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3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて

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ジェイデンにまでイジられて、ラースがグッタリした頃にハンターギルドに到着した。

ロビーが吹き抜けになっていて、奥に受付があった。
お約束の酒場もあるようだ。

「先にシオンをキティに紹介してくるわね。二人は外の訓練場で待っていてもらえる?場所はわかるかしら?」

ラースが頷いたので、一旦別れてジェイデンが受付けに声をかける。

「こんにちは。キティは奥かしら?」

「こんにちは、アンジェラさん。マスターは今日も2階の奥で唸ってますよ。」

「ふふっ。そうなのね、ありがとう。じゃあシオン、行きましょうか。」

俺を振り返って、彼がそう言ったのを聞いた受付嬢が目を見開いた。
小さな声で「アンジェラさんが呼び捨てにしてる……」と驚いている。
さっきまでは違ったけどな。
特別な関係みたいだろ?
ダメ押ししてみようか。

「わかった、『ジェイデン』。」

これでどうだ?

「……………。」

絶句ってか。
目だけじゃなくて口まで開いてるぞ。

「口は閉じたらどうだ、お嬢さん?」

「ふえっ!美形のお兄さんに変な顔見られた!!泣けるぅ………。」

「ダメよ、シオン。そんな言い方したら可哀想じゃない。」

「ジェイデン、あなたが俺を『シオン』と呼ぶ度に彼女が悶えているが、それは良いのか?」

受付嬢がぷるぷるしているぞ。

「え?」

「また無自覚か?」

「ヒェッ」っという小さな悲鳴をあげた受付嬢と、言葉も無い彼が揃って真っ赤になった。

「そんなに頬を染めて…。あなたの可愛いところを俺以外に見せないでくれ。俺はあなたの特別だろう?」

「そうなんですかあっ!?」と受付嬢が乱入してきたので頷いて答える。

「彼が他人を呼び捨てにした事、あるか?」

「無いですうぅぅ!」

「彼をジェイデンと呼ぶ者は居るか?」

「居ませえぇぇん!!」

「という事は、だ。俺を呼び捨てにする度に、俺にジェイデンと呼ばれてそれに応える度に、俺は特別だと言っているという事だろう?違うか?」

「ちちちちち違いませんっ!」

「だそうだ、ジェイデン。そろそろ復活してくれ。」

「だっ、だってそれは、シオンがっ!」

他に聞こえないように彼に囁く。

「そうだな。確かにジェイデンにはシオンと呼ぶように言ったな。だが、事情があるだろうから、アンジェラにはそんな事は言ってないだろ?もう、一度シオンと呼んで貰ったんだ。シオンちゃんに戻ったら泣くぞ?」

「ずっ、ずるいよ、シオン。」

ちょっとジェイデンが出てきたかな?

「罵られてもかまわない。あなたに特別だと言って貰えるならな。」

「「「キャーーー!」」」

受付嬢たちが叫んでいる。
誰だ、「あの美形のお兄さん、きっと襲い受けよおぉ!」とか言ったの。
「きっとあのお兄さん限定で男に戻るのよ!ロマンスの香りよおぉ!」とか、そのジェイデンの扱いはどうなんだ?

「もうっ、もうっ!君がこんなに酷い人だとは思わなかったよ!」

「ラースが他人事じゃないと言ってただろう?俺もあなたに他人事では無いと忠告したぞ。今更だ。諦めて俺に可愛がられると良い。」

「「「ギャーーーーー!!」」」

受付嬢、大絶叫だな。
「俺様受けだわあぁぁ!」とか叫んでいる受付嬢、楽しそうで羨ましいな。
どうせならもっと盛り上がって良いぞ。

予想外に受付で時間を取られていると、2階の奥の扉が勢い良く開いた。

「うるせえぞ!誰だ、騒いでんのは!ってアンジェラか!」

「たすけて、キティ。」

そんなに泣きそうな情け無い声だすなよ、ジェイデン。

……しかしキティね。
サーベルタイガーの間違いだろ。
出て来たのは、そう言いたくなる男だった。
しかもかなりデカい。

体格が良いラースより、一回り縦も横も厚さも大きいジェイデンよりも、更に大きいとは。

それになぜかホットパンツにパンプスだ。
コレは、アレだ、多分、女装してる『つもり』なんだな、きっと。

「何があったんだ?」

階段を降りながら尋ねる男に受付嬢が答えた。

「キレイなお兄さんが襲い受けようとしています!アンジェラさんが無自覚にべた惚れで、既にメロメロです!!」

その説明じゃわからないだろう。

「意味わかんねえよ!」

だろうな。

「はじめまして、俺はシオン。今日から彼の宿で世話になっている。ハンターになろうかと思って、説明を聞きに来た。」

「そうか。オレはメルヴィン・アレナド。ここのギルドマスターだ。キティと呼んでくれ。それで、何でオレの弟は助けを求めてんだ?」

この人も俺の身体強化の師匠になってくれるかもしれないし、素直に答えよう。

「あなたの弟さんが、無意識に俺を特別扱いしているのを指摘したらこの状態になった。」

「わかったような、わからんような説明だな。しかしお前さんみたいな知り合い居たか?」

「知り合ってまだ数時間だからな。あなたが知らないのは当然だ。」
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