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第4章 魔術学園奮闘編
第198話 世に1つ落とせぬ城はセイナッドの城。
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その書は3つの部に分かれていた。
第1部は「対人兵器の部」であった。
第2部は「対騎馬兵器の部」であった。
第3部は「攻城兵器の部」であった。
挿絵のない古い字体の読みにくい書籍を、ステファノはじっくりと読み始めた。
前置きもほとんどなしに、第1部ではいきなり対人兵器の紹介が始まっていた。
第1章が「飛び道具」で、弓や投げ槍、投げナイフ、投石器、パチンコ、ボーラなど、様々な飛び道具が紹介されていた。
人殺しの道具だということを度外視すれば面白そうな内容で、詳しく読んでみたいところであったが、本来の目的とは異なるので先に進むことにした。
第2章は「斬撃武器」で、剣や刀、薙刀などが列挙されていた。これも読み飛ばすことにした。
第3章は「刺突武器」で、槍やランス、レイピアなどが列挙されていた。これも目的外の項目だ。
第4章は「その他の対人兵器」で、毒や罠、打撃武器などが紹介されていた。
第1部は4章までであり、対人兵器はこれで終わりだ。対人魔法が取り上げられているとすればこの第4章に含まれるのではないか?
慎重に読み進めると、それらしき箇所に出くわした。
「呪い、まじない、摩訶不思議」という項目があった。
(呪いもまじないも、言葉で行えば呪文てことでしょ? 摩訶不思議とは正に魔術のことではないのか?)
ステファノは集中して読み始めた。
文字だけの表現ではわかりにくい部分があったが、ステファノから見て「これは魔術のことではないか?」と思われる個所が数カ所あった。
『鎌鼬――見えざる刃を敵に飛ばす。狐狸妖怪の類か。あるいは管狐とも』
『遠当て――5歩の彼方より当て身を行う。板を割り、人を倒す』
『天狗高跳び――木々の梢を渡る。その身霞のごとく軽し』
『山津波、山嵐――水、岩、土、ことごとく山肌を下り、人馬を襲う』
『狐火、鬼火――人気なきところに怪しの火あり』
自然現象か、妖怪のような伝説を語っているかのように見えるが、見方を変えれば魔術を語っているように見える。
(「天狗高跳び」なんて、土属性のジャンプ魔法にそっくりだ)
ヨシズミと同行した街道で、ステファノ自身が使役した魔法に実によく似ている。
他の項目も、魔術的現象であるかもしれない。
ステファノは、「呪い、まじない、摩訶不思議」の項目をノートに書き写した。これらの現象を踏まえた上で、戦国時代の戦記を読んでみようと考えたのだ。
目についた戦記を手に取り、出来事のつながりや戦いの流れなど、本来重要な内容を無視して「不思議な出来事」の出現だけを探していった。
すると、不思議な豪族の存在が目についた。
山深い土地に城を構え、養蚕、鉱業、鍛冶、林業などを主産業とする地方を拠点としている豪族であった。
氏族の名をセイナッドと言った。
セイナッドの土地は狭く、人も少なかった。他国へ攻め込む余力はなく、軍事的野心は薄かったようだ。
しかし、容易く落とせそうなセイナッド城を軍事的な拠点にしようと、隣国の有力豪族に襲われることがあった。
だが、落ちない。大軍を起して攻め寄せても、山間の小城が落とせない。
とにかく攻めにくい。攻め所が少ない。城壁に取りつけば石を落とされる、糞尿や熱湯を掛けられる。
陣を構えれば不審火が出る。水が腐る。疫病が起こる。将が夜間に頓死する。
読んでいて「運が良すぎるだろう」と、ステファノが呆れるほど「敵方に異変が起こる」のであった。
「セイナッドの城には大天使がついている」
敵方の兵はそう言って、恐れた。
セイナッドを攻めると聞けば、脱走者が続出するのだ。
どれほど勇猛、優秀な将がいようとも、どれだけ強兵で要害を固めようとも、それを上回る多勢で攻められれば必ず城は落ちる。落ちない城はない。
「世に1つ落とせぬ城はセイナッドの城」
そう謳われるほどセイナッドは不思議の強さを誇っていた。
敵国にとっては小面憎い存在であったが、貴重な兵力、武器、食料を擲って攻め続けるほどの重要性がないため、ときどき思い出したように攻めては結局軍を引くという状態が何年も続いた。
ある時、敵方豪族に有能な軍師がついた。各地の情勢を密偵に調べさせ、軍師はセイナッドの内情をも知るに至った。何人もの犠牲を出しながら敵地に密偵を侵入させ、内通者を作り出したのだ。
「セイナッドは『隠形五遁』を究めた異能の集団である」
その事実が明るみに出た。
五遁とは「火遁」、「水遁」、「木遁」、「金遁」、「土遁」の五法を指し、身を隠し敵から逃れる術であった。
