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第一章
16話「ドSの賢者」
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「とは言ったものの……やはり一人で行くべき所じゃないだろ。コボルトの洞窟なんかに」
俺は文句と言いつつも順調に洞窟内を歩いて進んでいた。
洞窟の中はコボルト達が置いたと思われる、焚き火や松明のおかげでそこまで暗くもなく奇襲を受ける事はなさそうだ。
逆に言ってしまえば、クロークのスキルが解除されたらめっちゃ危険ってことだけどな。
足元には短剣や動物の死骸が落ちていたりで、衛生面は凄く悪い。
もしこんな汚い短剣で傷を負わせられようものなら、きっと毒状態にでもなんじゃないか?
コボルト達が使う武器は要注意だな。
しっかし、先程から全然コボルト達の姿が見えないが何処に行ったのやら。
パトリシアが言っていたけど、あと半分近く残っているらしいしな。
うーむ、どうも嫌な予感がさっきからビンビンに感じるぜ。
と、俺が思いながら真っ直ぐ進んで歩いていると目の前に狭い分かれ道が現れた。
「洞窟内で分かれ道って……意外とこの洞窟は広いのか? いや、そもそも百単位で住んでいるならこれぐらいが妥当なのかも知れんな」
俺は腕を組みながら右か左、どっちの道に進もうか悩んでいる。
うーむ、もしかして片方はダミーの道で、そっちに進むとトラップがあったりするのでは!?
忘れていた、これはRPGのダンジョンで嫌というほど味わされた時間稼ぎにも等しいウザったいアレだ!
クソッ! ますますどっちに行くべきか分からねえ。
……いや待てよ? ここは大人しく直感に従うべきなのでは?
ギルドのお姉さんに言われたじゃないか、俺は”トラブル”というステータスが高くて早死すると。
つまり俺が最初に選んだ道は危険=死という訳だ。
そうかそうか……ならば答えは簡単だ。
俺が最初に進もうと思っていた右の道を行くのではなく! 左の道を進むべきだと!
「トラブルステータスを逆手に取った考え……やっぱり俺って天才だったか」
満ち満ちと溢れてくる自信を感じると、俺は左の道を優雅に進んだ。
しばらく歩いていると、ほどよい広い空間に出る事ができた。
辺りを見渡すと大量のコボルト達が居て、ここに奴らの残党が集まっていると確信もできた。
俺はこの情報を元に作戦を練ろうと思い、出口に引き返そうとすると……散らばっていたコボルト達が急に動き出し縦一列に並び始めたのだ。
「えっ何だ? あの統率のある動き方は」
俺は振り返ってコボルト達の動きを注視している。
すると、奥の方から大きな音を立てながら赤色の巨体が姿を現した。
そして小さいコボルト達が何やらピーキャー騒ぎ出すと、巨体は表情を顰めて横に置いてあったボロい大剣を握って真っ直ぐ俺の方に突っ込んできた。
「ちょちょっ! もしかしてバレてるのか!?」
俺は直ぐさま走りだして、来た道を戻っている。
な、なんでだよ……! なんであの巨体は真っ直ぐ俺の方に走ってくるんだよ!
クロークのスキルはまだ続いている筈だろ!
俺は巨体に追われながら愚痴っていると、じわじわと体から気力が抜けていくのを感じた。
ウッ……急に体が怠く……しかも何だこの気の抜けていく感覚は……。
あっ! も、もも、もしかして魔力切れというヤツかぁ!?
チクショウ! だとしたら最悪のタイミングでクロークが解除されやがった。
ついでに装甲も解除されたけどなァ!
「俺のトラブルステータスはマジでトラブルを呼びやがったァァ!」
叫びながら俺は巨体に追いつかれないように必死に走っている。
「ウゴォォォオ!!」
巨体も何を思ったかは分からないが、俺と同じく叫んでいた。
後ろからは巨体が大剣を振りかざしながら猪突猛進してくるし、俺は魔力が切れてるし。
本気でやばいな、下手したら俺はここで死ぬ事になるぞ!
あぁ……駄目だ駄目だ駄目だッ! そんな事を考えるな俺!
