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第50話 コビ1とスラ1のフロアボス討伐

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 とにかく初撃を無傷でかわされたコビ1は、一旦ハルバードを持ち上げて構え直す動作が必要だった。
 だが、それを黙ってみているシルバーウルフではなかった。

「かぁーっ、ぺっ!」

 嫌な音を立てて、シルバーウルフは喉の奥から何かの物体をコビ1に向かって吐きつけた。

「あれは?」
「痰ニャ」
「きったね!」

 ただの痰だったが、コビ1は必死に身をかわした。そりゃ当たりたくはないだろう。
 俺だったら絶対に嫌だ。

 この間、グレーウルフはもう1頭のシルバーウルフを2頭がかりで蹴りつけている。何の意味もない行動だ。

 それに気づいた前線のシルバーが、よろめく足取りでもう1頭のところに戻ろうとする。
 ひょっとして老年夫婦ウルフか?

「コビ1、ストーップ!」

 これ以上の高齢者迫害を見ていられなくなった俺は、肩のアサルト銃を構えて通常弾をぶちかました。
 オリンピック選手並みの身体能力はぴたりと銃身を支え、狙ったところに弾を運ぶ。

 ガイーン、ガイーン!

 2頭の半グレ野郎は頭を吹き飛ばされて地面に倒れた。いや100%グレーだけどね、色味的には。

 取り残されたシルバーウルフ2頭は、ぷるぷる震えながらオレの顔色を窺っていた。
 アサルト銃を構えた俺を見て観念したのか、2頭寄り添うように地に伏せて目をつぶった。

「くっ! ええい、止めだ、止めだ! 後期高齢者に向ける銃は無い!」

 おれは銃口を下げた。

「相変わらずインドのお菓子グラブ・ジャムン並みの甘さニャ」
「戦う力のない相手を殺しても仕方ないだろうさ」
「そう言って情けを掛けた敵に寝首を掻かれる気かニャ?」

 むう。勿論それはごめん被りたい。そうなると、取れる選択肢はただ一つか。

「式神召喚! シルバーウルフをテイムせよ!」

 俺の声に応じて、どこからともなく飛んで来た蜜蜂・・2匹がチクり、チクリとシルバーウルフを刺した。

「これにて一件落着~!」

 これでしばらくすればシルバーたちの健康状態も改善するでしょう。年寄りウルフを飼っても戦力にはならないけどね。ダンジョンから出たら野生に返してやるか、この夫婦?

「トーメー、悪いお知らせニャ」
「え、何? こいつらの健康状態が手遅れなほど悪いとか?」
「いや、こいつら夫婦じゃなくてどちらもオスにゃ」

 えっ? 「ボーイズラブ」ならぬ「オールド・ボーイズ・ラブ」なの?
 トリッキーすぎるだろう、それ!

「後、こいつら年寄りじゃなくて、単に健康状態が悪かっただけニャ」
「何ですと?」
「アブノーマルなBL行為に浸食を忘れて耽溺した結果、健康を害して今日に至ったニャ」
「ワッザファッ!」

 そりゃあグレーウルフたちが怒るわけだ。これは放流決定ですな。
 BLに恨みはないけれど、仕事を放り出して恋に溺れる輩はちょっと歓迎できません。

 この「あつまれ ダンジョンの森」を制圧したら、改めてダンジョン内に放流しようか?
 外の世界に放したら生態系を破壊しそうだものねえ。

 うん、灰は灰に、ダンジョンはダンジョンに。

「くうーん」

 甘えた声を出しても、正体を知った今となっては憐れみは感じないのです。
 新宿2丁目の営業トークに聞こえるのです。

 さあ、先に進みましょう!

「うん? コビ1、どうした?」
「わわーん」
「活躍の場が無かったと嘆いているニャ」

 むむ。それは悪かったと思っている。こちらの早とちりで戦いに水を差してしまった。

「ついては、この先このフロアは自分とスラ1に任せてほしいと言っているニャ」
「むっ? 任せるとはどういう意味だ?」
「フロア丸ごと食べ放題ニャ!」

 アリスさんは通訳であって、本人が興奮しているわけではない。

「まあ、良いけどね。テイムしたいタイプの動物はいないので」

 そういうわけで俺はどこまでもストイックなコビ1達に、フロア討伐の主導権を委ねた。
 つっても出て来るモンスターがほぼ一巡したこのフロアに、あまり長居する意味もない。

