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第一章 鬼無里編
友情エンドは削られがちなんですが、逆に言ってしまえば全ルートに介入可能なんですよ
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次の日、私は星見台まで向かい、保昌に謝っていた。
「ごめんなさい、今日はちょっと神社に用がありまして、勉強ができないんです」
「ああ、鈴鹿様とお話ですね」
昨日の今日だから、保昌はあっさりと許可を出してくれた。保昌はふんわりと笑う。
「あれだけ頑張ってらした紅葉様のことを、鈴鹿様がなにも知らない訳ではないと思いますよ?」
「そう……なんでしょうか、でも……」
「おそらくですけれど、おふたりはよく似てらっしゃるから」
「え……?」
紅葉と鈴鹿が似ているなんて、どこが?
少なくとも私は、鈴鹿と違って勇敢ではないし、戦うときに強ばってしまって、なかなか上手いことできなかったと思う。小さい頃から巫女としての教育を受けてきた鈴鹿と違って、あくまで付け焼き刃なんだから。
家族にも居場所にも恵まれた頭領の娘、って言われてしまったら、それまでなんだけれど。私が本気でわからないという顔をしているのに気付いたのか、保昌は「ああ、言葉が足りませんでしたね」と続ける。
「なにも、戦おうとしているとか、おふたりとも里では目立っているとか、それだけではないんですよ?」
「なら……どうして……」
「それはおふたりが親友同士だからじゃないでしょうか?」
「親友……」
「正直、僕はそんなおふたりが羨ましく思えますよ。ほら、鈴鹿様の元へどうぞ」
そう保昌に促されて、私は彼にぺこんと頭を下げた。
「ありがとうございます。本当にいつもいつも」
「いいえ、お気になさらず。ちゃんとおふたりでお話ししてくださいね」
「はいっ!」
私は星見台を後にすると、そのまま神社へと向かった。
昨日の今日だから、今もまた収穫祭の後片付けで、里の雄志が集まって、舞台の組木や供物を片付けている。組木を担いでいる中には、田村丸もいた。
「田村丸!」
私が呼ぶと、彼はいつもの朗らかな笑みでこちらに寄ってきた。相変わらず力持ちのこの人は、皆がふたり以上で担いでいる組木も、たったひとりで何本も肩に載せている。私はそれをちらちらと見ていると、田村丸は「ああ」と気付いてそれを下ろし、椅子替わりにして私に促してくれた。
私はそれに怖々と腰を下ろした。
「あの……鈴鹿はいらっしゃいますか?」
「すまんなあ、今は禊《みそぎ》中でな。裏の滝にいるから、もうしばらく戻れないと思うぞ」
「ああ……そうでしたか」
「すまんな、お前さんが鈴鹿を心配のあまりに、旅に同行しようと修行をはじめたことくらいは、こちらも耳に入っていたが……」
「……私、保昌には口止めをしてたんですけど、意外と皆さんご存じですよね」
「ははは、里は狭いからな。人の口には門が立てられんよ」
相変わらず、田村丸は穏やかに言うと、ひょいと私になにかを差し出した。それは芋けんぴだった。多分昨日の収穫祭で、誰かがつくって売っていたのだろう。私は差し出されたものを、コリコリと食べる……おいしいし、優しい味だ。
田村丸もまた、何本か手に取って口に頬張ると、続けた。
「鈴鹿からしてみれば、お前さんは初めてで唯一の女友達だからなあ。お前さんが死ぬかもしれないってことに、恐怖したんだろうさ。昨日のこと、あれもかなり落ち込んでいたからなあ」
「そんな、鈴鹿はなにも悪くなくて、むしろ私が勝手にやったことだから」
「だからさ。お前さんは四神契約の旅を、やや甘く見ているみたいだからなあ。少なくとも、ここの神社で育ち、修行をつけてきた俺たちと、頭領の屋敷でなにひとつ不自由なく暮らしてきたお前さんだったら、温度差がどうしても出てしまうだろうな」
それに私は喉を詰まらせた。
……ああ、そりゃそうか。田村丸からしてみれば、最優先するのは鈴鹿なんだから、鈴鹿の意思に沿うのは当然かあ。
