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第二章 四神契約の旅編

どんなにダメ出ししまくったシナリオ展開でも、いいところを発見したらとことん褒めていくスタンスです

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 さて、東の封印で青龍の力を得ることができた以上、明日以降再び北の封印にリベンジ挑む訳だけれど。
 力を得たものの、果たして私たちは中ボスに継ぐ中ボスだらけな北の封印に辿り着けるのか。そもそも残りふたりの追加攻略対象についてなにひとつ情報が得られてない上に、今回のラスボスが誰なのかも不透明なままなんだよなあ。
 今の鈴鹿が誰のルートに進んでいるのかがわからない。そもそも誰ひとり選んでないルートの場合のラスボスだったらすぐ思いつくんだけれど、あのクソプロデューサーがあまりにも恋愛脳だったのが引っ掛かっている。
 果たして、誰ひとり選んでいない状態のノーマルルートが、正真正銘ただのノーマルルートなんだろうか。
 そのことを気にしているのはおそらく私だけだろうけれど、それよりも先に気にしないといけないことがある。北の封印の大量の中ボスラッシュをどう捌いていくかだ。
 そんな訳で、次の日、東の封印から出立前に、朝餉を食べながら皆でその会議を行っていた。

「あれだけ強い魑魅魍魎が連なっている場所だからねえ……北の封印の付近は。できる限り多くを倒しておきたいところだけれど、青龍の加護を得た今でも、どれだけ戦えるものかな」

 さすが都からの出向の頼光は、北に住む民を第一に考えている。そうなんだよね、私たちはあのとき、手も足も出ずに逃げ回るしかできなかったっていう醜態をさらしてしまっている。でも今回はそれをするわけにはいかないのだ。
 おまけに今回は鈴鹿に保昌、田村丸と戦えない面子が多いから、私たちだけで捌かないといけない。前衛で戦えるのは維茂だけで、頼光も利仁も弓矢だし、私は完全補助詠唱オンリーだから、敵に近付かれたら詰む。
 それに利仁は「ふん」と鼻を鳴らす。

「ならばできる限り強いものから狩ればよかろうよ」
「私たち、それで前にしてやられて、一体も狩ることができてないんだよ?」
「しかし数が一体ならば、話は別だ。一体を全員でかかれば、たとえ前に出ることができるのが維茂だけでも、多少は善戦できよう」

 まあ、そうなんだよね……理屈としては。
 一応東の封印付近の魑魅魍魎を狩りまくったおかげで、レベリングは進んでいる。おかげで一対多数でだったら、強力な北の封印でも多少は戦えるようにはなった。一体だけの中ボスだったら、大量にレベルをゲットして、残りを有利に進めるやもしれない。
 なによりも『黄昏の刻』のありがたい設定として、パーティーに編成してない戦闘でも、レベリングはできる。つまりは今回は戦闘させられない鈴鹿、保昌、田村丸にもレベルが入るはずなんだ。
 ……まっ、正々堂々戦おうと言われたら、全然正々堂々してないからナシなんだけどね! でも仕方ないね! 一体でも多く魑魅魍魎を倒さないと、皿科の民の生活が脅かされるもんね! そういうのを結構見てきている以上、正々堂々って言葉はいったん捨てておこう、うん!
 と、利仁の提案に多少渋い顔をしていた頼光だけれど、最終的には苦々しい顔で頷いた。

「……まあ、仕方ないね。これも民のためだ。魑魅魍魎を一体でも多く狩ったという実績が欲しいんだからね。これで北の封印を突破したときに、都に情報が出回れば、もう少し都から北の民に支援が入るだろうし」
「なら、次はどの魑魅魍魎を倒すかだな」
「そうなるね」

 こうして、私たちは次倒す魑魅魍魎の選定に入った。
 そうこうしている間に、しばらく休んでいた鈴鹿がやってきた。昨日の戦いの疲れと田村丸の看病にかかりっきりだったのとで、普段の鈴鹿を思えばびっくりするくらいに顔色が悪い。私は慌てて温めたきのこと干し魚のスープを差し出した。

