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第伍章 引き金、弦の章
第七十五節 たった一撃で勝利する方法
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ときの将軍である足利義政の正室・日野富子は、巧みな説得で足利将軍家の方針を転換させる。
「皆様方。
将軍家を支えるべき有力大名たちが醜い身内争いに明け暮れ、幕府の秩序が崩壊しつつある、この状況で……
わたしたちが最も大事にすべきことは何でしょうか?
それは、『真の敵』が誰かを間違えないことです!」
こう続ける。
「わたしたちの真の敵とは……
武器弾薬で銭[お金]を儲けようと、各地で争いや分断を引き起こしている、京の都に巣食う強欲な武器商人たち!
今こそ。
秩序を乱し、世を乱す者たちを尽く討ち果そうではありませんか!」
こうして。
『京の都』のやり方に反発する人々が、『堺』の地に集結した。
◇
父と愛娘の会話は続く。
「さて。
堺の地に集結した人々への危機感を募らせた京の都の武器商人どもは、自らと手を組む者たちを京の都に呼び寄せた。
総大将を務めた山名宗全を始めとして日ノ本の西にいる武士が多かったからか、やがて『西軍』と呼ばれるようになる。
その数は11万人。
一方。
堺の地に集結した人々は、京の都への進撃に必要な兵糧や武器弾薬を貯める兵站拠点の建設を始めた」
「『兵站拠点』の建設……?」
「うむ」
「それを聞いて、一つ思い出したことがあります。
お父上」
「何を思い出したと?」
「日ノ本を代表する三津[3つの港のこと]のうち……
筑前国の博多[現在の福岡市]は元寇[モンゴル軍の日本侵攻を食い止めた2度の戦争のこと]の際に北条時宗公が築いた兵站拠点が、伊勢国の安濃津[現在の津市]は国の支配者にして戦の天才であった北畠顕家公が京の都を攻略するために築いた兵站拠点が繁栄の『きっかけ』であったことを」
「大きな戦ほど、その名が天下に轟く『英雄』を誕生させるものであるが……
同時に大きな戦ほど、必要な兵糧や武器弾薬は莫大なものとなろう。
大きな戦のために築かれた兵站拠点が、日ノ本有数の繁栄を誇る都市へと発展することなど珍しい話ではない」
「堺という日ノ本一の繁栄を誇る都市は、あの応仁の乱が作り出したものなのですね。
お父上」
「ああ、その通りよ。
堺に兵站拠点を築いた人々は細川勝元を総大将に据え、やがて『東軍』と呼ばれるようになった。
その数は16万人。
こうして京の都に兵站拠点を置く西軍11万人と、堺に兵站拠点を置く東軍16万人が……
11年も長く続く戦を始めたのじゃ」
「京の都と、そして堺が稼ぐ莫大な『銭[お金]』。
そして、兵站拠点を行き来する大量の『モノ』。
銭とモノ[合わせて経済力]があったからこそ、応仁の乱は11年も長く続いてしまったのでしょうか」
「ああ」
◇
「ところで弦よ。
当然ながら……
そなたは、応仁の乱の『結末』を覚えていような?」
「勿論、覚えています。
総大将である山名宗全の死と……
主力を務めた周防国、長門国[合わせて現在の山口県]、そして安芸国[現在の広島県]を治める大内家の軍勢が引き上げたことで、『西軍は消滅』したはず」
「それは……
何を意味していると思う?」
「堺が、応仁の乱の『勝利者』になったと?」
「それだけではないぞ。
堺は応仁の乱の勝利者になったことで……
京の都に代わって、裏から日ノ本を支配する地位を得たことにもなる」
「裏から日ノ本を支配!?」
「考えれば分かることではないか。
争っているどちらかに兵糧や武器弾薬を支援すれば、望む側を圧倒的な優位に立たせることができる。
あるいは……
争っている両者に軍資金の銭[お金]を貸し、戦そのものを起こすことさえできよう」
「戦の決着を己の欲する方向へ持っていけること。
必要に応じて、戦そのものを起こせること。
まさに裏から日ノ本を支配する地位を得たも同然なのでしょうね」
「よく分かったであろう?
堺が、わしの支配を受け入れることなど絶対にないことを」
「覚えておられますか?
