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世界革命編
アルカナカードの秘密・2
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アレスとスピカが山盛りの砂糖をカップにほいほいと注ぎ入れる。コーヒーでは溶けきれないほどの量を、ユダは唖然と眺めつつ「さて」とふたりが砂糖のせいでとろみを帯びたコーヒーを飲んでいるのを眺めつつ言う。
「おふたりは教会の教義はどこまで知ってらっしゃいますか?」
「教義……? どうしてそんな話が……俺、教会の教義中はほぼ寝てるんでよく覚えてないです」
「私は……一応実家は教会ですけど、教義中ほぼ掃除してたんで、詳しくはないです。多分おじさんの話を流し聞きはしてたんで、人よりはわかるとは思いますけど」
「なるほど」
唐突なユダの質問に、意味がわからずアレスが尋ねる。
「それ、今から聞く質問に関係あるんすよね?」
「ええ……【世界】が【運命の輪】をどうしても消し去りたい理由というものを語るには、どうしても最初から歴史を紐解かなかったら、説明ができないんですよ。スペルの説明一切抜きで、教科書なんて読めないでしょうが」
「あのう……そもそもユダ先輩の実家がアルカナカードの開発者とは、今聞きましたけど……教義の内容って、基本的に教会とか神殿とかの管轄ですよね? 関係あるんでしょうか?」
「そこもまた、説明しますから。まずは話を聞いてくださいね……さて。教義の最初には、大概世界が一度滅びかけた黄昏《たそがれ》の日の出来事が語られているかと思いますが」
それは平民でも、寝物語程度にはずっと聞かされていた話だし、教会や神殿の子供向けの劇でもたびたび上演されている話だったがために、国民であれば誰もかれもが知っていた。
ユダは語る。
「まあおふたりともご存じとは思いますから、ここは簡潔に語りますね。黄昏の日。世界は魔力枯渇で滅びかけている中、唐突に花の雨が降り注いだと思ったら隣人が消え、国が消え、世界に残された人々はごくわずかになってしまった日とされています。残されたわずかな人々に、わずかな魔力。残された誰もが、神が死に、一部の優秀な人々だけがどこかに行ってしまったと悟りました。自分たちは神に見捨てられたのだと」
この辺りは、品を変え形を変え、様々な形で語られる話なため、貧民街に住まう人々すら知っている話であった。特に貧民街の場合は教会からの支援が篤いため、食事の配給を食べている最中に神官たちが人形劇などの上演を見せている。
「しかし手をこまねいていても本当に世界が滅び、皆死ぬだけなため、残された魔力を残された人々で分配することとなったのですが、ここで問題が生じました。人の持つ魔力の差があまりにも顕著で、ひとりは魔法を行使したら死ぬ程度に魔力量が足りず、ひとりは逆に何人分もの魔力量を保持していたのでした。そこで残された魔法学者が、魔力量の少ない人と多い人の区別をするべく、カードを配って、それを見せれば魔力を得られるようにしました……それがアルカナカードの原型です」
「だとしたら、魔力量が少ない人の区分が小アルカナ、魔力量が多い人の区分が大アルカナ……の限定ってことっすか?」
「ええ、その区分でかまいません」
「でもそれだったら、もうそこで終わっとけば誰も困らなかったんじゃ……どうして今のややこしいことになったんでしょ?」
アレスの疑問はもっともだった。
(でもそれじゃあ、そもそも【運命の輪】みたいにそもそもアルカナ秘匿能力以外ないカードの意味が本当にないような……)
その疑問にもユダが答える。
「その疑問ももっともですが、これも説明できますから続けますね。最初の区分だけでは、やはり魔力枯渇問題は解決しませんでした。たとえば農民には土を豊かにする魔法が必要ですし、鍛冶師には火を操作する魔法が必要でも、当然ながら小アルカナでは使えませんし、大アルカナでも魔法の精密操作ができる人とできない人の差が歴然です。ならば、区分するカードにその機能を付けてできる限り消費魔力を抑えようとしたのが、アルカナカードのが徐々に区分されるようになった要因ですね」
