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32話「女体化の親友は決断する」

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 今夜の寝床を探している時に偶然にもバイト募集が張り出されている提示版を見つけることが出来ると、俺と深月はそれを食い入るように見ては何かしら好物件な仕事はないだろうかと求人の全てに目を通していた。

 するとその中でも夜職のものやバニーガールの衣装を着て酒場の看板娘なるものがあり、現状ではこれらが一番日当額が高くて金を集めることに関してだけは最適であることが分かる。

 だがそれでも夜職や看板娘の仕事は必然的に女性を求めているわけで、今現在これらの条件を満たして仕事を行えるのはずばり相方だけであるのだ。
 つまり深月がどれだけ覚悟を決められるかでバイトの行く末は大きく変わるということ。

 それから核心を尋ねる為にも生唾を飲み込んで喉を揺らしてから、

「選べ深月。夜のお店かバニーガールか! どちらも男として何かを失うかも知れないが、ここは贅沢を言っている場合じゃないぞ!」
 
 さり気なく土木作業員という項目を外して究極の二択を迫るようにした。

「い、いやだ! 絶対にいやだ! 普通に土木作業でいいじゃないか! なんで僕だけ恥ずかしい目に合わないといけないんだよ!」

 すると深月は目尻を尖らせて正面から否定の言葉と共に正論を投げて返してきたのだが、確かにそれを言われてしまうと何も言い返せなくなるだろう。
 しかし今ここで自分が屈してしまえばバイトという選択自体が無くなる気がして、

「なあ、深月よ。俺たちの目的を忘れたのか? 別にこの世界に職を求めてきた訳じゃないだろ?」

 敢えて真面目な口調を使いつつ相方へと顔を近づけて視線を逸らされないようにする。

「そ、そうだけど……急にどうした? あと顔が近い鬱陶しい離れろ」

 困惑した様子の表情を見せながら首を僅かに傾げて反応していたが、それでも相変わらず鋭い切れ味を誇る言葉を間髪を入れずに口にしていた。

「だったら答えは分かってるだろ! 高給のところでバイトして即行で金を集めて、それから装備を整えて魔女を捜すってことぐらいはよぉ!」

 深月の鋭い言葉のナイフを華麗に無視して更に顔を近づけて鼻先を触れさせるほどに距離を縮めると、あとは勢いのみで絶対にバイトはしといた方がいいということを力説して例の魔女を捜すことが今の目標だということを告げる。 

 確かに創世神アステラに成し遂げて欲しいと言われた事とは大きく目標が異なるかも知れないが、それでもまずは相方の女体化を治す事の方が優先されるべきことだとして考えているのだ。
 そもそも本来協力が得られる筈の勇者一行があんな連中だとは予想外もいいところだからな。

「た、確かにそれは分かるけども……。さすがに夜の店は無理だ! 男として女として何かを失いかねない気がする!」

 意外にも勢いだけの力説が功を成したのか深月の態度が少しだけ弱まると、バイトを始めるという事に関しては嫌という言葉は出てこず、唯一の否定と言えば夜のお店は尊厳を失いかねないという理由で候補から外して欲しいということぐらいであった。

「じゃあ残されてる求人はバニーガール衣装を着ての看板娘のみだな」

 近づけていた顔を相方から離すと両腕を組みながら口を開くが、周りの逃げ道を着実に塞いだことで最後の決断を迫ることに成功した。

「なっ!? ……くっ、己謀ったな雄飛!」

 何かに気が付いた様子で怒声混じりの言葉を口にする深月。

「さあな。俺はただ決断を迫っただけだぜ」

 だがそんなことに今更気が付いても意味はなく肩を竦めながら返す。

「ぐぬぬっ……はぁ。まあ仕方ないか。どのみち金がないと何も始まらない訳だしな」

 そして相方は犬のような唸り声を発すると色々な事情を察したのか、何処か諦めたように溜息を吐いてはバイトをするという行為に賛成の色を見せていた。

「うむうむ、そういうことだ」

 些細な抵抗は有りはしたものの結果として深月が自発的にバイトを行うという決断を下したのは何よりも大切なことである。これで取り敢えずは金銭面の問題は乗り越えられる訳だからな。

「てかさ、お前もバイトしろよ。ちょうどご自慢の筋肉が使えそうな土木作業があるんだからさ」

 なんとも形容しがたい感情を込めた視線を横目で相方は向けてくると、その台詞は事前に想定済みのことであり全くの無問題である。

「ふっ、それはできない! 断じてなぁ!」

 右手を前へと伸ばして深月の正面へと向けると、そう力強く言い切りバイトをする気はないという意思を包み隠さず伝えた。

「はぁ!? なんでだよ! 僕だけを働かせようとしているのか!」

 すると当然の如く相方は怒りを顕にさせて人差し指を向けてくる。
 確かにこれだけ聞けば、ただ単純に働きたくない男の言葉だとして認識されるだろう。
 けれどこれには列記とした事情があるのだ。

 そう、決して俺は自らが働きたくないが故に深月に働いて稼いで貰おうなどという甘い考えはしていない。それは創世神アステラに誓いを捧げてもいいほどに事実なのだ。

 寧ろ相方の代わりに俺が働きたいぐらいだしな。
 だけどそれが出来ない理由。それはつまり――――

「まあまあ落ち着けって。というか冷静に考えてみろよ。俺まで働いたら例の魔女についての情報が得られないじゃないか」

 それは至極簡単な要因であり、あの魔女を見つけ出す為の情報を集めることが不可能となるからである。つまり必ず一人は情報収集を行う為にも世間的に辛いと呼ばれている無職という看板を背負わなければならないのだ。これが現状で最も効率的にお金と情報が得られる最善の策だと思われる。
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