星渦のエンコーダー

山森むむむ

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暗がりを切り裂く試み

本当の柳 遠い日の記憶

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 公園の一角、柳がひとりで座っている。
 視線は遠くを捉え、その瞳には柔らかく光が宿っていた。まだベンチに座る脚は地面にはつかない。幼児用の靴が踵から浮き、ふらふらと揺れていた。
 そんな彼の元へ、勇気を振り絞ったかのような様子で男の子が近づく。その手には一輪の花が握られていた。

「あの……きみ、とってもきれいだから……これ、あげる」
 頬を赤らめた男の子の声は小さく、しかし心からの言葉が柳に届いた。柳はその言葉に少し驚き、そして微笑を浮かべながら、男の子を見つめる。

「……んと、ぼく、おとこのこです」
 男の子は一瞬言葉を失うが、すぐにもじもじと恥じらい、花をそっと柳の手に渡す。
「そ、そうか……ごめん、間違えちゃって……でも、これ、受け取って!」
 その一輪の花は、この小さな誤解を越えた二人の純粋な心の交流を象徴していた。
 柳は花を受け取り、深く頭を下げて礼を言う。
「かわいいおはなだね。ありがとう」

 受け取った花を見つめ、かわいらしく揺れる花弁に微笑んだ。そのとき、小さな足音と共に現れたのはクリスだった。
「どうしたの?」
 この声には好奇心とわずかな心配が混じり合っていた。青色の目が柳と男の子の間で行き来する。

 少し年上らしい男の子はクリスの姿を見て、顔を真っ赤に染める。さっきからずっと赤くなり続けているが大丈夫かと、柳は心配になってしまった。お熱があるのかも。
「あの、だいじょう……」
「ご、ごめんなさい。間違えちゃって……」
 彼はそう言葉を残して、柳が言い終わる前に去っていく。公園の小道を駆け下りていった。

 柳はクリスに向き直り、説明をした。
「あのひと、おはなをくれたんだ。でも、ぼくをおんなのこだとおもってたみたい」
 彼の手には、その誤解を超えて渡された花が握られていた。クリスは一瞬戸惑いの表情を浮かべるが、すぐに笑顔を取り戻す。

「そっか、でもとってもすてきなおはなだね。きっと、やなぎのやさしさがつたわったんだよ! うれしいね! わたしも、やなぎがだいすきだから!」
 クリスはそう言って、寄り添うようにその場に座った。心温まる静けさが流れる。
「……うん、そうだねぇ…………ぼくも、クリスがすき……」

 この出来事は、たくさんの小さな思い出の一つ。
 クリスが大切にしている、地に落とされる前の愛しい星の有りようだった。
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