この人、紅葉に旅に同行してほしくないんだなあ……。
大事な幼馴染を泣かされて、多分いや、かなり怒ってる。なまじ本当に表面上は人のいいことばかり言っているからわかりにくいだけで。
どうしよう。このまんまだったら鈴鹿に会う前に追い返される。
私はぐるぐると考えて、立ち上がった。
「……やっぱり話をしてきます。鈴鹿と」
「だから、今鈴鹿は禊の最中で……」
「男子禁制ですが、私は女ですから。入れますよね?」
私の手を掴んで制止しようとした田村丸だったが、彼の手は別方向から伸びた手に取られた。
ここの居候の利仁が、いつの間にやらこちらまで来ていたのだ。
「ふん、そなたらしくもなかろうよ。紅葉にそこまで八つ当たりするなんてなあ」
「……いやあ、俺は別に当たっているつもりは」
「鈴鹿に滅法弱いのは知っておるが、それは筋違いというものよ。命を天秤にかけられた現場に居合わせたら、英傑とて考えが鈍るものよ。ほら、紅葉。行くがよい」
「利仁……ありがとうございます!」
そのまま私は、裏の滝目指して走って行った。境内を抜け、更にその先。
そこは【男子禁制】と竹に書かれて吊されていたけれど、私はその隣を横切っていった。
「鈴鹿……!」
私が声をかけると、白衣で滝を浴びていた彼女が、ちょうど手拭いで体を拭っているところだった。ボタボタと滴を垂らしながら、彼女は驚いて顔を上げた。
「紅葉。どうしたのかな、こんなところで」
「昨日は、ごめんなさい! あなたを振り回してしまって! それでも私は。あなたと一緒に旅に出たいんです!」
「……紅葉、昨日も言ったと思うけれど。四神契約の旅は危ないんだよ? 巫女に何人も守護者を付けるのは、巫女が偉いからじゃない。巫女が死んだら四神と契約する人間がいなくなってしまうからだよ。私は……本当だったらひとりで旅に出たいけれど、ひとりでだったら絶対に無理だってことを知っている。私は……守護者に、友達に、『使命のために死んでください』と言わないといけないんだよ? 紅葉にだけは、それを絶対に言いたくないのに」
ああ、本当にこの子は。
私は濡れている鈴鹿の手を取った。鈴鹿は驚いた顔で「濡れちゃうよ!?」と言い募るけれど、私は「だからなんですの?」と答える。
「私は死にません。死にたくないから、修行をしているんです。そんな危険な旅、本当だったら私だってあなたに任せたくありません。もっと強い方に託したいです。でも……それじゃあなただって納得しないでしょう?」
「当たり前だよ……だって、私はそのために育てられたんだから」
「その荷物を、私にも背負わせてください」
……いったいあのクソプロデューサーは、なにを企んでいるのか私だって知らない。
いきなり人気キャラな中ボスまで追加攻略対象に投下してきたんだから、残りふたりはいったい誰なのかわからないし、本当に唐突に出してくる気がする。
私は元々鈴鹿が大好きだし、彼女は恋する女の子であるのと同時に、巫女の使命のために体を張る優しい子だって知っている。その子を。
恋が原因でこの子の無垢さを濁らせる真似は、絶対にして欲しくない。
さっきので田村丸が相当過保護だっていうことは確認できたけれど、まだまだ安心要素が足りないから。だからこそ、一緒に行く。
鈴鹿は困ったように、目を白黒とさせてから、ようやく口元にふっと笑みを浮かべた。
「……強くろう。四神契約の旅は、きっと鬼や魑魅魍魎に邪魔されるから。そこを生き残れるくらいに」
「もちろんです」
私たちは手を取り合って、互いに生き残りたいという旨を分かち合ったんだ。
「ごめんなさい、今日はちょっと神社に用がありまして、勉強ができないんです」
「ああ、鈴鹿様とお話ですね」
昨日の今日だから、保昌はあっさりと許可を出してくれた。保昌はふんわりと笑う。
「あれだけ頑張ってらした紅葉様のことを、鈴鹿様がなにも知らない訳ではないと思いますよ?」
「そう……なんでしょうか、でも……」
「おそらくですけれど、おふたりはよく似てらっしゃるから」
「え……?」
紅葉と鈴鹿が似ているなんて、どこが?
