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第2章 魔術都市陰謀編
第47話 こいつが食肉倉庫だ。
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「食糧倉庫は2つある。野菜用と肉用だ。肉用には魚も入れるがな」
2つの倉庫は隣り合わせて設置されていた。
「野菜倉庫の方はただの小部屋だ。明り取りの窓と換気口があるだけで外との出入口はない。――ここだ」
ジョナサンが開けて見せたドアの向こうには、3メートル×6メートル程の倉庫があった。壁に沿って棚が作られており、野菜や乾物が種類別に収納されている。
「窓は嵌め殺しですか?」
「ああ。あのガラスは開かない」
換気口は人間が通れるような物ではなく、さらに金網と鉄格子で動物の侵入も防いでいた。
「これなら虫も入りにくいですね」
「そうだな。それでもドアの隙間から入る奴もいるが」
あいつらは神出鬼没だからなと、ジョナサンは言った。害虫の完全な駆除は難しい。せいぜい餌を与えないよう、床を清潔に保つくらいしかできることは無かった。
「わかりました。この部屋はもう結構です」
ステファノは野菜倉庫に入りもせず、調査に見切りをつけた。
エリスの不信感はここでも募るばかりであった。
(野菜だって狙われるかもしれないのに)
本当にこんな子供に任せておいていいのだろうかと不安を覚えたが、ソフィアの指示には逆らえない。ジョナサンとは別の不満を抱えながら、エリスは巡回に同行していた。
「こいつが食肉倉庫だ」
ソフィアから預かった鍵をガチャガチャ言わせながら、ジョナサンは説明した。
「倉庫っていうよりは貯蔵庫だな。こっちは部屋という大きさじゃないんだ」
ドアを開けると、間口1メートルの空間が奥行き1.5メートルほど続いているだけだった。窓もなく、奥の壁上部に20センチ四方の換気口がついている。
「食肉倉庫の換気口にも、金網と鉄格子がついているんですね」
ステファノは換気口を見上げながら尋ねた。
「見ての通りだ。虫も入れねえよ」
左手の壁に棚が切ってあり、ブロック肉やベーコン、ソーセージの類が保管されている。
「入ってもいいですか?」
「ああん? いいけどよ、肉には触るなよ。ケントクがうるせえから」
狭い貯蔵庫に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌に触れる。北側とはいえ、この温度は異常だ。
「部屋を冷やしているんですか?」
「一番上の棚を見てみろ。鉄の箱があんだろ? 中に氷が入ってんだ」
氷を使った冷蔵庫という訳だ。箱の表面は露に覆われており、一部はぽたぽたと床に滴っていた。
「話には聞いたことがありますが、初めて見ました。氷は毎日入れるんですか?」
「そうだ。出入りの魔術師が作った氷を納めさせて、料理人が入れ替えているのさ」
これだけの大きさとなると、中級魔術師でなければ作ることができない。初級魔術師では氷の欠片が精々だった。
「肉の鮮度を保つには最適でしょうね。さぞかしお金も掛かるでしょうが」
貯蔵庫から出ながらステファノは感嘆の声を上げた。
「飯屋のせがれとしちゃ羨ましいか? ここじゃ肉を腐らせることはねえからな。じゃ、鍵を閉めるぜ」
あんまり長いこと開けっ放しにするとケントクが騒ぐんだよと、ジョナサンは言い訳した。肉切り包丁を片手に怒鳴られるのは御免被りたいそうだ。
「食肉倉庫の掃除はいつするんですか?」
「毎週日曜日の夜だ。料理人たちが倉庫を一旦空にして、掃除をする」
夕食の提供後、倉庫の食材をすべて厨房に運び出す。運び出した物はすべて処分することになっているそうだ。そのため日曜日の夜に大半を使い切れるように計算してある。
「腐っちまった訳じゃねえからな。残り物が多い時はお裾分けを頂いてるよ」
料理人、メイドなどの奉公人が持ち帰るそうだ。
「だからよ、月曜日だけは朝から肉の配達があるんだ」
2つの倉庫は隣り合わせて設置されていた。
「野菜倉庫の方はただの小部屋だ。明り取りの窓と換気口があるだけで外との出入口はない。――ここだ」
ジョナサンが開けて見せたドアの向こうには、3メートル×6メートル程の倉庫があった。壁に沿って棚が作られており、野菜や乾物が種類別に収納されている。
「窓は嵌め殺しですか?」
「ああ。あのガラスは開かない」
換気口は人間が通れるような物ではなく、さらに金網と鉄格子で動物の侵入も防いでいた。
「これなら虫も入りにくいですね」
「そうだな。それでもドアの隙間から入る奴もいるが」
あいつらは神出鬼没だからなと、ジョナサンは言った。害虫の完全な駆除は難しい。せいぜい餌を与えないよう、床を清潔に保つくらいしかできることは無かった。
「わかりました。この部屋はもう結構です」
ステファノは野菜倉庫に入りもせず、調査に見切りをつけた。
エリスの不信感はここでも募るばかりであった。
(野菜だって狙われるかもしれないのに)
本当にこんな子供に任せておいていいのだろうかと不安を覚えたが、ソフィアの指示には逆らえない。ジョナサンとは別の不満を抱えながら、エリスは巡回に同行していた。
「こいつが食肉倉庫だ」
ソフィアから預かった鍵をガチャガチャ言わせながら、ジョナサンは説明した。
「倉庫っていうよりは貯蔵庫だな。こっちは部屋という大きさじゃないんだ」
ドアを開けると、間口1メートルの空間が奥行き1.5メートルほど続いているだけだった。窓もなく、奥の壁上部に20センチ四方の換気口がついている。
「食肉倉庫の換気口にも、金網と鉄格子がついているんですね」
ステファノは換気口を見上げながら尋ねた。
「見ての通りだ。虫も入れねえよ」
左手の壁に棚が切ってあり、ブロック肉やベーコン、ソーセージの類が保管されている。
「入ってもいいですか?」
「ああん? いいけどよ、肉には触るなよ。ケントクがうるせえから」
狭い貯蔵庫に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌に触れる。北側とはいえ、この温度は異常だ。
「部屋を冷やしているんですか?」
「一番上の棚を見てみろ。鉄の箱があんだろ? 中に氷が入ってんだ」
氷を使った冷蔵庫という訳だ。箱の表面は露に覆われており、一部はぽたぽたと床に滴っていた。
「話には聞いたことがありますが、初めて見ました。氷は毎日入れるんですか?」
「そうだ。出入りの魔術師が作った氷を納めさせて、料理人が入れ替えているのさ」
これだけの大きさとなると、中級魔術師でなければ作ることができない。初級魔術師では氷の欠片が精々だった。
「肉の鮮度を保つには最適でしょうね。さぞかしお金も掛かるでしょうが」
貯蔵庫から出ながらステファノは感嘆の声を上げた。
「飯屋のせがれとしちゃ羨ましいか? ここじゃ肉を腐らせることはねえからな。じゃ、鍵を閉めるぜ」
あんまり長いこと開けっ放しにするとケントクが騒ぐんだよと、ジョナサンは言い訳した。肉切り包丁を片手に怒鳴られるのは御免被りたいそうだ。
「食肉倉庫の掃除はいつするんですか?」
「毎週日曜日の夜だ。料理人たちが倉庫を一旦空にして、掃除をする」
夕食の提供後、倉庫の食材をすべて厨房に運び出す。運び出した物はすべて処分することになっているそうだ。そのため日曜日の夜に大半を使い切れるように計算してある。
「腐っちまった訳じゃねえからな。残り物が多い時はお裾分けを頂いてるよ」
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