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ギルドへの報告とジーンの憂鬱
08
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◇◇ジルベルト◇◇
今の言葉は本当だろうか。
一族の怨敵と呼ぶべき男の血を継ぐわたしを、再び可愛がってくれるのか?
二度と愛されずとも、側に置いてもらえれば十分だと思ったことは嘘ではない。
だが「死んでも離れない」というわたしの叫びに「死んだくらいで離してやるかよ」と応えてくれた。
生物にとって絶対的な「死」ですらも、ジーンと我らを引き裂くことはできないのだと嬉しくなる。
しかし祖父のこと以外で気がかりなことができた。
「ジーン、一つ願いがある。そなたの一族が『ハイデルン』に何をしたとしても、わたしはとやかく言うつもりはない。だが成人前の者の命だけは取らないでやってほしい。
もちろん御父上にはわたしから嘆願させてもらう。できることならそれに助力してはくれまいか。
このようなことをジーンに願い出られる立場にないことは十分承知しているが、どうか頼む。」
もう『ハイデルン』ではないわたしが言うべきことではないと分かっている。
血が途絶えてしまっていたかもしれない……ジーンが生まれてこなかったかもしれないのに願い出る傲慢さも。
だが、わたしとランディに罪はないと言ってくれるジーンなら、聞き届けてくれると信じている。
「お前、何か勘違いしてんな。別に王家を滅ぼそうってわけじゃねえから、死人なんか出す気ないぞ。」
「えっ!違うの?」
「お前もか、ラン。んなことしねえよ。ぶっちゃけて言えば、俺らの邪魔さえしなけりゃ王家なんかどうでもいいんだ。
祖父さんが言うことには『盟約に則りあるべき姿に戻るだけ』だとよ。頭領になってない俺は盟約の中身を知らねえけどな。まあウチは『ハイデルン』より古い一族だからな。俺もまだ知らねえことがいくつもあるんだ。」
なんと懐の深いことか。
辺境伯家の武力に敵う家などないというのに、それを行使せずにいてもらえるとは。
人を相手にしてきた『ハイデルン』と、ダンジョンという世界の営みを相手に領民を守ってきた『サウザンライト』との差をまざまざと見せつけられているようだ。
スケールが違う。
そのような一族の後継に伴侶として迎えてもらえるとは…。
我が身のなんと幸運なことか。
「お前ら、これでもう聞きたいことはねえか?」
「ああ。」
「うん。」
「じゃあ今度こそ可愛がってやろう。どっちから抱かれてくれるんだ?」
ランディをうかがうと「ジルからでいいよ」と言ってくれた。
どうやら子どものように泣いてしまったわたしを気遣ってくれたようだ。
「良い子で待っててくれ、ラン…ちゅ。来い、ジル。お前はホントによく泣くなあ…。」
そう言って膝の上に乗せてくれた。
「すまぬ、ジーン。そなたのことになるとどうにも抑えられぬのだ。」
「構わねえよ。ただギャップがすげえな…と思ってるだけだ。」
ギャップか…。
確かにわたしがあのような泣き方をするとは、誰も思わぬだろう。
だがジーンの前ではありのままの自分が出てきてしまう。
殿下と呼ばれていた頃は、出自も外見も実力も最高だと自負があったが、心はいつも重かった。
それが変わったのは、あるとき強烈な存在感を放つ騎士を見つけてからだった。
城を出て、ジーンに出会い、身分も捨て、自由になった。
先ほどのように胸が張り裂けそうな苦しみに襲われても、ジーンが愛してくれるなら乗り越えられる。
「ジーンが好きだ。誰よりも愛している。」
「分かってる。オレはお前に誰よりもとは言ってやれねえ。だがランと同じ強さでジルのことを愛してる。」
「十分だ。『誰よりも』と偽りを言われるよりずっと幸せだ。」
「わたし」を受け入れてくれてありがとう、ジーン。
わたしはきっとそなたを支え、一族を盛りたてる伴侶となろう。
今の言葉は本当だろうか。
一族の怨敵と呼ぶべき男の血を継ぐわたしを、再び可愛がってくれるのか?