少なくとも私は、鈴鹿と違って勇敢ではないし、戦うときに強ばってしまって、なかなか上手いことできなかったと思う。小さい頃から巫女としての教育を受けてきた鈴鹿と違って、あくまで付け焼き刃なんだから。
家族にも居場所にも恵まれた頭領の娘、って言われてしまったら、それまでなんだけれど。私が本気でわからないという顔をしているのに気付いたのか、保昌は「ああ、言葉が足りませんでしたね」と続ける。
「なにも、戦おうとしているとか、おふたりとも里では目立っているとか、それだけではないんですよ?」
「なら……どうして……」
「それはおふたりが親友同士だからじゃないでしょうか?」
「親友……」
「正直、僕はそんなおふたりが羨ましく思えますよ。ほら、鈴鹿様の元へどうぞ」
そう保昌に促されて、私は彼にぺこんと頭を下げた。
「ありがとうございます。本当にいつもいつも」
「いいえ、お気になさらず。ちゃんとおふたりでお話ししてくださいね」
「はいっ!」
私は星見台を後にすると、そのまま神社へと向かった。
昨日の今日だから、今もまた収穫祭の後片付けで、里の雄志が集まって、舞台の組木や供物を片付けている。組木を担いでいる中には、田村丸もいた。
「田村丸!」
私が呼ぶと、彼はいつもの朗らかな笑みでこちらに寄ってきた。相変わらず力持ちのこの人は、皆がふたり以上で担いでいる組木も、たったひとりで何本も肩に載せている。私はそれをちらちらと見ていると、田村丸は「ああ」と気付いてそれを下ろし、椅子替わりにして私に促してくれた。
私はそれに怖々と腰を下ろした。
「あの……鈴鹿はいらっしゃいますか?」
「すまんなあ、今は禊《みそぎ》中でな。裏の滝にいるから、もうしばらく戻れないと思うぞ」
「ああ……そうでしたか」
「すまんな、お前さんが鈴鹿を心配のあまりに、旅に同行しようと修行をはじめたことくらいは、こちらも耳に入っていたが……」
「……私、保昌には口止めをしてたんですけど、意外と皆さんご存じですよね」
「ははは、里は狭いからな。人の口には門が立てられんよ」
相変わらず、田村丸は穏やかに言うと、ひょいと私になにかを差し出した。それは芋けんぴだった。多分昨日の収穫祭で、誰かがつくって売っていたのだろう。私は差し出されたものを、コリコリと食べる……おいしいし、優しい味だ。
田村丸もまた、何本か手に取って口に頬張ると、続けた。
「鈴鹿からしてみれば、お前さんは初めてで唯一の女友達だからなあ。お前さんが死ぬかもしれないってことに、恐怖したんだろうさ。昨日のこと、あれもかなり落ち込んでいたからなあ」
「そんな、鈴鹿はなにも悪くなくて、むしろ私が勝手にやったことだから」
「だからさ。お前さんは四神契約の旅を、やや甘く見ているみたいだからなあ。少なくとも、ここの神社で育ち、修行をつけてきた俺たちと、頭領の屋敷でなにひとつ不自由なく暮らしてきたお前さんだったら、温度差がどうしても出てしまうだろうな」
それに私は喉を詰まらせた。
……ああ、そりゃそうか。田村丸からしてみれば、最優先するのは鈴鹿なんだから、鈴鹿の意思に沿うのは当然かあ。
この人、紅葉に旅に同行してほしくないんだなあ……。
大事な幼馴染を泣かされて、多分いや、かなり怒ってる。なまじ本当に表面上は人のいいことばかり言っているからわかりにくいだけで。
