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第1章 少年立志編
第31話 尾行者あり。
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「ダールさんのおかげで宿に泊まらずに済み、働き口も見つかりました。恩に着ます」
「いいってことよ。あんちゃんの働きには助けられたからな。馬車で出掛ける用事が出来たら、いつでも俺ん所に声を掛けな」
ご機嫌なダールに送られて、ステファノは厩を後にした。
既に荷物一式は背中の背嚢に収めてある。このまま寮に住み込める状態ではあったが、まだ昼前の時間だ。ステファノは初めての呪タウンを見て回る気になっていた。
ネルソン商会があるのは問屋街の一角であった。見て回るなら小売商店の多いエリアが良いだろう。
初めての土地、もちろん土地鑑は無かったが、人の流れに従って歩いてみた。街の中央に向かって行くと徐々に人混みが濃くなって来る。
「この辺りが商業地区の中心かな?」
通りの両側に商店が軒を連ねるエリアにやって来た。
何を買おうという目的も決めていなかったので、まずは行き当たりばったりに歩き回りながら、目に留まった店に入ってみた。
物流が盛んなのであろう。故郷の街に比べて品数が豊富で、値段も安く感じられた。
「宿代が浮いたからな。身の回りの物を少し買ってもいいかも」
着替え、洗面具、食品……。
結局ステファノが足を止めたのは、裏通りの小さな道具屋だった。
「いらっしゃい」
二十歳くらいの若い男が暗い店の奥から声を掛けて来た。
「ゆっくり見て行ってね――」
そう言うと、男は手元の本に視線を戻した。商売っ気はないらしい。
ステファノの目当ては紙とペン、そしてインク。色とりどりの紙とインク。それを眺めているだけで、心が沸き立つ。
「と言っても、使うのはもっぱら白い紙に黒いインクだけどね」
インクの乗りが良さそうな紙を少しと、黒インクを一瓶購入した。
「毎度ありぃ。……つけられてるよ」
釣りを渡しながら、店の男が唇を動かさずに告げて来た。
「ありがとうございます」
さてどうしたものかと、ステファノは考えを巡らした。
尾行されるような心当たりがステファノにはない。この街には昨日着いたばかりなのだ。どう考えても、ネルソン商会絡みであろう。
この場合相手は誰であろうか? 仮に、ネルソンが守る人物を中心とした「病人組」、それを亡き者にしようと図る「陰謀組」が存在するとしよう。そこにクリードを動かした謎の勢力が存在する。これについては誰の味方かはっきりしないので、「灰色組」としておこう。尾行者はこの内どの勢力に所属するのか?
聞いてみる訳にいかない以上、ステファノには判断のしようがない。衛兵に突き出すことも出来ない訳だ。
採れる選択肢はいくつもない。人混みに紛れて尾行を巻くか、それとも敢てネルソン商会まで連れて行くか。
「これは……昼飯にするか?」
ドイルがかつて言っていた。考えがまとまらない時は飯を食いなさい、と。
悩みに悩み考えあぐねると、頭がかぁっと熱くなる。これは脳が能力一杯に働いているということ。それでも答えが出ないなら、焦らず気分を変えた方が良い。
何より脳も身の内だ。
「栄養を摂らなきゃ頭も働いてくれないよ」
ドイルはそう言って微笑んだではないか。
「食堂というのはとても良い商売だよ。たくさんの名案がこの食堂で生まれたに違いない」
ドイルはしたり顔でそう言ってアップルパイに齧り付いたが、こればかりは同意しかねた。うちの常連達と名案とやらはどうにも結びつかない。栄養は脳に回るより先に、腹に回ってしまったに違いない。
「プリシラにタルトが美味しいお店の場所、聞いておけばよかったかなあ……」
ぼやきながらステファノは鼻と目を頼りに、良さそうな食堂を見つけて窓際の席に陣取った。
「いいってことよ。あんちゃんの働きには助けられたからな。馬車で出掛ける用事が出来たら、いつでも俺ん所に声を掛けな」
ご機嫌なダールに送られて、ステファノは厩を後にした。
既に荷物一式は背中の背嚢に収めてある。このまま寮に住み込める状態ではあったが、まだ昼前の時間だ。ステファノは初めての呪タウンを見て回る気になっていた。
ネルソン商会があるのは問屋街の一角であった。見て回るなら小売商店の多いエリアが良いだろう。
初めての土地、もちろん土地鑑は無かったが、人の流れに従って歩いてみた。街の中央に向かって行くと徐々に人混みが濃くなって来る。
「この辺りが商業地区の中心かな?」
通りの両側に商店が軒を連ねるエリアにやって来た。
何を買おうという目的も決めていなかったので、まずは行き当たりばったりに歩き回りながら、目に留まった店に入ってみた。
物流が盛んなのであろう。故郷の街に比べて品数が豊富で、値段も安く感じられた。
「宿代が浮いたからな。身の回りの物を少し買ってもいいかも」
着替え、洗面具、食品……。
結局ステファノが足を止めたのは、裏通りの小さな道具屋だった。
「いらっしゃい」
二十歳くらいの若い男が暗い店の奥から声を掛けて来た。
「ゆっくり見て行ってね――」
そう言うと、男は手元の本に視線を戻した。商売っ気はないらしい。
ステファノの目当ては紙とペン、そしてインク。色とりどりの紙とインク。それを眺めているだけで、心が沸き立つ。
「と言っても、使うのはもっぱら白い紙に黒いインクだけどね」
インクの乗りが良さそうな紙を少しと、黒インクを一瓶購入した。
「毎度ありぃ。……つけられてるよ」
釣りを渡しながら、店の男が唇を動かさずに告げて来た。
「ありがとうございます」
さてどうしたものかと、ステファノは考えを巡らした。
尾行されるような心当たりがステファノにはない。この街には昨日着いたばかりなのだ。どう考えても、ネルソン商会絡みであろう。
この場合相手は誰であろうか? 仮に、ネルソンが守る人物を中心とした「病人組」、それを亡き者にしようと図る「陰謀組」が存在するとしよう。そこにクリードを動かした謎の勢力が存在する。これについては誰の味方かはっきりしないので、「灰色組」としておこう。尾行者はこの内どの勢力に所属するのか?
聞いてみる訳にいかない以上、ステファノには判断のしようがない。衛兵に突き出すことも出来ない訳だ。
採れる選択肢はいくつもない。人混みに紛れて尾行を巻くか、それとも敢てネルソン商会まで連れて行くか。
「これは……昼飯にするか?」
ドイルがかつて言っていた。考えがまとまらない時は飯を食いなさい、と。
悩みに悩み考えあぐねると、頭がかぁっと熱くなる。これは脳が能力一杯に働いているということ。それでも答えが出ないなら、焦らず気分を変えた方が良い。
何より脳も身の内だ。
「栄養を摂らなきゃ頭も働いてくれないよ」
ドイルはそう言って微笑んだではないか。
「食堂というのはとても良い商売だよ。たくさんの名案がこの食堂で生まれたに違いない」
ドイルはしたり顔でそう言ってアップルパイに齧り付いたが、こればかりは同意しかねた。うちの常連達と名案とやらはどうにも結びつかない。栄養は脳に回るより先に、腹に回ってしまったに違いない。
「プリシラにタルトが美味しいお店の場所、聞いておけばよかったかなあ……」
ぼやきながらステファノは鼻と目を頼りに、良さそうな食堂を見つけて窓際の席に陣取った。
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