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第4章 魔術学園奮闘編
第405話 心配するだけ無駄ということだッペカ?
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「一切の面倒事はギルモア家が引き受ける。もちろんその覚悟あってのことだが……」
普段であればそれで問題ない。万全の後ろ盾であった。
「しかし、『神の如きもの』が相手となると厄介でございますな」
「そのことだ、マルチェル」
主従は顔を見合わせて唇を結んだ。
「僕に言わせれば、今更だね」
「どういう意味だッペ、先生?」
ネルソン主従を横目に、ドイルはマイペースだった。
「相手は『神の如きもの』だよ? その知覚力も叡智も人間をはるかに超えると考えるべきだ」
「そうだッペナ」
「ならばステファノの存在は既に『彼』に知られているはずさ」
あれだけ派手に動いていればねと、ドイルは肩をすくめた。
「ギルモア閣下の目に留まることを、『彼』が見逃すとは思えないね」
「心配するだけ無駄ということだッペカ?」
「何が起きるか想像がつかないのだから、備えようもないしね」
「結局、自然体が一番てことさ」と、ドイルは屈託なく笑った。
「ああ、ちなみに僕が『彼』と言っているのはあくまでも伝統的な神格のイメージを尊重しているからであって、決して男女のジェンダー差について――」
「心配しても仕方がないという点は、俺もその通りだと思います」
話が横道にそれていくドイルを無視して、ステファノは思いを述べた。
「気をつけるとすれば、『既存の社会秩序に挑戦しないこと』でしょうか?」
「なるほどな。そこに手を出すと逆鱗に触れる可能性があるか」
「怒るのは『彼』なのか、虹の王の方なのかわかりませんが……」
「争うなら我々を巻き込まずに、本人同士が直接やり合ってほしいものだな」
ネルソンが言うのももっともであった。「普通の」社会秩序を再構築するだけでも大変な事業なのに、神々の戦いを持ち込まれてはたまらない。
天国でも地獄でも構わない。人のいないところで勝手にやってくれと言いたかった。
「多分そうはできないルールでもあるのだろうね」
わけ知り顔にドイルがのたまった。
「さもなければ、とっくの昔に決着をつけていたことだろうさ」
「それはそうか。600年もあったのだからな」
ネルソンはドイルの言葉に頷いた。
「おそらくは我々を直接害することもできないのではないかな」
「ほう。その根拠は?」
「もしそれが可能なら、歴史にはっきりと『神の怒り』が刻まれているだろうさ」
「記録がないことが、直接攻撃できない証拠というわけか」
消極的な証明ではあったが、そうとでも考えなければつじつまが合わない。
「聖スノーデンはどちらかの『使徒』だったのであろうな」
「代理戦争の『駒』とも言えるね」
「聖スノーデンが『駒』とはな。宮廷や聖教会には聞かせられん話だ」
使徒と言えば聞こえが良いが、駒と呼ばれてはただ利用されただけの木偶ということになる。事実が同じであっても捉え方ひとつでその評価はまったく違うものになるのであった。
「ナーガはステファノを利用しているのでしょうか?」
マルチェルはステファノの身を気づかっていた。
聖スノーデンは最後には変死を遂げているのだ。
「俺は英雄ではありません」
ステファノは戦場に出るつもりはなかった。勝利や名誉に興味はない。
生活魔法を籠めた魔法具で、人の暮らしを豊かにできれば良い。
誰もが美味いものを食える世界。
それを実現する手助けをしたい。ただそれだけであった。
「ナーガにとって俺の使い道など、世に魔法と魔法具を広めること以外にはありません」
「そうかもしれないね。ならば『神の如きもの』はそれを邪魔しに来るかもな」
「邪魔立てする者があれば、それが『神の使徒』ということですね」
邪魔をしてくるのが「人」であれば、用心のしようがある。
「相手が人ならばいくらでもやりようはある。武力で来るなら兄者が止める。謀略を仕掛けるなら私が受けて立とう。魔術戦ならヨシズミが黙ってはいまい? 暗闘を仕掛けてくる愚か者がいるなら、闇は鴉のものだと思い知ることになる」
