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8話「女体化とは願望である」

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 魔女から何かしらの攻撃を受けたあと深月が地面へと倒れこむと、生死の確認をするべく心音を聞き取ろうとして胸に耳を近づけた。

 するとその際に少女の声が聞こえてくると、慌てて視線を声の聞こえる方へと向けたのだが、なんとそこには相方の服を着た少女が睨みを利かせていたのだ。

 彼女のその容姿はまるでアニメキャラのコスプレのようで、銀色の長髪に冷たく凍えそうな印象を強く放つ赤い瞳。けれど顔には何処かあどけなさが残り、冷たい瞳の印象を和らげているようだ。しかし身長は深月と同じようで大きくはなく、さきに伝えた通りに幼児体型ということだ。
 
 これがもし仮に高身長で顔も大人顔であれば、きっと美人で数々の男を椅子にして座るようなドSな女性となること間違いないだろう。

 そう、俺の勘ではこの少女は大人になれば嗜虐性を嗜む美女となり男を弄ぶタイプの魔性の女になると告げているのだ。

 ……だが本当にこの少女は一体何者なのだろうか?
 当の本人でもある深月は何処へ消えたというのだろうか。
 取り敢えず目の少女に話し掛けなければならないだろう。でないと何も進まない気がする。

「だ、誰ですか?」
「はぁ? なにをいきなり意味不明なこと言ってるんだよ」

 呆れた様子で銀髪少女が首を傾げると、そのあと体を起こして立ち上がる。
 しかし少女が目の前で立ち上がるとそれは日本人離れした容姿故にか視線が惹きつけられてしまい、

「なんだよ? そんな馬鹿みたいに口を開けて見るなって」

 暫く眺めていると彼女から小言を言われてしまい咄嗟に視線を逸らした。

「まったく、それよりもさっきの魔女は一体なんだったんだ? 別に体に害はなさそうだが……」

 頭を乱暴に掻きながら愚痴らしきものを少女が呟くと、そこで俺は気になる言葉を耳にして思考が一気に動き出した。それは彼女が”魔女”という言葉と”体に害はなさそう”だという二つの言葉だ。

 つまりその二つの言葉を結びつけると、魔女から攻撃されたという意味合いが予想できるだろう。そしてその光景を見ていたのは深月と俺だけだ。

 故にそこから導き出される答えとしては――――な、なにぃ!?
 まさかこのアニメキャラのような少女が深月だとでも言うのか!?

「お、おま、お前! その姿どうしたんだよ!」

 その事実に気が付くと口が思うように動かないが、なんとか相方だと思われる少女に声を掛けた。

「うわっ!? び、びっくりしたぁ……。急に大声だすなよ!」

 しかし少女は声量に驚いたらしく体を大きく跳ねさせて反応していた。
 さながらウサギを彷彿とさせるような動きである。

「てか本当にさっきからどうした? まるで信じられないようなものでも見たような顔しちゃってさ」

 どうやら少女は未だに自分の身に何が起きているのか自覚していない様子である。

「今まさに信じられないものを見てるんだよ! お前一回自分の体をよく見てみろ! 確実にさっきの魔女にやられてるぞ!」

 もはや色々と面倒に思えてくると俺の中でこの少女は深月だと認識して、強めの口調を使いながら人差し指を頭の先から足先まで向けて確認するように促した。
 だがその言い方が気に食わないのか深月は途端に表情を歪ませると
 
「ッだーかーらー! 本当に何をさっきから言っているんだ! 別に異常なんて何処に――――えっ?」

 声を荒げて反論してくるが両手を自身の胸元へと当てると何かを言うとしたところで動きと口が完全に停止した。
 それから執拗に自身の胸を念入りに揉み始めると段々と深月は体を小刻みに震わせて、

「な、なな、なんじゃこりゃぁぁあ!? 僕の体が女になっとるぅぅう!」

 声帯が壊れるのではと思われるほどの悲痛な叫びが周囲に木霊していた。
 けれどそれだけでは留まらず相方は矢継ぎ早に、

「はっ! 今気がついたけど声もおかしいじゃないか! なんだこの幼なげな声は!?」

 という風に本当に今更なことを言うと両手で頭を抱えて項垂れていた。

「幼いのは声だけじゃないぞ。見た目も充分に幼いからな!」

 その阿鼻叫喚な姿を目の当たりにすると、不思議と冷静な気分になれて肩に手を乗せながら補足も伝えた。

「うるさいわ! こっちはどんな見た目なのかすらも分からないんだよ!」

 そう言いながら肩に乗せた手を払い除けると深月は自分の体が女にされたことに困惑と混乱を同時に引き起こしている様子だ。しかし気持ちは分からなくもない。誰だって性別を変えられたら不安になるものだ。まあ実際に変えられたことないから詳しい事は分からないが。

「ま、まあ落ち着けよ。案外見た目だけかも知れないぞ? ほら、胸とかも個人によりけりだが、男でもBぐらいの人は居るしさ。それにお前はまだ男子たる象徴を確認していないじゃないか」

