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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか

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「じゃあサインして……。っつ!………これで良いかな?」

2枚の通知書に署名、ナイフで切った指先からカードに血液を落してメルヴィンに渡す。
ギルドカードを作ったときと同じ治癒が付与されたナイフなので、傷はすぐに塞がった。

「おう、そしたらこっちにくれ。オレがギルマスの印章を押して……。これで許可証の発行は終わりだ。商業ギルドの連中も喜ぶだろ。」

「なあメルヴィン、何で商業ギルドの人たちが喜ぶんだ?」

「そりゃあお前さんが万能型の魔法使いで、しかも自分が関わった魔道具のレシピ登録だけじゃなく公開に前向きだからだ。
プラス、雑貨屋と組んで何かやってるらしいじゃねえか。そっちも注目されてるってよ。
そんなお前さんにツテができるからな。オレんとこに来た手紙に、時間があるときで良いから一度商業ギルドに顔を出して欲しいと、それとなく伝えてくれって書いてあったぞ。」

雑貨屋ってことは多分ローションだよな…。
あれが一番儲かりそうだし。
解析の許可はしてあるから、アレンさんがサンプルでも作って商業ギルドに持ち込んだのだろう。

魔道具の方は盗作防止のためにレシピ登録はしても公開を渋る人がいて、良い物が広まらないこともあるそうだ。
一人で生産できる数なんか知れてるし、コストダウンも難しそうだもんな。

魔道具の開発は特化型の魔法使いよりも、痒い所に手が届く万能型の方が向いている。
当然ながら魔法を魔道具で再現できる腕の良い魔道具師も必要だ。
その条件に俺とフェイトはガッツリ当てはまる。

近年は新たな魔道具は中々登録されず、既存のレシピを改良したものが多いそうで、早くも期待されているらしい。
これはきっとフェイトの腕が良さが知られているからだろう。

「そうか…。まあ、俺宛に書簡でも届いたら考えるよ。
それよりも転移魔法の方が気になる。使える魔法使いってそれなりにいるのか?」

「まあ、にな。
転移陣みたいに長距離じゃなくて、攻撃を避けたり敵の背後を取るって使い方をしてるやつなら見たことがある。
結構魔力を喰うらしくてな、そいつはここぞというときにしか使わねえって言ってたぞ。」

「あー、奥の手だから使える人と会っていても、使える人だって分からないのか。」

魔法使いと対峙するときのために転移阻害も練習しよう。

「そういうこった。転移魔法を使えるのは、空間収納を使えるやつに多いとも聞いてるな。
お前さんもできるんじゃねえか?」

ラノベでは時空間魔法って分類があるくらいだし、それには納得だ。

「他に聞きたいことはねえか?」

「んー…。あっ、瘴気を吸い取る魔道具ってどんな物なんだ?」

「ああ、それなら実物を見せてやろう。………これだ。お前さんが狩った化物の瘴気を吸い取った状態だから黒っぽいが、元は白いんだ。」

メルヴィンが自前のマジックバッグから取り出して見せてくれた。
透明なラグビーボールみたいな形で、中にある黒い魔石が靄を纏っている。
ちなみに魔道具の名前は瘴気ホイホイ。
異世界の言語だから確かなことは言えないが、黒い悪魔を駆除するアレを愛用していた人が作り出したのだろうか…。

「真ん中の魔石が真っ黒になったら瘴気は吸えなくなるから、教会とかに浄化を依頼するんだ。そうしたら魔石が白くなって再利用できる。
お前さんは浄化もできるからついでに注意しておくが、浄化魔法を使えるやつらは間違いなく教会に勧誘される。ハンターを続けるならついて行くなよ。
浄化魔法だって魔法の一つだ。それを神の力の一端だって言い張ってる利権を貪る集団だからな。」

「メルヴィンは教会が嫌いなのか?」

「まあな。教会にだってマトモな人間はいるが、そういう人間はワリを喰って出世なんかできねえし。
ヤツらは組織力で浄化とか治癒魔法の素養がありそうな子どもを見つけて囲っておいて、使えないと分かったら平気でスラムに捨てたりするからな。
しかもこっちの足もとを見やがってぼったくるしよ。金が用意できなくて治癒魔法を受けられずに引退した有望株だったハンターも一人や二人じゃねえ。
ギルマスとしては割り切るが、個人的には好きにはなれねえ。それでもこの先最低一度はやつらの世話にならなきゃならねえからな。」

「それってただのクズじゃないか。そんなところに行かなきゃならないって、メルヴィンが心配なんだけど。というか行かせたくない。」

「オレだって行きたかねえよ。だが避妊魔法を解除しなきゃ子どもはできねえ。オレは前も後ろも避妊してるからな。避妊魔法も、それを解除するのも教会が独占してるから仕方ねえんだ。」

「じゃあそのときは俺も一緒に行く。メルヴィンは俺が護るから!」

メルヴィンが危ない目にあうくらいなら子どもなんていらない。
一瞬、そう思ってしまった。

でも俺はメルヴィンと約束した。
きっと孕ませるって。
最初はメルヴィンの望みだったけど、今は俺の望みでもある。
大好きなメルヴィンに俺の子どもを産んで欲しい。
だったら全力でメルヴィンを護るだけだ。

「そうか。お前さんが側に居てくれりゃあ心配するこたあ何もねえな。例えオレを利用するために違う魔法をかけようとしても、キッチリ防いでくれそうだ。」

少し照れながら目尻に笑い皺を作るメルヴィンが愛おしい。

きっと正攻法でメルヴィンをどうにかできる輩なんていない。
他者からの魔法を無防備に受け入れるそのときは、メルヴィンの弱みを握るまたとない機会になるだろう。

それでも俺のために教会に行くと言ってくれたメルヴィンに手出しなどさせてなるものか。
ジェイデンだって俺との子を望んでくれるなら、きっと護ってみせる。

そんな決意を新たにした次の日、メルヴィンから夜の誘いをもらった。
抱き潰す確信しかないんだけど許してくれるかな…。
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