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第4章 魔術学園奮闘編
第345話 しかし、ミョウシンは知っている。
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「皆の者、聞くが良い。全貌が見えなかった者のために伝えておこう。今ステファノ君は流儀に従い、『鉄壁の型』を行った。その動きは全員が目にしたはずだ。しかし、彼の極意はそれだけではない。彼は動きに合わせて気功を発することができる。体の動きに加えて彼の気が敵の攻撃を受け流し、払う。攻撃に転じれば、突きや蹴りに合わせて気功が敵を襲う。その威力は嵐の如く敵を打ち滅ぼすだろう」
ステファノの攻撃は通常の筋力に加えて、全身の運動エネルギーを1点に集める「勁」を上乗せする。これは純粋に体術の鍛錬により身につけつつある極意であった。
そこへさらにイドの物質化力を重ね合わせることで、ステファノは1つの動きを3重の攻撃としているのだった。
しかし、ミョウシンは知っている。ステファノは同時に魔術師でもあると。
ステファノが意図すれば、その拳は炎を発し、蹴りは空気を切り裂くことができる。攻撃も防御も、彼は4重の威力で行えるのだと。
ステファノの極意においてもっとも未発達なのは純粋な体術部分であろう。型の反復と柔の理解により、ステファノはその穴を埋めつつある。
柔とは何か? 人体構造の理解と、重力の利用である。その極意が「技」の形に籠められている。
体術と言っても、投げ技1つが体力、人体構造、重力の3要素を重ね掛けする行為なのであった。
更に。
マルチェルが見せた極意には、「敵の力を利用する」思想が含まれている。ある人はそれを「合気」と呼ぶ。
達人とはこれらの要素を交響楽のように重ね合わせ、1つの結果に誘導する人間のことである。
ステファノには常識がない。
マルチェルの技は、マルチェルという達人が到達した独自の境地なのであるが、彼はそれを知らない。
いつか自分にもできることだと受け取っている。だから、「達人の技」に挑むことができる。
「できるわけがない」とは考えない。見たものを再現しようと努めるだけだ。
おそらく体術だけであればステファノはマルチェルの域に到達することはできない。しかし、彼にはイドの制御があり、魔術がある。
投げ技にイドを使うのはおかしいなどという常識がない。
何も持たないステファノは、どんな制約からも自由であった。
「ステファノ君、ありがとう。見事な演武であった」
「せっかくだから、どうだろう?」
師範の言葉に被せるように、ハーマンが声を張った。
「杖術の技も披露してくれないかね。僕もいささか杖をたしなむのでね、君の技に興味がある」
(来たか)
予想していたことが始まったと、ステファノは思った。
ミョウシンの兄がステファノに会いたがっていると聞いた時から、「手合せ」も含め、こういった展開は想定していた。
何と言ってもミョウシンの実の兄である。ミョウシンの素行から見て、悪い人間だとは思えない。
善良な家族の中に悪人が出ることもあるが、兄が悪人だとすればミョウシンはステファノを引き合わせたりしないはずだ。
一発くらい殴られるかもしれないが、怪我をさせられることはないだろう。
ステファノは、その程度に考えていた。
「杖の方はまったくの我流で棒を振り回しているだけですが、お望みなら普段の素振りをご披露いたします」
ステファノはヘルメスの杖を手に取り、「蛟」を外して床に置いた。
今度はするすると下がって、上座との距離を開けた。万一手が滑っても、上座に並ぶ人たちに怪我をさせない配慮である。
左右上下を入れ替えての袈裟斬り、突き、払いや受けなどの基本動作を、足を送りながら連続で行う。徐々にスピードを上げながら、これを10セット繰り返した。
ぴたりと留めた杖先を残心のまま引き寄せて、ステファノは素振りを終えた。
「……以上です」
杖を脇に置き、再び元の場所に胡坐をかいて座った。
