うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

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第44話 メラニー姐さん、久々の登場!

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「これはこれは、トーメー様。お元気そうで何よりです」
「あ、メントスさん。お久しぶりです。これ、手土産です」

 俺は我が家謹製「清酒お味見」の風呂敷包みを差し出した。この風呂敷も自家製よ?
 我が家のスパイダースがチクチク織った物ですから、西陣織にも負けませんわ。オーホッホ。

「お、もしやそれはこの間の? いや、お気遣い恐縮です。うん? この包みにしている布も上等ですな。糸の細さ、織の繊細さ、染色の鮮やかさ。どれをとっても一級品。失礼ながら、どちらで入手されたものでございましょう?」

 おお、さすがメントスさん、目から鼻へ抜けるとはこのことか。ミントが効いてるね。

「いやいや、お褒めにあずかり恐縮です。これは当家自家製でして、『門外不出』の秘伝です」

 最近はこの「門外不出」シリーズに頼ってます。こう言っとくと多少の秘密は隠しきれるし、深く突っ込まれないで済むという必殺技であります。

「左様ですか。ご商売にされるおつもりは無いと? うーむ、惜しいですな。しかし、そうなると貴重な品物ということになりますな。わたくしが頂いてよろしいので?」
「どうぞどうぞ。お近づきの印ですからご遠慮なく」

 お酒が取り持つ縁て奴ですな。コストは「ゼロ」なので、こっちは痛くもかゆくもありませんよ?

「さて、本日はダンジョンについてのお話と伺いましたが……」
「はい。昨日討伐が完了しまして」
「えっ? 昨日? まさか、嘘でしょ?」

 メントス氏は予想外の展開にうろたえた。
 まさか3日でダンジョン討伐を完了するとは思ってもいなかったらしい。そりゃそうだろうね。

 普通は日帰りで潜っては戻ってを繰り返し、ダンジョン途中に拠点を作りながら少しずつ探索距離を伸ばしていくものらしい。いきなり最深部まで直行するなど、狂気の沙汰であった。

 ごめんなさいね、普通じゃなくて。俺じゃなくて、主にウチのメンバーだけどね。普通じゃないのは。

「本当にダンジョンを討伐したんですか?」
「はい。運にも恵まれて無事生還しました。何ならダンジョンがあった場所を調べていただいても結構です。もはや影も形もなくなっていますので」
「それはまたすさまじい早業ですな。いや、驚きました」

 メントス氏は俺のグラスに白ワインのお替りを注ぎながら、言った。

「それでいかがでしたか、ダンジョンは?」
「ああ、これを見てもらえば一目瞭然かと」

 俺は鞄からドーンと書類の束を取り出して、テーブルに載せた。

「これは? 『トーメー探検隊ダンジョン攻略記』?」
「今回のダンジョン攻略の全てを記録にまとめました」

 嘘だけどね。知らせても問題ない形で情報を限定し、アリスさんが書き下ろしたレポートである。
 忘れがちだけどアリスさんはAIなので、記録を取ったり、情報を印刷したりするのは得意なのだ。

 筆跡まで俺に似せた力作であった。

「これはまた攻略直後でもあるにもかかわらず、これほどのレポートを纏めて下さるとは……」

 どうせ手を抜いているのだろうと、何ページも飛ばして読んでいたメントスであったが、いたって真面目な力作であることを見てとって、己の心の醜さを強烈に恥じた。

「トーメー様! わたくしあなた様を誤解しておりました。お許しください!」
「おや、まあ? 何でしょう?」
「どうせ能天気のお気楽男で、ノリと勢いだけでダンジョン攻略に出掛けたお調子者だと思っておりました」

『この男、人を観る眼がすさまじく鋭いニャ!』
『よしなさい! 胸が痛むんだから……』

「命がけのダンジョン攻略を成し遂げた当日に、これだけの報告書を書き綴るなど、常人のできることではございません。これは後進のため、世の中のために我が身を擲つ覚悟がなければできないこと。わたくし深く感銘を受けました!」
「いえいえ、パイオニアとして当然の義務です」

