上 下
90 / 93
第四章 素材を求めて

第十一話

しおりを挟む
「何なのよ…
エリカには何も聞かないで好みの物を創る癖に、何で私にはいちいち確認するのよ…」
サラは侑と接している間に恋の感情が産まれている事に気付かず、ただ侑の態度にイライラしている。

「ドラゴが神界に行ってしまったから、今日はどうする?
サラは何かあるか?」
侑はブツブツ言っているサラの背中に話しかけた。

「特に何も無いわよ。
装備は侑が創ってくれたし、あとは着替えを入れるだけで準備は終わるわ。」
サラは振り向く事もせずに返事した。

「特に無いなら、三人で町に行くか?
明日から旅に出る事をロゼやリゼにも言いたいし。
肉とか魚も心許ないから、少し買っておきたい。」

「私は良いわよ。
お家で留守番してるわ。」
エリカは包帯グルグルで町を歩くのは侑達に悪いと思った。

「エリカは行ったほうが良いわ。
町にはあなたの事を心配して食材とかをくれていた人とか居るでしょ。
少しは顔を出してその人達のことを安心させてあげたら?
怪我の事で何か言ってくる輩が居たら、侑が対処してくれるでしょ。」
サラは私が遠慮するから二人でデートしてきなさいと背中を押した。

「俺は三人でって言ってるんだけど?
三人で行けば、俺が入りにくい店でも買い物できるしロゼ達だってサラの顔が見たいと思うよ。」
侑は三人で行く事を強調して折れない。

「分かったわ(よ)。」
二人が折れて、渋々返事した。


外に出ると侑はポケットの中から何かを出した。

「エリカ、これ着けて。」
侑はエリカの後ろに回ると、シンプルなチェーンのネックレスを首にかけて留めた。

ネックレスの留具を留めると一瞬輝き魔法が発動した。

「侑、そのネックレスは魔導具なの?」
サラは侑がエリカにネックレスを着けている所を羨ましく見ていたので、発動する瞬間が分かった。

「そうだよ。
このネックレスには認識障害が付与されてるんだ。
条件として、エリカに対して苦痛を与える感情の持ち主には見えない様に設定している。
で、こっちはオレが今から着けるのは条件の無い認識障害が付与されているネックレス。」
侑はネックレスを見せると自分で留めた。


二人は侑を探すようにキョロキョロと周りを見た。
侑の姿はどこにも見えない、ただ何かが近くに居るのは感じるので手を伸ばし感じる場所を触ってみた。

「声は普通に聞こえるでしょ?
それに実体はあるから、触れば分かるでしょ?」
侑は声をかけると二人の手を握った。


「これは視覚に対する認識障害なのね?
実際に手を握ると姿は見えるのね。」


「そういう事。
これから旅をするのにエリカが周りを気にし過ぎて疲れるのは嫌だし、面倒事もなるべく回避したいからね。
これから町に行って、ちゃんと機能するかテストするんだよ。」
侑は自分のネックレスを外してポケットに仕舞った。


「侑、私は大丈夫だよ?
包帯グルグルで旅をすれば色んな目で見られる事は覚悟してる。
でも、どんな目で見られても私には皆が居てくれるから気にしないよ。」
エリカはネックレスを外して大事そうに両手で包んだ。


「侑の優しい気持ちがいっぱい詰まってるこのネックレスは大事に仕舞っておくね。」
エリカはネックレスをポーチに仕舞うと侑と手を繋いで歩き出した。


「エリカが良いなら別に着けなくても良いけど…
ただ、保険の為にもいつも持っていてね。」
侑は馬を呼び先に跨り、引き上げるようにエリカを後ろに乗せた。


サラも馬に乗り二頭で門まで進むとラピスとルビーが侑の馬に飛び乗った。


「侑さん、お出かけですか?」

「ちょっと町までね。」

「一緒に行きます。」
二匹のスライムは侑のポケットの中に潜り込んだ。




「エリカじゃないか!
最近姿を見せないから心配してたんだぞ。」
町の駐馬場に着くと管理しているおじさんが駆け寄ってきた。

「ご心配かけて申し訳ありません。
この通り、元気ですよ。」
エリカは笑顔で挨拶した。

「元気なら良いんだ。
町のみんなも心配しているから、元気な顔を見せてやってくれよ。」
おじさんは二頭の馬を引いて奥に入って行った。


「みんなが心配しているみたいだから、先ずは買い物しながら町を歩くか。」
侑は笑顔で手を降るエリカに声をかけると手を繋いだ。

「ねぇ、やっぱり私は必要無くない?」
サラは不貞腐れながら後ろを歩く。


「途中からちょっとの間、別行動になるんだよ。
俺は女性用の日用品とか雑貨は分からないから、サラに一緒に回って欲しいんだよ。
俺は二人がお店で選んでる間に工房の親方に会ってきたいし。」


