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第二章 四神契約の旅編
東の封印・一
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次の日から、いよいよ東の封印へと進む訳だけれど。
だんだんこの辺りは魑魅魍魎が減ってきた代わりに、野生動物が増えてきた。
牡鹿の角に追いかけ回されて怖い思いをしたと思ったら、利仁と頼光が弓矢で射止めてくれて事なきを得た……けど、牡鹿の血の臭いに誘われて、狼が現れて、そこで乱戦となる。
仕方なく、東の封印に到着までは、できる限り野生動物との戦いは避けて、草木で隠れながらジリジリと進む方向に切り替えたために、なかなか到着できない。
東の封印に辿り着いたのは、結局は日が暮れてからだった。
木々の向こうから、月までぽっかりと昇っているのが見える。
「ようやく辿り着いたか……ここまで来るのに、ずいぶんと長いことかかったなあ」
そう言ってガリガリと頬を引っ掻く田村丸に、鈴鹿は「そうだね」と頷く。
「でもどうする? 今から東の青龍を呼び出して試練を受けることになったら、契約するまでに時間がかかると思うけど」
正直、木霊との戦いは夜のほうがこちらに利がある。でもそのあとのほうが問題。
私たちが無傷で戦いを終えられるとは限らないからだ。血塗れで休むとなったら、十中八九狼の襲撃に遭う。昼間だったら簡単に撃退できるけれど、次は中ボス戦なのだ。そのあとに狼退治なんてしてたら、寝る暇がない。
おまけにここは中途半端に広いもんだから、保昌がひと晩休めるだけの結界を張ることができない。でも封印の周りは野生の王国と化しているから、こんなところで血の臭いを垂れ流してドンパチしていたら、即野生動物に襲われると思う。
どうして鬼無里には里の周りに門番がいたのか。更に鈴鹿を守るために神社の周りにまで結界を張ったのか、よくわかった。野生の王国万歳過ぎて、里の中にまで野生動物が現れたら、日常生活を送るなんてほぼ不可能だ。
でも血の流れない戦いはないと思うし、そもそも東の青龍と契約しに来たのに、日和っていては駄目だろう。
私がなんとか意見を切り出そうとしたところで「そうだねえ」と頼光から声がかかった。
「ここでさっさと巫女と青龍は契約を果たしたほうが、なにかと有効だと思うよ」
「どうして?」
「少なくとも、魑魅魍魎以外には襲われにくくなるからさ。野生の動物は、勝てない戦いはしない。強い者の気配を感じたら、すぐ逃げるからね」
ああ、そっか。要は鈴鹿が青龍と契約してしまったら、この辺り一帯は魑魅魍魎も現れないし、野生動物も寄ってこなくなるから、私たちも快適に眠れると。
鈴鹿は「そっか……」と言うと、そのまま東の封印へと足を進めはじめた。
たしか、本家本元だったら、封印の場所には青龍のオブジェがあって、そこに話しかけたら試練がはじまるはずなんだけれど……。
私たちが進んだ先は、緑の匂いが濃い。隅っこは苔むしているし、人が入るのは本当にうん十年ぶりなんだろうなというくらいに、なんの気配もない。
しばらく歩いた先に石段があった。そこに向かって鈴鹿は、自分の得物を引き抜いた。
鬼ごろしの剣が、光もないはずなのに、きらめく。
「私は四神の巫女、鈴鹿。東の青龍に契約を申し込みに来た──……!!」
鈴鹿の声は凜々しい。やがて、石段は光った。
これはリメイク版のせいなのかな、本家本元と演出が変わっている。
「よく来た、我が巫女よ。しかし、契約にはそれ相応の力が必要。その力がそなたにあるのかどうか、今こそたしかめよう」
本家本元では、声なんてなかったのにな。いや、現実では声がなかったら契約の有無がわからないか。そう思いながら、詠唱の準備をしていたところで。
グラリ……と地面が揺れる。
「ハナ」
「ハナハナ」
「ハナ」
「ハナナ」
メルヘンな声が聞こえたと思ったら、ぴょこ。またぴょこ。と、胞子を震わせてなにかが出てきた。
木霊……のはずだけれど。それの量があまりにも多い。
「あのう……夜になったら、力が抑えられるはずだったのでは」
「……あれは、月光木霊」
「はいぃぃぃぃぃ?」
思わず素になってしまい、周りが驚いた顔でこちらを見るので、私は慌てて口を抑えた。
……ええっと、月光木霊なんて中ボスいたかな。覚えてない。記憶を探ってみても、いまいち一致しないことに頭を抱えていたら、保昌が「気を付けてください」と声をかける。
「あれは胞子で幻覚を見せます。おまけに夜行性ですので、今の時間が一番強いです」
「昼間でしたら、木霊だったんでしょうか!?」
「……そればかりは、ちょっとわかりませんけど」
時間差で中ボス戦の内容を変えるんじゃない!?
これはゲームの仕様なのか、中ボスは月光木霊固定なのかさっぱりわからないけれど、とりあえず戦えばいいんだな!?
火は使えない、数が多い、おまけに胞子攻撃の三重苦って、これどうやって戦えばいいの
!? こっちは補助詠唱しか使えないって言うのに!!
