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第4章 魔術学園奮闘編
第310話 チャレンジの結果。
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薬草の基礎は論文が認められて、ステファノのチャレンジは成功した。合格通知を手にしたステファノは、しかし、喜ぶよりもとまどっていた。
(今回の論文では、テーマから外れたことを書いてしまったと思うんだが……)
症状に対する処方として、薬ではなく食生活とそれを支えるべき地域社会のあり方に踏み込んでいた。
ステファノとしては「対処法」として正しいと信じていたが、「解答」として正しいとは言えなかった。
(クランド先生は俺の意図を汲み取ってくれたのだろうが、これで修了できるほど俺は薬草のことを知らない)
ステファノはこの科目についても履修を続け、正しい知識を学ぶことにした。
この科目を最後にすべての講義についてチャレンジの結果が出た。ステファノは全13科目の内、11科目でチャレンジを成功させた。必修科目である魔術学科については5科目すべて合格である。
その他、受けてもいない中級、上級の単位まで修了資格を得た科目があった。呪文詠唱、魔術発動体、魔力操作の3つである。
結果、卒業に必要な必修科目54単位の内11単位を1学期初めに得ることができた。
数だけ見れば決して多いとは言えないが、学校デビューから始めた人間にしてはこの上なく順調なスタートであった。
これに研究報告会でのポイントを上乗せできれば、1年程度での卒業資格獲得という目標に近づけそうだ。
(どうやらマリアンヌ学科長は俺に早く出て行ってもらいたいようだしね)
厄介払いしたいのであろうが、こちらと利害は一致している。うまく利用させてもらうべきだろうと、ステファノは考えた。
ステファノは鉄粉を利用した魔道具製作について論文をまとめている。魔力付与に器の大きさは制約とならないという事実を中心に据えた、常識を覆す内容である。
魔核の利用という「秘伝」を秘匿しつつ、直径1ミリにも満たない鉄粉1粒に魔術が籠められることを論証していた。
何しろ実際に魔道具にした鉄粉を見せられるのだ。これほど強い論証はない。
ステファノは知らなかったが、既にその実証レベルは魔道具製作講座の上級を満足する内容であった。
(2学期は魔道具製作、錬金術、魔獣学あたりの魔術学科科目を集中的に取ろう)
学校というものにも慣れてきた。何よりも図書館の利用方法を知ったことは、大きな収穫であった。
(一般学科の内容は卒業してからでも学ぶことができる。俺の強みは魔術だ)
ネルソンたちの私塾でステファノが講師を務めることになるのかは定かでない。しかし、「人を指導することがあるとしたら」それは魔法についてであろうと、ステファノは想像した。
(アカデミーで俺が為すべきことは、魔法の体系化だ。この世界の人間に魔法を学ばせる方法論の開発だ)
それは異世界人であるヨシズミにはできないことかもしれない。ガル師が弟子を教えられないという状況に近かった。
彼我の差が大きすぎて、「こうすれば良い」というアドバイスができないのだ。
(ドリーさんに出会えたことは幸運だった。「普通の」魔術的方法論とオレの魔法との違いを、細かく確認できる。ドリーさんが魔法を学べるなら、他の魔術師にも学べるだろう)
ドイル先生流に言うならば、これも「達成者」の能力なのであろうか。
(師匠は炎さえ出さずに、鍋の中身を温めることができる。火を燃やした結果だけを呼び出すのだと言っていた。それに比べれば俺の因力制御はまだまだ粗い)
ステファノが研究室で仕込んだ竈の魔道具は、種火の術を籠めた物だ。実際の炎を出して鍋や釜を温める。
鍋の中身だけを温めるためには、構成要素である「対象」をより精度高く指定しなければならない。「態様」も「炎を出す」という直接的な現象でなく、「水分子」の振動を大きくするなどと指定することになる。
そこまで魔法の精度を上げるには、ステファノ自身がこの世界の水準を超えて「科学」を知らなければならない。
今はまだ、そこまでできなくて良い。ステファノ自身が発展途上なのだから。
(アカデミーを出たら、もう一度師匠に弟子入りだ。魔術の「いろは」を知った上で魔法を基礎から教えてもらおう)
今の自分は1カ月前の自分とは違う。1年後の自分なら更に世界の秘密に近づいているはずだ。ステファノはそう確信していた。
◆◆◆
水曜の夜、ステファノは第2試射場でギフトを磨いていた。
(イドの知覚……大分広がって来た)
能力が向上したというよりも知覚に慣れて来た感じであった。方向を定めなければ半径30メートル、方向を絞れば60メートルまで魔視の範囲は広がった。
対象のイドをキャッチできれば魔核を重ねることができる。その時距離は意味をなくす。
(まるで目の前にあるような……)
対象のイドに魔視の焦点を合わせると、ズームアップしたように対象の詳細が「視界に」広がる。
(いずれ、距離に関係なく対象に焦点を合わせられるようになるのだろうか?)