何とか外にさせ出れれば、仲間達が何とかしてくれるはずだ。
その為のパーティだろう!
その後はもう、無我夢中で走り続けるしか俺には出来なかった。
巨体もそれに同調するように俺を背後をしっかいと走ってくる音が聞こえる。
「も、もう少しで出口だ……! 俺はこんな事で絶対に死なねえぞぉおお!」
やっとの思いで最初の地点にまで戻って来ると、俺は心臓が張り裂けそうに痛かったのを堪えて洞窟から飛び出た。
そして俺は半泣きで仲間達に助けを求めた。
「お前らーー! すまないがデカイ土産を持ってきしまった! 今の俺にはどうする事もできないので、どうか助”け”て”欲”し”い”い”い”い!」
それだけ伝えると俺は飛び出た衝撃で地面に転がり、立ち止まったことで走っていた時の疲労が一気に体にのしかかった。
や、やべえ……体が痛いし苦しい。
何とか体を少し動かして洞窟の方を見ると、やはり巨体もそこに居た。
奴は大剣を肩に乗せてゆっくりと俺に近づいてきた。
それはまるで、もう確実に殺れると確信しているかのような素振りであった。
チッ……助けを求めた所で皆が居る茂みまでと洞窟までの距離は何気にありやがる。
これはもう……いよいよやばいヤツだな。
息を荒げながら巨体を見据えると、奴は大剣を肩から退かして真っ直ぐ俺に向かって振りかざしてきた。
「もう御終いだな……」
俺は死ぬ瞬間ぐらい漢らしく目を背けいないでいようと思い、迫り来る大剣を見ていた。
大剣は勢い良く俺の直ぐ目の前までに迫ってると。
「ウゴァァア!!」
巨体はまるで死ねとでも言っているように唸った。
だが――――。
その唸り声と同時に、後ろから違う声も聞こえてきた。
「スキル『サンダー・パニッシュ』!」
茂みの方から雷光のような物が一直線に巨体目指して飛んでいくと、奴はそれモロに受けて辺は一瞬にして眩い光に包まれた。
「アァァガガガガ!!」
巨体は光の中で何かを叫んでいるようだった。
やがて光が収まると、肉の焼けた匂いが漂ってきて俺の前に居た巨体は黒焦げとなり、その場に倒れていた。
う、嘘だろ……。もしかして俺はあの状況から助かったのか!?
あっという間の出来事に俺は開いた口が塞がらないでいた。
「いやぁ、危ないとでしたねユウキ!」
「あぁ、マジで死ぬかと思ったわ」
ヴィクトリアが横から話し掛けてくると、俺はビビって腰が抜けている状態であった。
あの巨体が雷光のような物で焼かれた後、直ぐにヴィクトリア達が駆け寄ってくれたのだ。
今は皆に囲まれながら弄られたりしている。
「にしてもユウキが泣きながら助けを求める姿は……実に面白かったですの!」
パトリシアは手で口元を多いなが笑いを堪えている様子だった。
これはヴィクトリアから聞いた話だが、もし俺が敵を連れて戻ってきたらパトリシアが対処する予定だったらしい。
にもかかわらず! コイツは俺を助けに来なかった。
それは何故か、ズバリ紅茶を飲んでいたからである。
ここで、ブラックバード戦を思い出して欲しい。
初めてパトリシアと出会った時、コイツは確かにこう言っていた「……私は紅茶を飲む時、武器を外すタイプですの」っと。
つまり……武器を腰から外していたせいで、俺の救助が遅れたという訳だ。
はぁ……。パーティメンバーの命より紅茶かよ。
これは後々何とかしないといけない案件だな。
そしてそんな俺のピンチを救ってくれたのが、今回のMVP賢者のユリアさんである!
さん付で呼ばないといけないぐらい恩があるぜ!