「ふうむ。いや、ありがとう。杖術の方は、何と言うか、『普通』だね」
期待したものと違ったのか、ハーマンはたどたどしく礼を述べた。
「柔の稽古でミョウシンを投げ飛ばしたというから、もう少し激しい技を想像していたよ」
「何分初心者ですから」
ステファノにはそもそも「杖で敵を打ち倒してやろう」という気持ちがない。杖術はあくまでも護身術として磨いていた。
敵の攻撃を封じ、「捕縛」に結びつけられればそれで良いのだった。
「ハーマン様には、未だ『形』に籠められた『意』が見えませんかな?」
「どうかな? 『意図』を持って技を用いることは大事だと思うが……。今の動きに何か違いがありますか?」
ゲンドー師にはハーマンに見えないものが見えていたのか。ハーマンの戸惑いを見て、一瞬目をつぶった。
「ならば、申し合いで受けてみますか? 杖を交えれば見えてくるものがありましょう」
「今の型に打太刀を務めろと? 先生のお言葉であれば」
「ふむ。ステファノ君も良いかね?」
ゲンドー師の誘いをステファノは自然体で受けた。
「未熟な分際で恐縮ですが、学ばせていただきます」
杖術ではヨシズミとの稽古でしか人と向き合ったことがない。申し合いとはいえ、ステファノにとっては貴重な機会であった。
ステファノは杖を持って立ち、後ろに下がった。
空いたスペースにハーマンが進み出る。
ハーマンの所作に合わせて礼を交わした後、2人は杖を構えた。
「始め!」
ゲンドーは上座に座ったまま、申し合いの開始を告げた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第346話 待ってくれ! 今のは何だ。君は何をした?」
開始を告げられて一呼吸。なおステファノは動かなかった。
(こいつ、緊張しているのか?)
ハーマンが疑問を覚えたその時、ステファノとの距離が縮まっていることに気づいた。
(む! 動いている!)
一切の予備動作なく、青葉の上を滑る水滴の如くステファノはすり足を進めていた。続いて起こるのは袈裟懸けの打ち込みだ。
申し合いである以上、動作の手順はすべて決まっている。
杖術の手練れであるハーマンは余裕をもって振り下ろされる杖を受けに行く。
ステファノの振りは決して速くない。ハーマンは完璧なタイミングで杖を合わせた。
……
◆お楽しみに。
ステファノの攻撃は通常の筋力に加えて、全身の運動エネルギーを1点に集める「勁」を上乗せする。これは純粋に体術の鍛錬により身につけつつある極意であった。
そこへさらにイドの物質化力を重ね合わせることで、ステファノは1つの動きを3重の攻撃としているのだった。
しかし、ミョウシンは知っている。ステファノは同時に魔術師でもあると。
ステファノが意図すれば、その拳は炎を発し、蹴りは空気を切り裂くことができる。攻撃も防御も、彼は4重の威力で行えるのだと。
ステファノの極意においてもっとも未発達なのは純粋な体術部分であろう。型の反復と柔の理解により、ステファノはその穴を埋めつつある。
柔とは何か? 人体構造の理解と、重力の利用である。その極意が「技」の形に籠められている。
体術と言っても、投げ技1つが体力、人体構造、重力の3要素を重ね掛けする行為なのであった。
更に。
マルチェルが見せた極意には、「敵の力を利用する」思想が含まれている。ある人はそれを「合気」と呼ぶ。
達人とはこれらの要素を交響楽のように重ね合わせ、1つの結果に誘導する人間のことである。
ステファノには常識がない。
マルチェルの技は、マルチェルという達人が到達した独自の境地なのであるが、彼はそれを知らない。
いつか自分にもできることだと受け取っている。だから、「達人の技」に挑むことができる。
「できるわけがない」とは考えない。見たものを再現しようと努めるだけだ。
おそらく体術だけであればステファノはマルチェルの域に到達することはできない。しかし、彼にはイドの制御があり、魔術がある。
投げ技にイドを使うのはおかしいなどという常識がない。