「じゃあ風魔法、土魔法、火魔法、水魔法があれこれと入っているのも……」
「これらは生活必需品でしたし、魔力が枯渇しかかっていてもなお、それらなくして人間は生きてはいけませんから。必要な四大魔法から、少しずつ少しずつ機能を拡張していったんです。しかし、アルカナカードはどうにか魔力量消費を抑えながら魔法を行使することには成功しましたが、やはりこの世界が滅びかかっている原因である魔力枯渇の問題を解決するには至りませんでした。どうにかして、黄昏の日の原因究明を急いだ魔法学者もいましたし、その原因にアプローチを試みた人々もいましたが、結果は芳しくありませんでした。そんな中、大アルカナにもだんだんと力の強さと弱さが生まれるようになってきました……魔力量が少ない人間でも使いやすい【愚者】も魔力量が多い人間でなければ使いこなせない【魔法使い】には勝てないように、だんだんアルカナカードの中でもヒエラレルキーが生まれるようになってしまったんです。これはまずいと魔法学者たちは研究を急ぎました。本来、アルカナカードは少ない魔力量で魔法を行使するためのアイテムであり、アイテムにより格差が生まれるのでは本末転倒なのです。そのため、その格差是正のために二枚のカードがつくられました……それが、【世界】と【運命の輪】です」
「え…………」
スピカはそれに息を飲んだ。アレスも驚いた顔で、スピカを見ている。
我関せずという顔で、ナブーの本を捲る音だけが響く中、ユダは「ええ」と頷いた。
「【世界】と【運命の輪】は、本来は一セットで運用されるはずのカードでした。【世界】は格差是正のためのカードであり、もし【世界】が失敗した場合、【運命の輪】が全てをリセットするという役割があったのですが……当時の魔法学者は、あまりにも性善説で機能をつくり過ぎたがために、悪辣な人間が【世界】のカードを与えられた途端に、悪逆の限りを尽くすとは、思ってもいなかったのです。まあ、この辺りは歴史にも伏せられていますから、端的に説明しますが……当時、少ない魔力を切り売りして国を治めていた王家を、【世界】のアルカナを行使して、乗っ取ってしまったのですよ」
「ええええ…………!!」
スピカは思わず大声を上げると、今まで読書をしていたナブーがパタンと本を閉じて、「そこまでだフロイライン」と彼女の唇に古い本の背表紙を押し付ける。
「一応ここはユダの結界の中だけどね、【世界】の監視は逃れられても、ゾーンほど防音には優れていないからね。ここを怪しいと足を踏み入られたらおしまいなんだから、ほどほどにしたがいい」
「す、すみません……っ」
スピカはどうにか落ち着こうと、とろみのついたコーヒーを飲み、その甘苦さにほっとしていたら、アレスが訴える。
「ちょ……ちょっと待ってください……となったら、今の王族は、乗っ取った連中ってことで? 今の五貴人とか……そういう連中ってまさか……」
「ええ、旧王家を放逐した面子です。今の国のアルカナカードでの監視体制を敷いたのは、この五家で間違いないです」
「そんなあっさり……!? でも……それだったらどうして、ユダ先輩の先祖は殺されなかったんですか!?」
「殺さなかったというより、殺せなかったというのが実情でしょうね。どんな魔法でもそうですけど、一子相伝だった場合はひとり途絶えたら誰も使えなくなってしまいます。アルカナカードを行使することはできても、そのカードをメンテナンス技術は、我らが先祖が全て持って逃げ出しましたから……なにより、先祖たちもいくら性善説に乗っ取ってアルカナ能力のデザインを行っていたとはいえども、最初から【世界】は【運命の輪】と一セット運用を前提としていました。【運命の輪】のカードの出現を止める方法も、機能停止する方法も、どれだけひどい目にあっても教えなかったのですよ……ええ、そのおかげで僕の先祖もだいぶ数を減らしましたけれど、おかげで希望は繋げました」
スピカは、ただただ呆気に取られた顔で、カップを両手で持っていた。両手をどれだけ温めても、納得するのは難しかったが。