『痛い! 心が、胸が、良心が切り刻まれる!』
『手遅れニャ。人を欺いて生きて行く男の当然の報いニャ』
『あ、でもそれも含めてオレの手柄なんだから、別にいいのか?』
『てめえ、1回地獄に落ちろニャ!』

「止めておけ。こいつを褒めたところで、世の中のためにはならんぞ」

 あんまりなお言葉と共に登場したのは、我が愛しのメラ姐さんだった。

「姐さん!」
「誰がお前の姉だ!」
「そんな冷たい」

 あれだけ熱くやり合った仲じゃないですか? 主に陰謀とか、暗殺未遂とかだけど。

「あれ? でも、今の感じだとメラニーさんて番頭さんより偉いんですか?」
「ふん、私はゴンゾーラさまの秘書だと言ったはずだ。案件により会長の権限を代行することがある」
「なある。わたくしトーメーはメラニーさん案件ということでよろしいんですね?」

「まあな。これだけ色々騒ぎを起こされては、私が対応するしかないというわけだ」
「騒ぎですかぁ。おとなしく生きているだけなんですけどねぇ。ダンジョンとか俺が作ったわけじゃないし」

「当たり前だ。ダンジョンを出したり消したりできる奴が、この世にいてたまるか!」

 あ、それできちゃいますけど。うちのダンマスを使えば。面倒くさくなるから言わない方が良いだろうな。

「それで姐さん、今日はどんな御用で?」
「お前がダンジョン討伐から帰って来たと聞いたので、状況を確認しに来ただけだ」
「ひょっとして心配してくれたりして……」
「一切せん!」

 ですよねー。そういうキャラじゃないですもんね。良いんです。M的な意味で憧れてますから。

『ジジイ、変態性が独白に漏れ出してるニャ』
『おっと、ほどほどにしておかないと性癖が進んでしまう』

「メントス、それがダンジョン討伐の記録か?」
「左様です。実に詳細な物です」
「うむ。読み終わったら私のデスクに回しておけ」

「だったら、メントスさんは手袋着用で報告書に臭いとか手垢とか付けないようにしてください。メラ姐さんは素手で触ってもらって結構ですので」
「目を輝かせて気持ちの悪いことを言うな。先に報酬の話をしておこう。お前の口座に1千万マリ振り込んでおいた」

「おう、結納ですか?」
「めでたいのは頭だけにしておけ! 報酬だと言っている。妥当な金額だろう」

 どうでしょうね? 前例のない危険業務ということを考えると、ちょいとお安い気もするが。
 まあ、メラニーさんの顔を立てて、ここはありがたく頂戴いたしましょう。

「不満はございません。毎度ありがとうございます」
「よし。それで、報告はそれだけか?」

『さて、ここからが本題ですよ』
『ダンジョン開発の独占権を獲得するニャ!』

「恐れながら、報告書には書けない秘密の情報がございます」
「うむ。秘密なのはわかったから、顔を近づけるな」

『真面目にやるニャ。重要な交渉事ニャ』
『へいへい。久しぶりだから姐さん臭をちょっと補充しておこうと思っただけです』

「実は――ダンジョンは他にも存在する可能性がございます」
「何だと? 本当なら一大事だぞ。その根拠は?」
「今回現地に潜ってみて実感しましたが、ダンジョンとは現実の地形ではありません」
「ふむ。記録では迷路や部屋が縦横に存在する不思議な空間であると言う」

「それだけではございませんぞ。湖水地帯や森林地帯、砂漠など地下にはあり得ない空間が存在する異界でございました」
「喋り方が気持ち悪いが、意味は分かった。ダンジョンが異界につながっているとしたらどうなのだ?」

「数百年に一度現れると言うダンジョンの特性は、地中深くに埋もれていたダンジョンが地形変化により偶然地表につながったものと考えられます」
「ということは?」
「他にもダンジョンがこの国の地中に埋もれている可能性がございます」

 ガーン! ドラマなら効果音が入るところだね。SE担当がいないので、表情で表現しておきました。

「何だ、その顔は? 自分で言って驚く奴があるか?」
「いや、でも驚いたでしょ?」
「お前の顔芸に驚くわ!」 
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