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第24話 決死の超加速

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「この子を保護してくださいませんか?」

 WO-9は隣町にたどり着き、教会を訪ねた。町の情報はアンジェリカが調べた物をダウンロードしてある。
 リリーの町は事実上全滅したことを聞き、教会を束ねる老司教は跪いて涙を流した。

「魔物の脅威からは誰も逃れられないのでしょうか。いずれこの町も襲われることになるのでしょう」
「そうならないように、僕たちは戦っています」
「そうか。あなた方が別の世界から来られたという勇者ですか?」

 教会には「遠話の水晶」が備えられている。不純物の少ない純粋結晶の水晶から磨き出した玉に、高位の魔導士が魔力を込めたものである。
 2つ組み合わせることにより、遠距離を結んで会話をすることができた。

 王城との連絡により、司教は勇者召喚の秘儀が成功したことを知っていた。

「町を襲った怪鳥は僕と仲間が倒しました。すぐにこの町が魔物に襲われることは無いでしょう」
「おお、あの怪鳥を倒して下さったのですか! 多くの兵士や冒険者が返り討ちにあったと聞きました」
「仲間は今も広がった魔物を倒して回っています。僕は今から魔物が出て来た洞窟を潰しに行きます」
「何と! 勇者の上に女神イルミナ様のご加護があらんことを!」

 祈りをささげる司教の腕の中で、リリーが目を覚ました。

「う、うーん……。あっ、お兄ちゃん!」

 自分を助けてくれた存在としてWO-9の顔を覚えていたのだろう。離れて行こうとするWO-9を見て、リリーは不安そうな声を上げた。

「リリー、司教様がキミを守ってくれるそうだ。良かったね。ボクは悪い魔物をやっつけに行くよ」
「お兄ちゃん!」

「リリー、元気でね。司教様、リリーをよろしくお願いします」

 思いを断ち切るように、スバルは教会を飛び出した。
 表に出るや否やオーバードライブのスイッチを入れる。

 たちまち音速に達したWO-9の後ろにはソニック・ブームが形成され、衝撃音が街を襲った。

 至近距離に雷が落ちたような振動と轟音に、司教は腰を抜かして倒れ込んだ。

「あ、あれが勇者か……」

 防護服との摩擦で熱せられた空気はWO-9の両肩から後方に吹き上がり、大気を歪め陽光にきらめいた。
 それはまるで天使が広げた羽のように、まばゆく真っ白に輝いていた。

 ◆◆◆

 超音速で疾走しながらWO-9は脳波通信の回線を開いた。

<アンジェリカ、そちらの状況は?>
<洞窟から出現した新規の魔物は1体だけよ。真っ直ぐ王城を目指して進んで来るわ>
<糞っ! 人間を探知するレーダーでも持っているのか?>
<そうとしか考えられないわ>

 WO-9に許された時間は少なかった。

<王城への予定到着時刻ETAは?>
<30分てところね>
<そうか>

 バッタ・モードグラスホッパーでは間に合わない。

<仕方がない。このままODを10分使う。そこからグラスホッパーを10分使えばそれで到着できるはずだ>
<わかっているわね。到着できてももうODは限界よ>
<ああ、高速機動装置なしでも戦ってみせるさ>
<今までの相手とは違うわよ>

 WO-9の決意に迷いはなかった。

<ボクたちはワールド・オーダーだ!>
<その意気だぜ、ブラザー>
<ブラスト。そっちの具合はどうだ?>
<後2体よ。2体倒せば、ブラストも合流できるわ>

 だが、WO-2は戦いながら王城から離れている。いかに超音速飛行を駆使しても、瞬間移動ができるわけではなかった。

<スバル、俺が行くまで無理をするなよ! 俺たちは2人合わせてワールド・オーダーなんだぜ>
<もちろんだ。キミが来るまで持たせて見せる!>
<へへ、どうでも俺たちは30分番組ハーフアワー・ショウの主役を張る運命らしいな>
<望むところさ。そしてヒーローは絶対に遅れない!>

 一歩一歩王城へと近づきながら、WO-9のボディーは破滅への道を進んでいた。限界を超える負荷に悲鳴を上げる人工組織。そして魔核の浸食に不安を抱えたWO-2。

 果たして2人は王城にたどり着けるのか? そして魔物を阻止することができるのか?