何も持たないステファノは、どんな制約からも自由であった。
「ステファノ君、ありがとう。見事な演武であった」
「せっかくだから、どうだろう?」
師範の言葉に被せるように、ハーマンが声を張った。
「杖術の技も披露してくれないかね。僕もいささか杖をたしなむのでね、君の技に興味がある」
(来たか)
予想していたことが始まったと、ステファノは思った。
ミョウシンの兄がステファノに会いたがっていると聞いた時から、「手合せ」も含め、こういった展開は想定していた。
何と言ってもミョウシンの実の兄である。ミョウシンの素行から見て、悪い人間だとは思えない。
善良な家族の中に悪人が出ることもあるが、兄が悪人だとすればミョウシンはステファノを引き合わせたりしないはずだ。
一発くらい殴られるかもしれないが、怪我をさせられることはないだろう。
ステファノは、その程度に考えていた。
「杖の方はまったくの我流で棒を振り回しているだけですが、お望みなら普段の素振りをご披露いたします」
ステファノはヘルメスの杖を手に取り、「蛟」を外して床に置いた。
今度はするすると下がって、上座との距離を開けた。万一手が滑っても、上座に並ぶ人たちに怪我をさせない配慮である。
左右上下を入れ替えての袈裟斬り、突き、払いや受けなどの基本動作を、足を送りながら連続で行う。徐々にスピードを上げながら、これを10セット繰り返した。
ぴたりと留めた杖先を残心のまま引き寄せて、ステファノは素振りを終えた。
「……以上です」
杖を脇に置き、再び元の場所に胡坐をかいて座った。
「ふうむ。いや、ありがとう。杖術の方は、何と言うか、『普通』だね」
期待したものと違ったのか、ハーマンはたどたどしく礼を述べた。
「柔の稽古でミョウシンを投げ飛ばしたというから、もう少し激しい技を想像していたよ」
「何分初心者ですから」
ステファノにはそもそも「杖で敵を打ち倒してやろう」という気持ちがない。杖術はあくまでも護身術として磨いていた。
敵の攻撃を封じ、「捕縛」に結びつけられればそれで良いのだった。
「ハーマン様には、未だ『形』に籠められた『意』が見えませんかな?」
「どうかな? 『意図』を持って技を用いることは大事だと思うが……。今の動きに何か違いがありますか?」
ゲンドー師にはハーマンに見えないものが見えていたのか。ハーマンの戸惑いを見て、一瞬目をつぶった。
「ならば、申し合いで受けてみますか? 杖を交えれば見えてくるものがありましょう」
「今の型に打太刀を務めろと? 先生のお言葉であれば」
「ふむ。ステファノ君も良いかね?」
ゲンドー師の誘いをステファノは自然体で受けた。
「未熟な分際で恐縮ですが、学ばせていただきます」
杖術ではヨシズミとの稽古でしか人と向き合ったことがない。申し合いとはいえ、ステファノにとっては貴重な機会であった。
ステファノは杖を持って立ち、後ろに下がった。
空いたスペースにハーマンが進み出る。
ハーマンの所作に合わせて礼を交わした後、2人は杖を構えた。
「始め!」
ゲンドーは上座に座ったまま、申し合いの開始を告げた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第346話 待ってくれ! 今のは何だ。君は何をした?」
開始を告げられて一呼吸。なおステファノは動かなかった。
(こいつ、緊張しているのか?)
ハーマンが疑問を覚えたその時、ステファノとの距離が縮まっていることに気づいた。
(む! 動いている!)
一切の予備動作なく、青葉の上を滑る水滴の如くステファノはすり足を進めていた。続いて起こるのは袈裟懸けの打ち込みだ。
申し合いである以上、動作の手順はすべて決まっている。
杖術の手練れであるハーマンは余裕をもって振り下ろされる杖を受けに行く。
ステファノの振りは決して速くない。ハーマンは完璧なタイミングで杖を合わせた。
……
◆お楽しみに。
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