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第36話 いざ、第3層へ。森の世界へようこそ。

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「森ですな」
「森ニャ」

 森の中に小道が通っていて、小道以外のエリアの入ろうとしても見えない壁があって進めないタイプの迷路だった。

「余計な手間を掛けてるなあ。迷路なら屋内タイプで良いのに」
「まるでゲームマスターがプロデュースしているような作り込みニャ」
「なるべく長く滞在してもらおうっていう意図があるのかなあ?」
「ぷぷるぷるぷる」
「えっ? 生体兵器を開発中の異世界秘密結社がより強力な兵器を開発するため試作品を異世界人と戦わせ、戦闘データを集めている可能性がある? 何そのシュールな設定?」

 だいたいスラ1君は「そっち側」の出身じゃなかった? 宇宙空間を彷徨さまよっている間に捕獲された? なぜまた宇宙に? 侵略のための遠征中? 怖いわー。宇宙貨物船を乗っ取ったりしてないよね?

「深く追求しない方が幸せな気がして来た……」
「ジジイの現実逃避は一級品ニャ」

「森林エリアの良いところを楽しみましょう。マイナスイオンとかフィトンチッドとか出てるんじゃないの?」
「どっちかというと便所の臭いでお馴染みのラフレシアの甘い香りが漂って来るニャ」
「要らんわっ!」
 
 せめて神秘の泉とか、龍神の滝壺とか、世界樹の森とかって感じの不思議スポットでも出て来ないかなあ。
 麗しのエルフとかね? 森と言えば、やっぱり……。

「ジャイアント冬虫夏草がいるニャ」
「見たくなーいっ! そう言うんじゃなくてさ。森の一等地的な場所に何かシンボル的なものがさ」
「ジャイアント森蛭もりビルがいるニャ」
「なんそれ? 確かに一等地にいそうだけどが!」
「複数形になると『ヒルズ』と呼ばれているニャ」
「不動産業界隈がざわつくからやめなさい!」

 やっぱり森林動物とか昆虫系のモンスターが出現するのかなあ? でっかい虫はあまり見たくないなあ?

「あ、ジャイアント・キャタピラーニャ」
「液体窒素弾発射!」

 ちゅどーん!

「ふう。危ない、危ない。『臭い汁』とか飛ばされたら、えらいこっちゃ」
「さては爺さん、虫が苦手だニャ?」
「苦手ではない! 嫌いなだけである」
「この際トラウマを吐き出しておくニャ。弱点を放置したら命取りになるかもしれないニャ」

「うう。ガキの頃、さんざん喰わされたんだよ!」
「虫をニャ?」
「親父の実家が長野だったんで、イナゴの佃煮とか、ざざ虫とか、蜂の子とかを『体に良いから』という触れ込みでむりやり喰わされたの!」
「日本の伝統食ニャ。食糧不足時代のたんぱく源として再注目されている文化じゃニャいか」
「そうなんだけど。翌朝鏡を見て、歯の隙間にイナゴやざざ虫の足が挟まっているのを見て、気持ち悪くなったの!」

 子供の頃の衝撃って大きいよね? 嫌いな物があったって良いじゃないか!
 たんぱく質が欲しけりゃ肉や豆を食います! ちゃんと食いますから!

「あ、左からジャンボオオクワガタ」
「うぎゃあああ!」

「ぷるるるー!」

 あっ! スラ1!
 健気にも俺のために盾になってくれたのか? 必殺の投網攻撃!

 おおー。硬い外骨格も溶解液の前では敵ではないのね? そうだ! 溶かしてしまえ!

「やったねー。すごいぞ、スラ1!」
「溶け残りの足が体から突き出ているニャ」
「きゃあああーー!」

 スラ1よ、次からは火炎放射で退治してくれ。

「あ、右からジャイアント・ダンゴムシが……」
「焼き払え! 薙ぎ払え!」

 しゅごぉおおおおーー!

