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第29話 アイテムは全部集めるタイプです。

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 手短に実験してみると、スライムが理解できるのは「攻撃」「防御」「逃走」「追従」「待機」の5命令であった。俺たちはこれを「コマンド」と呼んで、スライムの制御に応用した。

 とりあえずは「追従」だね。俺たちに付いて来て頂戴。

 先ずは第1層の巡回である。
 
 今回のダンジョン・アタックは討伐が目的だ。だが、「いつまで」と期限を切られたわけではない。
 いきなりスタンピードが発生するわけではなし。ゆっくり時間を掛けて、ダンジョンという物を学習しながら進もうという方針を、俺たちは立てたのだ。
 
 食料と水はしこたま持ち込んである。飲み食いするのは俺とトビーだけなので、消費量は非常に少ない。
 1カ月程度は楽に過ごせるだろう。

 安全のためアルコールは自重した。俺はTPOのわかる子です。
 ちょっと残念だけど。
 
 分岐路のすべて、部屋という部屋を確認しながら俺たちは進んだ。
 こういう時アリスさんの情報処理能力が役に立つ。いちいち測ったり、絵を描いたり、文字を書いたりする必要が一切ない。

 というか、第1層の測量は既に終わっている・・・・・・・・

 俺たちには式神がいるからね。ハニー・ビー軍団(友情参加)有志諸君を四方に飛ばして、回廊を撮影&測量&記録済みだ。トラップの位置、モンスターの配置まで判明している。
 モンスターたちは蜜蜂を敵として認識せず、肩に留まっても反応しなかった。

「わかるぞ。何者かに見られている……。そこだ!」

 という勘のいいモンスターはいなかった。ただの蜂だからね。

 さすがにハニー・ビーにはX線装置や音響ソナーは積んでいないので、調査内容は単純な測量と国勢調査に止まるが、それでも十分すぎる先読み情報だ。攻略本を片手にしているような気楽さで、俺たちは足を進めた。

 それに加えて、俺たちには自然界最速動物のトビー君がいる。確定したマップに基づき隠し部屋を探すべく、最短ルートで先行してもらった。部屋に入るたび、しらみつぶしに超音波測量で空洞(隠し部屋)を探すのだ。

 輜重しちょう部隊でもある泥ボーズはチーム1移動速度が遅いため、俺たち全体の移動スピードは泥ボーズに合わせたものになる。大人が普通に歩く速度程度だ。

 俺としてはピクニックかお散歩に来ている気分で、ダンジョンの景色を楽しむ余裕があった。
 ただの岩肌しか、見る物が無いけど。

 第1層のマッピングが終了した時、俺たちは次層への階段まで残り4分の3距離を残しているところであった。

「こりゃあ無駄が無くて良いね。階段まで直行できるじゃない?」
「それはそうニャが、モンスターの調査が残っているニャ」

 部屋と通路は確認済みで、宝箱も隠し部屋も第1層には存在しないことがわかっている。
 棲息(?)モンスターを調査するかどうかで、滞在時間が変わってくるわけだ。

「一度のアタックで攻略しなきゃならないって話でもないからな。調査をしっかりやりながら進もうか」
「それが賢明ニャ。情報は力ニャり」

 到達階がどこであっても、携行食料の4割を消費したところで引き返すということに決めた。

「食糧が切れた時はハニー・ビーたちによる栄養注射があるニャ」
「有効性は理解するけど、ビジュアル的に避けたいなぁー」

 調査優先という方針については、俺としても異存はない。ゲームをやる時はアイテムとか全制覇したいタイプだからね。ダンジョン・モンスター、ゲッチュだぜ! っていう収集欲も満たせるし。

「ならばモンスターに向かって進路を取るべし! 一番近いのはコボルトだな」

 ちなみに、モンスターの名前は俺たちが勝手に命名している。ビジュアル的に「このモンスターに一番近いなあ」という奴に同定するという、割と緩い認定方法だ。
 区別ができれば良しとしましょ。

 あ、トビー君お疲れ様。斥候役のトビー君が帰還し、泥ボーズの頭に留った。
 俺の肩に載せると爪で服がボロボロになってしまうことが判明したので、泣く泣くとまりぎ役を泥ボーズに譲りました。

