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第49話 トビーの進化
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「うーん。一時危ないかと見えましたが、終わってみればスラ1選手の圧勝でしたな」
「ただの水膨れだと思っていたニャが、火炎耐性に役立つとは思わなかったニャ」
そうだよねえ。誰が見ても火に弱そうなのに。
「そう言えば、似たようなものを見たことがあったわ」
「うん? 何ニャ?」
「お笑い番組でお馴染みの『耐熱ジェル』だよ」
「耐火服から露出した部分に塗る『ドロドロ』ニャか?」
そう。それよ。あれって、簡単に蒸発しそうに見えて熱を遮断するんだよね。
科学の力って素晴らしい。
倒したレッド・フォックスはスラ1君が美味しく頂きました。お食事シーンは自主規制させていただきます。
「スラ1は物理最強の称号に魔法耐性が加わりそうな勢いですな」
「まだ火炎耐性だけニャ。他の属性魔法との相性はどうだかニャ?」
「果たしてそういう敵が出て来ますかねえ」
雷属性とかは相性が悪そうだけど、どうなるかな? 今後の楽しみといたしましょう。
スラ1選手、お疲れさまでした。
「次は、トビーの番ニャ」
トビーは前回油断したために、伏兵のグールに奇襲されたことを痛く反省したらしい。仕事の合間を縫って自主トレに励んでいたんだそうな。何て真面目な子。
「kWaAAAA!」
「トビー選手、やる気がみなぎっていますねえ。これは良い戦いが期待できますよ」
「式神偵察隊によると、あの右手の部屋に入るとグリーン・ラクーンが5匹湧いているそうニャ」
「5匹もいるの? トビー君、敵がちょっと多いけど大丈夫?」
「krrrrReee!」
おおー、やる気満々だね。
さて、グリーン・ラクーンはどんな攻撃パターンを持っているのか?
「平成の時代ニャらお腹をぽんぽこ……」
「えへん! 力の強いプロダクションとか、根強いファンとかはなるべく敵にしない方が良いですねえ」
「異世界まで大人の事情があるとは思わなかったニャ」
「異世界が治外法権に当たるかどうかは、まだ判例がありません」
「KrWaaaAAA!」
ああ。トビー君が早く行かせろとせっついてますね。失礼しました。
「じゃあ、トビー。ストーン・ダイヤモンドがドアを開けるから、そのタイミングで飛び込んでね」
俺はダイヤマンに目で合図した。(あ、ダイヤマンてのはストーン・ダイヤモンドの愛称ね。書くのが面倒くさくなったとかじゃないからね)
「3-2-1、ゴー、ゴー、ゴー!」
ドアが開くと同時に、トビーは風を切って飛び込んだ。天井をかすめたと思ったら、床すれすれまでダイブしてスピードに乗る。
グリーン・ラクーンはようやくトビーに気付いて、毛を逆立てたところだ。
もちろんお腹は叩かない。ちなみに狸は日本の固有種なので、ラクーンと言えば「アライグマ」を指すことが多い。
今回は異世界産モンスターなので「狸のようなもの」というのが的確な表現であろう。
「適当な情報で炎上するのを恐れる姿勢が見苦しいまでに卑屈に見えるニャ」
「俺は小学校3年生の時おろし立ての靴で犬のうんこを踏んで以来、常に最悪に備えるということを人生訓にして来たのだ」
もう1つ、人生において「本当の友達」などいないということをその時学んだ。ぐすん。
「とか何とか言ってる間に、トビー君の第1波攻撃!」
そう言っても、トビー君の攻撃パターンは「超音波砲」一択ですからね。有効性は認めるものの、「華」というものがね、ちょっと……。えっ?
トビーは超音波砲でラクーンを狙う代わりに、天井目掛けて発射した。ズズズと振動し始めた天井は、1秒後にガラガラと崩落した。細かい粉が舞い、ラクーンの視界を塞ぐ。
「なるほど。岩石によるダメージと粉塵による目隠し効果を狙ったけん制攻撃ですな」
「一発の決定力は今一つニャが、範囲攻撃になっているところにメリットがあるニャ」
一時的にグリーン・ラクーンの動きが止まり、身を揺すって粉塵を振り飛ばそうとしている。
「Pinkie Queeeeeeeen……」
「うん? 何だ、この音は? ピンキー・クイーンて聞こえた気がするけど」
「周波数スペトル的には高周波帯の音ニャ」
「Gyann!」
グリーン・ラクーンが何かに跳ねられたように地面に倒れ、前足で頭を抱えた。
「これは……、トビーの音波攻撃ニャ。超音波砲の周波数帯域をあえて敵の可聴周波数ギリギリまで下げて、超指向性の音波を浴びせかけているニャ」
「ピンキー・クイーンって聞こえたのはそれが漏れて来たわけか」
「軍事的に言うニャらLRAD(Long Range Acoustic Device 長距離音響発生装置)ニャ」
何ですと? 平衡感覚を狂わせ不快感を与えたり、大威力の物は中耳を破壊するだと。
「いかにもウィキで調べて来たと言わんばかりの情報ニャ」
「ちょっとアカシックなレコードとスピリチュアルなパスがつながったのです」
とか言っている間に、後ろにいたグリーン・ラクーンが苦し紛れのファイアーボール攻撃ー!