(これは……! 師匠から習った魔法の基礎じゃないか)
術の詳細は秘匿されているため定かではないとしていたが、火遁では自在に放火し、敵の混乱に乗じて遁走し、木遁、土遁では自然の草木や地形を利用して気配を消し、身を隠すのだと言う。
(仮に俺が密偵として働くなら、イドの鎧によって気配を消すことができる。追われても体を傷つけられることは滅多にないだろう。気配を消して敵陣で破壊工作や……暗殺をするのも難しくないはずだ)
五遁という術も魔力の6属性を彷彿とさせる。「火」、「水」、「土」はそのままであるし、「金遁」とは「雷属性」を指しているかもしれない。雷気が金気を好むのは当然のことである。
「木遁」は特定しにくいが、「風属性」に通じるようにステファノは感じた。森に入って風を起せば、簡単に居場所をわからなくすることができる。
(だが、使っているのは隠形法だ。敵を圧倒するほどの攻撃魔法を持っていなかったのかもしれない)
ステファノの興味は尽きなかったが、そろそろ昼が近づいていた。この日の調査はそこまでとし、ステファノは図書館を出た。
◆◆◆
食堂で昼食を食べていると、スールーが姿を現した。サントスと一緒ではないようだ。
「やあ、ステファノ。元気かい?」
「お陰様で何とかやっています。どの授業でも戸惑うことばかりですが」
「結構、結構。それだけ刺激があると言うことだろう?」
刺激のない生活は味気ないものだが、時と場合による。1日中刺激だらけでは体と精神が持たない。
「程々が一番ですね」
「ふふ。随分年寄りじみたことを言う」
「良く言われます」
ステファノはスールーの軽口をさらりと受け流した。
「ははは。君には皮肉が通じないね」
スールーは肩をすくめて笑った。言うことは大人っぽいが、そうしたふとした仕草には年相応の稚気が見える。
「そう言えば、『技術に詳しい魔術師』は見つかりそうですか?」
「昨日の今日だからね。やってはいるが、難しいよ。そっちはどうだい?」
「1人話を聞きつけて自分から手を上げてきた奴がいるんですが……」
「ほう? で、どうなんだい?」
ステファノの口振りに歯切れの悪さを感じたのだろう。スールーはすぐには喜ばなかった。
「それがどうも怪しくて。魔力がろくに練れないうえに、学科の勉強が不得手な様子です」
「それは難しそうだな。手先が器用なだけでは我々の研究にはついて来られないだろう」
「実家が物作りをしている豪商だそうなんで、本人さえしっかりしていれば良い縁だと思うんですが」
残念そうにステファノが言うと、スールーがそれを聞き咎めた。
「豪商だと? 待ってくれ。そいつの出身はどこなんだ?」
「ミョウシンさんと一緒だそうで、フェルディナンド男爵領と言っていました」
「何だって? そいつは大物だぞ!」
スールーはテーブルに身を乗り出した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第199話 だが、人望だけはあるのだ。」
その気持ちを汲み取ったわけではないのだが、トーマ本人はこれ幸いと細かい話、面倒くさい話は番頭たちに丸投げする生き方を身につけてしまった。
その分職人たちとのつき合いに精力を振り向けた。トーマとしては人助けや同情でそうしているわけではなく、その方が楽しいからそうするだけであった。
職人の方もそれは知っている。トーマが決して優秀な跡取りでないこともわかってつき合っている。
トーマの足りないところ、ダメな所もひっくるめて「坊っちゃん」「坊っちゃん」と言って可愛がっているのだ。
「あいつは喧嘩っ早い割に喧嘩が弱い。奢るのが好きな癖に金を貯める才覚がない。大風呂敷を広げてはすぐ挫折する」
「だが、人望だけはあるのだ」
……
◆お楽しみに。
第1部は「対人兵器の部」であった。
第2部は「対騎馬兵器の部」であった。
第3部は「攻城兵器の部」であった。
挿絵のない古い字体の読みにくい書籍を、ステファノはじっくりと読み始めた。
前置きもほとんどなしに、第1部ではいきなり対人兵器の紹介が始まっていた。
第1章が「飛び道具」で、弓や投げ槍、投げナイフ、投石器、パチンコ、ボーラなど、様々な飛び道具が紹介されていた。
人殺しの道具だということを度外視すれば面白そうな内容で、詳しく読んでみたいところであったが、本来の目的とは異なるので先に進むことにした。
第2章は「斬撃武器」で、剣や刀、薙刀などが列挙されていた。これも読み飛ばすことにした。
第3章は「刺突武器」で、槍やランス、レイピアなどが列挙されていた。これも目的外の項目だ。
第4章は「その他の対人兵器」で、毒や罠、打撃武器などが紹介されていた。
第1部は4章までであり、対人兵器はこれで終わりだ。対人魔法が取り上げられているとすればこの第4章に含まれるのではないか?