参考にしたガル師流の魔力探知は、「人間」を探知する目的に使えることがわかった。試射場の標的はこの方法では捉えられない。
ふと思いついてドリーさんを魔視の対象として意識したら、「陽気ソナー」にくっきりと反応が返って来た。
確かにあの時ガル師は盗賊の潜伏場所を探そうとしていた。対人戦闘を目的とするなら、この手法は有効だろう。
試みに試射場の外まで探知のエリアを広げてみると、壁の存在を無視して半径30メートル以内にいる人間を探知できた。
(考えたくないけど、人から追われた時に役立ちそうだな。隠れた人間でも探知できるのは心強い)
ルネッサンスを追求する立場となれば既存の権力者と敵対する場面が出てくるであろう。ヨシズミが警告する武力衝突は避けられるなら避けたい。だが、備えないわけにはいかない。
自分だけのことではない。大切な人たちを守るために、身を守る手段が必要であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第311話 ロイヤルウエディング。」
「お兄様、お久しぶりです」
「久しぶりだな、ソフィー」
ネルソンとソフィアの兄妹が、久しぶりに顔を合わせていた。
いつもなら傍らに侍っているはずの侍女の姿がない。
人払いをしたギルモア本家の一室であった。
「お前がここにいるということは、準備はすべて整ったのだな?」
「もちろんです。婚礼の儀は3日後と本日発表されます」
「3日後だと? それはまた急だな。アナスターシャ殿下の移動は間に合うのか?」
「実は既に極秘裏にご移動中です。恋のためなら旅のつらさなど何でもないとおっしゃって」
……
◆お楽しみに。
(今回の論文では、テーマから外れたことを書いてしまったと思うんだが……)
症状に対する処方として、薬ではなく食生活とそれを支えるべき地域社会のあり方に踏み込んでいた。
ステファノとしては「対処法」として正しいと信じていたが、「解答」として正しいとは言えなかった。
(クランド先生は俺の意図を汲み取ってくれたのだろうが、これで修了できるほど俺は薬草のことを知らない)
ステファノはこの科目についても履修を続け、正しい知識を学ぶことにした。
この科目を最後にすべての講義についてチャレンジの結果が出た。ステファノは全13科目の内、11科目でチャレンジを成功させた。必修科目である魔術学科については5科目すべて合格である。
その他、受けてもいない中級、上級の単位まで修了資格を得た科目があった。呪文詠唱、魔術発動体、魔力操作の3つである。
結果、卒業に必要な必修科目54単位の内11単位を1学期初めに得ることができた。
数だけ見れば決して多いとは言えないが、学校デビューから始めた人間にしてはこの上なく順調なスタートであった。
これに研究報告会でのポイントを上乗せできれば、1年程度での卒業資格獲得という目標に近づけそうだ。
(どうやらマリアンヌ学科長は俺に早く出て行ってもらいたいようだしね)
厄介払いしたいのであろうが、こちらと利害は一致している。うまく利用させてもらうべきだろうと、ステファノは考えた。
ステファノは鉄粉を利用した魔道具製作について論文をまとめている。魔力付与に器の大きさは制約とならないという事実を中心に据えた、常識を覆す内容である。
魔核の利用という「秘伝」を秘匿しつつ、直径1ミリにも満たない鉄粉1粒に魔術が籠められることを論証していた。
何しろ実際に魔道具にした鉄粉を見せられるのだ。これほど強い論証はない。
ステファノは知らなかったが、既にその実証レベルは魔道具製作講座の上級を満足する内容であった。
(2学期は魔道具製作、錬金術、魔獣学あたりの魔術学科科目を集中的に取ろう)
学校というものにも慣れてきた。何よりも図書館の利用方法を知ったことは、大きな収穫であった。
(一般学科の内容は卒業してからでも学ぶことができる。俺の強みは魔術だ)
ネルソンたちの私塾でステファノが講師を務めることになるのかは定かでない。しかし、「人を指導することがあるとしたら」それは魔法についてであろうと、ステファノは想像した。