「おや? それでは僕の出番が見当たらないんだが……」
およそ戦い向きではない癖に、布陣から外されてドイルは不服そうであった。
「お前には特別に期待しているよ、ドイル。お前はお前でいるだけで良い」
「あまり期待しているようには聞こえないのだが」
「敵の嫌がることをさせたらお前以上の人間はいない。敵はお前の大切な科学をもつぶしに来るはずだ。煮るなと焼くなと、好きにしてやれば良い」
「僕に馬鹿の相手をさせようというのかね、ネルソン。人が悪いのは君の方だと思うぞ。まあ、身の程を知らぬ馬鹿に叡智の光を見せてやるのはやぶさかではないが」
人が神の駒だというならば、ステファノを守る盤面にはネルソンの目から見ても隙のない布陣が整いつつあった。ナーガが人を選び、集める手腕は認めざるを得ないとネルソンは感じていた。
「ウニベルシタスが立ち上がる頃には、もう少し使える駒が増えそうだしな」
「旦那様、御顔に赤みがさしていらっしゃいますな」
将来の対決を見据えて戦略家ネルソンの血が騒ぐ。長年のパートナーであるマルチェルにはその内心にたぎるものが手に取るように分かった。
「ふふふ。駒が差し手を動かしてはいかんという決まりはない。マルチェルよ、戦いは盤上だけでするものではないことを教えてやろうではないか」
「イエッサー。何なりとお申しつけください」
マルチェルは「鉄壁」の顔に戻ってお辞儀をした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第406話 ジュリアーノ殿下に献上させていただく。」
「差し当たりお前にはステファノとドイルの供をしてもらおうか」
「アカデミーに入り込むということでございますか、旦那様?」
アカデミーは王城でも要塞でもない。忍び込むだけであれば、マルチェルなら何とでもなる。
しかし、それでは「供」にはならない。
「ギルモアの名を使わせてもらうさ」
ネルソンはマルチェルをギルモア家の使いとしてアカデミーに送り込むつもりであった。
「ステファノ」
ネルソンはステファノに顔を向けた。
……
◆お楽しみに。
普段であればそれで問題ない。万全の後ろ盾であった。
「しかし、『神の如きもの』が相手となると厄介でございますな」
「そのことだ、マルチェル」
主従は顔を見合わせて唇を結んだ。
「僕に言わせれば、今更だね」
「どういう意味だッペ、先生?」
ネルソン主従を横目に、ドイルはマイペースだった。
「相手は『神の如きもの』だよ? その知覚力も叡智も人間をはるかに超えると考えるべきだ」
「そうだッペナ」
「ならばステファノの存在は既に『彼』に知られているはずさ」
あれだけ派手に動いていればねと、ドイルは肩をすくめた。
「ギルモア閣下の目に留まることを、『彼』が見逃すとは思えないね」
「心配するだけ無駄ということだッペカ?」
「何が起きるか想像がつかないのだから、備えようもないしね」
「結局、自然体が一番てことさ」と、ドイルは屈託なく笑った。
「ああ、ちなみに僕が『彼』と言っているのはあくまでも伝統的な神格のイメージを尊重しているからであって、決して男女のジェンダー差について――」
「心配しても仕方がないという点は、俺もその通りだと思います」
話が横道にそれていくドイルを無視して、ステファノは思いを述べた。
「気をつけるとすれば、『既存の社会秩序に挑戦しないこと』でしょうか?」
「なるほどな。そこに手を出すと逆鱗に触れる可能性があるか」
「怒るのは『彼』なのか、虹の王の方なのかわかりませんが……」
「争うなら我々を巻き込まずに、本人同士が直接やり合ってほしいものだな」
ネルソンが言うのももっともであった。「普通の」社会秩序を再構築するだけでも大変な事業なのに、神々の戦いを持ち込まれてはたまらない。
天国でも地獄でも構わない。人のいないところで勝手にやってくれと言いたかった。
「多分そうはできないルールでもあるのだろうね」
わけ知り顔にドイルがのたまった。
「さもなければ、とっくの昔に決着をつけていたことだろうさ」
