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第三章 皿科転覆編

エンディング後も人生は続きますけど、そのエンディング後が一番見たいとかってありますよね

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 真相ルートの最終局面だったらしい、火山大噴火から命からがら逃げ出して、ひと月経った。さっさと黒虎が麓に降りて結界を張った上に、すぐに都から星詠みを派遣してもらったおかげで、結界は無事火山鎮火まで維持され、どうにか麓が火山流に飲まれて消えるなんて大災害は起こらなかった。
 鈴鹿と田村丸はというと、ふたりから「もっと鬼無里以外を見て回りたい」という申し出があり、鬼無里に帰る前にお別れとなった。
 私だって着いていって、ふたりの動向を確認したかったけれど、あれだけ嬉しそうにしている鈴鹿を見たら、これ以上は野暮だと思った。なによりも、彼女の相手はどう考えても田村丸だろうと確認できたら、私も余計な嫉妬や心配をしなくても済むから、本当によかったと思う。

「たまには鬼無里に帰ってきてくださいましね」
「わかってるよ。でも紅葉はこれからすぐに鬼無里に?」
「そうですわね……私もそろそろ鬼無里に帰らなかったら、父様に心配されますからね」

 でもなあ、また勝手に見合いを勧められても困る。嫌だー、私は維茂とじゃなかったら見合いしたくないー。
 それに「じゃあ、こうしたらどうかな」と頼光が声をかける。

「梅の季節になったら都に来なさい。皿科を救った巫女に守護者だから、都は歓迎するよ」

「それは……まあありがとうございます。そういえば、皆はこれからどうなさるおつもりですか?」

 個別ルートに入らなかったら、それぞれの四神契約の旅後の動向はわからなかったはずだけれど、リメイク版ではどうなっているのか私も知らない。
 保昌は「僕は都に勉強に向かおうと思うんです」とにこやかに笑った。

「元々都の星見台でも勉強させてもらったことがありますが、今回の一連のことで、ますます学びを深めたほうがいいと痛感しましたので。特に僕は紅葉様みたいに、天命までは詠み解くことができませんから……」
「そ、そんな。保昌は充分賢いじゃありませんか!」
「それでも、僕がもうちょっとしっかりしていたら、和泉さんを助けられたかもしれませんから」
「ああ……」

 保昌は元々賢い子だけれど、和泉が死んだことについてずっと引っ掛かっていたからこそ、勉強して彼女みたいに鬼の眷属にされてしまった人たちの眷属の解除をしたいらしい……実際、停戦状態なだけで、鬼と人間が仲良くなった訳でもないからねえ。
 利仁はのんびりとした様子だ。そういえばもう巫女を監視しなくて済む彼はどうするんだろう。

「利仁は? あなたはこれから……?」
「我はこのまま皿科を放流するまでよ。我が人の身を終えるまでに、あれの転生体に会えるかはわからんがな」
「そっか。会えるといいね」

 鈴鹿の言葉に、利仁は本当に珍しく柔らかい表情をしてみせた。
 私は結局彼の背景を全部は把握できなかったけれど、鈴鹿は話をしたからいろいろ察したのだろう。鈴鹿ではなく、誰か会いたい人がいるみたい。利仁にもなんだかんだ言ってお世話になったし、会えるといいんだけどね。
 そうしんみりしている間に、「それじゃ、鈴鹿行くぞ」と田村丸がポンと鈴鹿の頭に手を置いた。それに彼女はふんわりと笑う。

「それじゃあ、皆。また会おう!」

 ふたりに手を振り、私たちもそれぞれに散らばる。
 頼光はこれまでの旅のことを逐一都に送っていたみたいだけれど、後始末のために早々に都に帰っていったし、保昌も勉強に都に向かっていった。利仁は放浪の旅。
 すっかりと旅の仲間は維茂と私だけになってしまい、ふたりっきりになると妙に落ち着かない雰囲気で、私たちは歩いていた。

「紅葉様。これから鬼無里に戻りますが」
「はい……ここからだったら、十日はかかるでしょうか」
「そうですね……ようやく、ふたりになりましたね」

 維茂は柔和に笑うので、私は思わずマジマジと見てしまった。
 ……思えば、リメイク版ではすっかりと紅葉と維茂は主従関係になってしまい、婚約者らしい会話をしたこともなければ、手紙のやり取りだってしていなかった。そもそもまともに恋らしいことだってしていなかったし、こんな恋人同士の雰囲気にだってなったこともなかった。

「……父様に、私。あなたとのことを報告してもよろしいですか?」
「どれをですか?」
「……私、きっと鬼無里に帰ったら早々にお見合いを勧められますが、旅に無理矢理同行してよくわかりました。私やっぱり、あなたじゃないと無理です……あなたはどうですか?」

「俺は……ずっとあなたが幸せなら、それでいいと思っていました。けど」
「はい」

 維茂は今歩いている街道に誰もいないことを確認してから、私の髪をひと房掴んで、それに口付けた。ボッと体温が跳ね上がる。

「俺も、あなたじゃなきゃ無理みたいです」

 そう言って私の髪から手を離す彼に、私は背伸びをした。
 自分から口を付けようにも届かず、結局は維茂が腰を屈めてようやく唇が届いた。
 互いに顔を見合わせて、なんとなくくすぐったくなる。

「それじゃあ、参りましょうか」
「はい」

 ここから先は、私の知識が全くあてにならない世界。ううん。ここはリメイクされた世界で、最初から最後まで、私はこの世界のシステムに引きずり回されていた。
 でも、もうシナリオからは解き放たれたんだから、ここから先は、幸せなことしかないって、そう信じている。
 そう、信じている。

<了>
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