「前方の部屋にコボルト2匹が待機しているニャ。武器はなし。素手で攻撃してくるタイプの様子ニャ
「部屋侵入と同時に戦闘開始を予想。今回はトビーの超音波砲を試すニャ。2体の膝を破壊して機動力を奪い、1体は火炎放射での撃退、もう1体はナノマシンによるテイムをテストするニャ」
「ラジャー!」
 
 返事ができるのって俺しかいないので、元気にお返事しました。

 俺のゴー・サインでトビーを型に載せた泥ボー1体が部屋に侵入。コボルトは即座に反応して、迎撃態勢に入った。が、時既に遅し。
 コボルトが向き直った時には、トビーの超音波砲が4つの膝を打ち抜いていた。

 コボルトは踏ん張ることができずに、くるくる回ってぶっ倒れた。

 泥ボーは倒れたコボルトのところまで進み、唸っている1体の足を掴んでずるずる引っ張っていく。
 痛みに苦しみながらもコボルトは上半身を起こして泥ボーの下半身に爪を立てたが、もちろん泥ボーには効かない。

 部屋の隅にコボルトを放り投げると、泥ボーは火炎放射を開始した。

 肉を焼く嫌な臭いが途中から香ばしい臭いに代わった気がしたが、そこは深く考えないことにした。食わないし。
 10秒でコボルトは炭になった。

 さて、残りの1匹はと。ハニー・ビーが肩に留まってチクリと針で刺す。
 ナノマシン注入完了だね。実に平和的だ。

「X線撮影の結果、身体構造は哺乳類の物とほとんど変わりないニャ。脳および脳神経についても地上生物との大きな差を認めずニャ。これよりテイミング・プロセスに入る……ニャ」

 テイミングとなればアリスさん自らがナノマシンの制御を務める。未知の生物を支配しようって言うんだから、瞬時の判断と措置が必要になるだろう。

「あ、犬と一緒ニャ」
「ちょろいんかい!」

 アリスさんは楽勝でテイミングに成功したらしい。この「ダンジョンというシステム」を誰が創造したか知らないが、地上世界との関係性はそれほど遠くないらしい。ただちにナノマシンが膝の治療を開始した。治療が終わるまではカート行きだね。

 アリスさんによると、コボルトは2足歩行で外見は人間よりの部分があるが、脳解剖学的にはほぼ犬だとのこと。なので、知能も大型犬並らしい。

 大型犬もお利巧だけどね。ゴールデンとか、おとなしいし。

 ドッグフード用意しなきゃ。拾ったら、飼い主の責任ちゅうもんがあるからね。
 あっ、名前は自重したよ。生き残って外に出られるかどうかわからないし。

 スライム1、コボルト1て種族名+連番制にした。
「コボルトワン」は鳴き声と掛けたわけじゃないですよ。たまたま、たまたま。

 さて、我らトーメー探検隊はお供にした犬、猿、雉じゃなかった、スライム1とコボルト1を引き連れて、次のモンスターとの遭遇を目指した。

 次なるターゲットはゴブリンだ。いかにも第1層だね。お得感がないぞ。可愛くないし。

「ゴブリンは人型で道具を使うニャ。確認された武器は木製のこん棒。木は生えてニャイのに、いい加減ニャ。身長は150センチ前後ニャんで、非力と見られるニャ」

 白兵戦での威力とは「質量」と同義な部分がある。デカい奴はそれだけで有利だ。
 武器が絡むと事情が変わって来るが。

「今回のターゲットは3体。攻撃方法は、スライム1による肉弾戦とアリスにゃんの薬物攻撃をテストするニャ」
「今回はテイムなしね?」
「一度に増やし過ぎると、事後観察の手が回らなくなるニャ」

 確かに。スライム1とコボルト1が今後安定して機能するかどうかわからない。何しろ前例が無いからね。
 まずはこの2体でしばらく様子を見ようってわけだ。

「ゴブリンはブサイクニャし」
「見た目重視かいっ!」
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