トビー君、これはいつか見た危機だー!
「Bach……!」
「今度は何だ?」
「いや、明らかにトビーニャろ?」
ヨハン・セバスティアン・バッハ、ドイツの音楽家……。
「ウィキの引用はもうたくさんニャ! これも音響発生装置ニャ」
グリーン・ラクーンが発射したファイアーボールは見えない壁に衝突したように砕けて散った。
「うおっ! バリア的な何か!」
「音響的な衝撃波ニャ」
手を使えないトビーがひねり出した防御手段というわけだ。
攻防一体の良い「型」ですな。
ファイアーボールを封じられたグリーン・ラクーンは、力尽きて倒れた。
「ううむ。敵の攻撃を完封した、危なげない勝ち方でしたな」
「自主トレの成果が出たニャ」
ちなみにトビー君が「きれいに」敵を倒してくれたおかげで、今回は毛皮の採取に成功した。
えー、スラ1がお口から体内に侵入して「ちゅーちゅー」やってくれた結果、見事に毛皮だけ残ったというわけだ。
「何となくミイラの作り方を連想しますが……」
「貴重な資源の再利用だと考えるニャ。SDGs、SDGsニャ」
毛皮の回収に成功したのはグリーン・ラクーン1体だけだ。残りの4体は時間と共に光の粉となって消えて行った。ダンジョンの不思議作用によって分解回収されたのであろう。
こっちの方が究極の資源再利用かもしれない。
狸と言っても大型犬サイズはあるので、毛皮にすればそれなりの大きさになる。自然界に緑色の狸はいないので、好事家の金持ちかお貴族様に高く売れるかもしれない。
何しろ今回はボランティアですからね。討伐報酬が出ないからには、自分で利益を生み出さねばならない。
毛皮や素材は大歓迎である。
「さて、次の戦闘対応はコビ1選手、相手は?」
「次の大広間にグレーウルフとシルバーウルフの混成チームが徘徊しているニャ。数は2頭+2頭ニャ」
「しかし、グレーとシルバーって見分けがつくのかな? パッと見同じじゃね?」
偵察隊は「見ればわかる」と言っているそうなんだが……。
◆◆◆
見たらわかった。
グレーウルフは「グレーな輩」だった、なぜかヘアースタイルがモヒカンとかドレッドヘアーっぽくなっており、顔には傷痕があったりする。
それ以前に、何というのだろう、「オラオラ感」が半端なくにじみ出ていた。
3秒に1回唾を吐く。
シルバーウルフは「シルバー」だった。毛艶が悪く、所々銀毛が抜けている上に、やせ衰えて足元がふらふらしていた。歯も抜けている。
「グレーの方は敵役としてやり易いんだけど、シルバーはいじめにならないかなあ?」
「先の短い年寄り程恐ろしいということもあるニャ。油断は禁物ニャ。ワン公、気を抜くニャよ!」
「ふワン……」
コビ1君が短い鳴き声の中に不安感をにじませるという細かい芸当を見せている間に、グレーウルフはオラついた仕草でシルバーウルフをせっついて前面に押し出した。
四足動物なのにヤクザキックができるとは……。無駄なところに芸が細かい。
「行け、コビ1!」
「ワオーン!」
迷いを振り切ったコビ1は高らかに吠えると、無駄に高い身体能力で宙に跳び上がった。
正面対決時にはあまり意味がないと思うのだが……。
天井まで跳び上がったコビ1は三角跳びの要領で天井を蹴り、ツバメのような勢いでシルバーウルフの一頭に襲い掛かった。
そして振り下ろす必殺のハルバード! それ、俺の武器なんだけど完全にコビ1用になってるよね? もう良いや、譲るよ。
ガリンっ!