「はあ、はあ、はあ……」
「ジジイ、世界を滅ぼしそうな勢いなのニャ」

 何とでも言え。我が嫁となる者はさらにおぞましい物を見るであろう……。

「はあー。ようやく森林エリアを抜けた―!」
「結局、虫しか出なかったニャ」
「何という不毛なエリアだ!」
「ドロップも虫ゼリーだけニャ」

 スラ1君が美味しく頂きました。おやつを上げる約束が果たせて良かったけど。

「おっ? ハニービーズの偵察結果が送られてきたニャ。前方にボス部屋らしき構造物発見。今回も遺跡タイプニャ」
「このフロアにも飽きて来たところだから助かったよ。今度は誰が出撃する?」
「ま゛っ!」
「泥ボーズ、行きたいの?」
「ま゛っ!」

 確かに、今まで見せ場らしい見せ場が無かったからなあ。新人の前で先輩の貫禄っていう奴を見せたいよね。

「アリスさん?」
「その意気や良しニャ。存分に働いてもらうニャ」
「ま゛っ!」

 遺跡は丘の上に立っていた。何と言うか、ギリシャ神殿みたいな感じ?
 っていうことは壁とか崩れていて、スッカスカなのよね。

「遠くからでも何がいるか丸見えですな」
「あれをボス部屋と呼んで良いかどうか、悩ましいところニャ」

 壁も崩れちゃっているからね。ハニービーズの報告では、壁は無くとも不思議パワーの効果で入り口以外からは立ち入りできないらしい。ナイス・セキュリティシステムだね。

 中にいるのは……バジリスク? 確かにでかい蛇だな。

「毒持ちだっけか? 泥ボーズには効かないけどね?」
「たまたまニャッたが、適切な人選になったニャ」

 相手は全長10メートルと馬鹿でかいので、泥ボーズ5体全員で相手をすることになった。2メートルが5体で10メートルね。そういう比較基準で良いんだっけ?

「たかが変温動物が相手ニャ。冷凍弾で弱らせてタコ殴りして来いニャ」
「ウチは弱点を見つけたら、とことん付け込むタイプだね」

 しかし、我々は大きな見落としをしていた。バジリスクは単なる大蛇ではない。猛毒ですら奴にとってはほんの余技程度の武器であった。
 バジリスク最大の攻撃手段とは――「石化の魔眼」であった。

「な、何だとっ!」
「んニャにぃいい―!」

 ピキーンっ!

 戦闘が始まるや否や、バジリスクは泥ボーズ5体に向かって「石化」の視線を飛ばした。遮蔽物のない部屋の中、泥ボーズは不覚にも一列横隊を組んでいたため全員が視線にさらされてしまった。

 ビキビキと音を立て、足元から石化していく泥ボーズ。

「い、いかん! このままでは泥ボーズが石になってしまう――!」
「んニャ?」

 次の瞬間、全身が石になったストーンボーズが完成した。

「ま゛っ!」

「元々泥でできてたんで、石化したら強化された感じになってますが……?」
「うーん。無料でアップグレードしてもらった感じニャ」

「まままま、ま゛ーん!」

「『ストーン・パーンチ』的なことを叫んでいる気がします」
「ニャ。妥当な翻訳と認めるニャ」

 破壊力が5倍(当社比)になった石ボーズは、バジリスクをタコ殴りにした。
 毒は効かないし、噛んでも締め付けても「石」なので……。

「結果、勝ちましたね」
「ニャ。しかし、とっても困る展開となったのニャ」
「何でしょうか、アリスさん?」
「内部メカのメンテナンスが非常にやりにくくなっちまったニャ!」

 確かにそうだわ。本体のロボット部分は石材の中に埋め込まれた格好になっちゃった。

「えっ? 宝箱が出たって?」

 今までのところ宝箱の中身は微妙だった。今回は期待できるのであろうか?
 蓋をつついてみると、パッカーン! 中から現れたのは……。

「『彫刻セット』?」
のみとハンマーニャ」

 どうやらお好きな形に石化したメンバーを彫って上げて下さいという意図らしい。

「まま゛っ」

「ニャんだと?」
「どうやらギリシャ彫刻風に彫りの深い顔にしてほしいらしい」

 泥素材の時は微妙な造形が難しいので、顔がのっぺりしていたと。ふむふむ。
 ダビデ像風に仕上げてほしいそうだ。

「アリスさん、そういうことだそうです」
「ふむふむ。『石ボーズ』改め『お地蔵ズ』となる日が来たようニャ」
「ま゛ま゛ま゛ま゛っ!」
「冗談です。このままで頑張らせていただきます。ということだそうです」

 手芸好きの俺としては吝かでもありませんよ。「こけし風」とか「トーテムポール風」とかね。「マヤ文明風」とか彫ってみたい気がする。

 えっ? 要らない? 何だ、つまんないねえ。
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