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1章 終わりと再出発
僕は語る 4
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
不安そうな母や姉、フォリーの家族や多くの村人に見送られ、僕とフォリーは村を出た。行き先は、冒険者ギルドがある一番近い町ではなく領都だ。
フォリーが「沢山の人がいる領都の方が、良い先輩に巡り会えるかもしれないよ」と言うので、僕もそれに同意した結果そうなった。
それはさておき、僕たちの出発間際の姉が、少し体調を崩していたのが心配だ。
姉は「少し疲れが溜まっただけよ」と言っていたが、それでも心配で心配で仕方がない。
そのことを並んで歩くフォリーに言ってみた。
「それなら、頑張って早く強くなろう。そしたら、村に戻ってラフィーお姉ちゃんを助けて楽にしてあげられるでしょ」
「そうだね」
フォリーは僕の沈んだ気持ち一瞬にして楽にしてくれたのだ。
幼馴染のフォリーは昔からそうだった。
虚弱体質な僕にいつも寄り添い、僕が弱音を吐くと明るく微笑み、ちょっとした言葉で道を切り開いてくれる。あまり走れない僕に変わって、長い髪を頭頂部の後ろで結って、馬のしっぽのように揺らしながら、あちこち走り回ってくれたりもした。
情熱的な性格を現すような、燃え盛る炎の如き赤い髪の彼女はいつも前向きで、僕を助け、僕を元気付けてくれていたのだ。
そんな彼女と初めての二人旅は、やる気と希望に満ち溢れていたのだが、そうそう都合良く物事は進んでくれなかった。
というのも、運悪く領都の冒険者ギルドに、見習いの面倒を見れる冒険者がいなかったのだ。
するとフォリーは、それなら天都の冒険者ギルドに行こう、と言い出す。
冒険者の資格など何処で取っても同じなのだが、なんでも天帝国の首都たる天都の冒険者ギルド所属というのは、ちょっとした自慢になるのだとか。
僕はただ強くなりたいだけで、名前だけの自慢など要らない。
しかし以前、姉から言われた言葉を思い出してしまった。『フォリーが何か望むのであれば、叶えてあげるのが男の甲斐性というものよ』というヤツだ。その言葉を思い出してしまった以上、僕は大人しく従うしかなかったのだ。
それでも、彼女との二人旅は順調に進んでいた。
それもこれも、フォリーが資金を掻き集めてくれたお蔭で、馬車の旅ができている結果だ。
それまでの僕は、フォリーが自分に優しくしてくれるのが当たり前で、彼女に感謝することなど一度もなかった。しかし、村を出て知らない人たちと馬車で旅をしていくうちに、フォリーが頼もしく思え、彼女の存在がすごく有り難く感じたのだ。
だから僕はフォリーに聞いてみた。
「どうしてフォリーは、こんな僕に優しくしてくれるの?」
う~ん、と唸ったフォリーは、やや考えてから口を開く。
「良く分からないけど、気が付いたらそうしてた。――もしかすると、お爺ちゃんとお婆ちゃんに、『クラージュと仲良くしなさい』って言われてたからかもしれないけど、こうしてクラージュと一緒にいられるだけであたしは楽しいから、理由とか別にどーでもいーよねっ」
嬉しそうにそう言われると、僕も理由などどうでもよいと思えてしまう。
それから暫くして、僕たちは天都に辿り着いた。
