青のループ

石田空

文字の大きさ
上 下
39 / 55
二周目:こんな結末認めたくない

しおりを挟む
 クリスマスが終わり、年末年始もドタバタしている間に終わった。
 私が二時間かけて公立校に転校することが決まったために、やれ定期券、やれ授業の流れと、慌ただしいことになってしまっていた。
 宿題をさっさと片付けた私は、それらに乗り遅れないように精一杯やっていたら、冬休みなんてあっという間に終わってしまったんだ。
 今季のクリスマスはホワイトクリスマスになったというのに、雪が積もったのはその時期だけで、残りは晴れ渡っているけど底冷えする晴天となった。
 空の色は薄く、鼻の奥から冷たくなる。私は残り日数を気にしながら、ぐるぐるとマフラーを巻いて、カイロをお腹の腹巻きの中に忍ばせて学校に出かけていった。

「おはよう、亜美」
「大樹くん。おはよう」

 彼がまだ隣にいる事実に、少なからずほっとする。でもあと少しで終わってしまうことを、私は気にしている。
 私の気持ちは知らないまま、大樹くんはのんびりと言った。

「あと少しで廃校だな」
「……うん」
「僕たち、頑張ったのかな」

 そうポツンと言われる。
 私たち四人の中で唐突にやってきた亀裂は、クリスマスを境になあなあになってしまった。もうあれだけ怒っていたはずの菜々子ちゃんすら怒ってないのは、既に大樹くんが私立に転校が決まっていて、彼女の上京も決まっているせいだろう。今の菜々子ちゃんは、高卒資格を取るために通信制の勉強のほうに移行してしまい、人間関係どころではなくなっているのだから。
 私は未だに大樹くんが誰を助けたくってしたことなのか、彼の未来は私の未来と違うこと以外知らないけれど、誰が死なないために頑張ったのか、私は知らない。一方の私は、大樹くんが私の好きだった人とは違う人だったために、この恋の終わらせ方をわからないでいる。
 今でもなにかの拍子に彼への気持ちが浮上する。でも、彼が助けたい人は私ではないんだろうと思うと、気持ちが沈む。結局は私も周りのことは言えずになあなあのままで、大樹くんに誰を助けたかったのかを聞き出せずにいるのだから。
 そこまで考えて、どうにか大樹くんに伝えないととはっとした。

「あのね、なにがあっても私たちは、ずっと一緒だからね。遠くに離れても、傍にいなくっても、ずっと一緒だから」
「うん?」
「なにかあったら連絡して。あと」

 私は誰も見ていないのを確認してから、口を開いた。

「スノードームありがとう。すごく嬉しかった」

 そのひと言を聞いた途端に、大樹くんは破顔した。

「あれでよかったら、いくらでもあげたのに」
「た、くさん欲しいんじゃなくって、ひとつ、思い出が欲しかったから」
「もっと欲張ってもよかったのに」

 そのひと言に、勝手に傷付いた。
 私は欲張れないよ。欲張ってなにかが変わって、今のいい感じの空気が壊れてしまうのは怖いよ。
 好きより先に進むのは、やっぱり怖いよ。
 十年後、なんの感情もないからこそ、私と海斗くんは婚約できた。感情のある人には、そんな失礼なことができないよ。だって。それが好きってことなんだから。

****

 クリスマスから年末年始までとにかくスーパーが忙しかった海斗くんは、ぐったりとしていた。彼にとっては実家の手伝いよりも学校のほうがありがたかったみたいだ。

「あー、おはようー。あと一学期頑張ろうなあ」
「おはよう……スーパーの仕事お疲れ様」
「おはよ。大変だったな?」
「どうもー。そりゃもう」

 いくら地元の人しか使わない店とは言っても、地元の人がほぼ全員詰めかけるんだったら、そりゃレジやら補充やらでぐるぐる回らないといけなくって、責任者の手伝いしている海斗くんだって吐き気がするほど忙しくはなるんだ。
 そうぐったりしている中。

「おはよー」

 元気に登校してきた菜々子ちゃんは、いよいよ髪の色が先生に怒られるギリギリのラインになってきて、思わず息を飲んだ。
 前までは光の加減によっては茶色に染めているとわかるくらいのギリギリ具合だったのに、今はすっかりと色が抜けてしまっている。ほとんど金髪に近い茶髪で、どう考えても呼び出されるラインだ。
 私はあわあわとする。

「菜々子ちゃん……っ、これはいくらなんでもまずくない!?」
「ええ? だって先生はもう、私を怒ったとしてもいいことないよ? 転勤先の心配すりゃいいんだしさあ」
「そんな無責任なこと言う!?」

 思わず悲鳴をあげるものの、菜々子ちゃんはあははと笑う。

「大丈夫だって、だってもう。校門に風紀の先生いなかったもん。今頃急な転勤で慌ててるから心ここにあらずなんだ」
「そんな軽過ぎるよ……」
「……それに、もういいんだ。ここにはもう、私の居場所はないしさあ」

 そうあっさりと言ってのける菜々子ちゃんに、私はもうかける言葉が見つからなかった。
 菜々子ちゃんの生き方は激し過ぎる。彼女の苛烈さについていける女子は少ない。彼女は彼女なりに一生懸命生きているだけなのに、何故か勝手に男子に好かれる。それが原因で勝手に付き合っていることにされたり、勝手に好かれたり、そんな状態が何故か男子に媚びを売って見える女子がいるんだから、彼女はそりゃもう何度も牙を剥いた。
 ……大樹くんがキレられたのも、付き合い方さえ考えたら向かない牙を剥かれた行動で、あれを私は菜々子ちゃんが悪いとは言い切れなかった。
 ここで彼女がのびのび生きられないんだったら、出て行くしかない。それが私の鼻の奥を、寒さ以外でツンとさせたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...