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第二章

12話「物件探しは過酷ーー後編ーー」

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 謎の老人の影を見たあと俺は急いで皆の後を追いかけると、次にパトリシアが選んだ物件へと到着した。
 この物件は先程の二つと違って、割かし街の方に近い位置に建てられている。

 俺は建物が建っている方へと顔を向けて。
「おぉ、今日最後の物件は今まで見てきた、どの家よりも全体的に真面そうだな!」
「ええ、そうでしょう! なんて言ったて私が選んだ家ですわよ!」
 思っている事を言うと、それに便乗してパトリシアがドヤ顔を俺に見せてきた。

 その物件は屋敷タイプで二階は無く、一階だけの作りをしている。
 特徴的な部分があるとするなら横に少し幅が大きいという所だろうか。
 一階が無い代わりに建物を横に広げる事で、大きさや部屋数をカバーしているように見える。

 まぁだったら、最初から二階作ればいいじゃん。と思うかも知れないが、何か二階が作れない理由があったのかも知れない。
 あくまでも俺の憶測だから真意は分からん。

「だがまぁ……」

 ざっと辺りを見渡した感じ、庭もそれほど荒れている様子もなく。
 普通の庭が広がっているという印象だ。ま、流石に雑草とかは生えているがな。

 と、そこへヴィクトリアとユリアが。
「ちょっとユウキ! その言い方だと私があの物件を選んだ理由が、自分に似ている彫刻が目当てのナルシスト女に聞こえるのですが!」
「そうだぞ! オレだってただの拷問好きの痛い少女になってしまうぞ!」
「逆に違うのか……?」

 何故かこの二人は勝手にさっきの物件達を選んだ理由を説明しだしたようだが、あれだけのリアクションされてしまうと誰でも分かる気がする。
 特にヴィクトリア何て「うっ……」って唸っていたし。
 
「さあさあ! 話していないで家の中を見に行くぞ!」
 俺達の不毛な会話にスージーさんが横から手を叩きながら入ってくると、俺達はそのまま連れられて家の中を内見しにいく。






「おぉぉ……。こ、これは!?」
 スージーさんに案内されるがままに家の中へと入ると、俺達は最初にリビングを見に来たのだが……どうしたことだろう。
 
 今まで見てきた物件は、大理石の机やオーダーメイドっぽい家具たちのオンパレードで如何にも金持ちが住んでいますってイメージが強かったのだが、今回の物件をはまったくそんな事を感じさせず、寧ろ素朴なイメージが強い。

 まずリビングに置かれている机や椅子、それらは全部木製で作られていて部屋に入ってきた人達に落ち着いた印象を与えてくれる。
 
「そうそう、こういう普通のイメージが良いんだよ。家って言うのはな」

 如何にも金持ちが持っていそうな高い家具が部屋に置かれているのは、俺的に妙に落ち着かない所があるのだ。
 そもそも俺は、たまたま大金手に入れてだけのなんちゃって金持ちだしな。
 やはり身の丈に合った物が望ましいと思うのだ。

「えーーっ。ちょっと普通過ぎません? 私なら椅子と机を金色に変えますよ。そうすれば金運アップ間違いないですし!」
「うむ。ヴィクトリアの意見に賛成だ。と言っても金色はやり過ぎだがな。やはりここは、赤黒塗って血のイメージを……!」
 
 ヴィクトリアとユリアは俺の言葉に反応すると家具を見てそんな事を言い始めたが、そもそもまだこの物件を買うかどうも決めてないという事を思い出して欲しい。
 
「私の選んだ家をユウキが気に入って下さるなんて意外でしたの」
 パトリシアは静かに横から近付いて来て言うと、俺はヴィクトリア達から視線を外してパトリシアに向ける。
「まぁな。しかしそれを言うなら俺もパトリシアが普通の家を選ぶとは思わなかったぞ」

 俺はてっきり、もっと上級貴族が住んでいそうな超ドデカイ屋敷とかをイメージしていたのだが……ふむ。
 やはり俺の思っていた通りパトリシアは常識人枠で間違いなかった。
 例え、紅茶狂いで剣好きのオタクで腹筋が割れている女聖騎士だとしてもだ!
 
「……何か今、物凄く失礼な事を考えませんでした?」
「いや? 気のせいじゃないか?」
 パトリシアは腰を屈めると俺の顔を疑うように見てくるが、俺は何食わぬ顔をしてやり過ごす。

 あ、危ねぇ……。
 一瞬脳内を読まれたかと思ったが、そんな便利そうなスキル流石にこの異世界でも無いだろう。
 てか在ってくれるなよマジで! 頼むから!