乾いた響きを立てて高周波ブレードが床の岩を削る。
ふらーり。狙われたシルバーウルフはよろめくような足取りで、コビ1の一閃をかわしていた。
「むっ! こ、この動きは……?」
「単純によろけたニャ」
「ですよねー。じっとしていられないだけですね」
「ただの水膨れだと思っていたニャが、火炎耐性に役立つとは思わなかったニャ」
そうだよねえ。誰が見ても火に弱そうなのに。
「そう言えば、似たようなものを見たことがあったわ」
「うん? 何ニャ?」
「お笑い番組でお馴染みの『耐熱ジェル』だよ」
「耐火服から露出した部分に塗る『ドロドロ』ニャか?」
そう。それよ。あれって、簡単に蒸発しそうに見えて熱を遮断するんだよね。
科学の力って素晴らしい。
倒したレッド・フォックスはスラ1君が美味しく頂きました。お食事シーンは自主規制させていただきます。
「スラ1は物理最強の称号に魔法耐性が加わりそうな勢いですな」
「まだ火炎耐性だけニャ。他の属性魔法との相性はどうだかニャ?」
「果たしてそういう敵が出て来ますかねえ」
雷属性とかは相性が悪そうだけど、どうなるかな? 今後の楽しみといたしましょう。
スラ1選手、お疲れさまでした。
「次は、トビーの番ニャ」
トビーは前回油断したために、伏兵のグールに奇襲されたことを痛く反省したらしい。仕事の合間を縫って自主トレに励んでいたんだそうな。何て真面目な子。
「kWaAAAA!」
「トビー選手、やる気がみなぎっていますねえ。これは良い戦いが期待できますよ」
「式神偵察隊によると、あの右手の部屋に入るとグリーン・ラクーンが5匹湧いているそうニャ」
「5匹もいるの? トビー君、敵がちょっと多いけど大丈夫?」
「krrrrReee!」
おおー、やる気満々だね。
さて、グリーン・ラクーンはどんな攻撃パターンを持っているのか?
「平成の時代ニャらお腹をぽんぽこ……」
「えへん! 力の強いプロダクションとか、根強いファンとかはなるべく敵にしない方が良いですねえ」
「異世界まで大人の事情があるとは思わなかったニャ」
「異世界が治外法権に当たるかどうかは、まだ判例がありません」
「KrWaaaAAA!」
ああ。トビー君が早く行かせろとせっついてますね。失礼しました。
「じゃあ、トビー。ストーン・ダイヤモンドがドアを開けるから、そのタイミングで飛び込んでね」
俺はダイヤマンに目で合図した。(あ、ダイヤマンてのはストーン・ダイヤモンドの愛称ね。書くのが面倒くさくなったとかじゃないからね)
「3-2-1、ゴー、ゴー、ゴー!」
ドアが開くと同時に、トビーは風を切って飛び込んだ。天井をかすめたと思ったら、床すれすれまでダイブしてスピードに乗る。
グリーン・ラクーンはようやくトビーに気付いて、毛を逆立てたところだ。
もちろんお腹は叩かない。ちなみに狸は日本の固有種なので、ラクーンと言えば「アライグマ」を指すことが多い。
今回は異世界産モンスターなので「狸のようなもの」というのが的確な表現であろう。
「適当な情報で炎上するのを恐れる姿勢が見苦しいまでに卑屈に見えるニャ」
「俺は小学校3年生の時おろし立ての靴で犬のうんこを踏んで以来、常に最悪に備えるということを人生訓にして来たのだ」
もう1つ、人生において「本当の友達」などいないということをその時学んだ。ぐすん。
「とか何とか言ってる間に、トビー君の第1波攻撃!」
そう言っても、トビー君の攻撃パターンは「超音波砲」一択ですからね。有効性は認めるものの、「華」というものがね、ちょっと……。えっ?
トビーは超音波砲でラクーンを狙う代わりに、天井目掛けて発射した。ズズズと振動し始めた天井は、1秒後にガラガラと崩落した。細かい粉が舞い、ラクーンの視界を塞ぐ。
「なるほど。岩石によるダメージと粉塵による目隠し効果を狙ったけん制攻撃ですな」
「一発の決定力は今一つニャが、範囲攻撃になっているところにメリットがあるニャ」
一時的にグリーン・ラクーンの動きが止まり、身を揺すって粉塵を振り飛ばそうとしている。
「Pinkie Queeeeeeeen……」
「うん? 何だ、この音は? ピンキー・クイーンて聞こえた気がするけど」
「周波数スペトル的には高周波帯の音ニャ」
「Gyann!」
グリーン・ラクーンが何かに跳ねられたように地面に倒れ、前足で頭を抱えた。
「これは……、トビーの音波攻撃ニャ。超音波砲の周波数帯域をあえて敵の可聴周波数ギリギリまで下げて、超指向性の音波を浴びせかけているニャ」
「ピンキー・クイーンって聞こえたのはそれが漏れて来たわけか」
「軍事的に言うニャらLRAD(Long Range Acoustic Device 長距離音響発生装置)ニャ」
何ですと? 平衡感覚を狂わせ不快感を与えたり、大威力の物は中耳を破壊するだと。
「いかにもウィキで調べて来たと言わんばかりの情報ニャ」
「ちょっとアカシックなレコードとスピリチュアルなパスがつながったのです」
とか言っている間に、後ろにいたグリーン・ラクーンが苦し紛れのファイアーボール攻撃ー!
