青のループ

石田空

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三周目:ラストチャンス

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 受験勉強の最中に小説を書きつつ、取材を受ける。その中で、地元に出版社の取材もポツポツ入ってくるようになった。
 なんとはなしに一緒に集まって勉強するようになった海斗くんは、そんな外から来た人たちの反応を不思議そうに眺めていた。

「最近、外から来る人多いんだよな。うちの地元、正直なんにもないのにな」
「そう? ここ、近所の市と比べても物価安いと思うし、生活する上ではかなり暮らしやすいと思うけど」
「まあ、観光じゃなくって住むんだったら、暮らしやすいとは思うけどなあ」

 大樹くんは大樹くんで、「亜美、なんかやった?」と尋ねる。それに私は少しだけギクリとした。
 性別は変えたし、何度も何度も繰り返しやり直しているという設定以外は、そこまで私たちがモデルだとは想像しにくいとは思う。でもモデルにしたことを知られたら、怒られそうだなあと思って身を竦めたのだ。
 私の変な行動を怪訝な顔で見つつ、「なんとかなるといいな」とだけ言った。
 私はそれに「うん」とだけ答えた。

****

 海斗くんは何度も何度も「大樹が好きなのは亜美」と言われていたけれど、私たちは互いに一緒に過ごした記憶があると知っていてもなお、なんにも変化がなかった。
 私がなにかしたほうがいいんじゃないか。そうは思ったものの、ふたり揃って友達同士のまんま、特になんにも起こらなかった。
 なにかしたほうがいいのかな。そうわかっていても、まだ未来が確定してない中で下手にちょっかいをかけて傷付くのが怖くて、それで手をこまねいている。
 また廃校になってしまった場合、私たちは離れ離れになってしまうから、行動をして後悔をつぶしたほうがいいとはわかっているけれど、それでも行動ができないのは、なにをしても勝手に喜んで、勝手に傷ついている私は、大樹くんに踏み込んでいったらどうなってしまうのか想像ができなくって、結局はその場で足踏みしているままだった。
 私と大樹くんが図書館で勉強している帰り、「あの……困ります」と路地で声を上げている女子の声を聞いた。
 隣の中学の制服を着た菜々子ちゃんが、男子に掴まれていた……どうも菜々子ちゃんが親切にした男子が、またしても彼女は自分のことが好きと勘違いして暴走したらしい。彼女の男嫌いがまた上がってしまう。
 私は慌てて走っていった。

「す、みません! 友達なんですけど、なにかありましたか!?」
「はい?」

 菜々子ちゃんは困った顔をして私を見ていた。まだこの頃は、私たちは知り合ってないから当然だ。
 私が慌てて走っていったのに、大樹くんはゼイゼイと息を切らしながら追いかけてきた。

「ちょっと亜美……全力出し過ぎ……すみません、なにかありましたか?」

 男子は男子とむやみに喧嘩をしたがらない。よっぽどガラの悪い男子だったらともかく、菜々子ちゃんのことを好きになるような男子は、大概は本来はおとなしめの男子だ。そのまんま「い、いえ……」と言って逃げ出してしまった。
 私は「ほう……」と息を吐きながら、彼女に振り返った。

「大丈夫だった?」
「あ、ありがとう……いつも誰も助けてくれなかったから……」
「そんなことないよ。それじゃあね」
「あの、名前聞いてもいい? 私は……剣谷菜々子」

 菜々子ちゃんの言葉に私は目を見開きながらも、口を開いた。

「泉亜美。あっちは神垣大樹くん。それじゃあね」

 未来で、高校で会おう。
 それは口に出すことはなかった。
 私と大樹くんは菜々子ちゃんに会釈をしてから図書館を離れると、大樹くんは少しだけクスクスと笑っていた。

「亜美は相変わらずだね。いざというとき、一番無鉄砲な行動を取る」
「い、いやあ……そんなつもりはなかったんだけれど。菜々子ちゃんにこれ以上男嫌いになってほしくなかったし、人を幻滅してほしくなかったから。本当にささやか過ぎるけれど、未来を変えたかったの」
「うん。海斗みたいに最初から何故か記憶があるのに全部見ているだけってのが普通だと思うから。亜美みたいにささやかな抵抗を重ねることなんて、いくら何度も何度もやり直してるからってそうそうできるもんじゃないよ」
「それは褒め過ぎだよ」
「そう?」

 ふたりで歩いていく。もうちょっとしたら、道が分かれてそこでそれぞれ帰路につく。その中で大樹くんは伝える。

「知っているからと言って、もっと悪くなるかもしれないって思ったら躊躇するものだから。僕も思っているように未来を変えられているとは思わないから」
「……うん」
「僕はそういうところが、いいなあと思うよ」

 その言葉に、私はキュンと来た。
 相変わらず大樹くんはなんにも言ってくれない。未来が変わっても言ってくれるかはわからない。私が彼の一挙一動に振り回されていると抗議しても、きっと彼は笑うだけだろう。
 その抗議を込めて、私は口にしてみた。

「そんな私をいいって言ってくれるのは大樹くんだけだと思うよ?」
「そう? 多分海斗も菜々子も、そういう亜美だからいいと思ってると思うけど」
「うん。そうかもしれないけれど。私にとっては、大樹くんの言葉が一番特別だから」

 一瞬だけ大樹くんの目が丸くなったのを確認したけれど、私はこれ以上口を開かなかった。
 私と同じように、一挙一動で引きずられてくれたらいいのに。そう意地の悪いことを考えた。
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