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第三章 スタンピード

第十九話

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…俺のかけた永続魔法は機能してるのかな。

侑はメイの杖の内側に埋め込んだ魔石に硬化の永続魔法をかけたが、実際に機能してるか試す方法が無くて確かめられないでいた。

…さて、どうしたもんかな。

観察眼も構造解析でも見れなさそうだし。
試作を作ってみて、時間経過で様子を見ようかな。

侑は石を持つと想像で鍛冶を始めた。
作るのはエリカ用のナイフだ。
創造する時間はだいぶ短縮された。
鍛冶を躰で覚えた事の恩恵だ。
普段なら名前を与えてクリエイトを発動するのだが、今回は違う。
ナイフに風属性の付加を付け加える。
攻撃の為の鎌鼬と防御の為のエアシールドを発動出来るように創造した。
クリエイトを発動して魔法陣に手を入れる。
風魔と呼び、ナイフを取り出した。
ナイフを台に置き、侑はリビングに向かった。

「エリカちょっといいかな。」
侑はエリカに手招きをした。
エリカは相変わらず仔猫と戯れていたが、頷くとソファーから立った。

侑はリビングからエリカをラボに連れて行った。

ラボに入ると侑はエリカに今作ったナイフを渡した。

「これは?
なんか、暖かい感じがする。」
エリカはナイフをマジマジと見た。

「このナイフには風属性の魔法を付加してあるんだ。
エリカは鎌鼬って使える?」
「鎌鼬?エアカッターの事かな。
多分使えるよ。」
「ナイフを構えて、鎌鼬を発動してごらん。」
侑は言葉の違いはあっても、本質が変わらなければ使えると思った。

エリカはナイフを正面に構えると、詠唱を始めた。
詠唱が終わると、鎌鼬を発動した。
ナイフの刃から鎌鼬が壁に向かって真っ直ぐに飛んだ。

「ナイフから魔法が出たよ?」
エリカは驚いている。

「今度は刃を下に向けて。
刃の腹を正面に向けてエアシールドを発動してごらん。」
エリカは言われた通りに刃を下に向けて、詠唱を始めた。
エアシールドを発動すると、カイトシールドよりも一回り大きいシールドがエリカの前に現れた。

「このナイフには二つも魔法が付加されてるのね。
侑は凄いね、何でも出来ちゃうんだ。」
エリカは侑を羨望の眼差しで見つめた。

「何でも出来る訳じゃ無いよ。
俺が何でも出来るとしたら、エリカの火傷も治ってる筈だよ?
みんなから色々教えてもらって、知識を吸収する。
みんなの知識で俺は成り立ってるんだ、俺一人では何の役にも立たない男だよ。」
侑はみんなの顔を思い浮かべながらエリカに話した。

「でも、侑が凄い事に変わりは無いよ。
これを見て。」
エリカは頭の包帯を取り始めた。

「火傷が少しずつ治まってきてるの。
範囲が少し減ったでしょ?
痛みもだいぶ楽になったわ。」
エリカは侑が希望を与えてくれたんだよと微笑んだ。

「必ず完治させるからね。
もう少し辛抱してね。」
侑はエリカを軽く抱きしめた。

エリカは赤くなった顔を隠す為に包帯を巻こうとするけど、手がおぼつかなくてジタバタしてる。

「貸してごらん。」
侑は包帯を受け取ると、クリーンを発動してから巻き始めた。

「大丈夫?痛みは無い?」
侑はクリーンに含まれるキュアの効果がエリカの火傷を刺激するので心配した。

「大丈夫よ、痛みはそれ程感じないわ。」
エリカは包帯を巻いている侑の手をそっと触った。
包帯を巻き終わった侑は触っていたエリカの手を自分の手で包み込んだ。

二人はしばらく見つめ合っていた。
エリカの瞳は少し潤んでいた。
侑はそっと頭を撫でると、ナイフに向き直った。

「もう一回持ってみてくれるかな。」
侑はエリカにナイフを渡した。

「うん、さっきと変わらず暖かい。」
エリカは詠唱して、エアシールドを発動した。

「付加も大丈夫だね。
今度は詠唱無しで、名前だけでシールドを発動してごらん。」
侑はエリカに無詠唱でも発動出来るか確認してもらう。

「無詠唱で?
私、無詠唱で魔法が使えるほどレベル高くないよ?」
エリカは恥ずかしそうに下を向いた。

「自信を持ってやってごらん。」
「うん、エアシールド。」
エリカは侑に背中を押されて無詠唱にチャレンジした。

ナイフからシールドが発動した。

「侑!出来たよ!」
エリカは侑に抱きついた。

「うん、出来たね。
エリカ用に作ったナイフだから、出来ると思ったんだよ。」
「私用なの?侑が私の為に作ってくれたの?」
エリカは更に強く抱きしめた。

「エリカは護身用にナイフが良いかなって。」
侑はエリカを引き剥がさずに頭を撫でる。

「ありがとう、大切にするね。」
エリカは抱きついたまま、侑を見た。

「あとで鞘を作るからね、デザインの希望はある?」
「ううん、侑に任せるわ。
きっと私好みの鞘を作ってくれると思うから。」
エリカは侑から離れようとしない。

「俺に任せるなら、今作るよ。」
侑はスキルを発動するからちょっと離れてねとエリカを座らせた。

侑は創造を始めた。
革製の鞘、型押しのような草花柄。
持ち主に対して物理攻撃無効の永続魔法を付加。
イメージが固まるとスキルを発動して、魔法陣から鞘を出した。

「はい、出来たよ。」
侑はエリカに革製の鞘を渡した。

「ありがとう、すごくかわいい。
草花柄って、大好き。
見てると落ち着くの。」
エリカはナイフを鞘にしまうと、違和感を感じた。

「侑?この鞘なんか変な感じ。
意識みたいなものを感じるの。」
エリカは首を傾げている。

「この鞘にも付加を付けてあるからね。
エリカに対して物理攻撃無効の永続魔法を付加してあるよ。
エリカは俺が守るけど、居ない時は俺の代わりに鞘が護ってくれるよ。」
侑はエリカを抱き寄せながら説明した。

「この意識みたいなのは侑なのね。
ありがとう、とっても嬉しい。」
エリカは『俺が守る』の言葉に亡くなった恋人が侑と重なった。

「侑はあの人みたいに居なくならないでね。」
エリカは心配そうに侑を見た。

「あの人…亡くなった恋人の事だよね。
大丈夫、俺は居なくならないよ。」
侑はエリカを抱きしめた。


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