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チート能力「マーフィーの法則」で異世界を生き抜けるか?
しおりを挟む俺はいきなり白い部屋にいた。
「何だこの場所は?」
見知らぬ人たちと列に並んでいる。
「先頭にいるのは誰だ?」
明らかに女神風の人だ。いや、女神だ。オーラというか、ハローというか。後光が差している。
「これはあれか? 何やらチート能力を貰って異世界に飛ばされるやつか?」
ラノベ的展開に巻き込まれたようだ。
「はい、次の人――」
俺の番が来た。どんな能力が良いのだろう。経験値二倍とか、必要経験値二分の一とか、即死魔法とか、全属性魔法適性とか、自動治癒とか、いろいろ選択肢があるぞ。
「次の人、どうぞ」
鑑定能力とか、アイテムボックスは当然のセットだよね。そこでチート枠を使われたくない。
「あなたですよー。」
ちゃんと決めておかないと、変な能力にされてしまうというパターンがあるからな。こういう場合は――。
「能力に希望はありますか?」
「――マーフィーの法則っていうやつに気をつけないと――」
「マーフィーの法則ですね。はい、注入! では、いってらっしゃ~い」
「エッ! いや、こっちの話で――。ああっ!」
体が光を発したかと思うと、金粉のようになって散って行く。
「違う、違う。そうじゃなくて――!」
「はい、次の人~」
俺は異世界へと飛ばされた。
一瞬眼の前が真っ白になったと思えば、次の瞬間はもう異世界にいた。異世界だよね? お馴染み、森の中からスタート。
「訳わからんが、とりあえずステータス!」
眼の前に想像通りのステータス画面。陳腐だなあ。
「わあ。レベルもHPも、MPも各能力値もすべて十って、どうなのこれ? めっちゃ手抜きだろ」
使える魔法はなし。スキルは「マーフィーの法則」だけ。以上。
「ないわー。雑だわー」
マーフィーの法則といえば、「トーストはバターを塗った側を下にして落ちる」とかいうジョークネタでしょ。昔流行ったっていう。
試しに「スキル」の項目をタップしてみると、
『特殊能力。魔力の消費なく発動することができる』
と、表示された。
法則の発動って何だよ? 何ができるの? 今度は「マーフィーの法則」をタップ。
『マーフィーの法則を発現させることができる能力』
「だから、その法則って何だよ? ん? 続きがある」
ページをめくると、マーフィーの法則の解説があった。
『任意の対象にマーフィーの法則を発生させる』
トーストを落としてどうするのよ?! それで異世界を生き抜けってか? やっちまったな、これ。
はい。詰みました――。
「おや? こんなところに人間が?」
突然、ボスキャラ感満載の奴が現れた。
「おっと、動くな」
「ぐっ! 体が……」
どうやら金縛りになる魔法をかけられたようだ。俺、絶体絶命?
「ふむ。名乗らぬのも下品だな。我はこの世を支配する魔王ジュラスだ」
本当にラスボスじゃん。開始五分で魔王戦て、ないわー。えっ?
「これがマーフィーの法則?」
「何を言っている? 貴様はなぜここにいる?」
マーフィーの法則って、「トーストはバターを塗った側を下にして落ちる」でしょう? 最悪の結果が起こるってことだよね? 俺、絶体絶命?
「答えられんのか? どうやら来る場所を間違えたようだな」
何とか穏便に立ち去るって訳に行かないかな? 行かないだろうなあ。マーフィーの法則発動中だからなあ。
「せめてもの情けに一撃で殺してやろう。そうだな。一瞬で心臓を打ち抜いてくれる」
魔王は、拳を掲げた。
やばい、やばい、やばい! やられたら死んじゃう。俺、絶体絶命! こんな時チートスキルがあれば―――。
「では、行くぞ!」
俺のチートスキルは、マーフィーの法則だけ。マーフィーの法則って、「失敗する可能性があるものは、失敗する」でしょ? えっ?
「ドリャーっ! ぐわあーっ!」
俺に殴りかかろうとしたジュラスは腕を押さえてしゃがみ込んだ。
「腕がー!」
そうだよね? マーフィーの法則って幾つもパターンがあるじゃん。バタートーストだけじゃなかった。
「貴様何をした?」
「形勢逆転だな、ジュラス」
やっと分かったよ、俺のスキル「マーフィーの法則」。「壊れる可能性があるものは、いつかは壊れる」とかね。
「こんなもの! キュア! ハハハ。既に治癒したわ」
おー、パチパチパチ。治癒魔法をお持ちなのね。羨ましい。
「何をしたか知らないが、貴様が勝利することなどない! 食らえ、地獄の業火!」
一瞬青い炎が起きかけたが、小さいまま消えた。
「何だと! 我が究極魔法を打ち消すだと?! ありえん!」
アリエールでしょう。あり得たんだから。
「これならどうだ、メテオストライク! オメガストーム! ブラディミスト!」
隕石は粉々に霧散し、大竜巻は微風に変わり、毒霧はぺしゃりと地面に落ちた。
「何だこれは? なぜ究極魔法の数々が効かぬ?!」
ああ、これもう消化試合だわ。引くわー。興ざめだわー。
「かくなる上は我が最終奥義の自爆魔法――」
「あ、そういうのもう良いです」
俺は魔王の心臓を止めて即死させた。
ふう。一応危なかったな。ギリギリの所でスキルの使い方を発見したので、何とか助かった。
楽勝だったけどが。
マーフィーの法則。それは起こりうる最悪の事態がいつかは起こるという警告。
鍵は「起こりうる」という限定と、「いつかは」という未確定性。それを自在に操れるスキルとは――。
「生物でも無機物でも、現象でさえ壊せるってこと」
誰でも「突然腕がつる」ってことあるよね。火炎には不完全燃焼という事故が起こりうる。岩石は内部崩壊することがありうるし、嵐は突然終わったりする。気体と液体の相変化は微量なら常に起きている。
「心不全なんていつ起きるか分からないよね」
これって俺無敵じゃね? マーフィーの法則、最強ー!
「俺に害のある現象すべてに、スキル自動発動ね。敵は心不全で倒せば良いと」
老化だけはどうにもならないけど、病気や怪我からは身を守れるし、どんな敵でもサクッと倒せるぜ!
「ところで、これからどうすりゃ良いんだろ? 何かヒントはないかな? ステータス!」
あらためてステータス画面をよく見直してみた。
「おや、次のページがあるみたいだ」
ページをめくると、この世界での俺のミッションが書かれていた。
「なになに? 魔の森で魔王ジュラスと合流し、その配下となって人類を滅ぼすだって?」
そりゃないじゃん! まさかの魔族側? もう魔王殺しちゃったよ?
「あー。やっちまったなぁ~、こりゃ」
まさかこんなところまでマーフィーの法則通りとは。
「起こりうる最悪の事態がいつかは起こる」
いつかって今日かよ?!
(おわり)
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