やっぱり俺も魔法の一つや二つ覚えないと損かも知れんな。
と、俺が考えているとユリアが黒焦げになった巨体の亡骸を見て口を開いた。
「あーあ。やっぱりこの魔法だと面白味がないなぁ」
「お、面白味……?」
俺はユリアの言い方が気になり聞き返す。
「そうだ、全然面白味がないッ! こんな簡単に逝ってしまうなんて…………ってユウキ? 腕を怪我しているじゃないか」
ユリアが地団駄を踏んでいると、急に俺の方を見てきた。
俺は言われた通り自分の腕を確認すると。
「うぉ!? マジかよ……ザックリいかれてんよ!」
結構な切り傷が腕に出来ていた。
しかもその事実に気が付くと、途端に体の具合が悪く……なってきた気がする。
俺はそのまま地面に仰向けに倒れると、ヴィクトリア達が集まってきた。
「これぐらいの傷でヤられるなんて、最弱のレンジャーさんですねっ!」
「まったく……情けないですわ。それでも男ですの?」
ヴィクトリアとパトリシアは俺を見下すように言ってきた。
よし、後でコイツら二人には言葉では言い表せようのない凄惨な目に合わせてやろう。
そう誓った俺である。
「よっしゃ、怪我ならオレの出番だな! こんなかすり傷程度、ぱぱっと治してやるから……良い声で鳴いてくれよ?」
「は……? 良い声?」
俺はユリアの言った事に少々の疑問を抱いた。
そう言えば、さっきからユリアの言動がおかしいような……?
巨体の亡骸を見ては面白味がどうのこうの言っていたし、今は良い声で鳴いてくれとか悪役のよ
うな事を言ってくるしで、もしかしてユリアってやばいヤツなのでは?
「んじゃぁ、やるぞ! スキル『ヒール・ペイン』!」
ユリアはそう言ってスキルを発動すると、緑色の淡い光を放つ杖を俺の傷口に近づけた。
まあ、なんであれ回復魔法で治してくれるなら感謝しないとな。
「すまんな。やっぱりヒーラーが居るだけでだいぶ楽に……ッ!?い”で”え”え”え”え”え”!!」
俺はユリアに感謝を伝えようとすると、今まで味わった事のないような痛みが全身を駆け巡った。
「ちょっ辞めもう! 痛い痛い痛い痛い! いだだだだだ!」
体を内側から焼かれているような痛みに耐え兼ねると、俺はもう回復魔法を辞めて欲しくて顔をユリアに向ける。
「アハハッ!! 良いぞユウキ! もっとその声で鳴き叫んでくれ! もっともっとオレを気持ちよくさせてくれェ!」
ユリアはそんな狂気のような言葉を言うと顔を赤く染めて、下半身を抑えながらモジモジしていた。
「うぎゃぁ”ぁ”あ”ァ”あ”あ”ぁ”!?」
それと同時に痛みも一際ましていき、俺はなりふりかまわず叫びまくった。
……そんな拷問のような時が数分経過すると俺の傷は綺麗に治っており、なんなら絶叫調といった具合にまで回復していた。
「ふぅー。あぁ実に満足! 久しぶりにイってしまったぞ! だが……やはりオレの目に間違いはなかった!」
ユリアは体をビクンビクンッと反応させながら何か言っていた。
そして放心状態になった俺は考えた。
何故ユリアは上位職なのにこんな新人ルーキーのパーティに来たのか。
ここに来る間に道中で話していた私語厳禁はもしかしてこれのせいだったのではないかと。
全てを悟った俺の答えは一つに収束した。
「ユリアは一番ヤベーやつ」
この言葉が全てである。
そんなヤベーやつが悶えながら俺の方を見てくると。
「ユウキ! オレはお前のその苦痛に歪む顔が気に入った! 是非これからも私とパーティを組んではくれないか!」
「いえ、お断りします」
俺は間違ってもユリアをパーティに入れる事はないだろう。
けれどユリアはその言葉を予想していたのか、口角を上げてニヤつくと。
「ハッハッハ! そう言われると思ってヒールを使っている間にちょっとした呪いも掛けておいたぞ!」
「あぁ? 呪いだ?」
俺はユリアの相手をするのも嫌になってきた。
そもそもこの世界の賢者とは呪いも使えるのか……?
