上 下
52 / 93
第三章 スタンピード

第八話

しおりを挟む
「案件は二つあるの。
一つは侑が蒔いた種よ?
もう一つは侑じゃなきゃできない事。」
ロゼはため息をつきながら、一つ目の案件を話し出す。

「侑、あなたエリカの家の前で冒険者を殺しかけたでしょ?
そいつ、一応Dランクなんだけどある事無い事言いふらしてるみたいなの。
もとから嫌われ者だから、誰も相手にしてないけどウザいのよ。
いっその事、殺してくれれば良かったのに。」
ロゼは本気で言っている。

「で、俺にどうしろと?
殺して来いとか言う?
それとも、ごめんなさいすればいいのか?」
侑はそいつの事を考えるとイライラが止まらない。

「いや、侑を殺人者にする気は無いよ?
ただ、ホントにウザいのよ。
出来るだけ大勢の前で懲らしめてくれない?
今回に限っては名誉毀損があるから、先に手を出しても問題ないよ。」
ロゼは無茶振りにも聞こえる事をさらっと言った。

「もう一つは見当ついてるでしょ?
大体当たりなんだけど、ちょっと複雑になってるの。」
ロゼはこっちが難題だという。

「でも、報酬はすごいよ?
報酬は私。
嘘です!ごめんなさい!睨まないで!
ホントに凄い報酬よ。
多分、侑が今一番欲しいもの。」
ロゼは敢えて、内容は言わない。

「気が進まないけど、俺が蒔いた種だからね。
仕方ないから、片付けてくるよ。」
侑は重い足取りでドアを空けた。


建物を出るとポケットの中のラピスを呼んだ。

「あいつを探せば良いんですよね?」
ラピスは全て聞いていたので、自分の役割も心得ていた。

「そういう事、さっさと終わらせよう。」
侑も索敵を発動した。


「侑さん、居ましたよ。
相変わらず、物影に居ますね。
此処から北に200メートル位ですね。」
ラピスが見つけた。

「ルビー、おいで。」
侑はポケットからルビーを呼んだ。

「今度こそ殺す?」
ルビーは侑に迷惑をかける奴は許さないとかなり怒っている。

「いや、殺さないよ。
ラピスとルビーで、ここまで誘導してきて欲しい。
それなりの大きさになって、追いかけ回せば此方に来るだろう。
従魔の指輪をしてるから、町中にいても危害は加えられないよ。」
侑はこの場所ならすぐに人が集まるだろうと考えた。

「「了解、行ってくるよ。」」
ラピスとルビーは建物の影を這うように、そーっと奴の背後にまわる。

バスケットボール位の大きさに変化した二匹は背後から威嚇した。


〈ストーカー視線〉
不気味な声に気付き後ろを見ると二匹のスライムが襲いかかろうとしていた。
慌てて通りに飛び出すと、回り込む様に道を塞がれた。
逃げ道は片方しか無い。
全力で走っていたら、一番見たくない顔が見えた。
そうか、アイツの従魔か。
アイツが焚き付けたのなら、文句を言ってやろう。


侑とストーカーは対峙した。
「二度と俺の前に顔を出すなと言ったよな?
そんな簡単な事すら覚えてられない馬鹿なのか?」
『お前が従魔に俺を殺させようとするからだろ!』
「なんの事だ?お前は生きてるだろ?
それとも、アンデッドか?なら退治するが?」
『ふざけるな!!』
「フザケてるのはどっちだ?」

ーー周りに人混みが出来てる、ギルドの中からも大勢の冒険者と目立つ赤髪が見える。

『お前は何様だよ!
俺が何したっていうんだよ!』
「お前はエリカさんをストーキングして自分の物だと言い放ったよな?
挙句に俺を邪魔者扱いして殺そうとしたよな?
で、お前は漏らしながらなんて言った?」
侑はストーカーを煽る。

『お前は何を言ってるんだ?!
何処にそんな証拠がある?
俺に嫉妬して貶めたいだけだろ?』
ストーカーは自分が被害者だと言い放った。

「別にそんな事はどうでもいい。
俺はお前に言った筈だ、二度と顔を見せるなと。
お前はそれを破った、しかも中傷行為と言う卑劣極まりない行動もしてだ。
お前はあの時、死んだ方が楽だったな。」
侑は今の自分の立ち位置を考えろと、周りを見てみろと言った。