お父上が堺から戻られた、あの日……
日ノ本一の繁栄を謳歌している都市の賑わいについて、お父上はわたくしに興奮気味に教えてくださいました」
「よく覚えているのう」
「ですから……
あの堺を我が物とするのが困難であることは、わたくしも重々承知しております」
「弦よ。
重々承知しておきながら、あの堺を我が物とするよう強く勧めるのはなぜじゃ?」
「あの堺に勝利する『方法』が、分かったからです。
お父上」
「何っ!?」
◇
一呼吸を置いて、愛娘は言葉を続ける。
「お父上のお話を聞いて……
一つ、はっきりしたことがありました」
「何がはっきりしたと?」
「11年も掛かってしまいましたが、裏から日ノ本を支配していた都市に一度は勝利できた『事実』です」
「応仁の乱のように、11年も戦をする余裕など……
今のわしにはないぞ?
弦よ」
「重々承知しております」
「もしや……
そなた!
11年も掛けずに勝利する方法に辿り着いたのか?」
「応仁の乱が11年も掛かってしまったのは……
1つは、誰を討つかを『明らか』にしてしまったからです」
「……」
「そして。
もう1つは、堺という兵站拠点を築くのに『時間』が掛かったからです」
「要するに。
準備する時間を、相手に与えてしまったからだと?」
「はい。
孫子の兵法に、こうあります。
『兵は詭道なり[戦争は騙し、欺くことが肝心だという意味]』
そして。
『兵は神速を尊ぶ[戦争は早さが肝心だという意味]』
と」
「そういうことか!
堺を我が物にするという真の目的を隠した上で、三好一族から京の都を奪還して足利義昭を将軍に据えることを表向きの目的に掲げて周囲を『欺き』……
続いて電光石火の『早さ』で大軍を進めて奴らに準備する時間を与えるなと申すのだな?
弦よ」
「はい。
あの堺は、三好一族と長らく手を組んでいたとか。
直ちに討つ『口実』などいくらでも作れましょう」
「大義名分で集めた大軍を『利用』して、あの堺を我が物にする策略を思い付くとは……
見事じゃ!
しかも、弦よ。
わしが教えた兵法を完璧な形で応用したのう」
「お役に立てて、有難き幸せです。
お父上」
「あの堺も……
突如として数万人の軍勢が己に向かって来るなど夢にも思っていないはず。
奴らの慌てふためく様子が目に浮かぶぞ」
◇
義昭を将軍に据える準備を整えた織田信長は、直ちに堺へ向けて大軍を進めるのと同時に……
堺の有力商人・今井宗久に対して一通の強烈な『脅迫状』を送る。
「うぬら堺の商人は、第13代将軍である足利義輝公を殺害した三好一族と手を組んでいたとか。
将軍殺しの謀反人と手を組むなど万死に値する大罪であろう!
本来ならば問答無用に滅ぼされて当然のところ……
第15代将軍となられる義昭公は、寛大にも堺を滅ぼすには忍びないと仰せであった。
ただし!
許されるかどうかは、うぬらの態度次第と心得よ」
脅迫状はこう続く。
「直ちに2つのものを用意しろ。
1つ目。
幕府の武衛家[幕府の敵を討伐する主力となる家のこと、斯波家に代わって織田家が就任]に絶対の『服従』を誓う起請文を書け。
2つ目。
2万貫[現在の金額で20億円相当]の『銭[お金]』を差し出せ。
今わしは、数万人の大軍を率いて堺へ向け電光石火の早さで進撃している。
わしが到着するまでに2つのものを用意しなかった場合……
我が軍はそのまま、賊を討つ軍勢と化すことになるだろう。
堺の住民を老若男女を問わずすべて撫で斬り[皆殺しという意味]にし、家という家をすべて焼き払って一片の草木すら残さず灰にするゆえ覚悟せよ」
脅迫状の最後は、こう締めくくられていた。
「尚。
わしに服従を誓い、大人しく銭[お金]を差し出せば……
堺には2つの『特権』を与えてやる。
1つ目。
堺の有力商人である今井宗久、津田宗及、千宗易[後の千利休]が引き続き代表の地位に留まることを許し、その商圏と財産を保証しよう。
2つ目。
幕府の武衛家たるこのわしが、幕府に逆らう賊を討伐するために戦をする際には……
必要な兵糧と武器弾薬はすべて堺が独占することを許そう」
真の目的を隠した上で大義名分を表向きの目的に掲げて周囲を欺き、続いて電光石火の早さで大軍を進めて準備する時間を与えず、かつ強烈な脅迫状を送り付けて恐怖のどん底に陥れ、相手を『思考停止』へと徹底的に追い込むこと。
加えて。
過酷な要求の見返りに、非常に魅力的な約束を申し入れるという究極のアメとムチで相手が『断れない状況』へと徹底的に追い込むこと。
これこそ愛娘が考えた……
日本一の繁栄を誇る都市に対して、たった『一撃』で勝利する方法であった。
【次節予告 第七十六節 武田信玄との対峙】
弦は、岳父の武田信玄と対峙します。
しかし。
その隣には、心強い『味方』がいました。
「皆様方。
将軍家を支えるべき有力大名たちが醜い身内争いに明け暮れ、幕府の秩序が崩壊しつつある、この状況で……
わたしたちが最も大事にすべきことは何でしょうか?