侑達は肉や魚等を大量に買い込みながら、町をぶらついた。
偶にエリカを知っている人達が声を掛けてきて少し喋ったり、お店の中から声を掛けてくれる人には手を振ったりしている。


「じゃ、サラとエリカでお店の中を見てきて。
俺は工房に顔を出したら、其処のカフェに居るから。
合流したら、そのまま昼御飯にしよう。」
侑は集合場所を決めると二人を店の中に入らせた。



工房に顔が出した侑は親方が出かけていた為、予定より早くカフェに入っていた。
コーヒーを飲みながら二人を待っていると入り口が騒がしい。
何かあったのかな?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/23 HOTランキング(男性向け)2位 ◇9/24 ファンタジー6位

お父さんがゆく異世界旅物語

はなまる
ファンタジー
 この小説は、常識も良識もある普通のお父さんが、転移という不思議現象と、獣の耳と尻尾を持つ人たちの世界で、真っ向勝負で戦うお話です。  武器は誠実さと、家族への愛情。  それが、取るに足りない、つまらないものだと思うなら、ぜひ、このお話を読んでもらいたい。  戦う相手がモンスターでなくとも、武器が聖剣でなくても、世界を救う戦いでなくても。  地球という舞台で、今日も色々なものと戦うお父さんと同じように、主人公は戦います。  全てのお父さんとお母さん、そして君に、この物語を贈ります。 2019年、3月7日完結しました。  本作は「小説家になろう」にて連載中の「おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記〜」を大幅に改稿・加筆したものです。同じものを「小説家になろう」にも投稿しています。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢
ファンタジー
救世主として異世界に召喚されたので、チートに頼らずコツコツとステ上げをしてきたマヤ。しかし、国を救うためには運命の相手候補との愛を育まなければならないとか聞いてません!運命の相手候補たちは四人の美少年。腹黒王子に冷徹眼鏡、卑屈な獣人と狡猾な後輩。性格も好感度も最低状態。残された期限は一年!?四人のイケメンたちに愛されながらも、マヤは国を、世界を、大切な人を守るため異世界を奔走する。 この物語は、いずれ最強の聖女となる倉木真弥が本当の恋に落ちるまでの物語である。 小説家になろうにの作品を改稿しております

剣豪エルフは弟子がほしい!

水母すい
ファンタジー
 ──拝啓、追放されました。  「剣士は二人もいらない」と、理不尽すぎる理由で冒険者パーティを追放された三流剣士の俺。受け入れてくれるパーティも働き口もなく果てにはギャンブルに手を染めていた俺だったが、あるときエルフの少女(?)に窮地を救われる。  そして、俺を助けた見返りとして彼女はこう言った。 「君、私の弟子になってくれない?」    行く宛てがない元剣士の俺と、ハイスペックで自由人すぎるエルフの彼女。そんな俺たちの奇妙すぎる二人旅は、彼女の暇つぶしから始まった⋯⋯。 *予告無しのタイトル変更あり *毎日更新がんばります

魔女の落とし子

月暈シボ
ファンタジー
あらすじ  神々が二つに別れて争った大戦から幾千年、人間達は様々な脅威に抗いながら世界に広がり繁栄していた。 主人公グリフはそんな時代に、自らの剣の腕を頼りに冒険者として生きることを選んだ若者である。 軍の任務を帯びたグリフは古来より禁断の地と知られる〝魔女の森〟で仲間を逃がすために奮闘し、瀕死の重傷を負う。 やがて、意識を取り戻したグリフは謎の館で銀髪の美少年に出会う。 カーシルと名乗った少年は自身が魔女の子であることをグリフに告げるのだった・・・。 戦闘シーンの描写に力を入れた本格的ファンタジー作品を心掛けています。 だいたい毎日更新。感想や意見は大歓迎です。どうぞよろしく!

処理中です...