話を聞きつつ、コーヒーをすすりながら、アレスはなお尋ねる。
「でも……そこまで【世界】のカードはやばいんですか? 偽装アルカナをつくっていたのは、聞いてますけど……」
「あれは生徒会執行部がそう話をしていただけで、少なくとも会長は正確ではないと気付いていたでしょう。先程も言いましたが、【世界】のアルカナの本来の使い道は、格差の是正。ただ、それを悪用したがために、現在の歪な国が完成しました……【世界】は自身のゾーンに存在するアルカナの能力を搾取し、与えたい相手に譲渡することができるんですよ。【世界】自身には戦闘能力は一切持ち合わせていませんが、彼らはその穴を埋めるために、わざわざ味方を集めた上で、旧王家の力を搾取し、乗っ取ったのです」
「……待ってください。ゾーンの中、ですよね?」
「革命組織の連中、もし内緒話をするならば、絶対にゾーンの中でしろと言いませんでしたか? 学園内は、【世界】のゾーンが張られているんですよ……学園内のことは、全て【世界】に把握されていますし、国内は、全て王家に掌握されています」
今度こそ、ふたりとも完全に言葉を失ってしまった。
いくら【世界】が戦闘能力を一切持っていないとはいえど、逆らう以前に監視されているのに、いったいどうしろというのか。
しかしナブーは「まあまあ」とのんびりと言う。
「どうして革命組織が存在していると思うんだい? カウスに至っては、わざわざ留年してまで、【世界】の入学を待っていたと思うんだい? この学園内は、治外法権だからだよ? 一旦卒業してしまったら、もう与えられた身分や立場をひっくり返すことなんてできないし、王族に一矢報いようとしても、ただの不敬罪で処刑されるのがオチだ。でも、在学中はそうではない。そして、【世界】の力も万能ではない。だって、【世界】の力だけでは、【運命の輪】を見つけ出すことすらできていないじゃないか」
「あ……」
スピカは自身のカードフォルダーを、上からぎゅっと掴んだ。
(……【世界】に勝つ方法が今のところ思いつかなくっても……【世界】もたったひとりだけじゃ私を見つけ出すことができないから、こんなアルカナ集めみたいなくだらないことをはじめたんだ……私は、まだ生きてられる? ルヴィリエを助けたあとも)
答えはまだ出なかった。
「おふたりは教会の教義はどこまで知ってらっしゃいますか?」
「教義……? どうしてそんな話が……俺、教会の教義中はほぼ寝てるんでよく覚えてないです」
「私は……一応実家は教会ですけど、教義中ほぼ掃除してたんで、詳しくはないです。多分おじさんの話を流し聞きはしてたんで、人よりはわかるとは思いますけど」
「なるほど」
唐突なユダの質問に、意味がわからずアレスが尋ねる。
「それ、今から聞く質問に関係あるんすよね?」
「ええ……【世界】が【運命の輪】をどうしても消し去りたい理由というものを語るには、どうしても最初から歴史を紐解かなかったら、説明ができないんですよ。スペルの説明一切抜きで、教科書なんて読めないでしょうが」
「あのう……そもそもユダ先輩の実家がアルカナカードの開発者とは、今聞きましたけど……教義の内容って、基本的に教会とか神殿とかの管轄ですよね? 関係あるんでしょうか?」
「そこもまた、説明しますから。まずは話を聞いてくださいね……さて。教義の最初には、大概世界が一度滅びかけた黄昏《たそがれ》の日の出来事が語られているかと思いますが」
それは平民でも、寝物語程度にはずっと聞かされていた話だし、教会や神殿の子供向けの劇でもたびたび上演されている話だったがために、国民であれば誰もかれもが知っていた。
ユダは語る。
「まあおふたりともご存じとは思いますから、ここは簡潔に語りますね。黄昏の日。世界は魔力枯渇で滅びかけている中、唐突に花の雨が降り注いだと思ったら隣人が消え、国が消え、世界に残された人々はごくわずかになってしまった日とされています。残されたわずかな人々に、わずかな魔力。残された誰もが、神が死に、一部の優秀な人々だけがどこかに行ってしまったと悟りました。自分たちは神に見捨てられたのだと」