 ◆◆◆

魔人・・」は期待に震えていた。洞窟を出ると、大気は生命の気配にあふれていた。
 あれほど憧れていた生命に。

 踏みにじり、噛みしめるたびに迸る命のきらめき。
 それこそが魔人の存在意義であった。

 魔人は迷わない。迷う必要が無かった。
 目をつぶっても引き付けられる生命に向かって魔人は道をたどる。

 魔人は思う、「できるだけ抵抗してくれ」と。

 魔人は願う、「できるだけ折れずに立っていてほしい」と。

 その一瞬こそが魔人の生きがいであった。生にしがみ付く弱きものを手折る一瞬こそが。
 踏みにじるたびに噴き出す熱い血潮よ、頼むから涸れるな。

 ゴミのごとき者たちよ、生にしがみ付け!
 そして絶望の中で死ね。我が姿をこの世で見る最後の物として。

(右手に生命反応。数は5か、6か? 少なすぎる。つまらなすぎる)

 魔人は手応えを求めていた。自分を楽しませてくれる抵抗を。
 500年待たせた分の償いを期待していた。

(このまま進めば良いのだ。地面に河ができるほどの温かい血が、我が行くのを待っている)

 魔人は期待に胸を躍らせていた。

(抵抗してくれて良いのだぞ? 歯向かって見せよ。刃を、炎を我に向けて見よ!)

 非力なる存在による必死の抵抗をこそ、魔人は至極の楽しみとしていた。

(むっ? 何だ、この気配は。命にしては薄すぎる……)

 高速で近づいて来る者の気配を感じて、魔人は足を停めた。右方向から山を越えて・・・・・その気配は迫って来ようとしていた。

(気配が薄い割に速い。何だこれは? 獣か、鳥か?)

 山肌の一点が太陽の光を反射してきらりと光った。光は斜面に沿って、流星のように尾を引いた。

(ロボットか?)

 魔人は魔核から魔力を動かし、右手に集めた。無造作に脇から持ち上げると、流星に向かって火球を放つ。

 ズドーン!

 山裾に爆発とともに火柱が上がり、流星のような光は途絶えた。

(砕けたか? 何だと!)

 魔人の後ろから、莫大な熱量を持ったエネルギーが一直線に飛来した。
 魔力を右手に集め、魔人は飛来する光線を受け止めた。

(これは何だ?)

 白熱する溶岩すら握りつぶす魔力の装甲を青白い光がじりじりと焼いた。トータルの熱量では魔人の火炎魔法に及ばないが、1点に集中した威力は光線の方が上回っていた。

 光線を放っているのはグレーの服に身を包んだ青年であった。その手に持つ小さな物体が光線を発する武器か?

「ちいっ!」

 焦れた魔人は火球を連発した。

 そのたびにグレーの人影は霞むように消える。200メートルの距離をジグザグに走り、瞬く間に魔人との距離を縮めていた。

(もう少しで、懐に飛び込める。それまでは何とか……)

 魔人の攻撃をかわしながらWO-9は焦っていた。

(レイガンは決め手にならない。あのエネルギー反応が魔力なのか? 相手の魔力を削ってからでないと、装甲を突破できない)

 魔法を無駄撃ちさせるために、WO-9は我が身を囮にして走り回るしかなかった。
 そのためにオーバードライブを限界以上に使用している。

<WO-9、それ以上は無理よ。サイバネティック器官が持たないわ!>

 アンジェリカが止めても、WO-9は高速機動を止めなかった。

<これしかない。無理にでもこいつを倒しておかないと……。魔人はこいつ1人じゃない!>

 WO-9の探知機はもう1つの大きなエネルギー源を探知していた。

<魔人が数を増やす前に倒しておかないと、ブラストが来ても数の優位が保てない>

 正直なところ、1対1で魔人を倒すのは難しい。初手の攻防でWO-9は相手の強さを実感していた。
 攻撃がまともに通用しない。オーバードライブでの動きにも目が付いて来る。

<無理をしてでも、火力を集中して倒す!>

 スバルは決死の覚悟を決めた。
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