てか、ユリアは本当に賢者なのだろうか。
「そうだ! この呪いは私とパーティを組まないと発動するようになっていて、一旦発動するとさっきの何十倍もの痛みが全身を襲う事になるぞ!」
「ッ……!?」
ユリアから言われた言葉に俺は凄く恐怖してしまった。
体が覚えてしまっているのだ、あの痛みを。
「すまんが少し時間をくれ」
「良いだろう! 懸命な判断をしてくれ」
俺はユリアに少し待つように頼むと、意外にも許してくれた。
ま、まあ待て。
ここはパトリシア達に本当にそんな魔法があるのか聞いてみなければ。
俺はパトリシアとヴィクトリアに手を振ってこっちに来るようにジェスチャーを送った。
「はぁ……一体なんですの? 叫びのユウキさん?」
「『うぎゃああ!?』 は凄く良い感じの悲鳴でしたよ!」
パトリシアとヴィクトリアは早々に煽ってくるが今はそんな事を気にしている暇はない。
「お前たちに聞きたい事があるんだが……」
俺はユリアに宣告された事を二人に話した。
すると二人はお互いに顔を合わしてから俺の方を見てきた。
「ええ、ありますわよ」
「確か……優れた賢者や魔法使いは独自の魔法を作れるのでユリアが言っている呪いも可能と言えば可能ですね!」
「ま、マジですか……」
パトリシアとヴィクトリアの意見が一致すると、俺は深く絶望した。
そんな俺に残された選択はこれしかなかった。
「きょ、今日からよ、よろしく頼むよ……ッ!」
「あぁ! よろしくなユウキ!」
俺は泣きながら手を差し出すとユリアは直ぐに手を握り返してきて、新しくパーティメンバーが加わる事となった。
こんな……こんなやるせない気持ちは初めてだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな事がありながら、本来の目的【コボルト退治】のクエストは幕を閉じた。
そして俺達はギルドへと帰るべく、長い道のりをゆっくりと歩いている。
「あ、言い忘れていましたが、あの巨体はコボルトキングと言ってコボルト達の長ですわ」
パトリシア急に思い出したように語り始めた。
「そうか、今更言われてもな……」
俺は適当に相槌を付いた。
「ねえねえユウキ! 気づいていましたか!」
「あぁー? 何をだよ?」
次はヴィクトリアが話し掛けてくると、俺は顔を合わせずに返事だけした。
「実はあの傷を負ってた時、ユウキの体は毒状態だったんですよ! でも言ったら小心者のユウキは思い込みだけで死にそうだったので言わなかったですけど」
「そうですわ、だからユリアには感謝する事ですのね。傷を癒すと同時に解毒までしてくれたんですから」
ヴィクトリアとパトリシアが口を揃えて言ってくると俺は少し、本の少しだけユリアに感謝の気持ちが芽生えた。
ま、まさか毒状態だったとは……。
なんか気持ち悪いなぁぐらいで思っていたんだが。
アレが毒状態って奴なんだな。
「あー、ありがとうなユリア。毒まで治してくれてよ」
俺は頬を掻きながら横を歩くユリアに感謝を伝えた。
「フッ……気にするな。サービスとでも思ってくれ」
ユリアはギザ歯を見せて笑うと不覚にも可愛いと思ってしまった。
……今回は皆のおかげで俺も助かったことだし、これぐらいは良いだろう。
「よし皆! ギルドに帰ったら報酬金でいっぱい飲んだり食ったりするぞォ!」
「「「おーう!」」」
俺は文句と言いつつも順調に洞窟内を歩いて進んでいた。
洞窟の中はコボルト達が置いたと思われる、焚き火や松明のおかげでそこまで暗くもなく奇襲を受ける事はなさそうだ。
逆に言ってしまえば、クロークのスキルが解除されたらめっちゃ危険ってことだけどな。
足元には短剣や動物の死骸が落ちていたりで、衛生面は凄く悪い。
もしこんな汚い短剣で傷を負わせられようものなら、きっと毒状態にでもなんじゃないか?