「あ、そうだそうだ! この物件が最後だから、時間を気にせずにゆっくりと見ていってくれて構わないぞ」
「「「分かりましたっ!!!」」」
 スージーさんから自由見学の許可が出されると、早速俺達は家の中をくまなく見る為に行動を開始した。

 リビングの次に確認しておきたい場所それは……もちろん寝室である。
 前にも言ったが、やはりフッカフカの素材かどうかが決め手になってくると言っても過言ではなだろう。

 俺は寝室の前に着くと、手を扉に掛けてゆっくりと開ける。
「おぉぉ!! こ、これは……見るからにスポンジケーキのように柔らかそうなベッドではないか!?」
「凄いですよユウキ! 手で押さえても柔軟な反発力が返ってきます!」

 ヴィクトリアもベッドを見ると一目散に駆け寄り、右手でベッドをへこませては柔軟性を確かめているようだ。
 このベッドの大きさは相変わらずダブルベッドだが、一人で使っても何ら問題はなさそうだ。
 と言うか何で屋敷タイプは全部ダブルベッドが基本なんだろうな?

「寝室も良いのですが……。私はやっぱり浴槽が気になりますわ!」
 パトリシアが後ろからモジモジしながら俺に言ってくると、ヴィクトリアをその場に残して俺達は浴槽の確認へと向かった。

 確かに俺も風呂は重要視したい所ではある。
 こればっかりは日本人特有のアレなのかも知れないな。
 
 と、思っていると俺達は風呂場へと到着して、浴槽がどんな感じなのかを知る為に中へと入った。
 そして俺が最初に見て思った言葉が……。
「で、でかい。四人で浸かっても余裕がありそうだぞ……これは」

 この屋敷付いている浴槽は俺の思っていた以上に大きかったのだ。
 日本の一般的な浴槽とは比べモノにならないぐらいな。
 例えるなら、銭湯の水風呂というあの微妙なスペースを少し大きくした感じに近いだろう。
 
 しかし何故だろうか。横から軽蔑的な視線が向けられている気がする。
「ユウキってたまにストレートで変態的な事を言ってくるよな? そんなにオレ達と入りたいのか?」
「…………きっとユウキは私達が入った残り湯を堪能する気ですわ」
「ちげえよ! 普通に例えとして言っただけだぞ! それに俺はパトリシアみたいに妄想豊かではない」

 パトリシアにはああ言っているが、実際に入るとなったら俺は童貞特有のビビリを発動して動けなくなるだろう。
 いやでも……入りたくないといえば嘘になるが。

 これでもあの三人はギルド内では数少ない美人枠に入っているしな。
 ちなみに情報源はエリク達からだ。

「べ、別に私はそこまで妄想していませんわ! ヴィクトリアから教えてもらった事を言っただけですの!」
「ほーう。まぁ、そういう事にしといてやろう」
「事実ですの! ……ンンッ。にしてもこの浴槽は良いですわね。私すごく気に入りましたわ!」

 露骨に話題を逸らしてきたパトリシアだが、どうやら本当にこの浴槽を気に入っているみたいだ。
 そして俺も同じく気に入っている。
 これぐらいの広さがあれば足は確実に伸ばせるし、なんなら泳ぐ事だって可能だ。
 マナー的に泳ぐのは駄目だけどな。

「なぁユウキ。オレは自作魔法をよく作るからある程度大きめな部屋とかがあると嬉しいんだが……」
「それもそうだな。よし、良い感じの部屋を探しに行くか」
 ユリアが俺の背中の裾をクイクイッと引っ張って言うと、その場にパトリシアを残して部屋を探しに向かった。

 しばらく徘徊していると、俺達の前には書庫と書かれた木製のプレートが貼られている扉の前にたどり着いた。

「あー。どうする? 入るか?」
「当たり前だろう! だって書庫だぞ書庫! もしかしたら秘蔵の魔法とかがあるかも知れないだろ!」

 ユリアなら当然その反応するよなぁ。と思うと同時に書庫と書かれているぐらいなのだから、やはりこの部屋には本が沢山あったりするのだろうか。

 俺の隣では先程からユリアがウズウズして辛抱たまらんって感じを体で表現なさっている状況なので俺達は書庫の扉を開け中へと入った。

 すると――――。

「えっ、なにこれ? 本当に書庫?」
「ふ……ふふ……ふざけるなーッ! こんなのを書庫と名乗って言い訳ないだろうがーッ!!」

 俺達が中に入って見たものは、本が一冊も入ってない棚が多数並べられている空間であった。
 確かに家具とかは持ち出すのが面倒いとかで置いていくのは分かるが、本は軽いからなぁ。
 きっとこの家を売りに出す時に残らず売ったか持っていったのだろう。

