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6話「食糧難の魔女」
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深月が無駄に女子力の高いことを発揮させると、俺としては疑問が募るばかりではあるが今は一旦置いておくことにしよう。そう、考えた方次第ではそれは一種の個性であり、否定する気は毛頭ないのだ。……ただ少しだけ呆気に取られただけで。
「あ、あの本当に食べてもいいんですか? その……アメダマとやらを?」
すると時を見計らうようにして魔女が深月から渡された飴玉を手のひらに乗せて話し掛けてくると、これは本当に食べてもいいものかと確認するように声を掛けてきた。
別に蚊帳の外状態にするつもりはなかったのだが、少しばかり意識が相方へと傾き過ぎていたようだ。それと魔女とは見かけによらず案外と用心深い者のようである。
まあそもそも話をすれば魔女なんて初めて見たから何とも言えないというのが正直な部分だが。
「ええ、もちろんです。どうぞ食べてください。毒などは入れてないので大丈夫ですよ」
深月は爽やか系の男を演じようとしているのか声に精一杯の透明感を持たせて言うと、それは恐らく相手の女性に不快感を抱かせない為にしたのだろう。こう見えても深月は中一の頃から同年代の女子たちに喋り方が独特と言われて避けられていた事があるのだ。
「あっ、毒程度なら大丈夫ですので心配無用です! なんせ私は魔女ですから!」
しかしそんな事を頭の片隅で考えていると彼女は満面の笑みで毒程度という中々に印象に残る言葉を返していたが、一体この異世界では魔女というだけでどれほどのステータスになるというのだろうか。
「えっあっ、そうなの?」
当然ならが深月も困惑した様子で反応しているが、そこに先程までの爽やか声は一切無かった。
「ええ、そうなのです! ではさっそく頂きますっ!」
包装を解いて飴玉という異界のお菓子を目の当たりにすると魔女は特に尻込みする様子を見せることなく、寧ろ涎を口の端から滝のように流していて辛抱たまらないという感じで口の中へと投げ入れていた。
「あっ、ちなみに舌で転がしながら唾液で溶かす感じで食べるといいですよ」
そして深月が人差し指を立たせて飴玉の食べ方を教えると、どうやら相方の食べ方はゆっくりと時間を掛けて溶かす派のようである。だが俺としては時間を掛けて食べるのは性に合わない事から、即行で噛み砕いて終わらせる派だ。おかげで顎の筋力と歯の強度が増した気がするぜ。
「ふぁ、ふぁい! わひゃりまひた!」
もごもごと口の中で飴玉を転がしながら彼女は返事をすると、これは大人の女性に向けて言うのは些か煽りになるのかも知れないが、まるでリスが木の実を食べているようで普通に癒される。
というよりかは大人の女性が美味しそうに飴玉を食べていること自体があまり見られない貴重な光景なのかも知れない。これも異世界ならではの出来事なのだろうな。
「ん”ん”ん”ん”っ”~!」
それから暫くして飴玉が口内で溶かされて味が確認出来たのか、魔女が顔全体で幸せそうな表情を見せてくると次の瞬間には――――
「お”い”ひ”ぃ”ぃ”っ”ーー!」
という言葉を周囲に木霊させると共に俺の耳は何も聞こえなくなった。
より詳しく言うのであれば耳の奥でピーッという耳鳴りが大音量で鳴り続けている感じだ。
これは普通に騒音という概念を容易く越えているし、そもそも鼓膜が破れたのではと思えるほど。
しかしそれは相方の方も同様のようで深月が一番彼女の近くに居たことから、俺よりも被害が甚大だということは目に見えて想像できる。現に今様に相方は目を開けたまま全身を膠着させて微動にしていないのだ。もしかしたら心臓が停止している可能性すらも……。
「な、なな、なんですかぁ! この飴玉というお菓子はぁ! 私こんな美味しいお菓子初めて食べましたよ!」
一瞬にして飴玉を食べ終えたようで瞳を輝かせながら言葉を口にする魔女。
だが一体なにを興奮気味に話しているのかいまいち理解できない。
「え、ええなんて?」
なぜなら俺の耳は未だに耳鳴りが鳴り止まないからだ。
そう、何処の魔女が甲高い声を撒き散らしたせいで。
「最初に口に入れた時は食べられるのなら何でもいいや感覚でしたが、言われた通りに舌で転がして唾液で徐々に溶かしていくと、飴玉とやらからオレンジ特有の爽やかな香りや酸味と甘みが一気に溢れ出して……ああ、これはまるで果実の美味しい部分だけを凝縮させた夢のようなお菓子ですね!」
なにやら神に祈りを捧げるように両手を胸の前で合わせて、つらつらと彼女は言葉を述べていく。それはさながら修道女のようであるが、彼女は魔女であることから真反対の存在であろう。
だが漸くそこで周囲の微かに聞こえるようになり聴力が戻りつつあると――――
やがて耳から全ての騒音が完全に消え去ると共に、
「えっはっ? あ、ああ何だ味の感想か」