トビー君、これはいつか見た危機だー!
「Bach……!」
「今度は何だ?」
「いや、明らかにトビーニャろ?」
ヨハン・セバスティアン・バッハ、ドイツの音楽家……。
「ウィキの引用はもうたくさんニャ! これも音響発生装置ニャ」
グリーン・ラクーンが発射したファイアーボールは見えない壁に衝突したように砕けて散った。
「うおっ! バリア的な何か!」
「音響的な衝撃波ニャ」
手を使えないトビーがひねり出した防御手段というわけだ。
攻防一体の良い「型」ですな。
ファイアーボールを封じられたグリーン・ラクーンは、力尽きて倒れた。
「ううむ。敵の攻撃を完封した、危なげない勝ち方でしたな」
「自主トレの成果が出たニャ」
ちなみにトビー君が「きれいに」敵を倒してくれたおかげで、今回は毛皮の採取に成功した。
えー、スラ1がお口から体内に侵入して「ちゅーちゅー」やってくれた結果、見事に毛皮だけ残ったというわけだ。
「何となくミイラの作り方を連想しますが……」
「貴重な資源の再利用だと考えるニャ。SDGs、SDGsニャ」
毛皮の回収に成功したのはグリーン・ラクーン1体だけだ。残りの4体は時間と共に光の粉となって消えて行った。ダンジョンの不思議作用によって分解回収されたのであろう。
こっちの方が究極の資源再利用かもしれない。
狸と言っても大型犬サイズはあるので、毛皮にすればそれなりの大きさになる。自然界に緑色の狸はいないので、好事家の金持ちかお貴族様に高く売れるかもしれない。
何しろ今回はボランティアですからね。討伐報酬が出ないからには、自分で利益を生み出さねばならない。
毛皮や素材は大歓迎である。
「さて、次の戦闘対応はコビ1選手、相手は?」
「次の大広間にグレーウルフとシルバーウルフの混成チームが徘徊しているニャ。数は2頭+2頭ニャ」
「しかし、グレーとシルバーって見分けがつくのかな? パッと見同じじゃね?」
偵察隊は「見ればわかる」と言っているそうなんだが……。
◆◆◆
見たらわかった。
グレーウルフは「グレーな輩」だった、なぜかヘアースタイルがモヒカンとかドレッドヘアーっぽくなっており、顔には傷痕があったりする。
それ以前に、何というのだろう、「オラオラ感」が半端なくにじみ出ていた。
3秒に1回唾を吐く。
シルバーウルフは「シルバー」だった。毛艶が悪く、所々銀毛が抜けている上に、やせ衰えて足元がふらふらしていた。歯も抜けている。
「グレーの方は敵役としてやり易いんだけど、シルバーはいじめにならないかなあ?」
「先の短い年寄り程恐ろしいということもあるニャ。油断は禁物ニャ。ワン公、気を抜くニャよ!」
「ふワン……」
コビ1君が短い鳴き声の中に不安感をにじませるという細かい芸当を見せている間に、グレーウルフはオラついた仕草でシルバーウルフをせっついて前面に押し出した。
四足動物なのにヤクザキックができるとは……。無駄なところに芸が細かい。
「行け、コビ1!」
「ワオーン!」
迷いを振り切ったコビ1は高らかに吠えると、無駄に高い身体能力で宙に跳び上がった。
正面対決時にはあまり意味がないと思うのだが……。
天井まで跳び上がったコビ1は三角跳びの要領で天井を蹴り、ツバメのような勢いでシルバーウルフの一頭に襲い掛かった。
そして振り下ろす必殺のハルバード! それ、俺の武器なんだけど完全にコビ1用になってるよね? もう良いや、譲るよ。
ガリンっ!
乾いた響きを立てて高周波ブレードが床の岩を削る。
ふらーり。狙われたシルバーウルフはよろめくような足取りで、コビ1の一閃をかわしていた。
「むっ! こ、この動きは……?」
「単純によろけたニャ」
「ですよねー。じっとしていられないだけですね」
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