ま、まあ……。そんなグロい狩りをする動物は聞いたことも況してや見たこともなしいな」
優司は自分の記憶の中でこんな真似が出来る野生動物を探すが何処にも該当するものはない。
「そういうこと。……だけど何にせよ、これをこのままにしておくのは良くない。無残に殺された動物は時が経つごとに怨念が増して、やがて悪霊動物へと変化しやすいからね」
幽香は視線を尖らせて生首へと見据えると動物達が悪霊化することを危惧している様子であった。
「悪霊動物ってあれか? 動物の見た目をした悪霊で一見、人畜無害に見えつつも隙を突いて人を襲ってくると言う」
座学の授業で教わった事を優司は思い起こしながら言うと、それは人の手によって無残にも殺された動物達が最も危険な動物型の悪霊へと変化するというものであった。
けれど自然死や寿命であれば悪霊化する確率は低いらしいのだ。
「そうだよ。だからこの動物達が悪霊化する前に僕達で供養してあげないとね。……と言っても線香や蝋燭も何もない状況だから土葬しか手がないんだけど」
彼の言葉を耳にして幽香は短く言葉を返すと自分達は悪霊を除霊しに来ただけであって、供養が目的ではなく専用の道具は持ち合わせていない。
ならば即席で行えるのは土葬以外にないと彼は思ったのだろう。
「土葬か……ならば俺に任せておけ。幽香は夜の除霊の時まで体力を温存していくれ」
優司は土葬と聞いて穴を掘ることを自らが買って出ると、近くに落ちていた木の棒を手にして地面を掘り始める。
「ん、分かった。力仕事は優司に任せるよ。じゃぁ僕は後ろでお経を唱えておくから」
小さく頷いてから両手を静かに合わせると幽香はお経を唱える体制を整えた。
――それから優司がある程度の深さの穴を掘り終えると、慎重に動物達の首を抱えてゆっくりと穴へと入れる。
すると彼の背後では先程から幽香がお経を唱えていて一応の供養を済ます事が出来た。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「まさか周辺調査するだけで、あんな悲惨な光景を見ることになろうとはな……」
動物達を土葬して供養を済ませると二人は悪霊の気配や痕跡がないか探しに再び歩き出したが、優司は手に獣の血と匂いが付着して何とも言えない気持ちを抱いていた。
しかしあの生首の件が悪霊の仕業なら何の罪もない無害な動物を殺した事は純然たる悪だと思い、今ここで仮に悪霊に遭遇したとしても必ず払うという意思は持てた。
「悪霊が関わっていると大抵は碌な事にならない。あれぐらいならまだマシに思えないと駄目だよ。父さん曰く、ぐちゃぐちゃになった人の亡骸を見つける事もざらにあるらしいから」
彼の隣を歩く幽香が淡々とした口調でそう言ってくると、彼は幼い頃から悪霊に殺された人達の話をよく鳳二から聞いていたのか若干達観した考え方を持っているようであった。
「それに……っと、あれはなんだ?」
話しながら周囲を見渡したあと幽香は何かを見つけたのか急に小走りで優司の隣から離れて行く。
「んー、どうした幽香? なにか見つけたのか?」
突然走り出した彼を見て声を掛けながら優司も遅れて走り出す。
そして優司は彼の隣へ並んで立つと一体何を見つけて急に走りだしたのかと不思議に思いながらも顔を幽香の元へと向ける。すると彼は”ある一点”を見つめたまま顔を真っ赤に染め上げて全身を石像のように固まらせていた。
「お、おい……本当に大丈夫か?」
優司は心配して声を掛けるが依然として反応が帰ってくる事はなく、幽香の視線はある一点に固定されてままであった。
そこで彼は幽香がここまで取り乱す事とは一体何なのかと好奇心が湧くと、
「い、一体なにを見て……お、おお!? こ、これは!」
優司は彼の視線の先を目で追っていくと地面の上には衝撃的な物が落ちていたのだ。
だがそれは決して先程の動物達のように生首が並べられてるとはではない。
「これはアレだな。カップル御用達のこ、コンドームというやつだ!」
ついに耐え切れずに人差し指で眉間を押さえながら地面に落ちている物の名を優司が告げる。
「ッ!? み、皆まで言うな優司!」
だが首の骨が折れる勢いで幽香が顔を向けてくると怒声混じりの声を上げていた。
……そう、今彼らの前には使用済みのゴムが落ちていて、良く見るとそれの表面には乾いた血のようなものが付着している事に優司は気が付く。
「まさかカップルがこんな危険な神社周辺で事を成すとはな。しかもこのゴムの状況から見るに相手は処……」
ゴムを見ながら優司はカップルが野外で事を成したのだろうと言う事実に何て難易度の高い事をしているのかと別の意味で畏怖を抱きながらも隣で呆然と立ち尽くしている幽香に細かく状況を伝えた。
「こらッ優司! それ以上言ったら僕は本気で怒るよ!」
すると優司の話を体を震わせながら聞いていた幽香は何か想像したのか湯気が頭から出そうな勢いで顔が更に赤くなっていた。
「……すまない。てか何で幽香はこれを見つけて一目散に走り出したんだ?」
このまま揶揄い続けると幽香はその言葉通りに本気で怒りそうだと彼は判断すると声色を真面目なのもとへと戻して話題を変えた。
「そ、それはその……アレが動物の乾いた肉片に見えたからだよ……」
自身の指を絡ませながら弄り始めて幽香は言いにそうな雰囲気を見せると、その理由は何とも見間違いから始まった事であったらしい。
確かにゴムの色からして乾いた肉片にも見えなくもなく、最初に生首を見ていた事から脳が変に錯覚を起こしたのだろうと優司は思った。
「なるほどな。……まあこれは流石に悪霊の痕跡ではなさそうだし、あと五分ぐらい周りを見てから一旦先輩のもとへ戻るか」
両腕を組みながら頷くと優司はゴムから視線を外してもう少し周囲を探索してから神社へ戻ることを提案する。
「う、うんそうだね。生首の件も早いうちに報告しとかないとだからね」
幽香は漸く落ち着きを取り戻してきたのか頬の赤みが少し薄くなっていた。
――――そして二人は再び歩き出して護符の罠を準備しながら悪霊の痕跡を探したが、これといったものが見つかる事はなく京一が待つ神社へと戻るのであった。
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