コボルト達が使う武器は要注意だな。
しっかし、先程から全然コボルト達の姿が見えないが何処に行ったのやら。
パトリシアが言っていたけど、あと半分近く残っているらしいしな。
うーむ、どうも嫌な予感がさっきからビンビンに感じるぜ。
と、俺が思いながら真っ直ぐ進んで歩いていると目の前に狭い分かれ道が現れた。
「洞窟内で分かれ道って……意外とこの洞窟は広いのか? いや、そもそも百単位で住んでいるならこれぐらいが妥当なのかも知れんな」
俺は腕を組みながら右か左、どっちの道に進もうか悩んでいる。
うーむ、もしかして片方はダミーの道で、そっちに進むとトラップがあったりするのでは!?
忘れていた、これはRPGのダンジョンで嫌というほど味わされた時間稼ぎにも等しいウザったいアレだ!
クソッ! ますますどっちに行くべきか分からねえ。
……いや待てよ? ここは大人しく直感に従うべきなのでは?
ギルドのお姉さんに言われたじゃないか、俺は”トラブル”というステータスが高くて早死すると。
つまり俺が最初に選んだ道は危険=死という訳だ。
そうかそうか……ならば答えは簡単だ。
俺が最初に進もうと思っていた右の道を行くのではなく! 左の道を進むべきだと!
「トラブルステータスを逆手に取った考え……やっぱり俺って天才だったか」
満ち満ちと溢れてくる自信を感じると、俺は左の道を優雅に進んだ。
しばらく歩いていると、ほどよい広い空間に出る事ができた。
辺りを見渡すと大量のコボルト達が居て、ここに奴らの残党が集まっていると確信もできた。
俺はこの情報を元に作戦を練ろうと思い、出口に引き返そうとすると……散らばっていたコボルト達が急に動き出し縦一列に並び始めたのだ。
「えっ何だ? あの統率のある動き方は」
俺は振り返ってコボルト達の動きを注視している。
すると、奥の方から大きな音を立てながら赤色の巨体が姿を現した。
そして小さいコボルト達が何やらピーキャー騒ぎ出すと、巨体は表情を顰めて横に置いてあったボロい大剣を握って真っ直ぐ俺の方に突っ込んできた。
「ちょちょっ! もしかしてバレてるのか!?」
俺は直ぐさま走りだして、来た道を戻っている。
な、なんでだよ……! なんであの巨体は真っ直ぐ俺の方に走ってくるんだよ!
クロークのスキルはまだ続いている筈だろ!
俺は巨体に追われながら愚痴っていると、じわじわと体から気力が抜けていくのを感じた。
ウッ……急に体が怠く……しかも何だこの気の抜けていく感覚は……。
あっ! も、もも、もしかして魔力切れというヤツかぁ!?
チクショウ! だとしたら最悪のタイミングでクロークが解除されやがった。
ついでに装甲も解除されたけどなァ!
「俺のトラブルステータスはマジでトラブルを呼びやがったァァ!」
叫びながら俺は巨体に追いつかれないように必死に走っている。
「ウゴォォォオ!!」
巨体も何を思ったかは分からないが、俺と同じく叫んでいた。
後ろからは巨体が大剣を振りかざしながら猪突猛進してくるし、俺は魔力が切れてるし。
本気でやばいな、下手したら俺はここで死ぬ事になるぞ!
あぁ……駄目だ駄目だ駄目だッ! そんな事を考えるな俺!
何とか外にさせ出れれば、仲間達が何とかしてくれるはずだ。
その為のパーティだろう!