慎重に読み進めると、それらしき箇所に出くわした。
「呪い、まじない、摩訶不思議」という項目があった。
(呪いもまじないも、言葉で行えば呪文てことでしょ? 摩訶不思議とは正に魔術のことではないのか?)
ステファノは集中して読み始めた。
文字だけの表現ではわかりにくい部分があったが、ステファノから見て「これは魔術のことではないか?」と思われる個所が数カ所あった。
『鎌鼬――見えざる刃を敵に飛ばす。狐狸妖怪の類か。あるいは管狐とも』
『遠当て――5歩の彼方より当て身を行う。板を割り、人を倒す』
『天狗高跳び――木々の梢を渡る。その身霞のごとく軽し』
『山津波、山嵐――水、岩、土、ことごとく山肌を下り、人馬を襲う』
『狐火、鬼火――人気なきところに怪しの火あり』
自然現象か、妖怪のような伝説を語っているかのように見えるが、見方を変えれば魔術を語っているように見える。
(「天狗高跳び」なんて、土属性のジャンプ魔法にそっくりだ)
ヨシズミと同行した街道で、ステファノ自身が使役した魔法に実によく似ている。
他の項目も、魔術的現象であるかもしれない。
ステファノは、「呪い、まじない、摩訶不思議」の項目をノートに書き写した。これらの現象を踏まえた上で、戦国時代の戦記を読んでみようと考えたのだ。
目についた戦記を手に取り、出来事のつながりや戦いの流れなど、本来重要な内容を無視して「不思議な出来事」の出現だけを探していった。
すると、不思議な豪族の存在が目についた。
山深い土地に城を構え、養蚕、鉱業、鍛冶、林業などを主産業とする地方を拠点としている豪族であった。
氏族の名をセイナッドと言った。
セイナッドの土地は狭く、人も少なかった。他国へ攻め込む余力はなく、軍事的野心は薄かったようだ。
しかし、容易く落とせそうなセイナッド城を軍事的な拠点にしようと、隣国の有力豪族に襲われることがあった。
だが、落ちない。大軍を起して攻め寄せても、山間の小城が落とせない。
とにかく攻めにくい。攻め所が少ない。城壁に取りつけば石を落とされる、糞尿や熱湯を掛けられる。
陣を構えれば不審火が出る。水が腐る。疫病が起こる。将が夜間に頓死する。
読んでいて「運が良すぎるだろう」と、ステファノが呆れるほど「敵方に異変が起こる」のであった。
「セイナッドの城には大天使がついている」
敵方の兵はそう言って、恐れた。
セイナッドを攻めると聞けば、脱走者が続出するのだ。
どれほど勇猛、優秀な将がいようとも、どれだけ強兵で要害を固めようとも、それを上回る多勢で攻められれば必ず城は落ちる。落ちない城はない。
「世に1つ落とせぬ城はセイナッドの城」
そう謳われるほどセイナッドは不思議の強さを誇っていた。
敵国にとっては小面憎い存在であったが、貴重な兵力、武器、食料を擲って攻め続けるほどの重要性がないため、ときどき思い出したように攻めては結局軍を引くという状態が何年も続いた。
ある時、敵方豪族に有能な軍師がついた。各地の情勢を密偵に調べさせ、軍師はセイナッドの内情をも知るに至った。何人もの犠牲を出しながら敵地に密偵を侵入させ、内通者を作り出したのだ。
「セイナッドは『隠形五遁』を究めた異能の集団である」
その事実が明るみに出た。
五遁とは「火遁」、「水遁」、「木遁」、「金遁」、「土遁」の五法を指し、身を隠し敵から逃れる術であった。
(これは……! 師匠から習った魔法の基礎じゃないか)
術の詳細は秘匿されているため定かではないとしていたが、火遁では自在に放火し、敵の混乱に乗じて遁走し、木遁、土遁では自然の草木や地形を利用して気配を消し、身を隠すのだと言う。