「それはそうか。600年もあったのだからな」
ネルソンはドイルの言葉に頷いた。
「おそらくは我々を直接害することもできないのではないかな」
「ほう。その根拠は?」
「もしそれが可能なら、歴史にはっきりと『神の怒り』が刻まれているだろうさ」
「記録がないことが、直接攻撃できない証拠というわけか」
消極的な証明ではあったが、そうとでも考えなければつじつまが合わない。
「聖スノーデンはどちらかの『使徒』だったのであろうな」
「代理戦争の『駒』とも言えるね」
「聖スノーデンが『駒』とはな。宮廷や聖教会には聞かせられん話だ」
使徒と言えば聞こえが良いが、駒と呼ばれてはただ利用されただけの木偶ということになる。事実が同じであっても捉え方ひとつでその評価はまったく違うものになるのであった。
「ナーガはステファノを利用しているのでしょうか?」
マルチェルはステファノの身を気づかっていた。
聖スノーデンは最後には変死を遂げているのだ。
「俺は英雄ではありません」
ステファノは戦場に出るつもりはなかった。勝利や名誉に興味はない。
生活魔法を籠めた魔法具で、人の暮らしを豊かにできれば良い。
誰もが美味いものを食える世界。
それを実現する手助けをしたい。ただそれだけであった。
「ナーガにとって俺の使い道など、世に魔法と魔法具を広めること以外にはありません」
「そうかもしれないね。ならば『神の如きもの』はそれを邪魔しに来るかもな」
「邪魔立てする者があれば、それが『神の使徒』ということですね」
邪魔をしてくるのが「人」であれば、用心のしようがある。
「相手が人ならばいくらでもやりようはある。武力で来るなら兄者が止める。謀略を仕掛けるなら私が受けて立とう。魔術戦ならヨシズミが黙ってはいまい? 暗闘を仕掛けてくる愚か者がいるなら、闇は鴉のものだと思い知ることになる」
「おや? それでは僕の出番が見当たらないんだが……」
およそ戦い向きではない癖に、布陣から外されてドイルは不服そうであった。
「お前には特別に期待しているよ、ドイル。お前はお前でいるだけで良い」
「あまり期待しているようには聞こえないのだが」
「敵の嫌がることをさせたらお前以上の人間はいない。敵はお前の大切な科学をもつぶしに来るはずだ。煮るなと焼くなと、好きにしてやれば良い」
「僕に馬鹿の相手をさせようというのかね、ネルソン。人が悪いのは君の方だと思うぞ。まあ、身の程を知らぬ馬鹿に叡智の光を見せてやるのはやぶさかではないが」
人が神の駒だというならば、ステファノを守る盤面にはネルソンの目から見ても隙のない布陣が整いつつあった。ナーガが人を選び、集める手腕は認めざるを得ないとネルソンは感じていた。
「ウニベルシタスが立ち上がる頃には、もう少し使える駒が増えそうだしな」
「旦那様、御顔に赤みがさしていらっしゃいますな」
将来の対決を見据えて戦略家ネルソンの血が騒ぐ。長年のパートナーであるマルチェルにはその内心にたぎるものが手に取るように分かった。
「ふふふ。駒が差し手を動かしてはいかんという決まりはない。マルチェルよ、戦いは盤上だけでするものではないことを教えてやろうではないか」
「イエッサー。何なりとお申しつけください」
マルチェルは「鉄壁」の顔に戻ってお辞儀をした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第406話 ジュリアーノ殿下に献上させていただく。」
「差し当たりお前にはステファノとドイルの供をしてもらおうか」
「アカデミーに入り込むということでございますか、旦那様?」
アカデミーは王城でも要塞でもない。忍び込むだけであれば、マルチェルなら何とでもなる。
しかし、それでは「供」にはならない。
「ギルモアの名を使わせてもらうさ」
ネルソンはマルチェルをギルモア家の使いとしてアカデミーに送り込むつもりであった。
「ステファノ」
ネルソンはステファノに顔を向けた。
……
◆お楽しみに。
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