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十杯目 本日は、お開きとしよう。

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「利休なりに国家の大計があったんじゃない?」
「何だと思う?」
「国家安全保障じゃないかなあ。硝石が国際的軍事バランス上のネックになる可能性を恐れたんだろう」

 周辺国家が硝石を潤沢に有し、火薬製造が一方的に有利な状況では日本が侵略対象となる恐れがある。
 一方で、国内での戦争を激しくしてしまったのは心苦しかったことであろう。少しでも戦乱の世を早く集結させるために、堺衆の掟を破ってまで信長に肩入れさせたのかもしれない。

「利休はさ、信長軍の圧勝で戦乱を早期に終息させるつもりだったんじゃないかな」
「本能寺の変でその目論見が狂ってしまったという訳か。――利休は人間の欲望というものを、深いところまで理解していなかったのかな?」
「先生、哲学的だね」
「信長は利休から市場経済を学んだのは良いが、天皇制を軽んじる立場と見られて明智光秀に討たれた」
「議論になるところだね。三職推任問題をどう見るかとかね。先生は、天皇制軽視と捉える訳だ」
「これまた状況証拠だがね。朝廷に仕えるつもりがあるならさっさと任官すれば良い話だし、光秀が内乱を起こしたってことは根本的に相容れない意見の相違があったってことだろう」
「それが国体のあり方だと、そう言うのね」
「ああ。光秀は十分重用されていたからね。虐められた恨みとかいうレベルの動機じゃ弱すぎる」
 裏切ったからには恨みがあった筈だ・・という後世の人の深読みが、メロドラマチックな解釈を生んだのだろう。
「要するに、信長の真意を利休は読み取れてなかったってことさ」
「そこまで信長がラジカルだとは思わなかったと」
「世界を見せ過ぎたんだろうね。一気に意識がグローバル化してしまった」
「信長は信長で、光秀の心が読み取れていなかったぜ?」
「人間、他人の心なんて分からないんだな」
「泣くなよ? 先生」
「泣かねえよ! それより土師氏の秘術の話はどうした?」
「五箇山硝石製造法の秘密ね。そりゃまた話が長くなるぜ。今日はこれ以上呑めねえや」
「まだたかる・・・気かよ。確かにもう遅いな。お開きにするか?」
「明日また呑み直そうや」

 二人はよろよろと立ち上がって、それぞれの家路へと別れて行った――。
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