どうしよう。このまんまだったら鈴鹿に会う前に追い返される。
私はぐるぐると考えて、立ち上がった。
「……やっぱり話をしてきます。鈴鹿と」
「だから、今鈴鹿は禊の最中で……」
「男子禁制ですが、私は女ですから。入れますよね?」
私の手を掴んで制止しようとした田村丸だったが、彼の手は別方向から伸びた手に取られた。
ここの居候の利仁が、いつの間にやらこちらまで来ていたのだ。
「ふん、そなたらしくもなかろうよ。紅葉にそこまで八つ当たりするなんてなあ」
「……いやあ、俺は別に当たっているつもりは」
「鈴鹿に滅法弱いのは知っておるが、それは筋違いというものよ。命を天秤にかけられた現場に居合わせたら、英傑とて考えが鈍るものよ。ほら、紅葉。行くがよい」
「利仁……ありがとうございます!」
そのまま私は、裏の滝目指して走って行った。境内を抜け、更にその先。
そこは【男子禁制】と竹に書かれて吊されていたけれど、私はその隣を横切っていった。
「鈴鹿……!」
私が声をかけると、白衣で滝を浴びていた彼女が、ちょうど手拭いで体を拭っているところだった。ボタボタと滴を垂らしながら、彼女は驚いて顔を上げた。
「紅葉。どうしたのかな、こんなところで」
「昨日は、ごめんなさい! あなたを振り回してしまって! それでも私は。あなたと一緒に旅に出たいんです!」
「……紅葉、昨日も言ったと思うけれど。四神契約の旅は危ないんだよ? 巫女に何人も守護者を付けるのは、巫女が偉いからじゃない。巫女が死んだら四神と契約する人間がいなくなってしまうからだよ。私は……本当だったらひとりで旅に出たいけれど、ひとりでだったら絶対に無理だってことを知っている。私は……守護者に、友達に、『使命のために死んでください』と言わないといけないんだよ? 紅葉にだけは、それを絶対に言いたくないのに」
ああ、本当にこの子は。
私は濡れている鈴鹿の手を取った。鈴鹿は驚いた顔で「濡れちゃうよ!?」と言い募るけれど、私は「だからなんですの?」と答える。
「私は死にません。死にたくないから、修行をしているんです。そんな危険な旅、本当だったら私だってあなたに任せたくありません。もっと強い方に託したいです。でも……それじゃあなただって納得しないでしょう?」
「当たり前だよ……だって、私はそのために育てられたんだから」
「その荷物を、私にも背負わせてください」
……いったいあのクソプロデューサーは、なにを企んでいるのか私だって知らない。
いきなり人気キャラな中ボスまで追加攻略対象に投下してきたんだから、残りふたりはいったい誰なのかわからないし、本当に唐突に出してくる気がする。
私は元々鈴鹿が大好きだし、彼女は恋する女の子であるのと同時に、巫女の使命のために体を張る優しい子だって知っている。その子を。
恋が原因でこの子の無垢さを濁らせる真似は、絶対にして欲しくない。
さっきので田村丸が相当過保護だっていうことは確認できたけれど、まだまだ安心要素が足りないから。だからこそ、一緒に行く。
鈴鹿は困ったように、目を白黒とさせてから、ようやく口元にふっと笑みを浮かべた。
「……強くろう。四神契約の旅は、きっと鬼や魑魅魍魎に邪魔されるから。そこを生き残れるくらいに」
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