軽く自身の耳を手で叩きながら彼女が飴玉の感想を述べていたことに気がついた。
「おい、よかったな深月。魔女さんは喜んでくれたみたいだぞ」
そして矢継ぎ早に全身を未だに膠着させている相方へと近づいて肩に手を乗せる。
「……はっ! ここはどこ? 僕はだれ? ここは異世界なのか!?」
そうすると途端に深月の意識が現世へと降臨したようで、周囲に顔を忙しなく向けては混乱している様子であった。
「大丈夫か? ここは異世界だぞ」
「あ、雄飛。そ、そうか……僕は意識が何処かに飛んでいたのか……」
俺の顔を視界に収めると混乱は終わりを迎えたようで、それと同時に深月は自分の身に生じていたことを思い出したのか静かに耳を触っていた。だがその気持ちは痛いほど分かる。
本当に耳が消えたか鼓膜が損傷したかのどちらかを疑うほどなのだ。
「まあ自覚があるということは大丈夫そうだな。んじゃ魔女さん、俺達は街に用事があるからこれで」
取り敢えず相方の安否が確認出来たことで胸を撫で下ろすと、この異世界に来て早々に人助けを行えた事から幸先はいいだろうとして、深月の肩を掴んだまま街へと向かうべく足を進めようとする。
「あっ待って! 親切な旅人さんたち!」
だがしかしまだ何か要件があるのか魔女は旅人という言葉を使いながら呼び止めてきた。
確かに冷静な思考で考えれば飴玉という未知のお菓子や、学生服という見慣れない衣類を身につけているとして、何処か遠くから来た旅人だという結論にたどり着くことは必須であろう。
「えーっと、まだ何か?」
このまま無視して先に進むことも考えるが、一度関わりがある以上そうすると後味が悪いとして振り返りながら反応した。
けれどこれは唐突な言い分ではあるが俺としてはこれ以上、魔女と深く関わりたくないというのが正直な所でもある。
理由としては単純なもので、この女性からは何やら不穏な空気が伝わるのだ。
それはあくまでも直感的なもので確たる証拠はないのだが……やはり魔女というだけで疑わしく思えて仕方ない。
それに首飾りからも禍々しい何かが滲み出ているような気がするのだ。
具体的な説明は難しいのだが、赤黒い影のようなものが宝石の周りに立ち込めている感じだ。
しかもそれら全ての不信感は何も突然抱いた訳ではなく、彼女が飴玉を食して空腹を沈めた直後に感じられたものである。
だからこそ形容しがたい不安が込み上げてくると共に、俺達を呼び止めてどうする気なのかと疑問が浮上するのだ。
それとこの異様な空気感に深月は気が付いていないようで、魔女を見ながら首を傾げている状態だ。つまり今ここで事情を説明しても理解はしてもらえなさそうである。
……まあこれら全てが俺の思い過しであればそれでいいのだが。
「あ、あの本当に食べてもいいんですか? その……アメダマとやらを?」
すると時を見計らうようにして魔女が深月から渡された飴玉を手のひらに乗せて話し掛けてくると、これは本当に食べてもいいものかと確認するように声を掛けてきた。
別に蚊帳の外状態にするつもりはなかったのだが、少しばかり意識が相方へと傾き過ぎていたようだ。それと魔女とは見かけによらず案外と用心深い者のようである。
まあそもそも話をすれば魔女なんて初めて見たから何とも言えないというのが正直な部分だが。
「ええ、もちろんです。どうぞ食べてください。毒などは入れてないので大丈夫ですよ」
深月は爽やか系の男を演じようとしているのか声に精一杯の透明感を持たせて言うと、それは恐らく相手の女性に不快感を抱かせない為にしたのだろう。こう見えても深月は中一の頃から同年代の女子たちに喋り方が独特と言われて避けられていた事があるのだ。
「あっ、毒程度なら大丈夫ですので心配無用です! なんせ私は魔女ですから!」
しかしそんな事を頭の片隅で考えていると彼女は満面の笑みで毒程度という中々に印象に残る言葉を返していたが、一体この異世界では魔女というだけでどれほどのステータスになるというのだろうか。
「えっあっ、そうなの?」
当然ならが深月も困惑した様子で反応しているが、そこに先程までの爽やか声は一切無かった。
「ええ、そうなのです! ではさっそく頂きますっ!」
包装を解いて飴玉という異界のお菓子を目の当たりにすると魔女は特に尻込みする様子を見せることなく、寧ろ涎を口の端から滝のように流していて辛抱たまらないという感じで口の中へと投げ入れていた。
「あっ、ちなみに舌で転がしながら唾液で溶かす感じで食べるといいですよ」
そして深月が人差し指を立たせて飴玉の食べ方を教えると、どうやら相方の食べ方はゆっくりと時間を掛けて溶かす派のようである。だが俺としては時間を掛けて食べるのは性に合わない事から、即行で噛み砕いて終わらせる派だ。おかげで顎の筋力と歯の強度が増した気がするぜ。
「ふぁ、ふぁい! わひゃりまひた!」
もごもごと口の中で飴玉を転がしながら彼女は返事をすると、これは大人の女性に向けて言うのは些か煽りになるのかも知れないが、まるでリスが木の実を食べているようで普通に癒される。