頭を抱えつつ、青龍の声に見守られて、私たちの戦いははじまった。
だんだんこの辺りは魑魅魍魎が減ってきた代わりに、野生動物が増えてきた。
牡鹿の角に追いかけ回されて怖い思いをしたと思ったら、利仁と頼光が弓矢で射止めてくれて事なきを得た……けど、牡鹿の血の臭いに誘われて、狼が現れて、そこで乱戦となる。
仕方なく、東の封印に到着までは、できる限り野生動物との戦いは避けて、草木で隠れながらジリジリと進む方向に切り替えたために、なかなか到着できない。
東の封印に辿り着いたのは、結局は日が暮れてからだった。
木々の向こうから、月までぽっかりと昇っているのが見える。
「ようやく辿り着いたか……ここまで来るのに、ずいぶんと長いことかかったなあ」
そう言ってガリガリと頬を引っ掻く田村丸に、鈴鹿は「そうだね」と頷く。
「でもどうする? 今から東の青龍を呼び出して試練を受けることになったら、契約するまでに時間がかかると思うけど」
正直、木霊との戦いは夜のほうがこちらに利がある。でもそのあとのほうが問題。
私たちが無傷で戦いを終えられるとは限らないからだ。血塗れで休むとなったら、十中八九狼の襲撃に遭う。昼間だったら簡単に撃退できるけれど、次は中ボス戦なのだ。そのあとに狼退治なんてしてたら、寝る暇がない。
おまけにここは中途半端に広いもんだから、保昌がひと晩休めるだけの結界を張ることができない。でも封印の周りは野生の王国と化しているから、こんなところで血の臭いを垂れ流してドンパチしていたら、即野生動物に襲われると思う。
どうして鬼無里には里の周りに門番がいたのか。更に鈴鹿を守るために神社の周りにまで結界を張ったのか、よくわかった。野生の王国万歳過ぎて、里の中にまで野生動物が現れたら、日常生活を送るなんてほぼ不可能だ。
でも血の流れない戦いはないと思うし、そもそも東の青龍と契約しに来たのに、日和っていては駄目だろう。
私がなんとか意見を切り出そうとしたところで「そうだねえ」と頼光から声がかかった。
「ここでさっさと巫女と青龍は契約を果たしたほうが、なにかと有効だと思うよ」
「どうして?」
「少なくとも、魑魅魍魎以外には襲われにくくなるからさ。野生の動物は、勝てない戦いはしない。強い者の気配を感じたら、すぐ逃げるからね」
ああ、そっか。要は鈴鹿が青龍と契約してしまったら、この辺り一帯は魑魅魍魎も現れないし、野生動物も寄ってこなくなるから、私たちも快適に眠れると。
鈴鹿は「そっか……」と言うと、そのまま東の封印へと足を進めはじめた。
たしか、本家本元だったら、封印の場所には青龍のオブジェがあって、そこに話しかけたら試練がはじまるはずなんだけれど……。
私たちが進んだ先は、緑の匂いが濃い。隅っこは苔むしているし、人が入るのは本当にうん十年ぶりなんだろうなというくらいに、なんの気配もない。
しばらく歩いた先に石段があった。そこに向かって鈴鹿は、自分の得物を引き抜いた。
鬼ごろしの剣が、光もないはずなのに、きらめく。
「私は四神の巫女、鈴鹿。東の青龍に契約を申し込みに来た──……!!」
鈴鹿の声は凜々しい。やがて、石段は光った。
これはリメイク版のせいなのかな、本家本元と演出が変わっている。
「よく来た、我が巫女よ。しかし、契約にはそれ相応の力が必要。その力がそなたにあるのかどうか、今こそたしかめよう」
本家本元では、声なんてなかったのにな。いや、現実では声がなかったら契約の有無がわからないか。そう思いながら、詠唱の準備をしていたところで。
グラリ……と地面が揺れる。
「ハナ」
「ハナハナ」
「ハナ」
「ハナナ」
メルヘンな声が聞こえたと思ったら、ぴょこ。またぴょこ。と、胞子を震わせてなにかが出てきた。
木霊……のはずだけれど。それの量があまりにも多い。
「あのう……夜になったら、力が抑えられるはずだったのでは」
「……あれは、月光木霊」
「はいぃぃぃぃぃ?」
思わず素になってしまい、周りが驚いた顔でこちらを見るので、私は慌てて口を抑えた。
……ええっと、月光木霊なんて中ボスいたかな。覚えてない。記憶を探ってみても、いまいち一致しないことに頭を抱えていたら、保昌が「気を付けてください」と声をかける。
「あれは胞子で幻覚を見せます。おまけに夜行性ですので、今の時間が一番強いです」
「昼間でしたら、木霊だったんでしょうか!?」
「……そればかりは、ちょっとわかりませんけど」
時間差で中ボス戦の内容を変えるんじゃない!?
これはゲームの仕様なのか、中ボスは月光木霊固定なのかさっぱりわからないけれど、とりあえず戦えばいいんだな!?
火は使えない、数が多い、おまけに胞子攻撃の三重苦って、これどうやって戦えばいいの
!? こっちは補助詠唱しか使えないって言うのに!!
頭を抱えつつ、青龍の声に見守られて、私たちの戦いははじまった。
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