「あぁぁ!! もう!! 仕方ないなぁ、このオレがこの空の棚を魔導書やらなんやらで一杯にしてやるから覚悟しておけよ!」

 ユリアの一体何が仕方ないのか俺には分からないが、どうやらこの書庫を気に入ったようだ。
 その証拠に早速、扉に貼ってあるプレートを剥がしに……えっ!?

「はっはは! ここは書庫でなく、オレ専用の魔法開発部屋に改名したいなとなぁ! あっはは!」
「おい馬鹿やめろ! まだ購入していないんだ! 傷物にするなぁぁ!」

 俺は必死にプレートを外そうとするユリアを必死に止めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 


 そして、一通り全員が部屋という部屋を全部見終わると俺達は再びリビングへと集合した。
 全員の表情は満面の笑みで、何かを期待しているような眼差しを俺に送ってきている。

 もう言わなくても分かってんだろ? みたいな圧すら感じてしょうがない。

「それでどうだったかね? この物件は良いだろう?」
「はい! めっちゃ良かったです!」
 スージーさんは椅子に座りながら見てくると、俺は大きく頷いて返す。

 と言うか最初に見てきた物件達が、曰く付きやら事故物件やらで何とも言えないんだけどな。
 こういう普通の物件が今では希少価値にすら思えてくるから不思議だ。

「そうかそうか! それは良かったぞ! では……購入するかい?」
 スージーさんは椅子から立ち上がるとスーツの身だしなみを整え、俺はヴィクトリア達に再度確認を取るように視線を向けた。
 ヴィクトリア、パトリシア、ユリア、全員が同時に満面の笑みのまま頷くと俺の決心も固まった。

「はいっ! 是非購入させて頂きます!」
「毎度っ! ありがとうだぞ!」

 物件購入の決め手はやっぱり、仲間達の笑顔が一番大事だと思うんだ。
 それに帰る家があるというのは素晴らしい事だ。

 …………とまあ言ってみたが、実際の決め手はこの近くに新しくオープンする異種族達のエッチなお店に逸早く行けるようにと言うのが一番大きいのと、この物件だけ幽霊的な現象や暖炉の中に不自然な取っ手がないのも決め手だったな。

「わーい! 新しい拠点ゲットです! 私は日当たりのいい部屋を貰いますからねっ!」
「私はどこでも構いませんけど、剣を飾りたいのでそこそこ大きい部屋を……」
「無論オレは魔法開発部屋だぞ!」

 三人は購入と言っただけで既にその気になっているらしく、自分達の部屋を確保するなり模様替えをするなりで散り散りにリビングから出て行った。

 まだ手続きとかをしていないのだが……ま、いっか。

「それじゃあ、値段の方だけどこの物件は六百八十万パメラだ! 本当はもっと高いのだけど、また君が面白い話を聞かせてくれると信じて特別に割引にしとくぞ」
「ま、マジッすかスージーさん!! ありがとうございます! 必ず近いうちに豊作話を抱えてお店に行きますッ!」
「うむ! 期待しているぞ!」

 有難い事に値段を安くして貰えると、俺はスージーさんがバッグから取り出した書類の数々にサインを書いていき、大量のお金が入った袋も渡した。

「うぐ……ッ。意外と六百八十万は重みがあるぞ……」
 袋を受け取るとスージーさんは両手で精一杯抱えて、助けを欲しそうな視線で俺をチラチラッ見てくる。
「あのー。良かったら帰り道付き添いますよ?」
「本当か!? それは凄く助かるぞ!」

 いいように利用された気もするが、流石に袋一杯のお金を女性一人に担がせて帰らせるのはどうかと思ったので、お店まで付き添う事にした。
 
 あぁ、それにしても明日は大忙しになるような予感だ。
 荷物も運び入れないといけなし、大掃除もやらねばならないからな。


 だけど……家があるって何だが安心するな!
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