 一先ず深月を落ち着かせることを優先とすると、これ以上は無闇矢鱈に不安を与えないように慎重な言動が必要となるだろう。

「そ、そうだよね! まだ僕には確認していない部分がある!」

 それを聞いて相方は少女の顔で視線を合わせてくると、まるでボクっ娘銀髪少女という属性盛り沢山のアニメキャラを見ているようで不思議と癒しの感覚を受けた。

 どうやら俺は意外とオタク寄りの性格をしているようだ。
 まさか深月を見て自覚させられるとは思わなんだが。

 それから相方が男の象徴を確認する為に近くの草木が生い茂る森へと姿を暗ませた。
 ……そして深月が森に入り込んで一分ほどが経過すると、

「いぃぃやぁぁああ!」

 幼い少女の悲鳴が再び周辺に木霊すると同時に森から鳥が数羽ほど逃げていく光景が見受けられた。

 だが悲鳴が聞こえるということは深月の身に何かしら起きたということは明白であり、急いで事態を確認するべく森の中へと向かう。

 けれど不思議なことに相方が叫んだ理由がなんとなく分かるのだ。
 というより大体の予想は出来ていて、あとはなるべく傷つけないように優しく話し掛けることが重要だろう。

 そう思いながら草木を掻き分けて深月の元へとたどり着くと、視線の先には十八禁間違いなしの光景が無修正で映り込んできた。

 そう、幼い少女が服を捲くり上げて涙目で狼狽えているという場面である。
 これは下手したら警察に捕まるぐらいの事案だろう。

「ゆ、雄飛ぉ……。ぐすんっ……これを見てくれよぉ……」

 そして深月が俺の存在に気が付くと喉を震わせて弱々しい声で曝け出した腹部を見せてきた。

 すると相方の腹には創世神アステラの紋章がしっかりと刻まれているのだが、それが位置的な問題なのか性別の問題なのかは分からないが、腹部に刻まれている紋章は今や淫呪のように見えて仕方がない。心なしか妙な色気すらも感じられるほどだ。

「あ、ああ何かあれだな。凄くエッチに見えるな……」

 もはや隠しようがないとして視線を合わせずに答えた。

「だ、だよなぁ! こんなの恥ずかしくて、もう人前で服が脱げないじゃないか!」
「いやまあ……よっぽど人前で裸体を晒すことなんて無いんだから大丈夫じゃないか?」

 目の前で深月が半泣き状態で喚いているが心を落ち着かせる為に優しく宥めるように声を掛ける。

「そ、そうだな……。ちょっとばかし取り乱していたみたいだ……」

 鼻を啜りながら相方が泣き止むと、それはちょっとばかしとかではなく大分取り乱していたの間違いではないだろうか。これで本当にちょっとであるならば、本気の場合はどうなるというのだ。

「だけど最悪なのはこれだけじゃないんだ! いいか? 聞いて驚くなよ」

 捲くり上げていた服を下ろすと矢継ぎ早に深月が興奮冷めやらぬ顔を近づけてくるが、それと同時に僅かに風が吹くと女子特有の良い匂いが鼻腔を突き抜けていく。

 するとその匂いが何とも心地良いものだと思えてしまい、自分は親友に対してなんという罪深い気持ちを抱いてしまったのかと罪悪感に苛まれた。
 
「雄飛に言われてしっかりと確認してみたんだが……そのあれだ! 男の象徴たるあれが綺麗さっぱり消えて平らな草原が……」

 頬を赤く染め上げて恥ずかしそうに自身が完全なる女性であることを相方は言うが、そんなのは今の姿を見れば一目瞭然なのだが敢えてここは場の空気に合わせるべきであろう。

「そ、そうか……くっ! あの魔女めッ!」

 握り拳を震わせながら魔女を憎悪の対象として深月の気持ちに寄り添うことにした。

 だが今更ながらに思うのだが銀髪赤目で幼児体型というのは、たしか相方の好きな二次元キャラの容姿と似ている気がするのだ。スマホの壁紙ですら今の深月の容姿と瓜二つのキャラだったしな。

 ――それから相方が落ち着きを取り戻す為に暫く休むことを提案してくると、ちょうど近くに池があることに気が付いて、深月が自分の姿を確認するべく池の水に顔を反射させていた。

 すると俺の見て通りに今の相方の姿は大好きなキャラに似ているらしく、沈んでいた気分が一気に向上すると、そのままの気分を維持した状態で街へと向かうべく歩き始めていた。

 ちなみに歩き始めて直ぐに深月は浮かれたように言葉を呟いていたのだが、まるで完成度の高いコスプレをしているようで気分は悪くないと、寧ろアゲアゲ状態のようであった。

 そうして他愛もない雑談を交えながら街へと向かうべく道なりに歩いていると、やがて俺達の前には分厚い壁に覆われた街が姿を現した。それはまるで某巨人漫画に出てくるような壁に似ているのだが、こういう時代ではこれが普通なのだろうか。
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