(アカデミーで俺が為すべきことは、魔法の体系化だ。この世界の人間に魔法を学ばせる方法論の開発だ)
それは異世界人であるヨシズミにはできないことかもしれない。ガル師が弟子を教えられないという状況に近かった。
彼我の差が大きすぎて、「こうすれば良い」というアドバイスができないのだ。
(ドリーさんに出会えたことは幸運だった。「普通の」魔術的方法論とオレの魔法との違いを、細かく確認できる。ドリーさんが魔法を学べるなら、他の魔術師にも学べるだろう)
ドイル先生流に言うならば、これも「達成者」の能力なのであろうか。
(師匠は炎さえ出さずに、鍋の中身を温めることができる。火を燃やした結果だけを呼び出すのだと言っていた。それに比べれば俺の因力制御はまだまだ粗い)
ステファノが研究室で仕込んだ竈の魔道具は、種火の術を籠めた物だ。実際の炎を出して鍋や釜を温める。
鍋の中身だけを温めるためには、構成要素である「対象」をより精度高く指定しなければならない。「態様」も「炎を出す」という直接的な現象でなく、「水分子」の振動を大きくするなどと指定することになる。
そこまで魔法の精度を上げるには、ステファノ自身がこの世界の水準を超えて「科学」を知らなければならない。
今はまだ、そこまでできなくて良い。ステファノ自身が発展途上なのだから。
(アカデミーを出たら、もう一度師匠に弟子入りだ。魔術の「いろは」を知った上で魔法を基礎から教えてもらおう)
今の自分は1カ月前の自分とは違う。1年後の自分なら更に世界の秘密に近づいているはずだ。ステファノはそう確信していた。
◆◆◆
水曜の夜、ステファノは第2試射場でギフトを磨いていた。
(イドの知覚……大分広がって来た)
能力が向上したというよりも知覚に慣れて来た感じであった。方向を定めなければ半径30メートル、方向を絞れば60メートルまで魔視の範囲は広がった。
対象のイドをキャッチできれば魔核を重ねることができる。その時距離は意味をなくす。
(まるで目の前にあるような……)
対象のイドに魔視の焦点を合わせると、ズームアップしたように対象の詳細が「視界に」広がる。
(いずれ、距離に関係なく対象に焦点を合わせられるようになるのだろうか?)
参考にしたガル師流の魔力探知は、「人間」を探知する目的に使えることがわかった。試射場の標的はこの方法では捉えられない。
ふと思いついてドリーさんを魔視の対象として意識したら、「陽気ソナー」にくっきりと反応が返って来た。
確かにあの時ガル師は盗賊の潜伏場所を探そうとしていた。対人戦闘を目的とするなら、この手法は有効だろう。
試みに試射場の外まで探知のエリアを広げてみると、壁の存在を無視して半径30メートル以内にいる人間を探知できた。
(考えたくないけど、人から追われた時に役立ちそうだな。隠れた人間でも探知できるのは心強い)
ルネッサンスを追求する立場となれば既存の権力者と敵対する場面が出てくるであろう。ヨシズミが警告する武力衝突は避けられるなら避けたい。だが、備えないわけにはいかない。
自分だけのことではない。大切な人たちを守るために、身を守る手段が必要であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第311話 ロイヤルウエディング。」
「お兄様、お久しぶりです」
「久しぶりだな、ソフィー」
ネルソンとソフィアの兄妹が、久しぶりに顔を合わせていた。
いつもなら傍らに侍っているはずの侍女の姿がない。
人払いをしたギルモア本家の一室であった。
「お前がここにいるということは、準備はすべて整ったのだな?」
「もちろんです。婚礼の儀は3日後と本日発表されます」
「3日後だと? それはまた急だな。アナスターシャ殿下の移動は間に合うのか?」
「実は既に極秘裏にご移動中です。恋のためなら旅のつらさなど何でもないとおっしゃって」
……
◆お楽しみに。
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