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第三章 スタンピード

第二十九話

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「侑さんおかえりー。」
「おかえりニャー。」
ルビーとオニキスが門の前で出迎えてくれた。

「うん、ただいま。
留守中、何も無かった?」
「何も無かったニャー。」
オニキスがアクビをしながら答えた。

「はい、おみやげ。」
侑はカバンの中からホーンラビットを何体か出した。

「食べて良いの?」
「ありがとニャー。」
二匹は仲良く食べ始めた。
侑は食べてる二匹に手を振って家の中に入った。

家に入るとエリカが待っていた。
「侑!遅いよ!
心配したんだからね。」
エリカは侑に抱きついた。
侑はエリカの頭を撫でながら、リビングに入って行った。
ドラゴは後ろで呆れた顔をしている。

「サラ、二人の様子は?」
「おかえり、さっきお風呂から出て今は浄水を飲みながら休んでもらってるわ。
エドさんは今お風呂に入ってる。
メイさんと相談してお風呂のお湯を浄水にしてみたわ。
効果が上がると良いんだけど。」
サラはシズと一緒に入ったらしく、濡れた髪をタオルで拭いていた。

「ご苦労様、髪を乾かしてあげようか?」
「いえ、遠慮するわ。
そういうのは誰にでもする事じゃ無いわよ。
特別な人にだけしなさいね?
侑の優しさはいつか誤解を招くわよ。」
横でエリカが私のは良いのよと言っている。

「ただ、風魔法の応用で温風を出して乾かそうとしただけなんだけどなぁ。」
「それでも、髪を触るでしょ?
女の子の髪は誰でも触って良いものじゃないの。」
「ふーん、まぁいいや。」
侑は面倒になったので、話を切った。

しばらくするとエドが風呂から出てきた。
身体を一生懸命拭いているのだが、ボタボタと水滴が足跡のように落ちている。

「すまない、後で床掃除をするから許してくれ。」
エドは風呂に入る習慣を持たない環境で育ったので、上手く拭けないのだと言った。

「乾かしてあげますよ。」
侑はエアーとヒートを指先で出し、絡み合わせるようにしてホットエアー温風を作った。
手をかざすとエドの周りを渦巻く様に風が流れる。
暫くするとエド本来の毛並みが現れた。

「凄い魔法だな。
おかげで助かったよ。」
エドは手ぐしで髪型を整えた。

「子供達はちゃんとご飯を食べて大人しくしてるって。
だから、安心して治療な?」
「本当に色々すまないな。
俺に払える対価は無いが、いつかは恩返しさせてもらう。」
「別に要らないよ。
困ってる人を放っておけない性格だから。」
「すまない、言葉に甘えさせてもらう。」
「だから、『すまない』は要らないって。」
二人は顔を見合わせて笑った。

シズも動ける様になってきたので、みんなで食卓を囲んだ。
エドとシズは見た事のない料理が所狭しと並んでいるのを見て驚いていた。
エリカは侑の前に肉じゃがを置くと、ニコニコしながら食べるのを待ってる。
侑は肉じゃがを一口食べると、

「エリカ、美味しいよ。
毎日でも食べたい味だよ。」
とエリカの頭を撫でた。

「侑が一番好きな料理をメイさんに聞いたら、
肉じゃがを教えてくれたの。
がんばって覚えたのよ。」
「私はミチルさんに隠し味を教えてもらったのよ。」
「だから、ミチルの味に似てるんだね。」
「ねぇ、侑?
ミチルさんってどんな人?」

「ミチルは大事な人だよ。
この世界で分からない事だらけの俺を助けてくれたり、励ましてくれたり。」
「そうなんだ。
…私とどっちが大切?」
「どっちと言われてもなぁ…
ミチルとエリカは俺にとって比べられない位に大切だからなぁ。
ただ、ミチルとの結婚は無いな。」

「なんで?
大切な人なんでしょ?」
「ミチルは大事な人だよ。
ただ、俺にとっては母親の様な人だから。」
「ふーん。そっかー。」
エリカは侑にべったりくっついてニコニコしている。


食後、侑はサラとこれからの事を話した。
「今回、魔素中毒の治療に浄水を使ったけどエリカには効果無いかな?」
「どうだろう?
エリカみたいに治らない火傷って初めてだから全部手探りになるのよね。
浄水は毒じゃないから、試してみて効果が無かったら止めれば良いだけだし飲ませてみてもいいと思うわよ。」
サラは魔素濃度の高い所から遠ざけただけで、治療と言えるものをしていない。
いや、出来無いでいた。
どういう治療をすれば良いのか見当も付かなかったからだ。

「様子を見ながら飲ませてみよう。
ちょっとでも良化すれば儲けもんって感じで。」
「そうね、効果が無ければ割り切って違う方法を考えられそうだし。」
サラは治療の方向性が見出だせればありがたいと思った。

みんながリビングに集まってきたので、侑はギルドで聞いた話をして明日の事を相談した。

「今日倒したブラッディーベアーはかなり危険視されてたよ。
すぐにギルドの中に居た冒険者達に注意を促してたから。
それで明日なんだけどブラッディーベアーを倒した所周辺をメインにしようかなと思ってるんだけど…どうかな?」
「それはブラッディーベアー狙いって事か?」
「いや、狙う訳じゃなくて今日みたいに苦戦しそうなパーティーが出会ってしまったら俺らで倒そうかなと。」

「他のパーティーを援護するのか?」
「援護はしないよ。
今日と同じ、無理なら逃げろって言う。
やるって言うなら、俺らは手を出さない。」
「それなら構わないけど…
共闘はやめたほうがいい、後で絶対に揉めると思う。」
サラが前に組んだパーティーの時に嫌な思いをしたと話した。

「余計な面倒事は嫌だから手助けはしないから安心して。」
侑はサラに助力はしないから大丈夫と念をおした。

「明日中にはダンジョン化が収まって、魔素が吹き出さなくなるらしい。
その後はダンジョンが魔素を吸い込んでダンジョン内にモンスターを引き寄せるらしいから、森の魔素濃度も次第に下がると思う。
濃度が下がったのを確認したら治療が終わり次第、子供達と帰れると思うよ。」
リビングでぼーっとしているエドとシズに、侑は早く帰れるように依頼でいない時もこの家で大人しくしている様に釘を刺した。

「エリカは二人の食事を頼むね。
俺らが依頼に集中できるかどうかはエリカにかかってるからね。
エリカもパーティーの一員だって事忘れないでね。」
侑はシュンとしているエリカを抱き寄せて頭を撫でた。

「うん。
お料理頑張るよ。
明日も美味しい物を一杯作って待ってるからね。」
エリカはホワーっと笑顔になり、みんなに何が食べたいか聞き回った。



    
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