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色仕掛け外交(物理)はいかが・6
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豪奢なシャンデリアだけが、館の主とこの場におけるイレギュラーとの戦いを見下ろしている。
残念ながらどちらかの味方をしてくれる訳でもないシャンデリアは、荘厳な雰囲気とわずかばかりの火の粉を撒き散らしながら、こちらを見下ろすだけだ。
まだウィルマの私兵たちが突入してこないところから見て、下のほうにいるグールたちに相当苦戦を強いられているのだろう。力はそこまで強くなくとも、数だけは無駄に多いのだから。
マルティンの爪は伸縮自在らしく、俺のほう目掛けて、四方八方から伸ばしてくる。それをどうにか日傘で捌き続けていたが、さすがに日傘のレース地がだんだんと爪で裂けてきた。
……まずいな、これどうしたもんか。
妹がしていたプレイ内容から推測するに、本来だったらエクソシストとやっていたはずのマルティンとの戦いだ。俺とエクソシストだったら、戦力の数も、できる手数の多さも、なにもかもが違うだろう。
……一応マリオンは真祖のはずなんだから、魔力自体はあるはずなんだ。日傘で戦う以外に、もうちょっとこう、なんとかできないのか。俺はそう思いながらどうにか爪を捌いている中、マルティンはこちらをうっとりとした顔で眺めてきていた。
「本当に実に惜しいものですなあ……」
「なにが、だよ……!? お前のコレクションを逃がしたことか!?」
「いいえ、たしかにコレクションが逃げたのは残念です。折角食事を与えて肉付きをよくしたところで、蝋漬けにすれば立派な蝋人形の完成でしたのに。ですが、お美しいベルガー夫人がいらっしゃり、惜しいという気持ちは増すばかりです」
「訳が、わかんねえな……!」
「そうですか? 真祖の双子なんて、本来は珍しいものですよ?」
……ん?
俺はこちらに伸びてきた爪を叩き折りながら、ピクンとこめかみが跳ねるのを感じていた。
マルティンは恍惚に満ちた笑みを浮かべながら続ける……コレクションの話をする偏執狂というものは、いつだってどこかおかしい。
「ベルガー夫人は双子とお聞き及んでおります。片割れは行方不明になっておりますが、ふたり揃って手に手を取ったところを、蝋に漬ければ、それはそれは素晴らしいコレクションにだって……」
「誰が誰のコレクションだって?」
俺は日傘でこちらに伸びてきた爪を一気に叩き折ったあと、さらに折った爪を拾って、二刀流のように構えた。
マリオンはなんのために死んだと思っているんだ。それは妹のリズの平穏無事な人生のためだろうが。それをふたり揃えてコレクションにする? 蝋漬けにして? そんなもん、エクソシストに火を付けられて燃やされたらなんもかんも終わりだろうが。
冗談じゃない。
俺の態度が変わったことに、ビクンとマルティンは体を跳ねさせ、何故か身悶えしはじめた……何故。
「ああ……! おぞましいほどに冷えた熱……! ベルガー夫人は、怒れば怒るほどに、冷えた熱でこちらを凍てつかせようとする……! 素晴らしい……!!」
「……意味がわかんねえことを、ガタガタ言ってるんじゃねえ!!」
いい加減、この変態に付き合うのはうんざりだ。
俺は爪と日傘を構え、一気に地面を蹴った。爪はあくまで俺の体のみを狙い、顔は狙わない……服で隠せない部分を傷付けないのは、あの執事が教えてくれたことだ……偏執狂はこれだから。
俺は自分の顔を盾に、そのままマルティンの元に日傘と爪を使って、一気に十字に得物を振り下ろす。途端に、血飛沫が飛んだ。鮮血がぷしゃあと音を立てて飛び散る。
「ナハハハハハハハハハハ…………!! ああ、素晴らしい! ハハハハハ……!!」
「うるっせえ……!! いい加減、くたばってくれよ……!!」
吸血鬼は何度も何度も切っても、致命傷を与えなかったら、すぐに怪我が回復してしまう。俺はマルティンの首を得物ふたつを使って狙ったのに、グールのときのように、簡単には首を落としてくれない。
……生きてる吸血鬼って、こんなに厄介なのかよ!!
剣の速さも見切ることもできても、俺の腕力だと、吸血鬼の首は落とせない……!!
そのときだった。
いきなりなにかがシュルッと伸びてきた。これは……銀の、糸……?
