上 下
198 / 638
第4章 魔術学園奮闘編

第198話 世に1つ落とせぬ城はセイナッドの城。

しおりを挟む
 その書は3つの部に分かれていた。

 第1部は「対人兵器の部」であった。
 第2部は「対騎馬兵器の部」であった。
 第3部は「攻城兵器の部」であった。

 挿絵のない古い字体の読みにくい書籍を、ステファノはじっくりと読み始めた。

 前置きもほとんどなしに、第1部ではいきなり対人兵器の紹介が始まっていた。
 第1章が「飛び道具」で、弓や投げ槍、投げナイフ、投石器、パチンコ、ボーラなど、様々な飛び道具が紹介されていた。

 人殺しの道具だということを度外視すれば面白そうな内容で、詳しく読んでみたいところであったが、本来の目的とは異なるので先に進むことにした。

 第2章は「斬撃武器」で、剣や刀、薙刀などが列挙されていた。これも読み飛ばすことにした。

 第3章は「刺突武器」で、槍やランス、レイピアなどが列挙されていた。これも目的外の項目だ。

 第4章は「その他の対人兵器」で、毒や罠、打撃武器などが紹介されていた。

 第1部は4章までであり、対人兵器はこれで終わりだ。対人魔法が取り上げられているとすればこの第4章に含まれるのではないか?

 慎重に読み進めると、それらしき箇所に出くわした。

「呪い、まじない、摩訶不思議」という項目があった。

(呪いもまじないも、言葉で行えば呪文てことでしょ? 摩訶不思議とは正に魔術のことではないのか?)

 ステファノは集中して読み始めた。

 文字だけの表現ではわかりにくい部分があったが、ステファノから見て「これは魔術のことではないか?」と思われる個所が数カ所あった。

鎌鼬かまいたち――見えざる刃を敵に飛ばす。狐狸妖怪の類か。あるいは管狐くだぎつねとも』

『遠当て――5歩の彼方より当て身を行う。板を割り、人を倒す』

『天狗高跳び――木々の梢を渡る。その身霞のごとく軽し』

『山津波、山嵐――水、岩、土、ことごとく山肌を下り、人馬を襲う』

『狐火、鬼火――人気なきところにあやしの火あり』

 自然現象か、妖怪のような伝説を語っているかのように見えるが、見方を変えれば魔術を語っているように見える。

(「天狗高跳び」なんて、土属性のジャンプ魔法にそっくりだ)

 ヨシズミと同行した街道で、ステファノ自身が使役した魔法に実によく似ている。
 他の項目も、魔術的現象であるかもしれない。

 ステファノは、「呪い、まじない、摩訶不思議」の項目をノートに書き写した。これらの現象を踏まえた上で、戦国時代の戦記を読んでみようと考えたのだ。

 目についた戦記を手に取り、出来事のつながりや戦いの流れなど、本来重要な内容を無視して「不思議な出来事」の出現だけを探していった。

 すると、不思議な豪族の存在が目についた。

 山深い土地に城を構え、養蚕、鉱業、鍛冶、林業などを主産業とする地方を拠点としている豪族であった。
 氏族の名をセイナッドと言った。

 セイナッドの土地は狭く、人も少なかった。他国へ攻め込む余力はなく、軍事的野心は薄かったようだ。
 しかし、容易く落とせそうなセイナッド城を軍事的な拠点にしようと、隣国の有力豪族に襲われることがあった。

 だが、落ちない。大軍を起して攻め寄せても、山あいの小城が落とせない。

 とにかく攻めにくい。攻め所が少ない。城壁に取りつけば石を落とされる、糞尿や熱湯を掛けられる。
 陣を構えれば不審火が出る。水が腐る。疫病が起こる。将が夜間に頓死する。

 読んでいて「運が良すぎるだろう」と、ステファノが呆れるほど「敵方に異変が起こる」のであった。

「セイナッドの城には大天使がついている」

 敵方の兵はそう言って、恐れた。

 セイナッドを攻めると聞けば、脱走者が続出するのだ。

 どれほど勇猛、優秀な将がいようとも、どれだけ強兵で要害を固めようとも、それを上回る多勢で攻められれば必ず城は落ちる。落ちない城はない。

「世に1つ落とせぬ城はセイナッドの城」

 そう謳われるほどセイナッドは不思議の強さを誇っていた。

 敵国にとっては小面憎い存在であったが、貴重な兵力、武器、食料を擲って攻め続けるほどの重要性がないため、ときどき思い出したように攻めては結局軍を引くという状態が何年も続いた。