それは、『真の敵』が誰かを間違えないことです!」
こう続ける。
「わたしたちの真の敵とは……
武器弾薬で銭[お金]を儲けようと、各地で争いや分断を引き起こしている、京の都に巣食う強欲な武器商人たち!
今こそ。
秩序を乱し、世を乱す者たちを尽く討ち果そうではありませんか!」
こうして。
『京の都』のやり方に反発する人々が、『堺』の地に集結した。
◇
父と愛娘の会話は続く。
「さて。
堺の地に集結した人々への危機感を募らせた京の都の武器商人どもは、自らと手を組む者たちを京の都に呼び寄せた。
総大将を務めた山名宗全を始めとして日ノ本の西にいる武士が多かったからか、やがて『西軍』と呼ばれるようになる。
その数は11万人。
一方。
堺の地に集結した人々は、京の都への進撃に必要な兵糧や武器弾薬を貯める兵站拠点の建設を始めた」
「『兵站拠点』の建設……?」
「うむ」
「それを聞いて、一つ思い出したことがあります。
お父上」
「何を思い出したと?」
「日ノ本を代表する三津[3つの港のこと]のうち……
筑前国の博多[現在の福岡市]は元寇[モンゴル軍の日本侵攻を食い止めた2度の戦争のこと]の際に北条時宗公が築いた兵站拠点が、伊勢国の安濃津[現在の津市]は国の支配者にして戦の天才であった北畠顕家公が京の都を攻略するために築いた兵站拠点が繁栄の『きっかけ』であったことを」
「大きな戦ほど、その名が天下に轟く『英雄』を誕生させるものであるが……
同時に大きな戦ほど、必要な兵糧や武器弾薬は莫大なものとなろう。
大きな戦のために築かれた兵站拠点が、日ノ本有数の繁栄を誇る都市へと発展することなど珍しい話ではない」
「堺という日ノ本一の繁栄を誇る都市は、あの応仁の乱が作り出したものなのですね。
お父上」
「ああ、その通りよ。
堺に兵站拠点を築いた人々は細川勝元を総大将に据え、やがて『東軍』と呼ばれるようになった。
その数は16万人。
こうして京の都に兵站拠点を置く西軍11万人と、堺に兵站拠点を置く東軍16万人が……
11年も長く続く戦を始めたのじゃ」
「京の都と、そして堺が稼ぐ莫大な『銭[お金]』。
そして、兵站拠点を行き来する大量の『モノ』。
銭とモノ[合わせて経済力]があったからこそ、応仁の乱は11年も長く続いてしまったのでしょうか」
「ああ」
◇
「ところで弦よ。
当然ながら……
そなたは、応仁の乱の『結末』を覚えていような?」
「勿論、覚えています。
総大将である山名宗全の死と……
主力を務めた周防国、長門国[合わせて現在の山口県]、そして安芸国[現在の広島県]を治める大内家の軍勢が引き上げたことで、『西軍は消滅』したはず」
「それは……
何を意味していると思う?」
「堺が、応仁の乱の『勝利者』になったと?」
「それだけではないぞ。
堺は応仁の乱の勝利者になったことで……
京の都に代わって、裏から日ノ本を支配する地位を得たことにもなる」
「裏から日ノ本を支配!?」
「考えれば分かることではないか。
争っているどちらかに兵糧や武器弾薬を支援すれば、望む側を圧倒的な優位に立たせることができる。
あるいは……
争っている両者に軍資金の銭[お金]を貸し、戦そのものを起こすことさえできよう」
「戦の決着を己の欲する方向へ持っていけること。
必要に応じて、戦そのものを起こせること。
まさに裏から日ノ本を支配する地位を得たも同然なのでしょうね」
「よく分かったであろう?
堺が、わしの支配を受け入れることなど絶対にないことを」
「覚えておられますか?
お父上が堺から戻られた、あの日……
日ノ本一の繁栄を謳歌している都市の賑わいについて、お父上はわたくしに興奮気味に教えてくださいました」
「よく覚えているのう」
「ですから……
あの堺を我が物とするのが困難であることは、わたくしも重々承知しております」
「弦よ。
重々承知しておきながら、あの堺を我が物とするよう強く勧めるのはなぜじゃ?」
「あの堺に勝利する『方法』が、分かったからです。
お父上」
「何っ!?」
◇
一呼吸を置いて、愛娘は言葉を続ける。
「お父上のお話を聞いて……
一つ、はっきりしたことがありました」
「何がはっきりしたと?」
「11年も掛かってしまいましたが、裏から日ノ本を支配していた都市に一度は勝利できた『事実』です」
「応仁の乱のように、11年も戦をする余裕など……
今のわしにはないぞ?