その後はもう、無我夢中で走り続けるしか俺には出来なかった。
巨体もそれに同調するように俺を背後をしっかいと走ってくる音が聞こえる。
「も、もう少しで出口だ……! 俺はこんな事で絶対に死なねえぞぉおお!」
やっとの思いで最初の地点にまで戻って来ると、俺は心臓が張り裂けそうに痛かったのを堪えて洞窟から飛び出た。
そして俺は半泣きで仲間達に助けを求めた。
「お前らーー! すまないがデカイ土産を持ってきしまった! 今の俺にはどうする事もできないので、どうか助”け”て”欲”し”い”い”い”い!」
それだけ伝えると俺は飛び出た衝撃で地面に転がり、立ち止まったことで走っていた時の疲労が一気に体にのしかかった。
や、やべえ……体が痛いし苦しい。
何とか体を少し動かして洞窟の方を見ると、やはり巨体もそこに居た。
奴は大剣を肩に乗せてゆっくりと俺に近づいてきた。
それはまるで、もう確実に殺れると確信しているかのような素振りであった。
チッ……助けを求めた所で皆が居る茂みまでと洞窟までの距離は何気にありやがる。
これはもう……いよいよやばいヤツだな。
息を荒げながら巨体を見据えると、奴は大剣を肩から退かして真っ直ぐ俺に向かって振りかざしてきた。
「もう御終いだな……」
俺は死ぬ瞬間ぐらい漢らしく目を背けいないでいようと思い、迫り来る大剣を見ていた。
大剣は勢い良く俺の直ぐ目の前までに迫ってると。
「ウゴァァア!!」
巨体はまるで死ねとでも言っているように唸った。
だが――――。
その唸り声と同時に、後ろから違う声も聞こえてきた。
「スキル『サンダー・パニッシュ』!」
茂みの方から雷光のような物が一直線に巨体目指して飛んでいくと、奴はそれモロに受けて辺は一瞬にして眩い光に包まれた。
「アァァガガガガ!!」
巨体は光の中で何かを叫んでいるようだった。
やがて光が収まると、肉の焼けた匂いが漂ってきて俺の前に居た巨体は黒焦げとなり、その場に倒れていた。
う、嘘だろ……。もしかして俺はあの状況から助かったのか!?
あっという間の出来事に俺は開いた口が塞がらないでいた。
「いやぁ、危ないとでしたねユウキ!」
「あぁ、マジで死ぬかと思ったわ」
ヴィクトリアが横から話し掛けてくると、俺はビビって腰が抜けている状態であった。
あの巨体が雷光のような物で焼かれた後、直ぐにヴィクトリア達が駆け寄ってくれたのだ。
今は皆に囲まれながら弄られたりしている。
「にしてもユウキが泣きながら助けを求める姿は……実に面白かったですの!」
パトリシアは手で口元を多いなが笑いを堪えている様子だった。
これはヴィクトリアから聞いた話だが、もし俺が敵を連れて戻ってきたらパトリシアが対処する予定だったらしい。
にもかかわらず! コイツは俺を助けに来なかった。
それは何故か、ズバリ紅茶を飲んでいたからである。
ここで、ブラックバード戦を思い出して欲しい。
初めてパトリシアと出会った時、コイツは確かにこう言っていた「……私は紅茶を飲む時、武器を外すタイプですの」っと。
つまり……武器を腰から外していたせいで、俺の救助が遅れたという訳だ。
はぁ……。パーティメンバーの命より紅茶かよ。
これは後々何とかしないといけない案件だな。
そしてそんな俺のピンチを救ってくれたのが、今回のMVP賢者のユリアさんである!
さん付で呼ばないといけないぐらい恩があるぜ!
やっぱり俺も魔法の一つや二つ覚えないと損かも知れんな。
と、俺が考えているとユリアが黒焦げになった巨体の亡骸を見て口を開いた。
「あーあ。やっぱりこの魔法だと面白味がないなぁ」
「お、面白味……?」
俺はユリアの言い方が気になり聞き返す。
「そうだ、全然面白味がないッ! こんな簡単に逝ってしまうなんて…………ってユウキ? 腕を怪我しているじゃないか」
ユリアが地団駄を踏んでいると、急に俺の方を見てきた。
俺は言われた通り自分の腕を確認すると。
「うぉ!? マジかよ……ザックリいかれてんよ!」
結構な切り傷が腕に出来ていた。
しかもその事実に気が付くと、途端に体の具合が悪く……なってきた気がする。
俺はそのまま地面に仰向けに倒れると、ヴィクトリア達が集まってきた。
「これぐらいの傷でヤられるなんて、最弱のレンジャーさんですねっ!」
「まったく……情けないですわ。それでも男ですの?」
ヴィクトリアとパトリシアは俺を見下すように言ってきた。
よし、後でコイツら二人には言葉では言い表せようのない凄惨な目に合わせてやろう。
そう誓った俺である。
「よっしゃ、怪我ならオレの出番だな! こんなかすり傷程度、ぱぱっと治してやるから……良い声で鳴いてくれよ?」
「は……? 良い声?」
俺はユリアの言った事に少々の疑問を抱いた。
そう言えば、さっきからユリアの言動がおかしいような……?
