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19話「恋仲ではありませんよ」

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 修道服を着た女性を助ける為に咄嗟の判断で梯子を弾いて飛ばすと、何故かそれは見事に塵芥状態となり、それを見て深月が生唾を飲みんで喉を鳴らすと、どうやらこれがチート級の能力という事が判明した。確かに常人でこれが出来る者は、まずいないと言っても過言ではないだろう。

 しかしそれでも年齢やら体格やら筋肉量やらで色々と話は変わるのだが、それでも高校生になろうという歳の男が手の甲で梯子を弾いただけで、飛散させるというのはにわかには信じ難い光景である。

 まあだけど元も子もない話をするのであれば、梯子が腐食していたり、劣化していたりと、そういう状態だったという可能性が無きにしも非ずということだ。
 だから……現状を纏めるのならばチート能力(仮)という感じが妥当ではないだろうか。

 けれど今はそんなことを思案するよりも先にやるべきことがあり、

「すまない! 破壊する気はなかった!」

 教会の私物であろう梯子を破壊したことを先に謝らなければならないのだ。
 それは人として基本的なことで他人の私物を破壊または、破損させた場合は速やかに謝罪の意思を見せるのが正解だ。

 仮に怒られるのが嫌で黙っていても何れは特定されて、その場で白状するよりも重い罰が与えられるということは充分にありえるのだ。

 俺はそれを身を持って知っている。何故なら深月から借りたラノベに某炭酸飲料をぶっかけて隠し続けていた経験があるからだ。
 まあその話についてはまた後日、暇な時に語るとして今は彼女からの反応を待つばかりである。

「あ、いえ……大丈夫ですのでお気になさらず。それよりもお怪我はしていませんか?」

 すると修道服を着た女性は何処か呆然とした声色ではあるが、逆に俺の体を気遣うような言葉を口にすると突然右手を強く握り締めてきて、そのままじっくりと手の甲を観察するように見られた。

 恐らく梯子を弾いた際に怪我をしたのではと思われているのかも知れないが、特段頑丈な体ゆえに傷とかは一切ないのだ。寧ろ何ともないと言っても過言ではない。
 本当にこんな恵まれた体で産んでくれた母さんには感謝しかないな。

「あ、ああ問題ない。取り敢えず立てるか?」

 返事をしつつ視線を合わせると咄嗟の出来事で考える暇もなく女性を抱き抱えた訳だが、改めて思うとこの状況は童貞思春期男子には些か辛い感情がじわじわと込み上げてくる。
 そう、これは端的に言うのであれば恥ずかしいという感情であろう。

「じーーーーっ」

 さらに隣からは深月が冷ややかな視線を送り続けていて、擬音を口にしながら徐々に圧力を掛けてきているぐらいだ。

「あっ! す、すみません! いつまでも身を委ねてしまい……」

 恥ずかしそうに頬を赤く染めると彼女は両手を自らの口元に添えた後そのまま地面に両足を付けて立ち上がった。

「よし、どこも異常はなさそうだな。よかったよかった」

 女性が立ち上がる様子を見ながら何処も負傷していないことを確認して頷くと、そのあと俺も腰を上げるが隣からは依然として冷たい視線を感じてならない。

「鼻の下が伸びてるぞ雄飛」

 目を細めながら低い声色で深月が話し掛けてくると、何故か若干不機嫌そうな雰囲気を醸し出していた。しかし相方が不機嫌そうな理由は恐らく、俺だけが女性と密着していて羨ましいからであろう。やはり女体化していても根は思春期男子ということだ。

 だけど今はそんなことを冷静に分析している場合ではないとして、

「なっ!? 伸ばしてねーよ! 初対面の女性の前で何て事を言うんだ!」

 身振り手振りを使いながら慌てて深月の言葉に誤りがあるとして文句を言い放つ。
 ここで何も言い返さなければ相方の言葉を認めることとなり、今後助けた女性からは痴漢を見るような瞳を向けられること間違いないのだ。

 だがそうなると流石の俺でも心に傷を負うことは必須であろう。ちなみに言うと心はガラス細工のように繊細に出来ているが故に、普通に罵倒されたり強めの口調で怒られると直ぐに砕け散るぞ。こう見えても俺は繊細な男なのだ。まさに割れ物注意という感じだな。

「ふぅーん」

 そして深月は両手を後頭部辺りで組んで視線を逸らすと、舌を出してまるで小学生がやるような仕草を見せていた。
 まったく、あれは不可抗力のようなもので他愛があった訳ではないというのに。

「ふふっ、仲が良いのですね」

 すると俺たちの様子をしっかりと見ていたらしく女性が微笑みながら言葉を口にする。
 しかしその言葉を聞いて俺の頭の中には恐らく、彼女が次に発する言葉が何となく予想が出来てしまう。そう、それはずばり――――

「お二人は恋仲なんですか? この教会は式も行えますので、その際は是非お願い致します!」

 視線を俺と深月に交互に向けて女性は式という言葉と共に、その際はという意味深な事を言い残すと、やはりそれは予想通りで要らない気遣いをされただけであり、俺達は呆然とその場で立ち尽くす他なかった。
 
 ――それから数秒が経過すると、

「ち、違いますよ! 僕たちはそんな関係じゃありません!」

 深月の意識が再起動したようで顔を真っ赤にさせて否定の言葉を口にした。
 その際に手が見たこともない動きをしていて、否定することに全力であることが伺える。

「あらあら、ふふっ」

 しかし彼女は相方の言葉を照れ隠しか何かと勘違いしているようで聖母のように微笑んでいるだけであった。どうやら深月の行動は自らの体を沼に落としているようなものであり、否定を繰り返すほどに深く沈んでいくようである。
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