弦よ」
「重々承知しております」
「もしや……
そなた!
11年も掛けずに勝利する方法に辿り着いたのか?」
「応仁の乱が11年も掛かってしまったのは……
1つは、誰を討つかを『明らか』にしてしまったからです」
「……」
「そして。
もう1つは、堺という兵站拠点を築くのに『時間』が掛かったからです」
「要するに。
準備する時間を、相手に与えてしまったからだと?」
「はい。
孫子の兵法に、こうあります。
『兵は詭道なり[戦争は騙し、欺くことが肝心だという意味]』
そして。
『兵は神速を尊ぶ[戦争は早さが肝心だという意味]』
と」
「そういうことか!
堺を我が物にするという真の目的を隠した上で、三好一族から京の都を奪還して足利義昭を将軍に据えることを表向きの目的に掲げて周囲を『欺き』……
続いて電光石火の『早さ』で大軍を進めて奴らに準備する時間を与えるなと申すのだな?
弦よ」
「はい。
あの堺は、三好一族と長らく手を組んでいたとか。
直ちに討つ『口実』などいくらでも作れましょう」
「大義名分で集めた大軍を『利用』して、あの堺を我が物にする策略を思い付くとは……
見事じゃ!
しかも、弦よ。
わしが教えた兵法を完璧な形で応用したのう」
「お役に立てて、有難き幸せです。
お父上」
「あの堺も……
突如として数万人の軍勢が己に向かって来るなど夢にも思っていないはず。
奴らの慌てふためく様子が目に浮かぶぞ」
◇
義昭を将軍に据える準備を整えた織田信長は、直ちに堺へ向けて大軍を進めるのと同時に……
堺の有力商人・今井宗久に対して一通の強烈な『脅迫状』を送る。
「うぬら堺の商人は、第13代将軍である足利義輝公を殺害した三好一族と手を組んでいたとか。
将軍殺しの謀反人と手を組むなど万死に値する大罪であろう!
本来ならば問答無用に滅ぼされて当然のところ……
第15代将軍となられる義昭公は、寛大にも堺を滅ぼすには忍びないと仰せであった。
ただし!
許されるかどうかは、うぬらの態度次第と心得よ」
脅迫状はこう続く。
「直ちに2つのものを用意しろ。
1つ目。
幕府の武衛家[幕府の敵を討伐する主力となる家のこと、斯波家に代わって織田家が就任]に絶対の『服従』を誓う起請文を書け。
2つ目。
2万貫[現在の金額で20億円相当]の『銭[お金]』を差し出せ。
今わしは、数万人の大軍を率いて堺へ向け電光石火の早さで進撃している。
わしが到着するまでに2つのものを用意しなかった場合……
我が軍はそのまま、賊を討つ軍勢と化すことになるだろう。
堺の住民を老若男女を問わずすべて撫で斬り[皆殺しという意味]にし、家という家をすべて焼き払って一片の草木すら残さず灰にするゆえ覚悟せよ」
脅迫状の最後は、こう締めくくられていた。
「尚。
わしに服従を誓い、大人しく銭[お金]を差し出せば……
堺には2つの『特権』を与えてやる。
1つ目。
堺の有力商人である今井宗久、津田宗及、千宗易[後の千利休]が引き続き代表の地位に留まることを許し、その商圏と財産を保証しよう。
2つ目。
幕府の武衛家たるこのわしが、幕府に逆らう賊を討伐するために戦をする際には……
必要な兵糧と武器弾薬はすべて堺が独占することを許そう」
真の目的を隠した上で大義名分を表向きの目的に掲げて周囲を欺き、続いて電光石火の早さで大軍を進めて準備する時間を与えず、かつ強烈な脅迫状を送り付けて恐怖のどん底に陥れ、相手を『思考停止』へと徹底的に追い込むこと。
加えて。
過酷な要求の見返りに、非常に魅力的な約束を申し入れるという究極のアメとムチで相手が『断れない状況』へと徹底的に追い込むこと。
これこそ愛娘が考えた……
日本一の繁栄を誇る都市に対して、たった『一撃』で勝利する方法であった。
【次節予告 第七十六節 武田信玄との対峙】
弦は、岳父の武田信玄と対峙します。
しかし。
その隣には、心強い『味方』がいました。
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