上 下
3 / 46

3話 隣国のラグナ・イシューマ王太子 その2

しおりを挟む
「ウィンリー、なんで君がこんなところに居るんだ?」

「いえ……それは私のセリフなのではないでしょうか……」


 どう見ても、一般人の私より、隣国の重鎮……しかも、王太子殿下が居る方がおかしいと思われる。彼はラグナ・イシューマ王太子殿下で、年齢は私よりも2つ上の20歳だ。

 彼とはこの1年半で知り合ったことにはなるけど、最初は緊張以外の何物も生まれなかった。確か最初は、錬金術を行っている現場を見たいという、彼の気まぐれが私達の出会いだったっけ?

 それからラグナ王太子殿下は、何度も来てくれるようになって行った。半年くらい前から、忙しくなったのかジドル王国にすら来なくなっていたみたいだけど。


 両国間の橋渡し……加えて、両国の国民の生活基盤の上昇に尽力されているお方だった。理想だけを語っても意味はないと、自らの脚で動くタイプの人だ。

 と、いうことは……ここに旅人の服の格好で来ているのもそういうことなのかな?


「まあ確かに……王太子である私が普通の宿屋で寝泊まりしている方が、確かに普通ではないかもしれないな」

「ええ……失礼ながら、そうだと思います」

「ははは、君はハッキリ言うな。相変わらず、その辺りは変わっていないか」

「あ、申し訳ありません……!」

「いやいや、気にしないでくれ。私としてもウィンリー、君には余計な気を使ってほしくないと思っているのでな」

「そうなんですか……?」

「ああ、平民の出の者で私の友人と呼べる者は、君くらいしか居ない。王太子足るもの、交友関係は広いに越したことはないだろう?」


 確かにそうかもしれないけど、私はラグナ王太子殿下の「友人」という言葉に嬉しくなってしまった。私としても、唯一の心を許せる相手だったかもしれないので、本当に嬉しい。


「それで、どうしてそのような格好でいらしているんですか? 公式訪問……などではないようですが?」

「ああ、ジドル王国の国民たちの生活の調査をしていたわけだ」

「生活基盤の調査ですか」

「うむ、その為にお忍びで護衛も目立たぬような格好なのだが……ウィンリーにはすぐにバレてしまったようだな」


 私が借りた部屋にはラグナ王太子殿下以外に、数名の護衛の人達が居る。こうして見ると、冒険者パーティのように見えてしまう。私がラグナ王太子殿下を看破できたのは、何気に凄いことなのかもしれない。


「そういう君は、なぜこんなところに居るんだ? 宮殿の豪華なベッドが飽きて来て……というわけでもないんだろう?」

 しまった……当然、私の話題になるのは自然な流れだ。流れ的には答えるしか選択肢がなかった。どうせ、いずれは知られてしまうだろうし……。


「ええと、実は……錬金術師を解雇されてしまいまして……」


「ん? どういうことだ……?」


 私の解雇という文言を聞いた瞬間、ラグナ王太子殿下の表情が変わる。怖いくらい真剣になっているようだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね

たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」 「お父様!何故ですの!」 「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」 「お兄様!それは!」 「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」 こうして私は王女の身分を剥奪されました。 眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

処理中です...