「ベルガー夫人、大変お待たせしました。ようやく、私兵が突入でき、屋敷は制圧できました。あとは、ここの主さえ滅せれば……!!」
「ウィルマ……!!」
本来、吸血鬼だと致命傷になるはずの銀の糸を、ウィルマは手袋を嵌めて持ち、それを俺が日傘と爪を刺したまま身動きだけ止めていたマルティンに巻き付けたのだ。
さすがにそれには、マルティンも焦り声を上げた。
「な、なんだ貴様は……! シュタウフェンベルク領主だと!?」
「ごめんあそばせ、あなたは少々やり過ぎましたの。これ以上あなたが趣味に没頭されては、エクソシストに通報されてもおかしくはないでしょう!?」
そう言って、ウィルマはピン。と銀の糸を弾いた。途端にマルティンの首に巻き付いた銀の糸がきつく縛られ、とうとうマルティンの首の肉を引き裂いた。まるでソーセージをつくったかのように、ボロンと音を立ててマルティンの首が落ちる。
その緊張で、俺はどっと息を吹いて、その場に座り込んだ。そのままゼイゼイと息を切らせる。
「ありがとうございます、ウィルマ……おかげで、無事に倒せました」
「こちらこそ、本当に無理難題を言い放って申し訳ございませんでした。皆様の陽動のおかげで、無事にこの屋敷を統べるグールの制圧に、人間の保護ができましたから……ところで、あの方々を全員ベルガー夫人が引き取ると、あなた様の従者の方々からお伺いしましたが、本当によろしいので?」
「ええ。そのつもりです」
なんと言っても、うちで働いている人間たちは、未だに吸血鬼騒動の蚊帳の外なのだ。そもそもあそこで働いているだけの人たちを、そんなもんに巻き込みたくないし。
彼らを平穏無事に暮らさせるには、こちらの都合がわかる人間の味方が欲しい。なによりもウラやミヒャエラが吸血鬼や眷属だって言っても脅えないような……それに、あの子たちは村人をいきなりグールに変えられて、無理矢理コレクションにされかけた子たちだから、平穏無事な生活を送らせたいっていうのもある。命のやり取りをしない場所、吸血鬼にいきなり襲撃かけられない場所なんて、本当に限られているんだから。
「自分には人間の味方がひとりでも多く欲しくて、そして彼女たちには平穏な働き口を与えたいっていう、それだけです」
「そうですか」
それ以上はウィルマはなにも言うことはなく、領主として、この土地の主が亡くなったこと、この土地をさっさと国に返還する手続きを執りはじめた。
そうしたらこの土地はエクソシストの管轄になるけれど、少なくともこの土地の主が亡くなった経緯までは依頼が入らない以上は調査もできず、真相は闇の中になるっていう寸法だった。
少なくとも……これでリズが誘拐される芽はひとつ摘んだはずだけれど。これからがまた、大変だ。
残念ながらどちらかの味方をしてくれる訳でもないシャンデリアは、荘厳な雰囲気とわずかばかりの火の粉を撒き散らしながら、こちらを見下ろすだけだ。
まだウィルマの私兵たちが突入してこないところから見て、下のほうにいるグールたちに相当苦戦を強いられているのだろう。力はそこまで強くなくとも、数だけは無駄に多いのだから。
マルティンの爪は伸縮自在らしく、俺のほう目掛けて、四方八方から伸ばしてくる。それをどうにか日傘で捌き続けていたが、さすがに日傘のレース地がだんだんと爪で裂けてきた。
……まずいな、これどうしたもんか。
妹がしていたプレイ内容から推測するに、本来だったらエクソシストとやっていたはずのマルティンとの戦いだ。俺とエクソシストだったら、戦力の数も、できる手数の多さも、なにもかもが違うだろう。
……一応マリオンは真祖のはずなんだから、魔力自体はあるはずなんだ。日傘で戦う以外に、もうちょっとこう、なんとかできないのか。俺はそう思いながらどうにか爪を捌いている中、マルティンはこちらをうっとりとした顔で眺めてきていた。
「本当に実に惜しいものですなあ……」
「なにが、だよ……!? お前のコレクションを逃がしたことか!?」
「いいえ、たしかにコレクションが逃げたのは残念です。折角食事を与えて肉付きをよくしたところで、蝋漬けにすれば立派な蝋人形の完成でしたのに。ですが、お美しいベルガー夫人がいらっしゃり、惜しいという気持ちは増すばかりです」
「訳が、わかんねえな……!」
「そうですか? 真祖の双子なんて、本来は珍しいものですよ?」
……ん?