巨体の亡骸を見ては面白味がどうのこうの言っていたし、今は良い声で鳴いてくれとか悪役のよ
うな事を言ってくるしで、もしかしてユリアってやばいヤツなのでは?
「んじゃぁ、やるぞ! スキル『ヒール・ペイン』!」
ユリアはそう言ってスキルを発動すると、緑色の淡い光を放つ杖を俺の傷口に近づけた。
まあ、なんであれ回復魔法で治してくれるなら感謝しないとな。
「すまんな。やっぱりヒーラーが居るだけでだいぶ楽に……ッ!?い”で”え”え”え”え”え”!!」
俺はユリアに感謝を伝えようとすると、今まで味わった事のないような痛みが全身を駆け巡った。
「ちょっ辞めもう! 痛い痛い痛い痛い! いだだだだだ!」
体を内側から焼かれているような痛みに耐え兼ねると、俺はもう回復魔法を辞めて欲しくて顔をユリアに向ける。
「アハハッ!! 良いぞユウキ! もっとその声で鳴き叫んでくれ! もっともっとオレを気持ちよくさせてくれェ!」
ユリアはそんな狂気のような言葉を言うと顔を赤く染めて、下半身を抑えながらモジモジしていた。
「うぎゃぁ”ぁ”あ”ァ”あ”あ”ぁ”!?」
それと同時に痛みも一際ましていき、俺はなりふりかまわず叫びまくった。
……そんな拷問のような時が数分経過すると俺の傷は綺麗に治っており、なんなら絶叫調といった具合にまで回復していた。
「ふぅー。あぁ実に満足! 久しぶりにイってしまったぞ! だが……やはりオレの目に間違いはなかった!」
ユリアは体をビクンビクンッと反応させながら何か言っていた。
そして放心状態になった俺は考えた。
何故ユリアは上位職なのにこんな新人ルーキーのパーティに来たのか。
ここに来る間に道中で話していた私語厳禁はもしかしてこれのせいだったのではないかと。
全てを悟った俺の答えは一つに収束した。
「ユリアは一番ヤベーやつ」
この言葉が全てである。
そんなヤベーやつが悶えながら俺の方を見てくると。
「ユウキ! オレはお前のその苦痛に歪む顔が気に入った! 是非これからも私とパーティを組んではくれないか!」
「いえ、お断りします」
俺は間違ってもユリアをパーティに入れる事はないだろう。
けれどユリアはその言葉を予想していたのか、口角を上げてニヤつくと。
「ハッハッハ! そう言われると思ってヒールを使っている間にちょっとした呪いも掛けておいたぞ!」
「あぁ? 呪いだ?」
俺はユリアの相手をするのも嫌になってきた。
そもそもこの世界の賢者とは呪いも使えるのか……?