『あ?何だよ、何集まってるんだよ!
見世物じゃねぇよ!散れよ!』
ストーカーは分が悪くなってきたので、人払いを始めた。

「人混みじゃないよ、足元だよ。
あ・し・も・と」
ストーカーの足元にはスライムが二匹、命令を待っている。

『どけろよ!
何やってんだよ!ふざけんなよ!』
ストーカーはあの時の事を思い出した。

「スライムに何ビクついてんだ?
曲がりなりにも冒険者だろ?
でもな、そいつは俺の命令に絶対服従だからいまはお前を襲う事は無い。
あ、命令を増やすぞ。
お前が嘘をついたら噛み付いて良い。」
二匹のスライムはぴょんぴょん跳ねてる。

『何言ってんだよ!
スライムに言葉がわかるわけ無いだろ!』
ストーカーが吠える。

「うちの従魔はお前とは比べられない位、頭いいぞ?」
『大体、なんで俺が嘘をつかなきゃならない?』
〈ガブッ〉ラピスが噛み付く。
『噛み付いたぞ、死んだらどうするんだ?』

「なんで、スライムが噛み付いたら死ぬんだ?
やっぱり、お前は馬鹿か?」

『お前が言ったんだろうが!
毒持ちだって!』

「あー、馬鹿でも覚えてたか。
それは赤い方だ。青い方は無害だ。」

『ふざけんなよ!脅かしやがって!
大体あの時だって、お前が脅したんだろうが!』
〈ガブッ〉

「また、嘘ついた。
いい加減認めて謝れよ、そしたら許してやるよ。」

『俺は悪くない、なんで謝らなきゃいけないんだ!』
〈ガブッ〉

「面倒くさいな、そういえばお前の自慢の両手剣はどうした?
今日は持ってないのか?」

『持ってねーよ、持ってたら今頃お前は死体だよ!』
〈ガブッ〉

「じゃ、これ貸してやるよ。
攻撃の意思を感じたら、赤いスライムがお前を噛むように命令する。
お前は俺が命令を終わらす前に殺せ。
出来なければ、お前が死ぬ。
それでいいか?」
侑はカバンから鷹丸を出して、ストーカーの近くに置く。

『お前のほうが馬鹿だな!
後悔するなよ?』
ストーカーは鷹丸を掴んだ。

『なんだ、持ち上がらないぞ?』

「お前は馬鹿な上にひ弱か?
刀の一本もマトモに持てないのかよ。
ま、何にしてもお前は攻撃しようとしたよな?」
侑はニヤッと笑った。

『待てよ!攻撃してないだろ!
ふざけんなよ!』

「いや、お前は攻撃の意思を示したし、俺に後悔するなよと言ったよな?」

『待った、待った。
俺が悪かった、二度と顔を出さないし中傷行為もしないよ。
許してくれよ。』

「はーっ?何言ってんだ?
二度はねぇよ、噛まれて死ねよ?」
ルビーはぴょんぴょん跳ねてる。

『今度こそ、絶対だ。
神に誓うよ、お願いだ許してくれよ。』

「神に誓うだ?
神に誓えば無かった事になると思ってるのか?
随分と甘やかされて生きてきたんだな。
まぁいいや、どの神に誓うんだ?」

『は?神は神だろ?』

「やっぱ、お前は馬鹿だ。
俺だけじゃなくて、神も敵に廻したな。
ギルマス!こいつどうする?
殺すか?」
侑はギルマスに話を振った。

「冒険者が罪を侵した場合は、奴隷か未開発のダンジョン送りだな。
ここで死んだほうが楽かもしれんぞ?」
ロゼは冷めた目でストーカーを見る。

『何だよ、俺が何の罪を侵したんだよ?』

「やっぱりコイツは馬鹿だ。
いま自白したばかりなのにもう忘れてる。
もう面倒くさいな、殺そう。」

『待てよ、死にたくねぇよ。
罪を認めるよ。』

「ギルマス、認めるってさ。
これだけ多くの証人がいれば、言い逃れも出来ないだろ。
あとは任せるよ。」
侑はラピスとルビーを呼び戻し、鷹丸をカバンに仕舞った。

「コイツを引っ捕らえて牢屋にぶち込んどけ!」
ギルマスの命令で、職員が両腕を掴んで牢屋に運んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...