この辺りは、品を変え形を変え、様々な形で語られる話なため、貧民街に住まう人々すら知っている話であった。特に貧民街の場合は教会からの支援が篤いため、食事の配給を食べている最中に神官たちが人形劇などの上演を見せている。
「しかし手をこまねいていても本当に世界が滅び、皆死ぬだけなため、残された魔力を残された人々で分配することとなったのですが、ここで問題が生じました。人の持つ魔力の差があまりにも顕著で、ひとりは魔法を行使したら死ぬ程度に魔力量が足りず、ひとりは逆に何人分もの魔力量を保持していたのでした。そこで残された魔法学者が、魔力量の少ない人と多い人の区別をするべく、カードを配って、それを見せれば魔力を得られるようにしました……それがアルカナカードの原型です」
「だとしたら、魔力量が少ない人の区分が小アルカナ、魔力量が多い人の区分が大アルカナ……の限定ってことっすか?」
「ええ、その区分でかまいません」
「でもそれだったら、もうそこで終わっとけば誰も困らなかったんじゃ……どうして今のややこしいことになったんでしょ?」
アレスの疑問はもっともだった。
(でもそれじゃあ、そもそも【運命の輪】みたいにそもそもアルカナ秘匿能力以外ないカードの意味が本当にないような……)
その疑問にもユダが答える。
「その疑問ももっともですが、これも説明できますから続けますね。最初の区分だけでは、やはり魔力枯渇問題は解決しませんでした。たとえば農民には土を豊かにする魔法が必要ですし、鍛冶師には火を操作する魔法が必要でも、当然ながら小アルカナでは使えませんし、大アルカナでも魔法の精密操作ができる人とできない人の差が歴然です。ならば、区分するカードにその機能を付けてできる限り消費魔力を抑えようとしたのが、アルカナカードのが徐々に区分されるようになった要因ですね」
「じゃあ風魔法、土魔法、火魔法、水魔法があれこれと入っているのも……」
「これらは生活必需品でしたし、魔力が枯渇しかかっていてもなお、それらなくして人間は生きてはいけませんから。必要な四大魔法から、少しずつ少しずつ機能を拡張していったんです。しかし、アルカナカードはどうにか魔力量消費を抑えながら魔法を行使することには成功しましたが、やはりこの世界が滅びかかっている原因である魔力枯渇の問題を解決するには至りませんでした。どうにかして、黄昏の日の原因究明を急いだ魔法学者もいましたし、その原因にアプローチを試みた人々もいましたが、結果は芳しくありませんでした。そんな中、大アルカナにもだんだんと力の強さと弱さが生まれるようになってきました……魔力量が少ない人間でも使いやすい【愚者】も魔力量が多い人間でなければ使いこなせない【魔法使い】には勝てないように、だんだんアルカナカードの中でもヒエラレルキーが生まれるようになってしまったんです。これはまずいと魔法学者たちは研究を急ぎました。本来、アルカナカードは少ない魔力量で魔法を行使するためのアイテムであり、アイテムにより格差が生まれるのでは本末転倒なのです。そのため、その格差是正のために二枚のカードがつくられました……それが、【世界】と【運命の輪】です」
「え…………」
スピカはそれに息を飲んだ。アレスも驚いた顔で、スピカを見ている。
我関せずという顔で、ナブーの本を捲る音だけが響く中、ユダは「ええ」と頷いた。
「【世界】と【運命の輪】は、本来は一セットで運用されるはずのカードでした。【世界】は格差是正のためのカードであり、もし【世界】が失敗した場合、【運命の輪】が全てをリセットするという役割があったのですが……当時の魔法学者は、あまりにも性善説で機能をつくり過ぎたがために、悪辣な人間が【世界】のカードを与えられた途端に、悪逆の限りを尽くすとは、思ってもいなかったのです。まあ、この辺りは歴史にも伏せられていますから、端的に説明しますが……当時、少ない魔力を切り売りして国を治めていた王家を、【世界】のアルカナを行使して、乗っ取ってしまったのですよ」
「ええええ…………!!」
スピカは思わず大声を上げると、今まで読書をしていたナブーがパタンと本を閉じて、「そこまでだフロイライン」と彼女の唇に古い本の背表紙を押し付ける。