てか、ユリアは本当に賢者なのだろうか。
「そうだ! この呪いは私とパーティを組まないと発動するようになっていて、一旦発動するとさっきの何十倍もの痛みが全身を襲う事になるぞ!」
「ッ……!?」
ユリアから言われた言葉に俺は凄く恐怖してしまった。
体が覚えてしまっているのだ、あの痛みを。
「すまんが少し時間をくれ」
「良いだろう! 懸命な判断をしてくれ」
俺はユリアに少し待つように頼むと、意外にも許してくれた。
ま、まあ待て。
ここはパトリシア達に本当にそんな魔法があるのか聞いてみなければ。
俺はパトリシアとヴィクトリアに手を振ってこっちに来るようにジェスチャーを送った。
「はぁ……一体なんですの? 叫びのユウキさん?」
「『うぎゃああ!?』 は凄く良い感じの悲鳴でしたよ!」
パトリシアとヴィクトリアは早々に煽ってくるが今はそんな事を気にしている暇はない。
「お前たちに聞きたい事があるんだが……」
俺はユリアに宣告された事を二人に話した。
すると二人はお互いに顔を合わしてから俺の方を見てきた。
「ええ、ありますわよ」
「確か……優れた賢者や魔法使いは独自の魔法を作れるのでユリアが言っている呪いも可能と言えば可能ですね!」
「ま、マジですか……」
パトリシアとヴィクトリアの意見が一致すると、俺は深く絶望した。
そんな俺に残された選択はこれしかなかった。
「きょ、今日からよ、よろしく頼むよ……ッ!」
「あぁ! よろしくなユウキ!」
俺は泣きながら手を差し出すとユリアは直ぐに手を握り返してきて、新しくパーティメンバーが加わる事となった。
こんな……こんなやるせない気持ちは初めてだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな事がありながら、本来の目的【コボルト退治】のクエストは幕を閉じた。
そして俺達はギルドへと帰るべく、長い道のりをゆっくりと歩いている。
「あ、言い忘れていましたが、あの巨体はコボルトキングと言ってコボルト達の長ですわ」
パトリシア急に思い出したように語り始めた。
「そうか、今更言われてもな……」
俺は適当に相槌を付いた。
「ねえねえユウキ! 気づいていましたか!」
「あぁー? 何をだよ?」
次はヴィクトリアが話し掛けてくると、俺は顔を合わせずに返事だけした。
「実はあの傷を負ってた時、ユウキの体は毒状態だったんですよ! でも言ったら小心者のユウキは思い込みだけで死にそうだったので言わなかったですけど」
「そうですわ、だからユリアには感謝する事ですのね。傷を癒すと同時に解毒までしてくれたんですから」
ヴィクトリアとパトリシアが口を揃えて言ってくると俺は少し、本の少しだけユリアに感謝の気持ちが芽生えた。
ま、まさか毒状態だったとは……。
なんか気持ち悪いなぁぐらいで思っていたんだが。
アレが毒状態って奴なんだな。
「あー、ありがとうなユリア。毒まで治してくれてよ」
俺は頬を掻きながら横を歩くユリアに感謝を伝えた。
「フッ……気にするな。サービスとでも思ってくれ」
ユリアはギザ歯を見せて笑うと不覚にも可愛いと思ってしまった。
……今回は皆のおかげで俺も助かったことだし、これぐらいは良いだろう。
「よし皆! ギルドに帰ったら報酬金でいっぱい飲んだり食ったりするぞォ!」
「「「おーう!」」」
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【あらすじ】
2256年近未来、突如として《ダンジョン災害》と呼ばれる事件が発生した。重力を無視する鉄道〈東京スカイライン〉の全30駅にダンジョンが生成されたのだ。このダンジョン災害により、鉄道の円内にいた200万人もの人々が時空の狭間に囚われてしまう。
主人公の咲守陸人(さきもりりくと)は、ダンジョンに囚われた家族を助けるために立ち上がる。ダンジョン災害から5年後、ダンジョン攻略がすっかり義務教育となった世界で、彼は史上最年少のスキルホルダーとなった。
ダンジョンに忍び込んでいた陸人は、ユニークモンスターを撃破し、《クラス替え》というチートスキルを取得したのだ。このクラス替えスキルというのは、仲間を増やしクラスに加入させると、その好感度の数値によって自分のステータスを強化できる、というものだった。まず、幼馴染にクラスに加入してもらうと、腕力がとんでもなく上昇し、サンドバックに穴を開けるほどであった。
凄まじいスキルではあるが問題もある。好感度を見られた仲間たちは、頬を染めモジモジしてしまうのだ。しかし、恋に疎い陸人は何故恥ずかしそうにしているのか理解できないのであった。
訓練を続け、高校1年生となった陸人と仲間たちは、ついに本格的なダンジョン攻略に乗り出す。2261年、東京スカイライン全30駅のうち、踏破されたダンジョンは、たったの1駅だけであった。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
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