(仮に俺が密偵として働くなら、イドの鎧によって気配を消すことができる。追われても体を傷つけられることは滅多にないだろう。気配を消して敵陣で破壊工作や……暗殺をするのも難しくないはずだ)
五遁という術も魔力の6属性を彷彿とさせる。「火」、「水」、「土」はそのままであるし、「金遁」とは「雷属性」を指しているかもしれない。雷気が金気を好むのは当然のことである。
「木遁」は特定しにくいが、「風属性」に通じるようにステファノは感じた。森に入って風を起せば、簡単に居場所をわからなくすることができる。
(だが、使っているのは隠形法だ。敵を圧倒するほどの攻撃魔法を持っていなかったのかもしれない)
ステファノの興味は尽きなかったが、そろそろ昼が近づいていた。この日の調査はそこまでとし、ステファノは図書館を出た。
◆◆◆
食堂で昼食を食べていると、スールーが姿を現した。サントスと一緒ではないようだ。
「やあ、ステファノ。元気かい?」
「お陰様で何とかやっています。どの授業でも戸惑うことばかりですが」
「結構、結構。それだけ刺激があると言うことだろう?」
刺激のない生活は味気ないものだが、時と場合による。1日中刺激だらけでは体と精神が持たない。
「程々が一番ですね」
「ふふ。随分年寄りじみたことを言う」
「良く言われます」
ステファノはスールーの軽口をさらりと受け流した。
「ははは。君には皮肉が通じないね」
スールーは肩をすくめて笑った。言うことは大人っぽいが、そうしたふとした仕草には年相応の稚気が見える。
「そう言えば、『技術に詳しい魔術師』は見つかりそうですか?」
「昨日の今日だからね。やってはいるが、難しいよ。そっちはどうだい?」
「1人話を聞きつけて自分から手を上げてきた奴がいるんですが……」
「ほう? で、どうなんだい?」
ステファノの口振りに歯切れの悪さを感じたのだろう。スールーはすぐには喜ばなかった。
「それがどうも怪しくて。魔力がろくに練れないうえに、学科の勉強が不得手な様子です」
「それは難しそうだな。手先が器用なだけでは我々の研究にはついて来られないだろう」
「実家が物作りをしている豪商だそうなんで、本人さえしっかりしていれば良い縁だと思うんですが」
残念そうにステファノが言うと、スールーがそれを聞き咎めた。
「豪商だと? 待ってくれ。そいつの出身はどこなんだ?」
「ミョウシンさんと一緒だそうで、フェルディナンド男爵領と言っていました」
「何だって? そいつは大物だぞ!」
スールーはテーブルに身を乗り出した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第199話 だが、人望だけはあるのだ。」
その気持ちを汲み取ったわけではないのだが、トーマ本人はこれ幸いと細かい話、面倒くさい話は番頭たちに丸投げする生き方を身につけてしまった。
その分職人たちとのつき合いに精力を振り向けた。トーマとしては人助けや同情でそうしているわけではなく、その方が楽しいからそうするだけであった。
職人の方もそれは知っている。トーマが決して優秀な跡取りでないこともわかってつき合っている。
トーマの足りないところ、ダメな所もひっくるめて「坊っちゃん」「坊っちゃん」と言って可愛がっているのだ。
「あいつは喧嘩っ早い割に喧嘩が弱い。奢るのが好きな癖に金を貯める才覚がない。大風呂敷を広げてはすぐ挫折する」
「だが、人望だけはあるのだ」
……
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