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第二章、お近づきの朝食
十三
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あたしの異変に気づいた呉の二人が、宥めながらハンカチを出してくれる。
だけどその布があたしに触れるより先に、近づいてきた足音が止まった。
あたしが気づいた時にはもう、皇帝様は目の前にいた。
正しくは真横。呉の二人とは反対側に立って、座ったあたしを見下ろしてた。
そして、青い衣装の胸元に手を入れると、中からひらりと出したものを、あたしの口の端に押しつけた。
なにが起きたかわからないあたしは、されるがままじっとしてる。
口の端をゴシゴシされる。
あれ、これって、拭かれてる?
ということは、食べかすがついてたんだ。
服だけでなく口まで汚してたなんて、綺麗に食べた気でいた自分が恥ずかしい。
「替えならいくらでもある、他を使え」
皇帝様の口がハッキリ見える。
薄くてキリッとしてて、スッと尖った顎も、綺麗でカッコイイ。
「……馬子にも衣装、だな」
皇帝様はそう言うと、ハンカチをあたしに渡して身を引いた。
「まごにも……?」
「普段、粗末なものを着ている者でも、着飾れば立派に見えるという意味だ。通常、褒め言葉としては使われんが、まあ……今のは単なる戯れである」
ほーっと感心してしまう。そんな短い言葉に、しっかりした意味が込められているなんて。
「そうなんですね、あたしは……あまり、言葉を知らなくて」
「知りたければ学ぶがよい、ミハイロに書庫や城の案内を言いつけておく」
「しょこ……?」
「書庫とは本が山ほど置かれた部屋のことだ、一生かかっても読み尽くせないほど数があるぞ」
首を傾げるあたしに、皇帝様はまた説明してくれた。
本がたくさんある、本専用の部屋なんて、想像しただけでも楽しくて、目を大きく開いた。
「……よ、読ませていただいても、いいんですか?」
「本は好きか?」
「は、はい!」
「奇遇だな、俺もだ」
皇帝様はそう言って、扉の方を振り向いた。
「あ、あの、皇帝様、ハンカチは……」
「貴様にやる、取っておけ」
焦って返そうとしたけど、皇帝様は最初からあたしにあげる気だったみたいだ。
口元が微笑んでるように見えたのは、あたしの気のせいかな。
豪華な装いが似合う、広い背中が遠ざかってゆく。
女官が出入り口の大きな扉を開くと、皇帝様はその先に消えていった。
「陛下が、ご自身のものをお渡しになるなんて……」
「しかも他人の口を拭くだなんてっ、有り得ないわよーっ、明日は槍でも降るのぉ!?」
雹華さんと雷華さんのヒソヒソ声を背に、あたしは皇帝様から受け取った、青に金の刺繍のハンカチをずっと眺めていた。
だけどその布があたしに触れるより先に、近づいてきた足音が止まった。
あたしが気づいた時にはもう、皇帝様は目の前にいた。
正しくは真横。呉の二人とは反対側に立って、座ったあたしを見下ろしてた。
そして、青い衣装の胸元に手を入れると、中からひらりと出したものを、あたしの口の端に押しつけた。
なにが起きたかわからないあたしは、されるがままじっとしてる。
口の端をゴシゴシされる。
あれ、これって、拭かれてる?
ということは、食べかすがついてたんだ。
服だけでなく口まで汚してたなんて、綺麗に食べた気でいた自分が恥ずかしい。
「替えならいくらでもある、他を使え」
皇帝様の口がハッキリ見える。
薄くてキリッとしてて、スッと尖った顎も、綺麗でカッコイイ。
「……馬子にも衣装、だな」
皇帝様はそう言うと、ハンカチをあたしに渡して身を引いた。
「まごにも……?」
「普段、粗末なものを着ている者でも、着飾れば立派に見えるという意味だ。通常、褒め言葉としては使われんが、まあ……今のは単なる戯れである」
ほーっと感心してしまう。そんな短い言葉に、しっかりした意味が込められているなんて。
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「……よ、読ませていただいても、いいんですか?」
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「は、はい!」
「奇遇だな、俺もだ」
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「あ、あの、皇帝様、ハンカチは……」
「貴様にやる、取っておけ」
焦って返そうとしたけど、皇帝様は最初からあたしにあげる気だったみたいだ。
口元が微笑んでるように見えたのは、あたしの気のせいかな。
豪華な装いが似合う、広い背中が遠ざかってゆく。
女官が出入り口の大きな扉を開くと、皇帝様はその先に消えていった。
「陛下が、ご自身のものをお渡しになるなんて……」
「しかも他人の口を拭くだなんてっ、有り得ないわよーっ、明日は槍でも降るのぉ!?」
雹華さんと雷華さんのヒソヒソ声を背に、あたしは皇帝様から受け取った、青に金の刺繍のハンカチをずっと眺めていた。
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