二度と愛されずとも、側に置いてもらえれば十分だと思ったことは嘘ではない。
だが「死んでも離れない」というわたしの叫びに「死んだくらいで離してやるかよ」と応えてくれた。
生物にとって絶対的な「死」ですらも、ジーンと我らを引き裂くことはできないのだと嬉しくなる。
しかし祖父のこと以外で気がかりなことができた。
「ジーン、一つ願いがある。そなたの一族が『ハイデルン』に何をしたとしても、わたしはとやかく言うつもりはない。だが成人前の者の命だけは取らないでやってほしい。
もちろん御父上にはわたしから嘆願させてもらう。できることならそれに助力してはくれまいか。
このようなことをジーンに願い出られる立場にないことは十分承知しているが、どうか頼む。」
もう『ハイデルン』ではないわたしが言うべきことではないと分かっている。
血が途絶えてしまっていたかもしれない……ジーンが生まれてこなかったかもしれないのに願い出る傲慢さも。
だが、わたしとランディに罪はないと言ってくれるジーンなら、聞き届けてくれると信じている。
「お前、何か勘違いしてんな。別に王家を滅ぼそうってわけじゃねえから、死人なんか出す気ないぞ。」
「えっ!違うの?」
「お前もか、ラン。んなことしねえよ。ぶっちゃけて言えば、俺らの邪魔さえしなけりゃ王家なんかどうでもいいんだ。
祖父さんが言うことには『盟約に則りあるべき姿に戻るだけ』だとよ。頭領になってない俺は盟約の中身を知らねえけどな。まあウチは『ハイデルン』より古い一族だからな。俺もまだ知らねえことがいくつもあるんだ。」
なんと懐の深いことか。
辺境伯家の武力に敵う家などないというのに、それを行使せずにいてもらえるとは。
人を相手にしてきた『ハイデルン』と、ダンジョンという世界の営みを相手に領民を守ってきた『サウザンライト』との差をまざまざと見せつけられているようだ。
スケールが違う。
そのような一族の後継に伴侶として迎えてもらえるとは…。
我が身のなんと幸運なことか。
「お前ら、これでもう聞きたいことはねえか?」
「ああ。」
「うん。」
「じゃあ今度こそ可愛がってやろう。どっちから抱かれてくれるんだ?」
ランディをうかがうと「ジルからでいいよ」と言ってくれた。
どうやら子どものように泣いてしまったわたしを気遣ってくれたようだ。
「良い子で待っててくれ、ラン…ちゅ。来い、ジル。お前はホントによく泣くなあ…。」
そう言って膝の上に乗せてくれた。
「すまぬ、ジーン。そなたのことになるとどうにも抑えられぬのだ。」
「構わねえよ。ただギャップがすげえな…と思ってるだけだ。」
ギャップか…。
確かにわたしがあのような泣き方をするとは、誰も思わぬだろう。
だがジーンの前ではありのままの自分が出てきてしまう。
殿下と呼ばれていた頃は、出自も外見も実力も最高だと自負があったが、心はいつも重かった。
それが変わったのは、あるとき強烈な存在感を放つ騎士を見つけてからだった。
城を出て、ジーンに出会い、身分も捨て、自由になった。
先ほどのように胸が張り裂けそうな苦しみに襲われても、ジーンが愛してくれるなら乗り越えられる。
「ジーンが好きだ。誰よりも愛している。」
「分かってる。オレはお前に誰よりもとは言ってやれねえ。だがランと同じ強さでジルのことを愛してる。」
「十分だ。『誰よりも』と偽りを言われるよりずっと幸せだ。」
「わたし」を受け入れてくれてありがとう、ジーン。
わたしはきっとそなたを支え、一族を盛りたてる伴侶となろう。
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