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第二章、お近づきの朝食
一
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シャランと手のひらにのった、硬くて冷たいペンダント。
人差し指の爪くらいの大きさで、ダイヤの形をしてる。
『ピケ、あなたにこれをあげる』
おばあちゃんは微笑みながら、あたしにペンダントを握らせた。
チェーンの部分と同じ、銀色のペンダントトップ。小さな留め具で閉ざされていて、中身はわからない。
『あなたは私に似ているから、きっとこれが役に立つはず』
あたしとおばあちゃんが似てるのなんて、赤い瞳の濃さくらいだ。
おばあちゃんは立派なヒーリスト。どんな怪我も病も治す、特別な力を持った人で、他国からの指名も絶えない。
『いいね、ピケ、使い道を間違えちゃいけないよ。この時しかないと思った時だけ。どうか、どうか、あなたの人生が穏やかでありますように』
おばあちゃん、あたし、わからない。
この時って、どんな時?
一番悲しい時?
苦しい時?
助けてほしい時?
おばあちゃんがいなくなってから、そんなのたくさんありすぎて、選べない。
お腹が空いて目眩がしたり、具合が悪くて立てなかったり、近所の人に悪口言われたり、砂をかけられたり、お父さんやお母さんに叩かれた時も――。
そうだ、早く起きなきゃ、急いで家事しなくちゃ、じゃなきゃまた叩かれる、今日のご飯も分けてもらえない。
早く、早く――。
「……ケ様」
「ん……うう、ん、うう」
「ピケ様、おはようございま――」
誰かが呼んでる。
誰かが、あたしを起こしに来てる。
そう認識した瞬間、まずいって本能が目覚める。
カッと目を開くと同時に、急いで飛び起きる。
すると勢いがよすぎたのか、バランスを崩して後ろに落下した。
ゴンッて鈍い音が響き、背中に痛みが走るけど、グズグズなんかしていられない。
あたしは焦って身体を起こすと、正座して額を床に擦りつけた。
「あ、あ、あたし、お、遅くまで、寝てしまってごめんなさい! すぐに準備します! 掃除と洗濯と、それから――」
「ピケ様、ピケ様!」
焦って言葉を並べていると、何度もあたしを呼ぶ声が聞こえた。
ピケ……サマ?
混乱していた頭が、少しずつクリアになっていく。
ゆっくりと顔を上げると、まず見えたのはベッドの横の部分。
どうやらあたしは、ベッドに対して土下座をする形になっていたようだ。
そもそもベッドで寝ていたことを忘れていた。わけがわからなくなって、周りを見ている余裕なんてなかった。
人差し指の爪くらいの大きさで、ダイヤの形をしてる。
『ピケ、あなたにこれをあげる』
おばあちゃんは微笑みながら、あたしにペンダントを握らせた。
チェーンの部分と同じ、銀色のペンダントトップ。小さな留め具で閉ざされていて、中身はわからない。
『あなたは私に似ているから、きっとこれが役に立つはず』
あたしとおばあちゃんが似てるのなんて、赤い瞳の濃さくらいだ。
おばあちゃんは立派なヒーリスト。どんな怪我も病も治す、特別な力を持った人で、他国からの指名も絶えない。
『いいね、ピケ、使い道を間違えちゃいけないよ。この時しかないと思った時だけ。どうか、どうか、あなたの人生が穏やかでありますように』
おばあちゃん、あたし、わからない。
この時って、どんな時?
一番悲しい時?
苦しい時?
助けてほしい時?
おばあちゃんがいなくなってから、そんなのたくさんありすぎて、選べない。
お腹が空いて目眩がしたり、具合が悪くて立てなかったり、近所の人に悪口言われたり、砂をかけられたり、お父さんやお母さんに叩かれた時も――。
そうだ、早く起きなきゃ、急いで家事しなくちゃ、じゃなきゃまた叩かれる、今日のご飯も分けてもらえない。
早く、早く――。
「……ケ様」
「ん……うう、ん、うう」
「ピケ様、おはようございま――」
誰かが呼んでる。
誰かが、あたしを起こしに来てる。
そう認識した瞬間、まずいって本能が目覚める。
カッと目を開くと同時に、急いで飛び起きる。
すると勢いがよすぎたのか、バランスを崩して後ろに落下した。
ゴンッて鈍い音が響き、背中に痛みが走るけど、グズグズなんかしていられない。
あたしは焦って身体を起こすと、正座して額を床に擦りつけた。
「あ、あ、あたし、お、遅くまで、寝てしまってごめんなさい! すぐに準備します! 掃除と洗濯と、それから――」
「ピケ様、ピケ様!」
焦って言葉を並べていると、何度もあたしを呼ぶ声が聞こえた。
ピケ……サマ?
混乱していた頭が、少しずつクリアになっていく。
ゆっくりと顔を上げると、まず見えたのはベッドの横の部分。
どうやらあたしは、ベッドに対して土下座をする形になっていたようだ。
そもそもベッドで寝ていたことを忘れていた。わけがわからなくなって、周りを見ている余裕なんてなかった。
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