「一応ここはユダの結界の中だけどね、【世界】の監視は逃れられても、ゾーンほど防音には優れていないからね。ここを怪しいと足を踏み入られたらおしまいなんだから、ほどほどにしたがいい」
「す、すみません……っ」
スピカはどうにか落ち着こうと、とろみのついたコーヒーを飲み、その甘苦さにほっとしていたら、アレスが訴える。
「ちょ……ちょっと待ってください……となったら、今の王族は、乗っ取った連中ってことで? 今の五貴人とか……そういう連中ってまさか……」
「ええ、旧王家を放逐した面子です。今の国のアルカナカードでの監視体制を敷いたのは、この五家で間違いないです」
「そんなあっさり……!? でも……それだったらどうして、ユダ先輩の先祖は殺されなかったんですか!?」
「殺さなかったというより、殺せなかったというのが実情でしょうね。どんな魔法でもそうですけど、一子相伝だった場合はひとり途絶えたら誰も使えなくなってしまいます。アルカナカードを行使することはできても、そのカードをメンテナンス技術は、我らが先祖が全て持って逃げ出しましたから……なにより、先祖たちもいくら性善説に乗っ取ってアルカナ能力のデザインを行っていたとはいえども、最初から【世界】は【運命の輪】と一セット運用を前提としていました。【運命の輪】のカードの出現を止める方法も、機能停止する方法も、どれだけひどい目にあっても教えなかったのですよ……ええ、そのおかげで僕の先祖もだいぶ数を減らしましたけれど、おかげで希望は繋げました」
スピカは、ただただ呆気に取られた顔で、カップを両手で持っていた。両手をどれだけ温めても、納得するのは難しかったが。
話を聞きつつ、コーヒーをすすりながら、アレスはなお尋ねる。
「でも……そこまで【世界】のカードはやばいんですか? 偽装アルカナをつくっていたのは、聞いてますけど……」
「あれは生徒会執行部がそう話をしていただけで、少なくとも会長は正確ではないと気付いていたでしょう。先程も言いましたが、【世界】のアルカナの本来の使い道は、格差の是正。ただ、それを悪用したがために、現在の歪な国が完成しました……【世界】は自身のゾーンに存在するアルカナの能力を搾取し、与えたい相手に譲渡することができるんですよ。【世界】自身には戦闘能力は一切持ち合わせていませんが、彼らはその穴を埋めるために、わざわざ味方を集めた上で、旧王家の力を搾取し、乗っ取ったのです」
「……待ってください。ゾーンの中、ですよね?」
「革命組織の連中、もし内緒話をするならば、絶対にゾーンの中でしろと言いませんでしたか? 学園内は、【世界】のゾーンが張られているんですよ……学園内のことは、全て【世界】に把握されていますし、国内は、全て王家に掌握されています」
今度こそ、ふたりとも完全に言葉を失ってしまった。
いくら【世界】が戦闘能力を一切持っていないとはいえど、逆らう以前に監視されているのに、いったいどうしろというのか。
しかしナブーは「まあまあ」とのんびりと言う。
「どうして革命組織が存在していると思うんだい? カウスに至っては、わざわざ留年してまで、【世界】の入学を待っていたと思うんだい? この学園内は、治外法権だからだよ? 一旦卒業してしまったら、もう与えられた身分や立場をひっくり返すことなんてできないし、王族に一矢報いようとしても、ただの不敬罪で処刑されるのがオチだ。でも、在学中はそうではない。そして、【世界】の力も万能ではない。だって、【世界】の力だけでは、【運命の輪】を見つけ出すことすらできていないじゃないか」
「あ……」
スピカは自身のカードフォルダーを、上からぎゅっと掴んだ。
(……【世界】に勝つ方法が今のところ思いつかなくっても……【世界】もたったひとりだけじゃ私を見つけ出すことができないから、こんなアルカナ集めみたいなくだらないことをはじめたんだ……私は、まだ生きてられる? ルヴィリエを助けたあとも)
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