旅の途中で立派な町にも立ち寄り、フォリーと二人で「すごいすごい」とはしゃいだりもしたが、そんな町が霞んでしまうほど天都は凄かったのだ。
何が凄いかというと、中にあるであろう街を取り囲む巨大な壁。小さな僕が見上げても一向に天辺が見えず、首を後ろに倒し過ぎてそのまま転んで背中を打ち付けるほどの高さ。横を見れば、途切れることなくどこまでも続いていると見紛うほど、遠くへ遠くへと伸びている。
そんな巨大な壁に囲まれた天都の街がどれほどのものなのか、想像力に乏しい僕でも、凄いであろうことだけは想像できた。
門を通過するための順番待ちが暫く続き、通行手続きを済ませてやっと門を潜ると、そこは今まで見たことのない景色が広がっていたのだ。
石畳の敷かれた広くて長い道が真っ直ぐ伸び、その両脇には燦然と並ぶ家々。それも僕の住んでいた村のような、ちっぽけで今にも壊れそうな家とは違い、何処も彼処も立派な造りだ。
いくら天都とはいえ、貴族やそれに準ずる人だけが住んでいるわけではない。平民もいるはずなのだ。それにも拘らず、このような立派な建物が並んでいるのだから、やはり天都は凄い、と思わざるを得なかった。
お上りさんよろしくキョロキョロと首をせわしなく動かす僕。そんな僕を楽しそうに眺めるフォリー。
僕はフォリーの視線に気付いて、少しだけ恥ずかしくなった。
天都の街がどうなっているかなど知らぬ僕たちは、取り敢えず真っ直ぐ歩いて中心地を目指す。
途中でフォリーが通行人に話しかけ、冒険者ギルドの場所を聞いてくれた。
程なくして辿り着いた冒険者ギルドは、無骨な石造りの大きな建物だ。盾と剣が描かれた看板が掲げられているので、きっとここに違いない。
僕はとても緊張していたが、心配そうに僕を見つめるフォリーの視線に気付き、意を決してギルドへと足を踏み入れた。流石にここで引き返すことなど、あってはならないことだ。
建物に入ってみると中も外観どおり広々としており、正面に職員が並ぶカウンターがあった。そして左手側には、何やら荷物の遣り取りをする場所があり、右手側には食事をする場所っぽい空間が広がっている。
昼食の時間を少し過ぎた頃合いだというのに、建物内は実に多くの人たちで溢れ返っていたのには驚きだ。
どうしたものやら、と思案に耽っていると、如何にも荒くれ者といった風貌の大男が近付いてくるではないか。
僕は思わず顔が強張ってしまう。
「何だ坊主、そんなちっこい形のくせして、冒険者にでもなろーってのか」
僕の頭を撫でる……というより、ガシガシと揺さぶりながら、強面の大男が茶化すように言ってきた。
「ぼ、僕は強くなりたいんです。だ、だから、僕は冒険者になります」
そうだ、僕は強くなるためにここまで来たんだ、とそのことを思い出し、怖いと思う心を抑え付け、『冒険者になる』という決意を言葉にした。
「そーかそーか、男は強くなくっちゃな。――ほれ、あそこの窓口が申請を受け付けてる」
髭面の大男はそう言うと、窓口の場所を教えてくれた。
見た目は怖いけど、どうやら面倒見の良い人だったのかもしれない。――そう思った人物こそ、あのオダスだ。
「ありがとうございます」
「いーってことよ。坊主みたいなチビだと大変だろーけどよ、挫けずに頑張れよ」
「はい」
この場にいる勇ましい人たちを見て、少々臆病風に吹かれていた僕は、髭面で強面な大男の言葉で初心を思い出した。
――僕は強くなってお姉ちゃんを守るんだ!
