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第三章 スタンピード

第三十一話

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「で、何したって?」
ギルマスの執務室で侑は冒険者を殺したとロゼに伝えていた。
当のロゼは侑の思い詰めた顔に溜息をついた。

「だから…
冒険者のパーティーを、四人とも殺してしまったと言っている。」
「じゃ、そのパーティーの名前は?」
「知らない…」
「殺した証拠は持ってきた?」
「何も無い…」
「じゃ、私にどうしろと言うの?
名前も知らない、証拠も無い。
しかも、正当防衛。
罪に出来ると思ってるの?」
ロゼは侑が人を殺したと嘘をつくとは思わないので本当の事だろうが、裁く気は無かった。

「俺はどうすれば良いんだ?
人を殺してしまったんだぞ?」
「じゃぁ、どうしたいの?
無理繰り罪を作る?
私の信用ガタ落ちになるけど責任取れるの?」
ロゼは侑の思い詰めた顔に苛つきながら答える。

「……しかし、このままじゃ…」
侑は裁かれない事に納得出来ない。

「分かったわよ。
昨日、貴方達は穴の護衛をしていた衛兵達に差し入れしたわよね?」
「したけど…」

「あの衛兵達は国王直轄の衛兵だったのよ。
で、水だと思って飲んだ衛兵達の体調が良くなったからあれは浄水だったのでは?と問い合わせが来てるわ。
国王が直接会いたいと言ってきてるから、王城に行きなさい。
国王に直接裁いてもらえば気が晴れるでしょ?」
ロゼは衛兵に差し入れした冒険者と言われて、すぐに侑の顔が浮かんでいた。

「国王に直接?
俺みたいなのが会えるのか?」
「会えるも何も呼んでるんだから行けば良いでしょ?」
「分かったよ、明日行ってくる。」
侑は国王なら裁いてくれると思った。

「じゃ、この話は終わり。
カバンの中の魔物は?」
「ブラッディーベアーとソードキャットかな…」
「また、大物ばかりね。
ここで渡されても困るから、リゼに渡して。
もうだいぶ時間が経ってるから、向こうも落ち着いてる頃でしょ。
リゼも侑の顔を見たがってたわ。」
ロゼは侑が創ったバケツで効率がかなり上がって、職員の疲労が軽減されたと礼を言った。

「また来る。」
侑は言葉少なく、執務室をあとにした。

カウンターはロゼの言った通り、冒険者達がチラホラ居るくらいに落ち着いていた。

「侑さん!
このバケツ凄いですよ!
本当にありがとうございます。」
「いや、役に立てて良かったよ…」
「何か元気無いですね?
お疲れですか?
今なら押し倒せそうな気がしますよ?」
「ごめん、今は冗談に付き合えないや…」

「冗談に聞こえましたか…
結構、本気だったんですが…」
「とりあえず魔物出していいかな?」
侑は早く済ませて帰りたかった。

「こちらにお願いします。」
リゼは初めて見る侑の表情に只ならぬ物を感じて、触れない様に事務的な対応を心掛けた。

「ブラッディーベアー一体とソードキャット四体で良いですか?
他にラビットとかは無いですか?」
「あぁ、これだけでいいよ…」

「分かりました、報酬は後日まとめてお渡ししますね。」
「そうしてくれ…」
侑は覇気無く答えると、ギルドをあとにした。

家に着くと、エリカが門の前で待っていた。
侑はエリカの寂しそうな表情を見て、作り笑顔でただいまと言った。

「侑?
何があったの?」
エリカは侑の異変に気付いた。

「俺、人を殺してしまった…」
「ふーん、それでそんな顔してるの?」
「殺してしまったんだぞ…
普通でなんか居られないよ…」

「侑は殺してしまった事に後悔してるの?」
「殺した事には後悔してないよ…
ただ、殺した事に対しての罰が無いのが納得出来ない…」

「侑は罰を受けたいの?
何で?悪い事をしたと思ってるの?」
「人を殺すのは悪い事だろ?
それが正当防衛だとしても…」

「ふーん、人を殺すのは悪い事なんだ。
私の彼も私を守る為に悪い人を殺したよ?
衛兵さんは悪者なの?
あの人達は悪い人達を一杯殺すよ?
あの人達が殺してくれてるから、治安は守られてるんだよ?」
「俺は衛兵じゃ無いよ…
治安を守る為とか大層な理由は無いよ…」

「じゃ、私が罰を与えてあげる。」

『バチンッ』
エリカは右手で思いっきり侑の頬を平手打ちした。

「これで良いでしょ?」
叩いたエリカの手は赤くなり、頬から涙が流れ落ちていた。

「ごめん…」
「ごめんじゃないでしょ?」
「ごめん…なさい。」
「はい、もう終わり。
エドとシズがお腹を減らして待ってるわ。」
エリカは侑の手を引いて家の中に入った。
後ろでやり取りを見ていた四人はエリカの行動に驚いて何も言えなかった。

リビングにはエドとシズが並んで座っていた。
エドは魔素が抜けて前より調子が良いと言った。
シズも血行が良くなってきたのか、毛艶が良くなってきた。

「スタンピードは終わったから、あと二日位で帰る事が出来るよ。
明後日、子供達を迎えに行こう。
シズの体調が良くなる迄は子供達とここに居ればいい。」
「迎えに行くのは明日じゃ駄目なのか?」

「明日は王城に行かなきゃいけないから無理だ。」
「そうか…では仕方がないな。」
「悪いな。」
「侑さんが謝る事では無い。」
エドは明後日には会えるのだから、感謝しか無いと侑に言った。

「今夜はカレーよ。
侑、運ぶの手伝って。」
エリカがキッチンから声をかけた。

侑はキッチンに入って運ぶのを手伝おうとした時、エリカに引っ張られて奥に押し込まれた。

「さっきは思いっきり叩いてごめんね。」
エリカは侑を抱きしめるとキスをした。

侑は突然の出来事に頭が真っ白になり、何も言えなかった。



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