「鈴鹿、おはようございます……こちらお飲みくださいな。本当に顔色が悪いですわよ?」
「紅葉……うん、ありがとう」
「……封印のおかげで、田村丸の呪いも多少は解けたかと思いますが、どうでしたか?」

 鈴鹿はスープにひと口だけ口を付けると、次の瞬間ガツガツと食べ出した。相当お腹が空いていたみたいで、私たちは誰ひとりとして行儀悪いと注意することなく見守る。……そりゃそうだ。私たちは干物を食べていたけど、鈴鹿はずっと田村丸の看病をしていたのだから、なにも食べちゃいない。巫女だからって、なんでもかんでも頑張り過ぎなんだから、もう。

 ひと息ついたのか、鈴鹿はようやくポツポツと話すことができた。

「……保昌にも診てもらったけど……田村丸、私のことを全部は思い出せなかったみたいだけど、初めて出会ったときのことはうすらぼんやりと思い出せたみたいなんだ」

 それに私は一瞬だけ顔を赤らめたあと、鈴鹿に「よかったですわね」と伝えた。
 このふたりの出会いは、ふたりが一緒に暮らしていた神社でだ。ふたりとも孤児だったから、それぞれ宮司様に別方向から預けられたところが出会いだったはず。この話はメディアミックスでも田村丸ルートに入ったら必ず入れられるエピソードだけれど……まさかこの話を呪いを解くたびに見られるようにする寸法なのか。
 一番攻略難易度を高くした代わりに、正ルート紹介を余念なくするのか。
 ……なんなんだ、クソプロデューサー。今初めてお前むっちゃいい仕事したなと思ったわ。私は嫌なものは嫌だけれど、褒めないといけないところはどんな人でも褒めるスタンスです。

 鈴鹿の喜んでいるのに、私がジィーンと感動しているところで、ようやく田村丸と保昌もやってきた。ふたりにもスープを差し出すと、こちらはゆっくりと食べ終えた。ずっと解呪の反動で体力を蝕まれていたから、田村丸は相当疲れているらしい。保昌は保昌で、解呪に当たり続けていたせいだろう。

「田村丸、保昌。私たちで会議の末に魑魅魍魎の方針を固めたんですけれど……」

 一応、最初は一対大勢で倒せる魑魅魍魎から進んで、できるだけ強くなってから北の白虎のところまで行こうという方針を伝えたら、保昌は「そうですねえ」と頷いてくれた。

「それが妥当だと思います……すみません、今回は戦闘に参加できそうもなくって」
「本当に悪いな、お前さんたちをあてにすることになって」
「謝らないでください。巫女と守護者になにかあったら困るでしょう?」

 私があわあわしている間に、維茂が「紅葉様」と私に声をかけてきた。

「最初に狙う魑魅魍魎が決まりました」
「あら、いったいどの魑魅魍魎に……?」
「……玉藻の前です」
「あれですか……」

 さんざん笑われて馬鹿にされまくった、あのお狐様が頭に浮かんで、イラッとした。
 たしかにあの玉藻の前は、基本的に詠唱戦専門だ。幻惑系の詠唱で前衛を使い物にしてから、攻撃系の詠唱で大ダメージを与えてくる奴なんだけど。
 今回はそもそも後方系でメンバー編成している以上、詠唱が成立しないように気を付けながら後方から弓でガンガン攻撃すればなんとかなる、はず。
 よし、まずは玉藻の前リベンジ! リベーンジ!
 そう息巻きながら、東の封印を出て、北の封印を目指すこととなった。
 東の封印を一歩出たところで、洗練された空気が流れていることに気が付いた。そういえば、東の封印に近付けば近付くほど、魑魅魍魎が存在できないくらいに、力が萎縮していたような気がする。その東の封印のキャパシティーが、鈴鹿が契約を結んだことで広がったって感じなのかな。

「巫女の契約が済んだことにより、東の青龍の力により、この地は平定されました。あとしばらくは魑魅魍魎の被害が出ないことでしょう」
「四神契約の旅って、このために行うものなんですね……」

 ゲームをしているだけじゃ、この空気は味わえない。
 この朝の山の中みたいな肺が冷たくなるけれど綺麗な空気の味は、格別だ。
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