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30話「勘違いは突然に」

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 無事にシスターブレンダを部屋へと運び入れると割れ物を扱うかのごとく繊細な手つきで、ベッドの上へと彼女を寝かせて俺の仕事は無事に終わりを迎えることができた。

 しかし今日の一連の出来事を謝らないといけないとして深く詫びるように頭を下げたのだが、そのあと直ぐに深月が対照的に感謝の言葉と共に笑顔をブレンダへと向けていていたのだ。

 そしてその相方の姿を見て謝罪の言葉よりも感謝の言葉の方が何千倍も嬉しいということを、直感的に理解することができると自分は深月よりも女子心が分からないとして少しだけ気分が落ち込んだ。

「いえいえ、とんでもないです。こちらこそ今日は自分の未熟さを知る良い日となりました。是非、今度ご飯ご一緒しましょう!」

 相方から感謝の言葉を受けると共に手を握られている彼女は、はにかみ笑顔を見せながら小さく頷いてそう答えていた。

 けれどそんな二人の様子を見て、まさかあの女性に対してコミュ障を連発させていた深月が、さり気なく女性をご飯に誘うという行為をしていて普通に驚きが隠せない。

 それは世のイケメン野郎が女性を狙う時に平然と使う台詞の一つであり、もしかしてだが相方はブレンダのことが好きなのかも知れないという可能性が急浮上している。

 確かにあれほど親身に自分の為に危険を冒してでも色々と動いてくれたら、それは一種の吊り橋効果的なものが発生したとしても何らおかしくはない筈だ。

 だがそれでも今の深月は女性という性別であり尚且つ相手も女性という性別だ。
 これはかなりの茨の道を進むことになるのが予測されるが、相方が本気ならばここは一人の親友としてその恋路を全力で応援しなければならない。

 これはもはや義務であり決して放棄することのできないことだ。
 そう、二人の幸せを勝手ながら一方的に祝わせて貰うということである。

「それじゃ、またね! ブレンダさん!」

 握り締めていた手を離すと深月は別れの言葉を口にしていて、雰囲気的にはそろそろ教会を出ていく感じである。恐らくだが今日という日だけで一気に好意を伝えようとすることはせずに、相方としては時間を掛けてゆっくりと親身な関係を築いていきたと考えているのだろう。

 それぐらいの考えは親友の俺ならば手に取るように把握する事ができるのだが、意外と深月は勢いだけで恋愛をする者ではないとして何処か安心できる。しかしそれは同時に勢いだけで恋愛をする人を否定している訳ではないのだ。

 ただ単に俺自身もゆっくりと時間を掛けてしたいだけの人間であるのだ。
 それから相方と共にブレンダの部屋から出る為に扉の前へと移動するが不意に足を止めて、

「今日は色々とありがとうな! そしてコイツのこともよろしく頼む! こう見えても中身は男らしい奴だからさ!」

 回れ右をしながら相方の肩を掴んで引き寄せると共に彼女へと顔を向けて語る。
 ここは親友代表としてしっかり挨拶をすると同時に、深月の売り込みをしておかなければならないだろう。きっとこれが今後のことに繋がると信じて。

「えっと……わ、分かりました!」

 首を僅かに傾げていたが相方のことを少しだけ理解してくれたのかブレンダは両手を合わせて大きく頷いていた。

 その反応を目の当たりにして安堵するように僅かに胸が軽くなると、あとは二人だけの問題だとして無粋な口を閉じて相方を連れて部屋を出ていくことにした。
 なにも今日で全てを終わらせる必要はないのだ。互いに考える時間というのも必要だからな。

 そしてブレンダの部屋を出たあとそのまま教会からも出て行こうとするのだが、

「ふざけるな! 一体なにを考えているつもりなんだ!? 馬鹿なのか!? 雄飛は馬鹿なのかぁぁぁぁっ!」

 その際に何故か深月からは怒涛の言葉責めを受けると共に肘で横腹をなんども執拗に力強く突かれて普通に痛い。

 多分だが親友に恋の手助けをされたことがよほど恥ずかしいのだろう。
 いわば照れ隠しのようなものだとは思うのだが、これぐらいは親友としてさせて欲しいところではある。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 シスターブレンダに別れを告げて教会を後にすると、俺達は街の方へと戻るべく歩みを進めて行くのだが、そろそろ話しかけてもいいだろうとして深月の肩を数回軽く叩くと――

「お前ってああいう女性がタイプなのか?」
 
 ふとそんなことを尋ねてみることにした。この質問に対して特に深い意味はないのだが、何故か教会を出たあたりから相方は露骨に機嫌が悪いのだ。それも両腕を組んで威圧的な態度を見せるほどにだ。
 
「はあ? 一体なんのことだよ?」

 しかしいきなりの質問に深月は困惑しているのか若干呆れたように顔を晒していた。
 
「とぼけんなって。お前さっきシスターを飯に誘っていたじゃないか。つまりそういうことなんだろ?」

 色んな意味合いを含めた言葉を口にして相方へと顔を近づけて言うと、この場で好きとか恋とか言うこと自体は無粋でしかなく敢えて誤魔化しながら尋ねているのだ。

「あー……そういうのじゃないよ。うん、違うぞ。あれはそう、成り行きってやつだ。つい勢いで出てしまった言葉だ。だから違う」

 すると深月は何かを察したのか急に真顔を見せると共に、冷たい声色を出しながら全てを否定するような言葉を呟いていた。
 
 けれど心なしかその言葉には一切の感情が上乗せされていないような……。そんな深く暗い闇のような印象を強く受けると、この話題は相方の中では禁句なのかも知れないとして、これ以上は下手に聞けないと本能的に判断すると早々に徹底する意思を見せることにした。

「す、すまん」

 短くも謝罪の言葉を伝えると頭を僅かに下げる。

「いいよ、気にすんなよ」

 そして深月は一度も顔を合わせることはなく、ただ正面を見ながら返事をして許してくれるのであった。
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