というよりかは大人の女性が美味しそうに飴玉を食べていること自体があまり見られない貴重な光景なのかも知れない。これも異世界ならではの出来事なのだろうな。
「ん”ん”ん”ん”っ”~!」
それから暫くして飴玉が口内で溶かされて味が確認出来たのか、魔女が顔全体で幸せそうな表情を見せてくると次の瞬間には――――
「お”い”ひ”ぃ”ぃ”っ”ーー!」
という言葉を周囲に木霊させると共に俺の耳は何も聞こえなくなった。
より詳しく言うのであれば耳の奥でピーッという耳鳴りが大音量で鳴り続けている感じだ。
これは普通に騒音という概念を容易く越えているし、そもそも鼓膜が破れたのではと思えるほど。
しかしそれは相方の方も同様のようで深月が一番彼女の近くに居たことから、俺よりも被害が甚大だということは目に見えて想像できる。現に今様に相方は目を開けたまま全身を膠着させて微動にしていないのだ。もしかしたら心臓が停止している可能性すらも……。
「な、なな、なんですかぁ! この飴玉というお菓子はぁ! 私こんな美味しいお菓子初めて食べましたよ!」
一瞬にして飴玉を食べ終えたようで瞳を輝かせながら言葉を口にする魔女。
だが一体なにを興奮気味に話しているのかいまいち理解できない。
「え、ええなんて?」
なぜなら俺の耳は未だに耳鳴りが鳴り止まないからだ。
そう、何処の魔女が甲高い声を撒き散らしたせいで。
「最初に口に入れた時は食べられるのなら何でもいいや感覚でしたが、言われた通りに舌で転がして唾液で徐々に溶かしていくと、飴玉とやらからオレンジ特有の爽やかな香りや酸味と甘みが一気に溢れ出して……ああ、これはまるで果実の美味しい部分だけを凝縮させた夢のようなお菓子ですね!」
なにやら神に祈りを捧げるように両手を胸の前で合わせて、つらつらと彼女は言葉を述べていく。それはさながら修道女のようであるが、彼女は魔女であることから真反対の存在であろう。
だが漸くそこで周囲の微かに聞こえるようになり聴力が戻りつつあると――――
やがて耳から全ての騒音が完全に消え去ると共に、
「えっはっ? あ、ああ何だ味の感想か」
軽く自身の耳を手で叩きながら彼女が飴玉の感想を述べていたことに気がついた。
「おい、よかったな深月。魔女さんは喜んでくれたみたいだぞ」
そして矢継ぎ早に全身を未だに膠着させている相方へと近づいて肩に手を乗せる。
「……はっ! ここはどこ? 僕はだれ? ここは異世界なのか!?」
そうすると途端に深月の意識が現世へと降臨したようで、周囲に顔を忙しなく向けては混乱している様子であった。
「大丈夫か? ここは異世界だぞ」
「あ、雄飛。そ、そうか……僕は意識が何処かに飛んでいたのか……」
俺の顔を視界に収めると混乱は終わりを迎えたようで、それと同時に深月は自分の身に生じていたことを思い出したのか静かに耳を触っていた。だがその気持ちは痛いほど分かる。
本当に耳が消えたか鼓膜が損傷したかのどちらかを疑うほどなのだ。
「まあ自覚があるということは大丈夫そうだな。んじゃ魔女さん、俺達は街に用事があるからこれで」
取り敢えず相方の安否が確認出来たことで胸を撫で下ろすと、この異世界に来て早々に人助けを行えた事から幸先はいいだろうとして、深月の肩を掴んだまま街へと向かうべく足を進めようとする。
「あっ待って! 親切な旅人さんたち!」
だがしかしまだ何か要件があるのか魔女は旅人という言葉を使いながら呼び止めてきた。
確かに冷静な思考で考えれば飴玉という未知のお菓子や、学生服という見慣れない衣類を身につけているとして、何処か遠くから来た旅人だという結論にたどり着くことは必須であろう。
「えーっと、まだ何か?」
このまま無視して先に進むことも考えるが、一度関わりがある以上そうすると後味が悪いとして振り返りながら反応した。
けれどこれは唐突な言い分ではあるが俺としてはこれ以上、魔女と深く関わりたくないというのが正直な所でもある。
理由としては単純なもので、この女性からは何やら不穏な空気が伝わるのだ。
それはあくまでも直感的なもので確たる証拠はないのだが……やはり魔女というだけで疑わしく思えて仕方ない。
それに首飾りからも禍々しい何かが滲み出ているような気がするのだ。
具体的な説明は難しいのだが、赤黒い影のようなものが宝石の周りに立ち込めている感じだ。
しかもそれら全ての不信感は何も突然抱いた訳ではなく、彼女が飴玉を食して空腹を沈めた直後に感じられたものである。
だからこそ形容しがたい不安が込み上げてくると共に、俺達を呼び止めてどうする気なのかと疑問が浮上するのだ。
それとこの異様な空気感に深月は気が付いていないようで、魔女を見ながら首を傾げている状態だ。つまり今ここで事情を説明しても理解はしてもらえなさそうである。
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