気合も新たに、僕はフォリーと冒険者登録の申請書を提出した。
受付のお姉さんは色々と説明をしてくれたのだが、今は少しタイミングが悪いと言う。
何のことかと思っていると、初心者を指導する先輩冒険者が、ここにも今はいないと言うのだ。
先ほどの決意など何処へやら、といった感じで、僕はすっかり落胆してしまった。
僕はフォリーから、『先輩に指導してもらえる』と言われたことで、冒険者になることを決めたようなものだ。しかし、何処へ行っても指導者がいないのであれば、結局は自己流でどうにかするしかない。それなら村から出る必要などなかったのだ。
村を出てからここまで、それなりの金と時間を使ったにも拘らず、何一つ成果を得ていないことで、僕の心は早くも後悔で埋め尽くされそうになっていたのであった。
「でもね、パーティメンバーを募集していて、初心者でも受け入れてくれる所もあるのよ。だからね、メンバー募集をしているパーティに入る手もあるわ」
受付のお姉さんに分かるほど、僕はハッキリと落胆していたのだろう。彼女は子どもに対する態度そのもので、優しく教えてくれたのだ。しかし僕は、子ども扱いされることに腹を立てることもなく、素直に嬉しく思った。
気持ちの浮き沈みが激しい僕は、今度は希望で心が満ちていたのだ。
「ここだけの話し、新人を受け入れたパーティには、新人育成手当が出るの。だからね、パーティに入るのはそれほど難しくないかもしれないわよ」
お姉さんが小声で教えてくれたのだが、その言葉を聞いた僕は、逆に今度は冷静になり、少し気になることを質問してみた。
「それって、手当だけを受け取って、新人の面倒を見ないとかありませんか?」
「それなら大丈夫よ。新人指導を申し出ていないだけで、指導できる資格のあるメンバーが在籍しているパーティでなければ、新人は受け入れられないの」
あまり賢くない僕は、それなら大丈夫かと思い、お姉さんにお礼を言う。そしてお姉さんから「頑張ってね」の声を背に、僕たちはメンバー募集掲示板に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「領都に指導ができる冒険者がいなかったことが、不幸の始まりだった気がします」
冒険者になる手続きを済ませるまでを振り返り、問題は初っ端にあったのだと僕は気付き、それをオダスに伝えた。
「……坊主、そうかも知れねーが、そうじゃねーだろ。それに、赤毛の嬢ちゃんは、坊主をしっかり導いてくれてたっぽいじゃねーか」
「であれば、オダスさんと出会ったのは問題どころか、僕には有り難いことだったので、……あの受付のお姉さんが適当なことを言ったからかもしれません」
「俺からすると、新人に親切な良い受付に思えるんだが?」
「僕は『新人の面倒を見ないとかありませんか?』と聞いたのに、あの人は『大丈夫よ』と言いました」
そうだ、あの言葉を信じたばかりに――
不安そうな母や姉、フォリーの家族や多くの村人に見送られ、僕とフォリーは村を出た。行き先は、冒険者ギルドがある一番近い町ではなく領都だ。
フォリーが「沢山の人がいる領都の方が、良い先輩に巡り会えるかもしれないよ」と言うので、僕もそれに同意した結果そうなった。
それはさておき、僕たちの出発間際の姉が、少し体調を崩していたのが心配だ。
姉は「少し疲れが溜まっただけよ」と言っていたが、それでも心配で心配で仕方がない。
そのことを並んで歩くフォリーに言ってみた。
「それなら、頑張って早く強くなろう。そしたら、村に戻ってラフィーお姉ちゃんを助けて楽にしてあげられるでしょ」
「そうだね」
フォリーは僕の沈んだ気持ち一瞬にして楽にしてくれたのだ。
幼馴染のフォリーは昔からそうだった。
虚弱体質な僕にいつも寄り添い、僕が弱音を吐くと明るく微笑み、ちょっとした言葉で道を切り開いてくれる。あまり走れない僕に変わって、長い髪を頭頂部の後ろで結って、馬のしっぽのように揺らしながら、あちこち走り回ってくれたりもした。
情熱的な性格を現すような、燃え盛る炎の如き赤い髪の彼女はいつも前向きで、僕を助け、僕を元気付けてくれていたのだ。
そんな彼女と初めての二人旅は、やる気と希望に満ち溢れていたのだが、そうそう都合良く物事は進んでくれなかった。
というのも、運悪く領都の冒険者ギルドに、見習いの面倒を見れる冒険者がいなかったのだ。
するとフォリーは、それなら天都の冒険者ギルドに行こう、と言い出す。
冒険者の資格など何処で取っても同じなのだが、なんでも天帝国の首都たる天都の冒険者ギルド所属というのは、ちょっとした自慢になるのだとか。
僕はただ強くなりたいだけで、名前だけの自慢など要らない。
