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第34話 食らえっ! 『盛者必滅砲』だっ!

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「えーと、整理しよう。ウチにはマッドで高度な知性を有するゼリー状生物がいて、世界征服が可能なシンギュラリティ到達AIとタイアップしているわけだ。でもって、当該ゼリー状生物は超絶AIのネットワークにハッキングできるほどのIT能力を有していると」

 言葉にすると、正視できない恐ろしさだね。

「そこにナノマシンのオーバーテクノロジーが融合し、道徳観無縁のゼリー状生物は脳を始めとする生命の神秘に遠慮なくメスを入れるわけだ。それじゃあ、改造し放題じゃありませんか?」

「〇〇男」とかの異種融合生物なんか、すぐ作れそう。ダンジョン・モンスターってそんな奴らばっかりだけどが。

「スラ1君、ちょっとそこに座ろうか。立っても座っても同じだって? 『気持ちのソファ』に腰掛け給えよ。
「わかるよ。良かれと思ってコビ1君にメスを入れたんだよね? うん。そうだろう。ただね、人として踏み込むべきではない領域というものがあると思うんだ、僕は。ああ、君は人じゃないと。そうだね。
「それでもだ! 脳はちょっと、ちょっと。改造前、改造後の差がねえ。『イエス!』とか気軽に言える範囲じゃないから。
「ね、だからウチにいる間はルールを決めようか? こうしよう。『脳改造、ノー改造!』」

「ぷるるる」

 わかってくれたようだね。ふぅー。
 まあ、やっちまったもんはしゃあねぇやね。コビ1君は前向きに生きてもらおう!

「茶番は終わったニャか?」
「胸襟を開いた1-on-1ミーティングですがな。いま社会で最も必要とされる相互理解&コーチングですことよ」
「透明ゲロに開く胸襟があるとは思えないニャ」

 言葉の綾ですよ。逆に「すべて開けっぴろげ」とも言えますからね、彼の場合。彼女の場合?
 大切なのは共感ですよ、共感。

「はあ~。さて、気持ちを切り替えて前に進もうか」
「平原エリアはそろそろ終わりニャ。この先は湖の水上に通路があるパターンニャ」
「ふうん。現実にはあり得ない地形だけど、水棲モンスターを登場させるにはうってつけってわけだ」
「水上エリアの難関は、エリアを立体として考えなければならないところニャ」

 なるほどね。敵は「水中」にいますからね。平面的に存在して素直に進んで来るわけじゃない。
 どこからでも奇襲攻撃ができるし、水中に引きずり込めば水棲モンスターである敵方が圧倒的に有利だ。

「水中では飛び道具も利かないね」
「そうニャ。良くできたトリッキーなフィールドニャ」
「ふむ。さて、どうやって攻略しますかね?」
「知っての通り、猫は水が嫌いニャ。なので、このフィールドはショートカット・コースで行くニャ」

 ほほう? 空でも飛んで行きますかねえ?

 ◆◆◆
 
「アリスさん、これはダメだと思います」
「何がニャ? きわめて高効率かつ合法的な手段ニャ」
「いやあ、日本だとこういうの禁止されてると思うけど……」

 ちゅどーん!
 ちゅ、ちゅどーん!

「ダイナマイト漁やんか!」

 爆破担当はご想像通りスラ1君ね。せっせとスライム団子を水面にばらまいております。
 水棲モンスターのシーサーペント、サハギン、河童、蛙男(?)、タコ八郎とかが、死んだり気絶してぷかーっと浮かんで来る。

 とどめは主にトビー君の担当であります。ひらりと飛んでは超音波砲で頭を吹っ飛ばすと。
 あ、近くに浮いて着た奴は触手で引き寄せて、スラ1がエネルギー補給に美味しく頂いております。

 好き嫌いの無い子ですね。

「おっと? ドロップアイテムが出ましたよ! 何だあれ?」

 ぷっかり水面に浮いている。トビー君に取って来てもらった。

「天然海水魚一夜干しセット? なぜに海水魚? ってか、水に漬かって台無しじゃん!」
「オークハムといい、この一夜干しといい、このダンジョンはデパ地下の物産展みたいなコンセプトかニャ?」

 ここでドロップするとは嫌がらせにしか思えないよ! ナニナニ? 食べたいって?
 よしよし。頑張ったスラ1君に上げましょう。美味しく召し上がれ。

 フードロスを無くそう!