 ある時、敵方豪族に有能な軍師がついた。各地の情勢を密偵に調べさせ、軍師はセイナッドの内情をも知るに至った。何人もの犠牲を出しながら敵地に密偵を侵入させ、内通者を作り出したのだ。

「セイナッドは『隠形五遁おんぎょうごとん』を究めた異能の集団である」

 その事実が明るみに出た。

 五遁とは「火遁」、「水遁」、「木遁」、「金遁」、「土遁」の五法を指し、であった。

(これは……! 師匠から習った魔法の基礎じゃないか)

 術の詳細は秘匿されているため定かではないとしていたが、火遁では自在に放火し、敵の混乱に乗じて遁走し、木遁、土遁では自然の草木や地形を利用して気配を消し、身を隠すのだと言う。

(仮に俺が密偵として働くなら、イドの鎧によって気配を消すことができる。追われても体を傷つけられることは滅多にないだろう。気配を消して敵陣で破壊工作や……暗殺をするのも難しくないはずだ)

 五遁という術も魔力の6属性を彷彿とさせる。「火」、「水」、「土」はそのままであるし、「金遁」とは「雷属性」を指しているかもしれない。雷気が金気を好むのは当然のことである。

「木遁」は特定しにくいが、「風属性」に通じるようにステファノは感じた。森に入って風を起せば、簡単に居場所をわからなくすることができる。

(だが、使っているのは隠形法だ。敵を圧倒するほどの攻撃魔法を持っていなかったのかもしれない)

 ステファノの興味は尽きなかったが、そろそろ昼が近づいていた。この日の調査はそこまでとし、ステファノは図書館を出た。

 ◆◆◆

 食堂で昼食を食べていると、スールーが姿を現した。サントスと一緒ではないようだ。

「やあ、ステファノ。元気かい?」
「お陰様で何とかやっています。どの授業でも戸惑うことばかりですが」
「結構、結構。それだけ刺激があると言うことだろう?」

 刺激のない生活は味気ないものだが、時と場合による。1日中刺激だらけでは体と精神が持たない。

「程々が一番ですね」
「ふふ。随分年寄りじみたことを言う」
「良く言われます」

 ステファノはスールーの軽口をさらりと受け流した。

「ははは。君には皮肉が通じないね」

 スールーは肩をすくめて笑った。言うことは大人っぽいが、そうしたふとした仕草には年相応の稚気が見える。

「そう言えば、『技術に詳しい魔術師』は見つかりそうですか?」
「昨日の今日だからね。やってはいるが、難しいよ。そっちはどうだい?」
「1人話を聞きつけて自分から手を上げてきた奴がいるんですが……」
「ほう? で、どうなんだい?」

 ステファノの口振りに歯切れの悪さを感じたのだろう。スールーはすぐには喜ばなかった。

「それがどうも怪しくて。魔力がろくに練れないうえに、学科の勉強が不得手な様子です」
「それは難しそうだな。手先が器用なだけでは我々の研究にはついて来られないだろう」
「実家が物作りをしている豪商だそうなんで、本人さえしっかりしていれば良い縁だと思うんですが」

 残念そうにステファノが言うと、スールーがそれを聞き咎めた。

「豪商だと? 待ってくれ。そいつの出身はどこなんだ?」
「ミョウシンさんと一緒だそうで、フェルディナンド男爵領と言っていました」
「何だって? そいつは大物だぞ!」

 スールーはテーブルに身を乗り出した。
 
――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第199話 だが、人望だけはあるのだ。」

 その気持ちを汲み取ったわけではないのだが、トーマ本人はこれ幸いと細かい話、面倒くさい話は番頭たちに丸投げする生き方を身につけてしまった。

 その分職人たちとのつき合いに精力を振り向けた。トーマとしては人助けや同情でそうしているわけではなく、その方が楽しいからそうするだけであった。
 職人の方もそれは知っている。トーマが決して優秀な跡取りでないこともわかってつき合っている。

 トーマの足りないところ、ダメな所もひっくるめて「坊っちゃん」「坊っちゃん」と言って可愛がっているのだ。

「あいつは喧嘩っ早い割に喧嘩が弱い。奢るのが好きな癖に金を貯める才覚がない。大風呂敷を広げてはすぐ挫折する」

「だが、人望だけはあるのだ」
  
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

処理中です...