しかし以前、姉から言われた言葉を思い出してしまった。『フォリーが何か望むのであれば、叶えてあげるのが男の甲斐性というものよ』というヤツだ。その言葉を思い出してしまった以上、僕は大人しく従うしかなかったのだ。
それでも、彼女との二人旅は順調に進んでいた。
それもこれも、フォリーが資金を掻き集めてくれたお蔭で、馬車の旅ができている結果だ。
それまでの僕は、フォリーが自分に優しくしてくれるのが当たり前で、彼女に感謝することなど一度もなかった。しかし、村を出て知らない人たちと馬車で旅をしていくうちに、フォリーが頼もしく思え、彼女の存在がすごく有り難く感じたのだ。
だから僕はフォリーに聞いてみた。
「どうしてフォリーは、こんな僕に優しくしてくれるの?」
う~ん、と唸ったフォリーは、やや考えてから口を開く。
「良く分からないけど、気が付いたらそうしてた。――もしかすると、お爺ちゃんとお婆ちゃんに、『クラージュと仲良くしなさい』って言われてたからかもしれないけど、こうしてクラージュと一緒にいられるだけであたしは楽しいから、理由とか別にどーでもいーよねっ」
嬉しそうにそう言われると、僕も理由などどうでもよいと思えてしまう。
それから暫くして、僕たちは天都に辿り着いた。
旅の途中で立派な町にも立ち寄り、フォリーと二人で「すごいすごい」とはしゃいだりもしたが、そんな町が霞んでしまうほど天都は凄かったのだ。
何が凄いかというと、中にあるであろう街を取り囲む巨大な壁。小さな僕が見上げても一向に天辺が見えず、首を後ろに倒し過ぎてそのまま転んで背中を打ち付けるほどの高さ。横を見れば、途切れることなくどこまでも続いていると見紛うほど、遠くへ遠くへと伸びている。
そんな巨大な壁に囲まれた天都の街がどれほどのものなのか、想像力に乏しい僕でも、凄いであろうことだけは想像できた。
門を通過するための順番待ちが暫く続き、通行手続きを済ませてやっと門を潜ると、そこは今まで見たことのない景色が広がっていたのだ。
石畳の敷かれた広くて長い道が真っ直ぐ伸び、その両脇には燦然と並ぶ家々。それも僕の住んでいた村のような、ちっぽけで今にも壊れそうな家とは違い、何処も彼処も立派な造りだ。
いくら天都とはいえ、貴族やそれに準ずる人だけが住んでいるわけではない。平民もいるはずなのだ。それにも拘らず、このような立派な建物が並んでいるのだから、やはり天都は凄い、と思わざるを得なかった。
お上りさんよろしくキョロキョロと首をせわしなく動かす僕。そんな僕を楽しそうに眺めるフォリー。
僕はフォリーの視線に気付いて、少しだけ恥ずかしくなった。
天都の街がどうなっているかなど知らぬ僕たちは、取り敢えず真っ直ぐ歩いて中心地を目指す。
途中でフォリーが通行人に話しかけ、冒険者ギルドの場所を聞いてくれた。
程なくして辿り着いた冒険者ギルドは、無骨な石造りの大きな建物だ。盾と剣が描かれた看板が掲げられているので、きっとここに違いない。
僕はとても緊張していたが、心配そうに僕を見つめるフォリーの視線に気付き、意を決してギルドへと足を踏み入れた。流石にここで引き返すことなど、あってはならないことだ。
建物に入ってみると中も外観どおり広々としており、正面に職員が並ぶカウンターがあった。そして左手側には、何やら荷物の遣り取りをする場所があり、右手側には食事をする場所っぽい空間が広がっている。
昼食の時間を少し過ぎた頃合いだというのに、建物内は実に多くの人たちで溢れ返っていたのには驚きだ。
どうしたものやら、と思案に耽っていると、如何にも荒くれ者といった風貌の大男が近付いてくるではないか。
僕は思わず顔が強張ってしまう。
「何だ坊主、そんなちっこい形のくせして、冒険者にでもなろーってのか」
僕の頭を撫でる……というより、ガシガシと揺さぶりながら、強面の大男が茶化すように言ってきた。
「ぼ、僕は強くなりたいんです。だ、だから、僕は冒険者になります」
そうだ、僕は強くなるためにここまで来たんだ、とそのことを思い出し、怖いと思う心を抑え付け、『冒険者になる』という決意を言葉にした。
「そーかそーか、男は強くなくっちゃな。――ほれ、あそこの窓口が申請を受け付けてる」
髭面の大男はそう言うと、窓口の場所を教えてくれた。
見た目は怖いけど、どうやら面倒見の良い人だったのかもしれない。――そう思った人物こそ、あのオダスだ。
「ありがとうございます」
「いーってことよ。坊主みたいなチビだと大変だろーけどよ、挫けずに頑張れよ」
「はい」
この場にいる勇ましい人たちを見て、少々臆病風に吹かれていた僕は、髭面で強面な大男の言葉で初心を思い出した。
――僕は強くなってお姉ちゃんを守るんだ!