 ハニービー軍団のガイドよろしく、俺達はボス部屋目指して先を急いだ。

 あまりの閑古鳥にただの荷物持ちになってしまっていたストーン5にも出番を与えようということで、ボス部屋へのチャレンジは、ストーン5+コビ1+スラ1の顔ぶれで挑むこととなった。

 うん。やっぱりちょっと過剰戦力だったね。次回からはメンバーを絞って入場しましょう。
 いざとなれば、ウチには召喚魔法こと、どこでもダンジョンがあるからね。どこダン。

 ボス部屋は突入後にボスがポップするタイプで、相手が不明であった。こういう時こそ基本を守れということで、ストーン5の前陣にコビ1とスラ1が続く形で突入を図る。
 もちろん、スタングレネードと催涙弾の露払い付きである。

 ドカーン! ピカッ! シューッ!

 音やら光やら煙やらという過剰演出に続いて、どれにも反応しないストーン5とスラ1、そしてガスマスクとサングラス、耳栓に身を固めたコビ1が突入した。

 コビ1だけがすべての刺激に過敏なので、身支度が大変だった。このチームには向いていないかも?

 過剰演出の中ぼわんと現れたのはゴールデンベアーだった。金色のでかい熊ね。
 ゴルフ用品ではありません。

 詳細不明だが、王者の貫禄十分だし、何だかお金の匂いがする。お宝が期待できそうだぞ。

「毛皮を燃やすなよ! 火気厳禁! 火気厳禁だ! ストーン5、凍結弾攻撃!」

 欲に目が眩んだオレの号令により、素早く液体窒素弾が発射された。

 シュキーン!

 ボス部屋の床が真っ白に凍り付いた。

 「むっ?」

 ゴールデンベアは液体窒素弾の超低温を察知するや否や、火炎ブレスを吐き出した。
 その上、全身の毛を逆立てると、バリバリと金色の光を放ちながら、雷魔法を発射してくる。

 ストーン5は15億ジュールの雷エネルギーを全身に浴びて眩しく輝いた。
 輝いたんだけど、所詮石なので何ということもなく電気は大地に流れて行った。

 こういう敵とは相性がよさそうだね、ストーン5。輝いて見えるよ、感電したせいか。

 ストーン5を避雷針代わりにして難を逃れたコビ1は、見ざる聞かざる言わざるファッションに身を固めたまま、例によって宙高く跳び上がる。

 その動き、必要かなあ?

 オーバーアクションにゴールデンベアが思わずつられた時、密かに忍び寄っていたスラ1が足元から襲い掛かった。

 毛皮を傷つけるなというオレの要望を反映して、スラ1はいつもの溶解攻撃ではなくゴールデンベアの頭部を覆う窒息攻撃に打って出た。
 所要時間が多少延びるものの、これもまたスラ1の必殺パターンである。

 スラ1が首元まで体を覆ってきた時、ゴールデンベアーは体をのけぞらせて思い切り息を吸い込んだ。
 果たしてこの後無呼吸で戦い切るつもりであろうか?

 上を向いた顔目掛けてコビ1がハルバードを叩きつける。

 しかし、ゴールデンベアーは少しも慌てず前足の爪でこれを弾き飛ばす。体格、質量の差がまともに出てしまい、コビ1はハルバードごと飛ばされた。
 だが、ゴールデンベアーの爪も高速振動カッターに斬り飛ばされた。

 ゴールデンベアーはひるまず、床を転がるコビ1に対して火球を3発続けざまに撃った。そこでスラ1のボディーが口元を覆う。

 コビ1がようやく回転を止め、膝立ちになったところへ火球が飛んで来る。立ち直るのが精一杯で素早く回避する動きは取れない。
 コビ1は覚悟を決めてハルバードの斧部分で頭部と上半身を守る構えを取った。

 その時、ダイヤマンが動いた。火球の発射と同時に対魔法防御システムを発動。液体窒素弾を発射していた。
 凍結弾はゴールデンベアーとコビ1の中間地点に着弾し、周囲を氷の壁で覆う。

 立ち上がる氷柱が後続の火球2発を止めたが、先頭の1発には間に合わず、すり抜けさせてしまった。

 ドーンと音を立てて着弾したファイアーボールが、ハルバード越しにコビ1に襲い掛かる。

「危ない!」

 爆発とともに広がった炎が収まると、そこにはハルバードだけが残されていた。
 コビ1の姿はどこにもない。

「コビ1……」

「上を見るニャ!」
「あれは!」
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