俺はこちらに伸びてきた爪を叩き折りながら、ピクンとこめかみが跳ねるのを感じていた。
マルティンは恍惚に満ちた笑みを浮かべながら続ける……コレクションの話をする偏執狂というものは、いつだってどこかおかしい。
「ベルガー夫人は双子とお聞き及んでおります。片割れは行方不明になっておりますが、ふたり揃って手に手を取ったところを、蝋に漬ければ、それはそれは素晴らしいコレクションにだって……」
「誰が誰のコレクションだって?」
俺は日傘でこちらに伸びてきた爪を一気に叩き折ったあと、さらに折った爪を拾って、二刀流のように構えた。
マリオンはなんのために死んだと思っているんだ。それは妹のリズの平穏無事な人生のためだろうが。それをふたり揃えてコレクションにする? 蝋漬けにして? そんなもん、エクソシストに火を付けられて燃やされたらなんもかんも終わりだろうが。
冗談じゃない。
俺の態度が変わったことに、ビクンとマルティンは体を跳ねさせ、何故か身悶えしはじめた……何故。
「ああ……! おぞましいほどに冷えた熱……! ベルガー夫人は、怒れば怒るほどに、冷えた熱でこちらを凍てつかせようとする……! 素晴らしい……!!」
「……意味がわかんねえことを、ガタガタ言ってるんじゃねえ!!」
いい加減、この変態に付き合うのはうんざりだ。
俺は爪と日傘を構え、一気に地面を蹴った。爪はあくまで俺の体のみを狙い、顔は狙わない……服で隠せない部分を傷付けないのは、あの執事が教えてくれたことだ……偏執狂はこれだから。
俺は自分の顔を盾に、そのままマルティンの元に日傘と爪を使って、一気に十字に得物を振り下ろす。途端に、血飛沫が飛んだ。鮮血がぷしゃあと音を立てて飛び散る。
「ナハハハハハハハハハハ…………!! ああ、素晴らしい! ハハハハハ……!!」
「うるっせえ……!! いい加減、くたばってくれよ……!!」
吸血鬼は何度も何度も切っても、致命傷を与えなかったら、すぐに怪我が回復してしまう。俺はマルティンの首を得物ふたつを使って狙ったのに、グールのときのように、簡単には首を落としてくれない。
……生きてる吸血鬼って、こんなに厄介なのかよ!!
剣の速さも見切ることもできても、俺の腕力だと、吸血鬼の首は落とせない……!!
そのときだった。
いきなりなにかがシュルッと伸びてきた。これは……銀の、糸……?
「ベルガー夫人、大変お待たせしました。ようやく、私兵が突入でき、屋敷は制圧できました。あとは、ここの主さえ滅せれば……!!」
「ウィルマ……!!」
本来、吸血鬼だと致命傷になるはずの銀の糸を、ウィルマは手袋を嵌めて持ち、それを俺が日傘と爪を刺したまま身動きだけ止めていたマルティンに巻き付けたのだ。
さすがにそれには、マルティンも焦り声を上げた。
「な、なんだ貴様は……! シュタウフェンベルク領主だと!?」
「ごめんあそばせ、あなたは少々やり過ぎましたの。これ以上あなたが趣味に没頭されては、エクソシストに通報されてもおかしくはないでしょう!?」
そう言って、ウィルマはピン。と銀の糸を弾いた。途端にマルティンの首に巻き付いた銀の糸がきつく縛られ、とうとうマルティンの首の肉を引き裂いた。まるでソーセージをつくったかのように、ボロンと音を立ててマルティンの首が落ちる。
その緊張で、俺はどっと息を吹いて、その場に座り込んだ。そのままゼイゼイと息を切らせる。
「ありがとうございます、ウィルマ……おかげで、無事に倒せました」
「こちらこそ、本当に無理難題を言い放って申し訳ございませんでした。皆様の陽動のおかげで、無事にこの屋敷を統べるグールの制圧に、人間の保護ができましたから……ところで、あの方々を全員ベルガー夫人が引き取ると、あなた様の従者の方々からお伺いしましたが、本当によろしいので?」
「ええ。そのつもりです」
なんと言っても、うちで働いている人間たちは、未だに吸血鬼騒動の蚊帳の外なのだ。そもそもあそこで働いているだけの人たちを、そんなもんに巻き込みたくないし。
彼らを平穏無事に暮らさせるには、こちらの都合がわかる人間の味方が欲しい。なによりもウラやミヒャエラが吸血鬼や眷属だって言っても脅えないような……それに、あの子たちは村人をいきなりグールに変えられて、無理矢理コレクションにされかけた子たちだから、平穏無事な生活を送らせたいっていうのもある。命のやり取りをしない場所、吸血鬼にいきなり襲撃かけられない場所なんて、本当に限られているんだから。
「自分には人間の味方がひとりでも多く欲しくて、そして彼女たちには平穏な働き口を与えたいっていう、それだけです」
「そうですか」
それ以上はウィルマはなにも言うことはなく、領主として、この土地の主が亡くなったこと、この土地をさっさと国に返還する手続きを執りはじめた。
そうしたらこの土地はエクソシストの管轄になるけれど、少なくともこの土地の主が亡くなった経緯までは依頼が入らない以上は調査もできず、真相は闇の中になるっていう寸法だった。
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