気合も新たに、僕はフォリーと冒険者登録の申請書を提出した。
受付のお姉さんは色々と説明をしてくれたのだが、今は少しタイミングが悪いと言う。
何のことかと思っていると、初心者を指導する先輩冒険者が、ここにも今はいないと言うのだ。
先ほどの決意など何処へやら、といった感じで、僕はすっかり落胆してしまった。
僕はフォリーから、『先輩に指導してもらえる』と言われたことで、冒険者になることを決めたようなものだ。しかし、何処へ行っても指導者がいないのであれば、結局は自己流でどうにかするしかない。それなら村から出る必要などなかったのだ。
村を出てからここまで、それなりの金と時間を使ったにも拘らず、何一つ成果を得ていないことで、僕の心は早くも後悔で埋め尽くされそうになっていたのであった。
「でもね、パーティメンバーを募集していて、初心者でも受け入れてくれる所もあるのよ。だからね、メンバー募集をしているパーティに入る手もあるわ」
受付のお姉さんに分かるほど、僕はハッキリと落胆していたのだろう。彼女は子どもに対する態度そのもので、優しく教えてくれたのだ。しかし僕は、子ども扱いされることに腹を立てることもなく、素直に嬉しく思った。
気持ちの浮き沈みが激しい僕は、今度は希望で心が満ちていたのだ。
「ここだけの話し、新人を受け入れたパーティには、新人育成手当が出るの。だからね、パーティに入るのはそれほど難しくないかもしれないわよ」
お姉さんが小声で教えてくれたのだが、その言葉を聞いた僕は、逆に今度は冷静になり、少し気になることを質問してみた。
「それって、手当だけを受け取って、新人の面倒を見ないとかありませんか?」
「それなら大丈夫よ。新人指導を申し出ていないだけで、指導できる資格のあるメンバーが在籍しているパーティでなければ、新人は受け入れられないの」
あまり賢くない僕は、それなら大丈夫かと思い、お姉さんにお礼を言う。そしてお姉さんから「頑張ってね」の声を背に、僕たちはメンバー募集掲示板に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「領都に指導ができる冒険者がいなかったことが、不幸の始まりだった気がします」
冒険者になる手続きを済ませるまでを振り返り、問題は初っ端にあったのだと僕は気付き、それをオダスに伝えた。
「……坊主、そうかも知れねーが、そうじゃねーだろ。それに、赤毛の嬢ちゃんは、坊主をしっかり導いてくれてたっぽいじゃねーか」
「であれば、オダスさんと出会ったのは問題どころか、僕には有り難いことだったので、……あの受付のお姉さんが適当なことを言ったからかもしれません」
「俺からすると、新人に親切な良い受付に思えるんだが?」
「僕は『新人の面倒を見ないとかありませんか?』と聞いたのに、あの人は『大丈夫よ』と言いました」
そうだ、あの言葉を信じたばかりに――
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