「ここは異世界にあるダンジョンという異世界ニャ。二重の意味で治外法権が成立してるニャ」
「だからって、何をしても良いってことじゃないと思うけど……」
「外来危険生物の駆除のためには多少の粗っぽさは大目に見るニャ。生態系への影響はニャイし」

 ダンジョンは閉じた世界らしいから、駆除する分には下界への影響はない。むしろスタンピードで流出することが問題なわけであった。

「でも、何かロマンがないです! ともともの熱い戦いとかそういう奴!」
「どうせ殺すニャから、ちゃっちゃと片付けるニャ。ロマンで飯は食えネッちゃ」

 むう。夢も希望も無いのね。
 どうせ水棲生物じゃテイムしても連れ歩けないしね。あんまり興味ないけど。

「せめてマーメイドが出て来たら手加減して上げてね」
「さっきのサハギン、実はメスニャ」

 ぎゃー! あれが人魚姫? 俺の夢を返せ―!

 もうやだ、このフロア……。

「もうダイナマイト漁でも、霞網でも、バンバン使って先へ進もう!」
「悪徳猟師のメンタルが目覚めたニャ? 『ワルキューレの騎行』を流すニャか?」
「要らんわ! そこまでメンタルいかれとらんし!」

 とにかく駆け足で水上エリアを抜けることにしたトーメー探検隊であった。

 ◆◆◆

「悪意があるワー」
「激しく同意ニャ」

 水上エリアを抜けると、そこは砂漠エリアだった。

 嫌になるほどの水があったかと思うと、今度は一滴の水もない世界が広がっているとは。

「えーと、整理しよう。アリスと泥ボーズは水分不要でしょ、トビー、コビ1、俺は人並みに水を飲むと。問題はスラ1か?」
「ぷ、ぷ、ぷ、ぷるー」
「本当? 空気中の水分を皮膚から集めることができるって? もちろん敵を倒せば水分も丸ごと頂きだって?」

 うちの無邪気なスライムが見た目に反して肉食系である件。スライムは肉食なんだろうけどが。

「なるべく戦闘を避けて、早めに砂漠を抜けようか」
「それが無難ニャ」

 ダンジョン攻略って長丁場は難しい。食料もそうだが、水が無いと生きて行けない。

 ハニービーズの偵察情報によると砂漠地帯のモンスターは、ワーム、ジャイアント・アリジゴク、エリマキ・オオトカゲなどらしい。これまでとは逆に遭遇を避ける方向で進路を立てた。

 それでも向こうからやって来る場合はどうしようもない。何しろ遮蔽物もない砂漠地帯なので。

「蛇だね」
「蛇ニャ」

 俺たちの進路に立ちはだかったのは全長6メートルの大蛇だった。

「データベースによると、ワイド・ワインダーニャ」
「何その台所用漂白剤みたいな名前。確かにワイドだけど」

 長さだけでなく、そいつは太さも相当な物だった。直径1メートル以上あるだろう。

「横向きに幅広く・・・動くニャ」
「知らんがな!」

 さて、どうする?
 
「アリスさん、ここはひとつワタクシめの出番かと」
「イケルニャか? 透明もんじゃでもアリスにゃんでも、問題ないニャが」
「爬虫類に相性の良いヤツを持って来てるから」

 そう言って俺は肩の武器を揺すって見せた。

「ニャルほど。ここらで試射をしておくのも良いかもニャ。任せたニャ」
「ラジャー!」

 話している間に大蛇は20メートルの距離まで迫って来ていた。横歩きで。

「ほんじゃ行きまっせ! 心頭滅却火もまた涼し。『盛者必滅じょうしゃひつめつ砲』発射!」
 
 俺はアサルト銃の引き金を絞った。ぶっちゃけ「液体窒素弾」だけどね。

 ばほーん!

 砲弾は放物線を描いてワイド・ワインダーの胴体に直撃した。

 どごーん!

 腹に響く音を立てて、弾頭がさく裂する。飛び散った液体窒素が辺り中を真っ白に凍らせて行った。

「あれ?」

 凍らせて行ったのは間違いないのだが、その前に大蛇の胴体は爆発に耐えきれず、真っ2つに千切れ飛んでいた。

「あらー、極低温効果関係なかったみたい。通常炸薬で十分だわ」

 そこから俺は、40メートル以内に近付いた敵は通常弾で吹き飛ばすという、「露払い」役を黙々と務めた。
 お陰で随分射撃の腕が上がった。ナノマシンによる記憶の最適化効果、恐るべし。ある意味ディープ・ラーニング?

「第2層のモンスターは通常弾の破壊力で制圧できるね。この先装甲が分厚くなって来るだろうから、一撃ではいけなくなるだろうけど」
「多少は骨のある相手に出て来てもらわないと、こっちの訓練にもならないのニャ」

 魔法タイプのモンスターがどんな相手かによって、様子が変わって来そうだ。今は相手にならない物理系モンスターも魔法系モンスターと組んだ時にどういうコンビネーションを見せるか?
 
 研究すべき課題はたくさんあるね。
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